吾妻鏡入門第十四巻　　　

建久五年(1194)甲寅九月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　とうだいじくよう　　　　 ごふせ　　　 ようとう　　きょうと　　しん　　らる
建久五年(1194)九月大二日己丑。東大寺供養の御布施の用途、京都へ進ぜ被る。

なかなり　　ゆきまさら ぶぎょう　　な　　　　おくりぶみを おんし　 ぞうしき ときさわ　 きよつね　 くだ　　　　うんぬん
仲業、行政等奉行と爲し、送文於御使の雜色時澤、�C常に下すと云々。

現代語建久五年(1194)九月大二日己丑。東大寺大仏殿竣工式のお布施の調達品を京都へ送らせました。
右京進仲業と主計允藤原行政が担当として、送付文を派遣員の雑用時沢と清常に持たせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　 えいちゅう　 をい　　　 びしゃもんこうえん　 しぎょうさる　　　　うんぬん
建久五年(1194)九月大三日庚寅。營中に於て、毘沙門講演を始行被ると云々。

現代語建久五年(1194)九月大三日庚寅。御所の中で、毘沙門天のお経の講釈を始められましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　　みうらみさき　　　べつぎょう　に とぎょ　　　　わかみや　すいはつら　 めされ　　かいせつ　 そで　ひるがえ　 うんぬん
建久五年(1194)九月大六日癸巳。將軍家、三浦三崎の別業�@于渡御す。若宮の垂髪等を召被、廻雪の袖を翻す�Aと云々。

そ　　　ご　こがさがけ　　しょうぶ　　うんぬん
其の後小笠懸の勝負と云々。

参考�@別業は、別荘。三崎に三つあり、椿の御所が大椿寺、桃の御所が見桃寺、桜の御所が本瑞寺と謂われる。
参考�A廻雪の袖を翻すは、白い袖で舞うのが雪のよう。稚児舞を踊らせている。

現代語建久五年(1194)九月大六日癸巳。将軍頼朝様が三浦三崎の別荘へ行かれました。八幡宮の稚児達を呼ばれて、舞を舞わせましたとさ。
その後、小笠懸の勝負を競われましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　ようふくじない　　 しんぞうみどう　　 とのい　　 ひと　　こと　　きょう これ　けちばん　さる　　　うんぬん
建久五年(1194)九月大十一日戊戌。永福寺内の新造御堂の宿直の人の事、今日之を結番�@被ると云々。

ゆうきのしちろう　はたけやまのじろう　わだのさえもんのじょうら そ　　 にんずう　　あ　　　　うんぬん
結城七郎、畠山二郎、和田左衛門尉等其の人數に在りと云々。

参考�@結番は、班を決める。

現代語建久五年(1194)九月大十一日戊戌。永福寺内に新しく立てた薬師堂の宿直の人について、今日、班を決められましたとさ。
結城七郎朝光と畠山次郎重忠、和田左衛門尉義盛がその人数に入っているそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　は　　おいたは　 さいはつ　　　 うんぬん
建久五年(1194)九月大廿二日己酉。齒の御勞り再發すと云々。

現代語建久五年(1194)九月大二十二日己酉。（頼朝様の）歯痛が再発しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　たじまのくに　たたらぎのしょう　は　　みなもとのさいしょう　りょうしょなり
建久五年(1194)九月大廿三日庚戌。但馬國 多々良岐庄�@者、源宰相�Aが領所也。

しか　　　　　くまののとりいぜんに　　〔こさてんきゅう　　あねぎみ〕　ひごろ　あなが　　か　　　へん　　しょもう　　こと　　た　　 こと　　　　のかん
而るに熊野鳥居禪尼〔故左典厩が姉公〕日者強ちに彼の邊を所望の事、他に異なる�B之間、

　ぢとうぶにん　　おんくだしぶみ　つか　 さる
地頭補任の御下文を遣は被る。

ただ　　かぎりあ　 りょうけ　　　のうぐ　　　かえきら　　をい　　は　　　けたい あ　　べからずのよし　　 きょう　みしょうぞこ　　つか　　さる　　　　うんぬん
但し限有る領家の乃貢、課役等に於て者、懈怠有る不可之由、今日御消息を遣は被ると云々。

参考�@多々良岐庄は、兵庫県朝来市(あさご)多々良木(旧朝来郡朝来町多々良木)。
参考�A源宰相は、兼忠(1160-1209)、中原親能が乳母の夫。朝日日本歴史人物事典から。
参考�B他に異なるは、他人ではないので。別格なので。

現代語建久五年(1194)九月大二十三日庚戌。但馬国多々良岐庄(兵庫県朝来市多々良木)は、源宰相兼忠様の荘園です。
ところが、熊野の鳥居禅尼〔故左典厩義朝の姉さん〕が、近頃特別にその荘園を欲しがっていることについて、他人ではない伯母さんなので、地頭職に付かせる命令書を発行してあげました。
但し、用途が制限されている上級管理者の領家への年貢や、勤労奉仕を怠けてはいけませんと、今日、手紙を発送させましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　おかのかじゃよりもと　やまとのくにしょりょう　そういあ　　べからず　のかん　　かさ　　　　おお　　くださる　　　　うんぬん
建久五年(1194)九月大廿五日壬子。岡冠者頼基、大和國所領 相違有る不可之間、重ねて仰せ下被ると云々。

現代語建久五年(1194)九月大二十五日壬子。岡冠者頼基の大和国の領地は、間違いなく本領安堵すると、再度命じられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　は　　おいたはり　こと　　りょうほうを きょうと　　くすし　　たず　　られ　　ため　　わざわざ　ひきゃく　 た　　　らる　ところなり　　うんぬん
建久五年(1194)九月大廿六日癸丑。齒の御勞の事、療法於京都の醫師に尋ね被ん爲、態々と�@飛脚を立て被る所也と云々。

参考�@態々は、特別に。態の字は「早(はやばや)」と同じでダブル語である

現代語建久五年(1194)九月大二十六日癸丑。（頼朝様の）歯痛について、治療法を京都の医者に聞くために、特別に伝令を行かせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　だいじんぐうなら　　　 あつたしゃ　　　　 しんめ　　ぎょけんら これ　けん　たてまつらる
建久五年(1194)九月大廿八日乙夘。太神宮并びに熱田社へ、神馬、御釼等之を獻じ奉被る。

ひろもとあそん ぶぎょう　　な　　　おのおの　ししゃ　 た　　　　　　　うんぬん
廣元朝臣奉行と爲し、各、使者を立てると云々。

現代語建久五年(1194)九月大二十八日乙卯。伊勢神宮と熱田神宮に、馬や剣を奉納しました。
（大江）広元さんが指揮担当して、それぞれに代参の使いを行かせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　みうら　　　 やべごうない　　　　　いちどう　 こんりゅう　すべ　 のよし おも　め　　た
建久五年(1194)九月大廿九日丙辰。三浦の矢部郷内に、一堂を建立�@可し之由思い食し立つ。

こすけよしあき　　ぼつご　 とぶら　れんためなり　　きょう　　なかなり　　おお　　　　　　そ　　　ち　　　じゅんけん　　　うんぬん
故介義明の没後を訪は被爲也。今日、仲業に仰せて、其の地を巡檢すと云々。

参考�@一堂を建立は、満昌寺。

現代語建久五年(1194)九月大二十九日丙辰。三浦の矢部郷(横須賀市大矢部)に一つのお堂(後の滿昌寺)を建てるように思い立ちました。
治承四年(1180)に亡くなった三浦介義明の菩提を弔うためです。今日、右京進仲業に命じてその場所を調べさせましたとさ。

説明満昌寺は、横須賀市大矢部１丁目５の義明山が、その寺といわれる。この時、頼朝は三浦介義明を今まで生きていたものと看做すとその手柄を褒めたので、三浦ではお祝いに「鶴は千年、亀は万年、三浦の大介百三つ」という。なお、満昌寺には、頼朝お手上のつつじがあり、その下をくぐると頭痛が治ると云われ、いつの間にか頭がよくなるとなってしまった。

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