吾妻鏡入門第十五巻

建久六年(1195)三月大

読下し　　　　　　　　　　　　　そらはれ　しょうぐんけ　こうしゅう　かがみのうまや　い　　　　きろ　　　あんめ　　 すす　　たま
建久六年(1195)三月大四日己丑。天�ﾘ。將軍家、江州　鏡驛�@を出で、羈路�Aに鞍馬を前め給ふ。

ここ　　たいれい　 しゅうとら　　せたばしへんに お　　 これ　 みたてまつ　すこぶ　はし　 ぜんと　　 いひ　　べ　　 か
爰に台嶺の衆徒等�B勢多橋邊于降り之を見奉る。頗る橋の前途と謂つ可き歟。

しょうぐんけ おんが　 はし　 ひがし　やすん　　れい あ　　べ　　　　 いな　　おぼ　 め　　 わずら
將軍家御駕を橋の東に安じ、礼有る可きや否や思し食し煩う。

これ　 しばら　　　　　　　　おがしまのきつじきんなり　　め　　しゅうとちゅう　 つか　　　　　　しさい　　おお　 らる　　と
之を頃くして、小鹿嶋橘次公業�Cを召し衆徒中に遣はし、子細を仰せ被る矣。

きんなり しゅうと　 まえ　 ひざまづ　　もう　　　　い
公業衆徒の前に跪き、申して云はく。

かまくら　しょうぐん　とうだいじ　くよう　けちえん　　ため　じょうらくのところ　おのおの　ぐんしゅう　なにごと　よるや　　　もつと　おそ　　おも　　たま　　はべ
鎌倉の將軍、東大寺供養結縁の爲、上洛之處、 各が 群集は何事に依哉。尤も恐れ思い給ひ侍る。

ただ　　ぶしょうのほう　　　　　かく　ところ　　ごと　　　　をい　　　　　　 げばのれい　な
但し武將之法に、此の所の如きに於ては、下馬之礼無し。

 よつ　　のりなが　　まか　　とお　　べ　　　　あえ　 これ　 とが　　らる　　なか　　てへ　　　　　　へんとう　　きこ　　め　　　ざるの いぜん　　　　　う　　 す　　 せし　　たま
仍て乘乍ら罷り通る可し。敢て之を咎め被る莫れ者れば、返答を聞し食さ不之以前に、打ち過ぎ令め給ふ。

しょうと　　まえ　 いた　　　　ゆみ　 と　　 なお　　いささ　けしき　　　　ときに　おのおの　　へいふく　　　 うんぬん
衆徒の前に至り、弓を取り直し聊か氣色す。時于 各、平伏すと云々。

きんなりようしょうよ　　 けいらく　　へめぐ　　　　こと　　をい　　こじつ　　ぞん　　　　　　よつ　　　　いま こ 　　しせつ　 おう　　　　のところ
公業幼少自り京洛を經廻り、事に於て故實を存ずるに依て、今此の使節に應ずる之處、

まこと　ことばたくみ　 して　　おうむのくちばし みみ　おどろか　　しんたいただ　　して　　りゅうこのいきお　め　 さへぎ　　　しゅうと かんたん　　　ばんにん しょうび　　　うんぬん
誠に言語巧に而、 鸚鵡之嘴 耳を驚し、進退正しう而、龍虎之勢い眼を遮る。衆徒感嘆し、万人稱美すと云々。

へいしょくのほど　　ろくはら　　 おんてい　 にゅうぎょ　　 けんぶつ　くるま　 ほと　　　 めぐら　　　 えず　　　うんぬん
秉燭之程、六波罷の御亭に入御す。見物の車、殆んど旋すを得不と云々。

参考�@鏡驛は、滋賀県蒲生郡竜王町鏡に鏡神社あり。又、南側に鏡山もあり。
参考�A羈路は、羈は馬の手綱やおもがいを表すので馬で進む路の意を洒落て書いたのであろう。
参考�B台嶺の衆徒等は、比叡山の武者僧(僧兵)。
参考�C小鹿嶋橘次公業は、父の橘右馬允公長が、元々讃岐の人で平家に仕えていたが、見限って治承四年(1180)十二月小十九日息子二人を連れて頼朝側へきた。二男の公成は、文治五年の奥州合戦で出羽国秋田郡小鹿島庄(男鹿半島)を貰い、小鹿島と名乗る。

現代語建久六年(1195)三月大四日己丑。晴れです。将軍頼朝様は、近江国の鏡宿(滋賀県蒲生郡竜王町鏡に鏡神社)を出発し、馬の手綱を進めておられました。
そしたら、比叡山の武者僧達が、瀬田橋あたりまで山を下りてきているのを発見されました。いかにも橋を渡った向こう側にたむろしている状態です。将軍頼朝様は馬を橋の手前東側で馬を止めて、挨拶をすべきかどうか悩まれました。少しして、小鹿島橘次公成をお呼びになり、僧兵達のところへ行って、事情を伝えさせました。
橘次公成は僧兵達の前にひざまずいて、話をしました。
鎌倉の将軍様が、東大寺の落慶式に仏との縁を結ぶため京都へ上るのですが、みなさんが群集しているのは、どういうことなのでしょう。危険を感じて不安に感じられております。しかし、武士の作法としては、このようなところでわざわざ馬を下りて礼を尽くす事はありません。そこで馬に乗ったまま通ります。もしあえてこれをとがめだてをしないよう。」と云ったらば、返事を聞く前に、お通りになられました。
僧兵の前へ来た時に、弓を構え直して多少厳しい顔をしました。そしたら僧兵は皆身を低くして頭を下げましたとさ。

橘次公成は、子供の頃から京都へ出入りをし、何事も昔の作法などに通じているので、この役目を引き受けたならば、実に言葉が上手でオウムのくちばしが立派なことを言ったので耳がびっくりしている。また、その態度はきちんとしていて、まるで竜虎の勢い目を見張る思いです。僧兵達も感心し、誰もが褒め称えましたとさ。

灯りを灯す時間になって六波羅のお屋敷に入られました。それを見物する公卿たちの牛車は、方向転換できない混みようでしたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　さがみのかみこれよし　しょうぐんけ　ほうへい　 おんし　　な　　　　　ろくじょうわかみや　まい　　　 しんめ　〔 くろ 〕　いっぴき　たてまつらる　うんぬん
建久六年(1195)三月大六日辛夘。相摸守惟義、將軍家の奉幣の御使と爲し、六條若宮へ參り、神馬〔黒〕一疋を奉被ると云々。

現代語建久六年(1195)三月大六日辛卯。大内相模守惟義は、将軍頼朝様の幣束を捧げる代理として、六条左女牛八幡へお参りをし、馬〔黒〕を一頭奉納しましたとさ。

説明六條若宮は、天喜五年(1058年)源頼義が後冷泉天皇の詔を奉じて創建され、六条八幡とも左女井(さめがい)八幡とも言われました。
平安時代は五条大路までが市街地で　六条の地は堀川館をはじめ当町に頼義、義家の館　その東には後に義経が居を構えるなど　長く源氏の邸宅があったところとして著名で「拾芥抄(1540年代)には「八幡若宮義家宅」の書入れがあり「古事談」にも「六条若宮はかつて源頼義が邸宅の家向に構えた堂に始まる」とあります。また頼義の誕生水と称される井戸の伝承地があると記されています。

読下し　　　　　　　　　　　　　さまのかみたかやすあそん　　 ろくはら　　 おんてい　まいらる
建久六年(1195)三月大七日壬辰。左馬頭隆保朝臣、六波罷の御亭へ參被る。

しょうぐんけ ごたいめん あ　　　おんおくりものら　　およ　　　うんぬん　　そ　　 ほか　ひとびと すこぶ　ぐんさん　　　うんぬん
將軍家御對面有り。御贈物等に及ぶと云々。其の外の人々頗る群參すと云々。

現代語建久六年(1195)三月大七日壬辰。左馬頭源隆保様が、六波羅のお屋敷に参りました。将軍頼朝様はお会いになり、贈り物を差し上げましたとさ。その他の公卿などもとても沢山やってきましたとさ。

説明左馬頭隆保は、村上源氏の師隆の子。母は、熱田大宮司季範の娘なので、頼朝とは従兄弟に当たる。
　　　　　　　　　　　　　季範
　　　　　　　　　　　 ┌─┴─┐
　　　　　　 義朝─┬─女　　　女─┬─師隆
　　　　　　　　　頼朝　　　　　　隆保(持明院蔵人)

読下し　　　　　　　　　　　　　しちじょういん なんと　　ごげこう　　　 　これ　　とうだいじ くよう あ　　　べ　　　　 よつ　　なり
建久六年(1195)三月大九日甲午。七條院�@南都へ御下向す。是、東大寺供養有る可きに依て也。

うまのかみのぶきよ　あそん　 〔 ねんよ 〕　　ごき　　　そうら　　　うんぬん
右馬頭信�C�A朝臣〔年預�B〕後騎に候うと云々。」

参考�@七條院は、殖子。後白河の未亡人。
参考�A右馬頭信�Cは、坊門信�Cで七条院の父。
参考�B年預は、〔一年交代で事務を預かり行なったところから〕平安時代以降、上皇、親王、上級貴族、大寺社などで、別当、執事のもとで実務一般を担当する中級職員、僧官。

きょう　　　しょうぐんけ いわしみず　なら　　　　さめがい　わかみや ら 　　ぎょさん　　　　りんじさいたる　　よつ　　なり　　くるま　〔 あじろ 〕　　のりたま
今日、將軍家石�C水�C并びに左女牛�D若宮等に御參す。臨時祭爲に依て也。車〔網代〕に乘御う。

わかぎみ　えあじろぐるま　　もち　　らる　　　　みだいどころ　はちようぐるま　〔しろ　 おんぞ　　 いださる　〕　　　　が　　　たま
若公は繪網代車を用い被る。御臺所は八葉車〔白の御衣を出被る〕に駕し給ふ。

さまのかみたかやすあそん　 えちごのかみよりふさ　いだしぐるま　の　　〔 りょうにんとも　　　えふ 　ふたり　　　　あいぐ　　〕　　　　さきがけな
左馬頭隆保朝臣、越後守頼房、 出車�Eに乘る〔兩人共に衛府二人を相具す〕。前駈無し。

みなもとのくらんどたいふよりかね　かずさのすけよしかね　ぶんごのかみすえみつら　ごき　な
 源藏人大夫頼兼、　上総介義兼、　豊後守季光等後騎を爲す。

ごへい　　　しんめ　　〔 つきげ　にひき 〕　ら まえ　　い　　　　 いわしみず　　をい　　　 ほうぜん　　 つや 　　たま　　　　うんぬん
御幣、神馬〔鴾毛二疋〕等前を行く。石�C水に於て、寳前に通夜し給ふと云々。

参考�C石�C水は、岩清水八幡宮。
参考�D左女牛は、堀川通六条上る柿本町。六条堀川邸とも呼ばれる源氏累代の居宅にあった左女牛井(さめがい醒ケ井)の水は、天下の名水と称えられ、千利休も茶の湯に用いたと伝わっている。
参考�E出車は、盛儀の出行の際の装飾として、出衣(いだしぎぬ)を施した牛車。

　ろじ　　　ずいへいじうにき
路次の随兵十二騎

　　せんじんろっき
　先陣六騎

　　　　はたけやまのじろうしげただ　　　　　いなげのさぶろうしげなり
　　畠山二郎重忠　　　　稻毛三郎重成

　　　　ちばのしんすけたねまさ　　　　　　　かさいのひょうえのじょうきよしげ
　　千葉新介胤正　　　　葛西兵衛尉�C重

　　　　おやまのさえもんのじょうともまさ　　　ほうじょうのごろうときつら
　　小山左衛門尉朝政　　北條五郎時連

　　こうじんろっき
　後陣六騎

　　　　しもこうべのしょうじゆきひら　　　　　　ささきのさえもんのじょうさだつな
　　下河邊庄司行平　　　佐々木左衛門尉定綱

　　　　ゆうきのしちろうともみつ　　　　　　　　かじわらのげんたさえもんのじょうかげすえ
　　結城七郎朝光　　　　梶原源太左衛門尉景季

　　　　みうらのすけよしずみ　　　　　　　　　わだのさえもんのじょうよしもり
　　三浦介義澄　　　　　和田左衛門尉義盛

現代語建久六年(1195)三月大九日甲午。後白河法皇の未亡人七条院殖子様が京都から出発しました。これは、東大寺の落慶供養があるからです。事務官の右馬頭信清様がお供をされたそうです。」

今日、将軍頼朝様は、石清水八幡宮と六条左女牛八幡へお参りです。臨時の祭礼のためです。牛車〔網代車〕に乗っていかれました。若君万寿様(後の頼家)は絵の描かれた網代車を使われ、御台所政子さまは、八葉模様の牛車〔白い着物を後ろから少し出して見せています〕に乗られました。左馬頭源隆保様、越後守藤原頼房は、衣の裾を後ろの御簾から出す出車に乗ってます。〔近衛府の警護二人を従えてます〕露払いはいません。源藏人大夫頼兼、足利上総介義兼、毛呂豊後守季光が、すぐ後ろに馬上姿です。幣帛と奉納の馬〔鴇毛二頭〕が前を行きます。石清水八幡宮の神前で、夜明かしをなされましたとさ。道中の護衛兵は十二騎です。

前の武装儀仗兵六騎
　畠山次郎重忠　　　稲毛三郎重成
　千葉新介胤正　　　葛西兵衛尉清重
　小山左衛門尉朝政　北條五郎時連

後の武装儀仗兵六騎
　下河辺庄司行平　佐々木左衛門尉定綱
　結城七郎朝光　　梶原源太左衛門尉景季
　三浦介義澄　　　和田左衛門尉義盛

読下し　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　　　とうだいじくよう　　　あはせし　たま　　　　ため　　なんと　とうなんいん　に　ちゃくご
建久六年(1195)三月大十日乙未。將軍家、東大寺供養に逢令め給はん爲、南都東南院�@于着御す。

参考�@東南院は、東大寺の最有力の院家(真言派)。もう一つが尊勝院。摂関家の子弟等が天下りし公卿化していた。

いわしみず よ　　　　 じき　　げこうせし　　たま　　　　うんぬん
石�C水自り、直に下向令め給ふと云々。

ぐぶにん　　　ぎょうれつ
供奉人の行列

　　せんじん
　先陣

　　　　　はたけやまのじろう
　　畠山二郎(重忠)

　　　　　わだのさえもんのじょう　　　　　　〔おのおの　あいならばず〕
　　和田左衛門尉(義盛)〔各、相並不〕

　　つぎ　 ごずいひょう〔さんき　あいなら　　おのおの　いえのこ　　ろうじゅうおな　　　　かっちゅう　　つ　　　　　　ろぼう　　　れつ　　　　　そ　　　にんずう ごうき　　　したが　　ところなり　〕
　次に御隨兵〔三騎相並び、各、家子、郎從同じく甲冑を着け、路傍に列す。其の人數合期に随う所也。〕

　　　　　えどのたろう　　　　　　　　　　　　　おおいのじろう　　　　　　　　　　しながわのたろう
　　江戸太郎(重長)　　 大井次郎(實春)　 品河太郎

　　　　　てしまのひょうえのじょう　　　　　　　あだちのたろう　　　　　　　　　　えどのしろう
　　豊嶋兵衛尉　　　　　足立太郎　　　　江戸四郎

　　　　　おかべのこさぶろう　　　　　　　　　　しょうだいはちろう　　　　　　　 やまぐちのひょうえじろう
　　岡部小三郎　　　　　小代八郎　　　　山口兵衛次郎(有綱)

　　　　　てしがわらのさぶろう　　　　　　　　　あさみのたろう　　　　　　　　　　あまかすののじ
　　勅使河原三郎　　　　淺見太郎(實高)　 甘糟野次(廣忠)

　　　　　くまがやのまたじろう　　　　　　　　　かわわのしちろう　　　　　　　　　たいらこのうまのじょう
　　熊谷又次郎　　　　　河匂七郎(政頼)　 平子右馬允(有員)

　　　　　あぼのごろう　　　　　　　　　　　　　　かじのこじろう　　　　　　　　　　　こまのたろう
　　阿保五郎　　　　　　加治小二郎　　　高麗太郎

　　　　　あぼのろくろう　　　　　　　　　　　　　かもしだのじうろう　　　　　　　　　あおきのたんご
　　阿保六郎　　　　　　鴨志田十郎　　　��木丹五(眞道)

　　　　　とよたのひょうえのじょう　　　　　　　　しかべのろうろう　　　　　　　　　なかぐんのたろう
　　豊田兵衛尉(義幹)　　鹿邊六郎　　　　 中郡太郎

　　　　　まかべのろくろう　　　　　　　　　　　　かたほのごろう　　　　　　　　　　ひたちのしろう
　　眞壁小六　　　　　　片穂五郎　　　　　常陸四郎(伊佐四郎爲家)この行常陸

　　　　　しもじまごんのかみたろう　　　　　　　なかむらのたろう　　　　　　　　　こみやのごろう
　　下嶋權守太郎　　　　中村五郎　　　　　小宮五郎　　　　　この行駿河

　　　　　ならのごろう　　　　　　　　　　　　　　みわじのさぶろう　　　　　　　　　あさばのさぶろう
　　奈良五郎(高家)　　　三輪寺三郎　　　 淺羽三郎　　　　　　この行駿河

　　　　　こばやしのじろう　　　　　　　　　　　おなじきさぶろう　　　　　　　　　くらかののさぶろう
　　小林次郎(重弘)　　　同三郎　　　　　 倉賀野三郎(高俊)　　　　この行上州

　　　　　おおこのたろう　　　　　　　　　　　　ふかすのたろう　　　　　　　　　　なはのたろう
　　大胡太郎(重俊)　　　深栖太郎　　　　 那波太郎　　　　　　　この行上州

　　　　　しぶかわのごろう　　　　　　　　　　　あがつまのたろう　　　　　　　　　なはのいやごろう
　　澁河五郎　　　　　　吾妻太郎　　　　那波弥五郎　　　　　この行上州

　　　　　さののしちろう　　　　　　　　　　　　　おのでらのたろう　　　　　　　　そのだのしちろう
　　佐野七郎　　　　　　小野寺太郎　　　園田七郎(成朝)　　　　この行下野

　　　　　みながわのしろう　　　　　　　　　　　やまがみのたろう　　　　　　　　　たかだのたろう
　　皆河四郎　　　　　　山上太郎(高光)　 高田太郎　　　　　　　この行下野

　　　　　おぐしのうまのじょう　　　　　　　　　　せしたのおくたろう　　　　　　　　さかのさぶろう
　　小串右馬允　　　　　瀬下奥太郎　　　坂田三郎　　　　　　この行信州

　　　　　こむろのこたろう　　　　　　　　　　　　ねづのじろう　　　　　　　　　　　おなじきこじろう
　　小室小太郎　　　　　祢津次郎(宗直)　 同小次郎(宗道)　　　　この行信州

　　　　　かすがのさぶろう　　　　　　　　　　　なかののごろう　　　　　　　　　　かさはらのろくろう
　　春日三郎(貞幸)　　　中野五郎(能成)　 笠原六郎(比企の娘婿)　この行信州

　　　　　おだぎりのたろう　　　　　　　　　　　しづたのたろう　　　　　　　　　　いわやのたろう
　　小田切太郎　　　　　志津田太郎　　　岩屋太郎

　　　　　なかののしろう　　　　　　　　　　　　にたんのしろう　　　　　　　　　　おなじきろくろう
　　中野四郎　　　　　　新田四郎(忠常)　 同六郎(忠時)

　　　　　おおかわどのたろう　　　　　　　　　おなじきじろう　　　　　　　　　　　おなじきさぶろう
　　大河戸太郎(廣行)　　同次郎(秀行)　　  同三郎(行元)

　　　　　しもこうべのしろう　　　　　　　　　　　おなじきとうざ　　　　　　　　　　　いさのさぶろう
　　下河邊四郎(政義)　　同藤三　　　　　 伊佐三郎(行政)

　　　　　いずみのはちろう　　　　　　　　　　うつのみやのところ　　　　　　　　あまののうまのじょう
　　泉八郎　　　　　　　宇都宮所(信房)　 天野右馬允　　　　(宇都宮所信房は下野の蔵人所)

　　　　　ささきのさぶろうひょうえのじょう　　　なかざわのひょうえのじょう　　　たちばなうまじろう
　　佐々木三郎兵衛尉　　中澤兵衛尉　　　　橘右馬次郎　　　　(佐々木三郎は盛綱)

　　　　　おおしまのはちろう　　　　　　　　　　うんののこたろう　　　　　　　　　まきのむしゃどころ
　　大島八郎　　　　　　海野小太郎(幸氏) 牧武者所(宗親)

　　　　　ふじさわのじろう　　　　　　　　　　　もちづきのさぶろう　　　　　　　　たこのそうた
　　藤澤次郎(�C親)　　　望月三郎(重隆)　 多胡宗太　　　　　　　この行信州諏訪党

　　　　　くどうのこじろう　　　　　　　　　　　　　よこみぞのろくろう　　　　　　　　といのしちろう
　　工藤小次郎(行光)　　横溝六郎�@　　　 土肥七郎　参考�@横溝六郎義行は、近江国横溝で滋賀県東近江市横溝町。得宗被官。

　　　　　かすやのとうたひょうのじょう　　　　　かじわらのぎょうぶひょうえのじょう　ほんまのうまのじょう
　　糟谷藤太兵衛尉　　　梶原刑部兵衛尉　　本間右馬允(義忠)　　(糟屋は有季。梶原は景定)

　　　　　うすいのろくろう　　　　　　　　　　　　いんとうのしろう　　　　　　　　　　あまはのじろう
　　臼井六郎(常安)　　　印東四郎　　　　 天羽次郎(直常)　　　　この行は上総權介廣常の一族

　　　　　ちばのじろう　　　　　　　　　　　　　　おなじきろくろうたいふ　　　　　さかいのへいじひょうえのじょう
　　千葉二郎(師常)　　　同六郎大夫(胤頼) 境平二兵衛尉(常秀)　　この行は千葉一族

　　　　　ひろさわのよざ　　　　　　　　　　　　はたののごろう　　　　　　　　　　やまのうちのぎょうぶのじょう
　　廣澤余三(実方)　　　波多野五郎(義景) 山内刑部丞(經俊)　　　この行は相模

　　　　　かじわらのぎょうぶのじょう　　　　　　つちやのひょうえのじょう　　　　といのせじろう
　　梶原刑部丞(朝景)　　土屋兵衛尉(義�C) 土肥先二郎(惟平)　　　この行は相模

　　　　　わだのさぶろう　　　　　　　　　　　　おなじきこじろう　　　　　　　　　　さはらのたろう
　　和田三郎(宗実)　　　同小二郎　　　　 佐原太郎(経連)　　この行は三浦一族

　　　　　かわちのごろう　　　　　　　　　　　　そねのたろう　　　　　　　　　　　　さとみのこたろう
　　河内五郎(義長)　　　曾祢太郎　　　　 里見小太郎

　　　　　たけだのひょうえのじょう　　　　　　　いさわのごろう　　　　　　　　　　　にったのくらんど
　　武田兵衛尉(有義)　　伊澤五郎(信光)　 新田藏人(義兼)　　　この行は源氏

　　　　　さたけのべっとう　　　　　　　　　　　いしかわのおおいのすけ　　　　　さわいのごろう
　　佐竹別當(義季)　　　石河大炊助　　　 澤井太郎

　　　　　せきせいのしゅりのりょう　　　　　　　むらかみのさえもんのじょう　　　　　たかなしのじろう
　　關瀬修理亮(義盛)　　村上左衛門尉(頼時)高梨二郎

　　　　　しもこうべのしょうじ　　　　　　　　　　はったのうえもんのじょう　　　　　　　みうらのじうろうさえもんのじょう
　　下河邊庄司(行平)　　八田右衛門尉(知家)三浦十郎左衛門尉(義連)

　　　　　ふところじまたいらのごんのかみにゅうどう
　　懷嶋平權守入道(大庭景能)

　　　　　　〔　か　ち　ん　の　ひたたれ　　　鷺　　の　　蓑毛　　　にてとづ　　　　　　　おしいれえぼし　　　　ゆんで　あぶみは　　少し　　　　　短かし　　　　　　ほうげんのかっせんのとき　　射らるるゆえなり　〕
　　〔カチン�@ノ直垂�A。サキノミノケニテトツ�B。押入烏帽子�C。弓手の鐙ハスコシミシカシ。保元ノ合戰ノ時イラルゝ故也。〕

参考�@カチンは、かち色、濃い藍色。
参考�A直垂は、直垂は、素袍に同じ。元は貴人の夜の具なりしが、後、公武並びに諸人の常服となる。
参考�Bサキノミノケニテトツは、鷺のあごひげの様に二本垂れている蓑の茎があり、これを胸前で縛る。
参考�C押入烏帽子は、兜の下へおしいれて着けるところから、揉烏帽子(もみえぼし、塗り固めず柔らかく作った烏帽子)をいう。直垂を着て押入れ烏帽子を着けているのは何時でも鎧を着ける用意がある。
参考�D保元ノ合戰ノ時イラルは、鎮西八郎為朝に射られた。11巻建久2年8月1日条参考。

　　　　　ほうじょうのこしろう　　　　　　　　　　おやまのしちろう
　　北條小四郎(義時)　　小山七郎(朝光)

　　しょうぐん　〔おんくるま〕
　將軍〔御車〕

　　　　　さがみのかみ　　　　　　　　　　　　　　みなもとくらんどたいふ　　　　　　　かずさのすけ　　　　　　　　　　　〔あいなら　〕
　　相摸守(大内惟義)　　　源藏人大夫(頼兼)　上総介(足利義兼)〔相並ぶ〕

　　　　　いずのかみ　　　　　　　　　　　　　　　みなもとうまのすけ　　　　　　　　　　　〔あいなら　〕
　　伊豆守(山名義範)　　　源右馬助(村上經業)〔相並ぶ〕

　　　　　いなばのぜんじ　　　　　　　　　　　　　みらのすけ　　　　　　　　　〔あいなら〕
　　因幡前司(大江広元)　　三浦介(義澄)〔相並ぶ〕

　　　　　ぶんごぜんじ　　　　　　　　　　　　　　やまなのこたろう　　　　　　　　　　　　なかのちゅうざえもんのじょう
　　豊後前司(毛呂季光)　　山名小太郎(重國)　那珂中左衛門尉

　　　　　といのあらじろう　　　　　　　　　　　　　あだちのさえもんのじょう　　　　　　　ひきのうえもんのじょう
　　土肥荒次郎　　　　 　足立左衛門尉(遠元) 比企右衛門尉(能員)

　　　　　とうくろう　　　　　　　　　　　　　　　　　みやたいふ　　　　　　　　　　　　　　ところのろくろう
　　藤九郎(盛長)　　　 　宮大夫　　　　　　 所六郎(朝光)

　　　　　　　　　いじょうかりしょうぞく
　　　　已上狩装束

参考狩装束は、武士が狩りをするときの装束。水干または直垂(ひたたれ)をつけ、行縢(むかばき)をはき、綾藺笠(あやいがさ)あるいは竹笠をかぶり、太刀・腰刀を身につけ、籐巻(とうまき)の弓や野矢を携えた姿。

　　つぎ　 おんずいへい〔さんきあいなら　　　　　いえのころうとうら　こと　　　せんじん　　おな　〕
　次に御随兵〔三騎相並び、家子郎等の事、先陣に同じ〕

　　　　　おやまのさえもんじょう　　　　　　　　ほうじょうのごろう　　　　　　　　　　　ひらがのさぶろう
　　小山左衛門尉(朝政)　北條五郎(時連)　　 平賀三郎(朝信)

　　　　　なごのくらんど　　　　　　　　　　　　　とくがわのさぶろう　　　　　　　　　　もろのたろう
　　奈古藏人(義行)　　　徳河三郎(義秀)　　 毛呂太郎(季綱)　　(徳河は、関西系の吾妻鏡では世良田になっている。)

　　　　　なんぶのさぶろう　　　　　　　　　　　むらやまのしちろう　　　　　　　　　　もうりのさぶろう
　　南部三郎(光行)　　　村山七郎(頼直)　　 毛利三郎(頼隆)

　　　　　あさりのかじゃ　　　　　　　　　　　　　かがみのじろう　　　　　　　　　　　　おなじきさぶろう
　　淺利冠者(長義)　　　加々美二郎(長�C)　 同三郎

　　　　　ごとうのひょうえのじょう　　　　　　　　かさいのひょうえのじょう　　　　　　　ひきのとうじ
　　後藤兵衛尉(基�C)　　葛西兵衛尉(�C重)　 比企藤次

　　　　　いなげのさぶろう　　　　　　　　　　　かじわらのげんたさえもんのじょう　　　　　　　　　かとうた
　　稻毛三郎(重成)　　　梶原源太左衛門尉(景季)　加藤太(光員)

　　　　　あそぬまのこじろう　　　　　　　　　　さぬきのしろう　　　　　　　　　　　　　あしかがのごろう
　　阿曾沼小次郎(親綱)　佐貫四郎(廣綱)　　 足利五郎(長氏)

　　　　　おやまのごろう　　　　　　　　　　　　みうらのへいろくひょうえのじょう　　　　ささきのさえもんのじょう
　　小山五郎(宗政)　　　三浦平六兵衛尉(義村)佐々木左衛門尉(太郎定綱)

　　　　　おやまだのしろう　　　　　　　　　　　のざのぎょうぶのじょう　　　　　　　　　ささきのなかつかさのじょう
　　小山田四郎(榛谷重朝) 野三刑部丞(成綱)　 佐々木中務丞(次郎經高)

　　　　　はたののこじろう　　　　　　　　　　　　　おなじきさぶろう　　　　　　　　　　　ぬまたのたろう
　　波多野小次郎(忠綱)　　同三郎(義定)　　　 沼田太郎

　　　　　かわむらのさぶろう　　　　　　　　　　はらのむねさぶろう　　　　　　　　　　 おなじきしろう
　　河村三郎(義秀)　　　原宗三郎(景房)　　　同四郎(行能)

　　　　　ながえのしろう　　　　　　　　　　　　おかざきのよいちたろう　　　　　　　　　　かじわらのさぶろうひょうえのじょう
　　長江四郎(明義)　　　岡崎与一太郎　　　 梶原三郎兵衛尉(景茂)

　　　　　なかやまのごろう　　　　　　　　　　　しぶやのしろう　　　　　　　　　　　　　　　かさいのじうろう
　　中山五郎(爲重)　　　澁谷四郎(時國)　　 　葛西十郎

　　　　　おかざきのしろう　　　　　　　　　　　わだのごろう　　　　　　　　　　　　　　　　　かとうじ
　　岡崎四郎(義實)　　　和田五郎(義長)　　　 加藤次(景廉)

　　　　　おやまだのごろう　　　　　　　　　　　なかやまのしろう　　　　　　　　　　　　　　なすのたろう
　　小山田五郎(行重)　 中山四郎(重政)　　　　那須太郎(資光)

　　　　　のせのほうがんだい　　　　　　　　　あわのほうがんだい　　　　　　　　　　　　　だてのじろう
　　野瀬判官代(國能) 　安房判官代(野瀬高重)　 伊達次郎(爲重)

　　　　　おかべのこじろう　　　　　　　　　　　さののたろう　　　　　　　　　　　　　　　　　きっかわのこじろう
　　岡邊小次郎(忠嗣)　　佐野太郎(基綱)　　　 吉香小次郎(吉川)

　　　　　なんじょうのじろう　　　　　　　　　　そがのこたろう　　　　　　　　　　　　　　　　にのみやのこたろう
　　南條次郎　　　　　　曾我小太郎　　　　　  二宮小太郎(光忠)

　　　　　えどのしちろう　　　　　　　　　　　　おおいのへいざじろう　　　　　　　　　　　おかべのうまのじょう
　　江戸七郎(重宗)　　　大井兵三次郎(實春)　 岡部右馬允

　　　　　よこやまのごんのかみ　　　　　　　　さがみのこやまのしろう　　　　　　　　　　さわたりのとうざぶろう
　　横山權守(時廣)　　　相摸小山四郎　　　　 猿渡藤三郎　　参考相摸小山四郎は、町田市小山町で横山党分家。

　　　　　かさはらのじうろう　　　　　　　　　　　ほりのとうじ　　　　　　　　　　　　　　　　おおののとうはち
　　笠原十郎(親景)　　　堀藤次(親家)　　　　 大野藤八

　　　　　いいのすけ　　　　　　　　　　　　　　よこちのたろう　　　　　　　　　　　　　　　かつたのげんばのすけ
　　伊井介　　　　　　　横地太郎(長重)　　　 勝田玄番助(成長)

　　　　　きらのごろう　　　　　　　　　　　　　　あさばのしょうじさぶろう　　　　　　　　　　あらののたろう
　　吉良五郎　　　　　　淺羽庄司三郎　　　　新野太郎

　　　　　かねこのじうろう　　　　　　　　　　　　しむらのさぶろう　　　　　　　　　　　　　　ちゅうぜんじおくつぐ
　　金子十郎(家忠)　　　志村三郎　　　　　　 中禪寺奥次(弘長)

　　　　　あんざいのさぶろう　　　　　　　　　　ひらさこのたろう　　　　　　　　　　　　　　よしみのじろう
　　安西三郎(景益)　　　平佐古太郎(爲重)　　 吉見二郎(頼綱)

　　　　　おぐりのじろう　　　　　　　　　　　　　しぶやのじろう　　　　　　　　　　　　　　　むとうのこじろう
　　小栗二郎(重廣)　　　澁谷二郎(高重)　　　 武藤小次郎(資頼)

　　　　　あまののとうない　　　　　　　　　　　うさみのさぶろう　　　　　　　　　　　　　　　えびなのひょうえのじょう
　　天野藤内(遠景)　　　宇佐美三郎(助茂)　　 海老名兵衛尉(季綱)

　　　　　ながおのごろう　　　　　　　　　　　　たたらのしちろう　　　　　　　　　　　　　　ばばのじろう
　　長尾五郎(爲宗)　　　多々良七郎　　　　　馬塲二郎(資幹)

　　　　　つくいのはちろう　　　　　　　　　　　うすいのよいち　　　　　　　　　　　　　　　とのさきのうまのじょう
　　筑井八郎　　　　　　臼井与一　　　　　 戸崎右馬允(國延)

　　　　　はったのひょうえのじょう　　　　　　　ながとのえしち　　　　　　　　　　　　　　　なかむらのひょうえのじょう
　　八田兵衛尉(知重)　　長門江七(景遠)　　　 中村兵衛尉

　　　　　そうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　かねもちのじろう　　　　　　　　　　　　　ぬかだのたろう
　　宗左衛門尉(惟宗孝親)　金持二郎　　　　　  奴加田太郎(額田)

　　　　　おおとものさこんしょうげん　　　　　　ちゅうじょうのうまのじょう　　　　　　　　　　いさわのさこんしょうげん
　　大友左近將監(能直)　中條右馬允(家長)　　  井澤左近將監(家景)

　　　　　しぶやのいやごろう　　　　　　　　　　ささきのごろう　　　　　　　　　　　　　　　おかむらのたろう
　　澁谷弥五郎　　　　　佐々木五郎(義�C)　　 岡村太郎

　　　　　いのまたのへいろく　　　　　　　　　　しょうのたろう　　　　　　　　　　　　　　　　　よもだのさぶろう
　　猪俣平六(範綱)　　　庄太郎(家長)　　　　  四方田三郎(弘長)

参考四方田の読みを当初「しもだ」としておりましたが、「奥州余目記録」の五人一揆結成の条で、「四方田」のよみに「シハウテン」と振り仮名がされている。とのご指摘を戴きましたので、「しほうでん」とします。その後、四方田さんからみょうじは「よもだ」との申し出がったので訂正した20120715

　　　　　せんばのたろう　　　　　　　　　　　　おかべのろくやた　　　　　　　　　　　　　おしどりのさぶろう
　　仙波太郎(信恒)　　　岡邊六野太　　　　　  鴛三郎

　　　　　ふるごおりのじろう　　　　　　　　　　　つづきのへいた　　　　　　　　　　　　　こけたのたろう
　　古郡二郎　　　　　　都筑平太　　　　　　  苔田太郎

　　　　　くまがいのこじろう　　　　　　　　　　　しがのしちろう　　　　　　　　　　　　　　　かせのじろう
　　熊谷小次郎(直家)　　志賀七郎　　　　　　 加世次郎

　　　　　ひらやまのうえもんのじょう　　　　　　ふじたのこさぶろう　　　　　　　　　　　　おおやのちゅうざ
　　平山右衛門尉(季重)　藤田小三郎(能國)　　 大屋中三(安資)

　　　　　もろおかのじろう　　　　　　　　　　　ちゅうじょうのへいろく　　　　　　　　　　　いだのじろう
　　諸岡次郎　　　　　　中條平六　　　　　　  井田次郎

　　　　　いとうのさぶろう　　　　　　　　　　　　あまののろくろう　　　　　　　　　　　　　　くどうのさぶろうすけみつ
　　伊東三郎　　　　　　天野六郎(政景)　　　 工藤三郎祐光

　　　　　ちばのしろう　　　　　　　　　　　　　　おなじきごろう　　　　　　　　　　　　　　　かじわらのへいじさえもんのじょう
　　千葉四郎(胤信)　　　同五郎(胤道)　　　　 梶原平次左衛門尉(景高)

　　こうじん
　後陣

　　　　　かじわらのへいざ
　　梶原平三(景時)

　　　　　ちばのしんすけ　〔おのおの　あいならばず　ろうじゅうすうひゃっき　ぐ　〕
　　千葉新介〔各、相並不、郎從數百騎を具す〕(胤正)

　　　さいまつ
　最末

　　　　　さきのかもんのかみ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いがのぜんじ　　　　　　　　　　　　　　〔あいなら　〕
　　前掃部頭(中原親能)　　　　　　　　　 伊賀前司(田村仲教)〔相並ぶ〕

　　　　　ぬいのすけ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とおとうみのごんのかみ　〔あいなら〕
　　縫殿助(首藤重俊)　　　　　　　　　　 遠江權守　　〔相並ぶ〕

　　　　　げんのみんぶたいふ　　　　　　　　　　　ふしみのみんぶたいふ　　　　　　　　　なかのうきょうのしん
　　源民部大夫(光行)　　　伏見民部大夫　　　　　中右京進(中原仲業)

　　　　　ぜんのはやとのすけ　　　　　　　　　　　　ぜんのひょうえのじょう　　　　　　　　　　　へいみんぶのじょう
　　善隼人佑(三善康�C)　　　善兵衛尉　　　　　　　平民部丞(盛時)

　　　　　えちごのかみ　　　　　　　　　　　〔めんめんいえのころうとう　　あいぐ〕
　　越後守(藤原頼房)〔面々家子郎等を相具す〕

　　　　　　　　　　いじょうすいかん
　　　　已上水干　　参考水干は、狩衣の変化したもので、水張りにして干した絹の服、下に袴を穿く。

　やはん　　およ　　　　なんと　　ぎゅこう あ 　　　　きょう　　おうもうにち　なり　　じょうがい　ぎょうこう　　をい　　　　かく　　ひ　　 もち　　らる　　のれい な　　うんぬん
夜半に及び、南都に行幸有り。今日は往亡日�@也。城外の行幸に於て、此の日を用い被る之例無しと云々。

参考�@往亡日は、陰陽道でいう凶日の一。一年間に一二日あり、旅行、婚礼、移転、建築などを忌み禁じる。

現代語建久六年(1195)三月大十日乙未。将軍頼朝様は、東大寺の落慶供養に合わせるために奈良の東南院へお着きになられました。石清水八幡宮から直接向かわれたのです。

友の人達の行列は、

まず先頭が、畠山次郎重忠と和田左衛門尉義盛です。〔横に並んだわけではありません〕

　次の軍装の儀仗兵です。〔三騎が横に並び、それぞれの家来や従者が鎧兜をつけて、道端に並んでおります。その人数は家格によっています〕
　江戸太郎重長　　　　　大井二郎實春　　　　品川太郎
　葛西兵衛尉清重　　　　足立太郎　　　　　　江戸四郎
　岡部小二郎忠嗣　　　　小代八郎　　　　　　山口兵衛次郎
　勅使河原小三郎宣直　　浅見太郎実高　　　　甘糟野次広忠
　熊谷又次郎直家　　　　河勾七郎政頼　　　　平子右馬允有員
　阿保五郎　　　　　　　加治小次郎　　　　　高麗太郎
　阿保六郎　　　　　　　鴨志田十郎　　　　　青木丹五真道
　豊田兵衛尉義幹　　　　鹿辺六郎　　　　　　中郡太郎
　真壁小六　　　　　　　片穂五郎　　　　　　常陸四郎(伊佐四郎為家・後に伊逹四郎為家)
　下島権守太郎　　　　　中村五郎　　　　　　小宮五郎
　奈良五郎高家　　　　　三輪寺三郎　　　　　浅羽三郎
　小林次郎重弘　　　　　同三郎　　　　　　　倉賀野三郎高俊
　大胡太郎重俊　　　　　深栖太郎　　　　　　那波太郎
　渋川五郎　　　　　　　吾妻太郎　　　　　　那波弥五郎
　佐野七郎　　　　　　　小野寺太郎道綱　　　薗田七郎成朝
　皆川四郎　　　　　　　山上太郎高光　　　　高田太郎
　小串右馬允　　　　　　瀬下奥太郎　　　　　坂田三郎
　小室小太郎　　　　　　祢津二郎宗直　　　　同小次郎宗道
　春日三郎貞幸　　　　　中野五郎能成　　　　笠原六郎
　小田切太郎　　　　　　志津田太郎　　　　　岩屋太郎
　中野四郎　　　　　　　仁田四郎忠常　　　　同六郎忠時
　大河戸太郎広行　　　　同大河戸次郎秀行　　同大河戸三郎行元
　下河邊四郎政義　　　　同藤三　　　　　　　伊佐三郎行政
　泉八郎　　　　　　　　宇都宮所信房　　　　天野右馬允保高
　佐々木三郎兵衛尉盛綱　中沢兵衛尉　　　　　橘右馬次郎
　大島八郎　　　　　　　海野小太郎幸氏　　　牧三郎武者所宗親
　藤沢二郎清親　　　　　望月三郎重隆　　　　多胡宗太
　工藤小次郎行光　　　　横溝六郎　　　　　　土肥七郎
　糟谷藤太兵衛尉有季　　梶原刑部兵衛尉景定　本間右馬允義忠
　臼井六郎常安　　　　　印東四郎　　　　　　天羽次郎直常
　千葉相馬次郎師常　　　同東六郎大夫胤頼　　境平次兵衛尉常秀
　広沢余三実方　　　　　波多野五郎義景　　　山内刑部丞三郎經俊
　梶原刑部烝朝景　　　　土屋兵衛尉義清　　　土肥先二郎惟平
　和田三郎宗実　　　　　同小次郎　　　　　　佐原三浦太郎景連
　河内五郎義長　　　　　曽根太郎　　　　　　里見小太郎
　武田兵衛尉有義　　　　伊沢五郎信光　　　　新田蔵人義兼
　佐竹別当義季　　　　　石河大炊助　　　　　沢井五郎
　関瀬修理亮義盛　　　　村上左衛門尉頼時　　高梨次郎
　下河辺庄司行平　　　　八田右衛門尉知家　　三浦十郎左衛門尉義連

　懐島平権守入道大庭景能
　〔濃い藍色の武装用常服。鷺のあごひげの様に蓑の茎が垂れ下がっているので、それを胸の前で綴じています。兜の下に押し入れる柔かい烏帽子。弓手(左側)の鐙が少し短いのは、保元の乱で為朝に矢を射られたからです〕

　北条小四郎義時　　　　小山結城七郎朝光

将軍頼朝様〔牛車〕

　大内相模守惟義　　　　源藏人大夫頼兼　　　足利上総介義兼　〔横に並んでいます〕
　山名伊豆守義範　　　　源村上右馬助経業　　　　　　　　　　〔横に並んでいます〕
　因幡前司大江広元　　　三浦介義澄　　　　　　　　　　　　　〔横に並んでいます〕
　豊後前司毛呂季光　　　山名小太郎重国　　　那珂中左衛門尉
　土肥荒次郎実平　　　　足立左衛門尉遠元　　比企右衛門尉能員
　藤九郎盛長　　　　　　宮大夫　　　　　　　所六郎朝光
　以上は、狩装束です。

　次に軍装の儀仗兵です。〔三騎が横に並び、それぞれの家来や従者については、前を行く儀仗兵と同じです〕

　小山左衛門尉朝政　　　北條五郎時連　　　　平賀三郎朝信
　奈古蔵人義行　　　　　徳河三郎義秀　　　　毛呂太郎季綱
　南部三郎光行　　　　　村山七郎頼直　　　　毛利三郎頼隆
　浅利冠者長義　　　　　小笠原次郎長清　　　同三郎
　後藤新兵衛尉基清　　　葛西兵衛尉清重　　　比企藤二
　稲毛三郎重成　　　　　梶原源太左衛門尉景季　加藤太光員
　阿曽沼小次郎親綱　　　佐貫四郎広綱　　　　足利五郎長氏
　小山長沼五郎宗政　　　三浦平六兵衛尉義村　佐々木左衛門尉太郎定綱
　小山田榛谷四郎重朝　　野三刑部丞成綱　　　佐々木仲務丞次郎経高
　波多野小次郎忠綱　　　波多野三郎義定　　　沼田太郎
　河村三郎義秀　　　　　原宗三郎景房　　　　原宗四郎行能
　長柄四郎明義　　　　　岡崎余一太郎　　　　梶原三郎兵衛尉景茂
　中山五郎為重　　　　　渋谷四郎時国　　　　葛西十郎
　岡崎四郎義実　　　　　和田五郎義長　　　　加藤次景廉
　小山田五郎行重　　　　中山四郎重政　　　　那須太郎光助
　野瀬判官代国能　　　　安房判官代野瀬高重　伊達次郎為重
　岡部小二郎忠嗣　　　　佐野太郎基綱　　　　吉川小次郎
　南条次郎　　　　　　　曽我小太郎祐綱　　　二宮小太郎光忠
　江戸七郎重宗　　　　　大井兵三次郎実春　　岡部右馬允
　横山権守時広　　　　　相模小山四郎　　　　猿渡藤三郎
　笠原十郎親景　　　　　堀藤次親家　　　　　大野藤八
　伊井介　　　　　　　　横地太郎長重　　　　勝田玄番助成長
　吉良五郎　　　　　　　淺羽庄司三郎　　　　新野太郎
　金子十郎家忠　　　　　志村三郎　　　　　　中禪寺奥次弘長
　安西三郎景益　　　　　平佐古太郎為重　　　吉見二郎頼綱
　小栗二郎重広　　　　　渋谷次郎高重　　　　武藤小次郎資頼
　天野藤内遠景　　　　　宇佐美三郎助茂　　　海老名兵衛尉季綱
　長尾新五為宗　　　　　多々良七郎　　　　　馬塲二郎資幹
　筑井八郎　　　　　　　臼井与一　　　　　　戸崎右馬允国延
　八田兵衛尉知重　　　　長門江七景遠　　　　中村兵衛尉
　宗左衛門尉惟宗孝親　　金持二郎　　　　　　額田太郎
　大友左近將監能直　　　中条右馬允家長　　　井沢左近將監家景
　澁谷弥五郎　　　　　　佐々木五郎義清　　　岡村太郎
　猪俣平六範綱　　　　　庄太郎家長　　　　　四方田三郎弘長
　仙波太郎信恒　　　　　岡部六野太　　　　　鴛三郎
　古郡二郎　　　　　　　都筑平太経家　　　　苔田太郎
　熊谷小次郎直家　　　　志賀七郎　　　　　　加世次郎
　平山右衛門尉季重　　　藤田小三郎能国　　　大屋中三安資
　諸岡次郎　　　　　　　中条平六　　　　　　井田次郎
　伊東三郎　　　　　　　天野六郎政景　　　　工藤三郎祐光
　千葉大須賀四郎胤信　　同国分五郎胤道　　　梶原平次左衛門尉景高

しんがりの儀仗兵
　梶原平三景時
　千葉新介胤正〔それぞれ一緒に並ばず、家来を数百騎を連れています〕

一番後
　前掃部頭中原親能　　　伊賀前司田村仲教　〔一緒に並んでいます〕
　縫殿助首藤重俊　　　　遠江権守　　　　　〔一緒に並んでいます〕
　源民部大夫光行　　　　伏見民部大夫　　　　右京進中原仲業
　隼人佑三善康�C　　　　三善兵衛尉　　　　　平民部烝盛時
　越後守藤原頼房　〔それぞれに家来やお供を引き連れています〕
　　以上の人達は、水干を着ています。

夜になって、奈良へ天皇がお出ましです。今日は、旅行に縁起が悪い日なのです。天皇が京都の外へ出るのに、この日にした例はないそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　　 うませんびきを とうだいじ　　せにゅうせし　たま　　　　よしもり　　かげとき　　じょうじん　しょうかんら これ　 ぶぎょう
建久六年(1195)三月大十一日丙申。將軍家、馬千疋於東大寺へ施入令め給ふ。義盛、景時、成尋、昌寛等之を奉行す。

およ　　　ごほうか　　　　　やき　いちまんごく　　くがねいっせんりょう　 じょうけんいっせんびき　うんぬん
凡そ御奉加は、八木�@一万石、黄金一千兩、上絹�A一千疋と云々。

参考�@八木は、米の文字を分解している。
参考�A上絹は、細くて上質な絹らしい。

現代語建久六年(1195)三月大十一日丙申。将軍頼朝様は、馬千頭を東大寺へ寄付しました。和田義盛、梶原景時、義勝房成尋、一品坊昌寛がこれを担当しました。
それに追加の寄付は、米一万石、黄金千両、上等の絹を千匹(二千反)だそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　あさあめはれ　　　うま　いご　あめ しき 　　　ふ　　　　　また じしん　　 きょう とうだいじくようなり
建久六年(1195)三月大十二日丁酉。朝雨霽る。午以後雨頻りに降る。又地震。今日東大寺供養也。

 うし ふうはく　の　こうりん　　てんしゅ じるいのようごう　　そ　　 ずいけちえん
雨師風伯�@之降臨、天衆地類�A之影向、其の瑞�B揚焉�C。

とらのいってん　わだのさえもんのじょうよしもり　かじわらのへいざかげとき　すうまんき　　そうし　　 もよお　 ぐ　　　　 てら　　しめん　　きんかく　　けいご
寅一點�D、和田左衛門尉義盛、梶原平三景時、數万騎の壯士を催し具し、寺の四面の近郭を警固す。

参考�@雨師風伯は、雨の神、風の神の意味。
参考�A天衆地類は、天の神々・地縁の神々。平家物語の巻第四「山門牒状」に「天衆地類も影向を垂れ」と出てくる。
参考�B其の瑞は、その縁起の良い効験は、
参考�C揚焉は、あきらか。
参考�D寅一點は、寅は1：00〜3：00で、その2時間を5等分したのが点。1時〜1：24を一点、1：24〜1：48を二点、1：48〜2：12を三点、2：12〜2：36を四点、2：36〜3：00を五点。

現代語建久六年(1195)三月大十二日丁酉。朝のうちは雨ですが晴れました。しかし昼以後は又雨が激しく降りました。また地震がありました。
今日は、東大寺の落慶式開眼供養の日です。雨を司る神の「雨師」、風の神「風伯」が降りてきて、梵天・帝釈天などの天の神々、地縁の神々などの力により、その縁起の良い効験はあきらかです。寅の一点(1：00〜1：24)に、侍所長官の和田左衛門尉義盛と、副官の梶原平三景時が、数万もの軍勢を指揮して、東大寺の四方の街々を警備しています。

　ひのでいご　　　 しょうぐんけ ごさんどう　　ごじょうしゃなり
日出以後、將軍家御參堂、御乘車�@也。

おやまのごろうむねまさ　ぎょけん　　も　　　　ささきのなかつかさのじょうつねたか　おんよろい　つ　　　あいこうのさぶろうすえたか　ごちょうど　か
小山五郎宗政 御釼を持ち、　佐々木中務丞經高　御甲を着け、 愛甲三郎季隆　御調度を懸く。

たかやす　よりふさら　　　あそん　　こしょう ぬき 　つら
隆保、頼房等の朝臣、扈從軒を連ぬ�A。

いがのかみなかのり　　くろうどたいふよりかね　　 くないたいふしげより　　 さがみのかみこれよし　　かずさのすけよしかね　いずのかみよしのり　　ぶんごのかみすえみつ ら　ぐぶ
伊賀守仲教、 藏人大夫頼兼、宮内大輔重頼、 相摸守惟義、 上総介義兼、 伊豆守義範、 豊後守季光 等 供奉す。

ずいへい　をい　は　　すうまんき これあ　　　　いへど　　　みなかね　　つじつじなら　　　　じない もんがいら　 けいごせし
隨兵に於て者、數万騎之有りと雖も、皆兼て辻々并びに寺内門外等を警固令む。

 そ　　なか　　うんののこたろうゆきうじ　　　ふじさわのじろうきよちか いげ 　　こと　　　　いて　　　えら　　　　そうもん　　さゆう　　 わき　　すわ　　せし　　　　うんぬん
其の中、海野小太郎幸氏、藤澤二郎�C親以下の殊なる射手を撰び、惣門の左右の脇に座ら令むと云々。
参考惣門は、南大門。

おんとも　 ずいへい　 いた　　　 は　　 ただにじうはっき　 あいわか　 ぜんご　　じんに こう
御共の隨兵に至りて者、只廿八騎、相分れ前後の陣于候ず。

ただ　　よしもり　　かげときら は　　さむらい　しょしたる　　よつ　　　　けいご　　 こと　　 げち せし　　 ののち　　　ろじ　よ　　　さら　　 きば
但し義盛、景時等者、侍の所司爲に依て�B、警固の事を下知令む之後、路次自り更に騎馬す。

おのおの　さいぜん さいまつのずいへいた　　　うんぬん
 各、 最前 最末之隨兵爲りと云々。

参考�@御乘車は、牛車に乗車。
参考�A軒を連ぬは、牛車の軒を連ねる。
参考�B侍の所司爲に依ては、侍所の役職として、二人は別当と所司。

日の出があってから将軍頼朝様は、お堂(大仏殿)へ参りました。牛車です。小山長沼五郎宗政が刀持ちで、佐々木仲務丞経高が頼朝様の鎧を着け、愛甲三郎季隆が弓箭を担いでいます。左馬頭源隆保様、越後守藤原頼房達、お供の牛車の軒が続きます。前伊賀守田村仲教、源藏人大夫頼兼、宮内大輔藤原重頼、大内相模守惟義、足利上総介義兼、山名伊豆守義範、毛呂豊後守季光達が、後に続きます。
お供の兵は数万騎もいるけど、皆あらかじめ交差点や寺の内や門の外を警備しています。その御家人の中でも、海野小太郎幸氏や藤沢二郎清親をはじめとする弓の達者な者を選んで、総門の左右のわきに座らせておいたそうです。
直にお供する儀仗兵は、たったの二十八騎が分かれて前後に従います。ただし、和田義盛と梶原景時は、侍所の長官と副官なので、警備体制を指図した後で、道中の途中から馬に乗って並びます。それぞれ一番前と一番後ろの儀仗兵を務めたそうです。

　　せんじん　　ずいへい
　先陣の隨兵

　　　　　わだのさえもんのじょうよしもり
　　和田左衛門尉義盛

　　　　　はたけやまのじろうしげただ　　　　　　　　　　　いなげのさぶろうしげなり
　　畠山二郎重忠　　　　　　　稻毛三郎重成

　　　　　ちばのしんすけたねまさ　　　　　　　　　　　　　かさいのひょうえのじょうきよしげ
　　千葉新介胤正　　　　　　　葛西兵衛尉�C重

　　　　　かじわらのげんたさえもんのじょうかげすえ　　ささきのさぶろうひょうのじょうもりつな
　　梶原源太左衛門尉景季　　　佐々木三郎兵衛尉盛綱

　　　　　はったのさえもんのじょうともしげ　　　　　　　　　おかざきのよいちたろう
　　八田左衛門尉朝重　　　　　岡崎与一太郎

　　　　　うさみのさぶろうすけもち　　　　　　　　　　　　　つちやのひょうえのじょうよしきよ
　　宇佐美三郎祐茂　　　　　　土屋兵衛尉義�C

　　　　　さとみたろうよしなり　　　　　　　　　　　　　　　　かがみにじろうながきよ
　　里見太郎義成　　　　　　　加々美二郎長�C

　　　　　ほうじょうのこしろうよしとき　　　　　　　　　　　　　おやまのさえもんのじょうともまさ
　　北條小四郎義時　　　　　　小山左衛門尉朝政

　　　こうじん　　ずいへい
　後陣の隨兵

　　　　　しもこうべのしょうじゆきひら　　　　　　　　　　　　さぬきのたいふひろつな
　　下河邊庄司行平　　　　　　佐貫大夫廣綱

　　　　　たけだのごろうのぶみつ　　　　　　　　　　　　　　あさりのかじゃながよし
　　武田五郎信光　　　　　　　淺利冠者長義

　　　　　おやまのしちろうともみつ　　　　　　　　　　　　　みうらのじうろうさえもんのじょうよしつら
　　小山七郎朝光　　　　　　　三浦十郎左衛門尉義連

　　　　　ひきのうえもんのじょうよしかず　　　　　　　　　　あまののみんぶのじょうとおかげ
　　比企右衛門尉能員　　　　　天野民部丞遠景

　　　　　ささきのさえもんのじょうさだつな　　　　　　　　　かとうじかげかど
　　佐々木左衛門尉定綱　　　　加藤二景廉

　　　　　うじいえのたろうきんより　　　　　　　　　　　　　　えどのたろうしげなが
　　氏家五郎公頼　　　　　　　江戸太郎重長

　　　　　みうらのすけよしずみ　　　　　　　　　　　　　　　ちばのじろうもろつね
　　三浦介義澄　　　　　　　　千葉二郎師常

　　　　　かじわらのへいざかげとき
　　梶原平三景時

　前を行く儀仗兵は
　　和田左衛門尉義盛
　　畠山次郎重忠　　　　　稲毛三郎重成
　　千葉新介胤正　　　　　葛西兵衛尉清重
　　梶原源太左衛門尉景季　佐々木三郎兵衛尉盛綱
　　八田左衛門尉知重　　　岡崎与一太郎
　　宇佐美三郎助茂　　　　土屋兵衛尉義清
　　里見太郎義成　　　　　加々美二郎長清
　　北条小四郎義時　　　　小山左衛門尉朝政

　後ろに続く儀仗兵
　　下河辺庄司行平　　　　佐貫大夫四郎広綱
　　武田五郎信光　　　　　浅利冠者長義
　　小山七郎結城朝光　　　三浦佐原十郎左衛門尉義連
　　比企右衛門尉能員　　　天野民部丞藤内遠景
　　佐々木左衛門尉定綱　　加藤次景廉
　　氏家五郎公頼　　　　　江戸太郎重長
　　三浦介義澄　　　　　　千葉相馬次郎師常
　　梶原平三景時

どうまえ　　ひさし　ちゃくざせし　 たま　　ののち　 けんぶん　 しゅうとら　　 もんない　 むれい　　　のとき　　けいご　　ずいへい　 たい　　　　かずかずことあ
堂前の庇に着座令め給ふ之後、見聞の衆徒等、門内に群入る之刻、警固の隨兵に對し、數々事有り。

かげときこれ　　しず　　　ためゆきむか　　 いささ　ぶれい　　あらわ　　 しゅうとはなは　これ　あいしか　　　たがい　ろうぜきのことば　はつ　　いよいよ　ほうきのもとい　な　　　なり
景時之を鎭めん爲行向ひ、聊か無礼を現す。衆徒甚だ之を相叱る。互に狼藉之詞を發し、弥、蜂起之基を爲す也。

ときに しょうぐんけ ともみつ　　め　　　　ともみつ ざ　　た　　　　　ごぜん　　さんしんの ときは　　　て を おおとこ　 はじ　 か　　　　　たちなが　　　　あいしず　べきのしょうめい　うけたまは
時于將軍家朝光を召す。々々座を起ち、御前に參進之時者、手於大床の端に懸け、立乍ら、相鎭む可之將命を奉る。

しゅうと　　むか　　　のときは　　 そ　　　まえ　ひざまづ　けいくつ　　　さきのうだいしょうけ　ししゃ　　しょう　　　 しゅうと そ　　 れい　　かん　　　　ま　　 みづか　　　がうがうのぎ　　や
衆徒に向う之時者、其の前に跪き敬屈し、前右大將家の使者と稱す。衆徒其の礼に感じ、先づ自から嗷々之儀を止む。

ともみつ げんし　　つた　　　 い　　　　　　　とうじ　　 へいしょうこく　 ため　 かいろく　　　むな　　　　そせき　　のこ　　　 ことごと　かいじん　な　　　　　しゅうともっと　 ひかんすべ　　ことか
朝光嚴旨を傳へて云はく。當寺は平相國の爲に回祿し、空しく礎石を殘し、悉く灰燼と爲す。衆徒尤も悲歎可き事歟。

参考回祿は、火事の忌み言葉。

げんじ たまた　だいだんおつ　な　　　 ぞうえいの はじめよ　　　　 くようのいま　　 いた　　　　　　　　びこう　　　はげ　　　　ごうりき　　な
源氏適ま大檀越と爲し、造營之始自り、供養之今に至るまで、微功を勵まし合力を成す。

あまつさ　ましょう　た　　 ぶつじ　　　と　　　　 ため　　すうひゃくり　　こうてい　　しの　　　 だいがらん　　えんぺん　 もう　　　　しゅうとあにきかんせず　　や
剩へ魔障を断ち佛事を遂げん爲、數百里の行程を凌ぎ、大伽藍の縁邊に詣づ。衆徒豈喜歡不ん哉。

 むざん　　 ぶし　なおけちえん　おも　　　　こうきの　いちぐう　　か
無慙の武士猶結縁を思ひ、洪基之一遇を嘉す。

　うち　　　そうりょ　　 なん　　いらん　　この　　わがてらの さいこう　 さまた　　　や　　 ぞうい すこぶ　ふとうなり　　うけたまは　ぞん　べ　　か　てへ
有智の僧侶、何ぞ違乱を好み吾寺之再興を妨げん哉。造意頗る不當也。 承り 存ず可き歟者り。

しゅうとたちま　せんぴ　　　は　　おのおの　こうかい　およ　　　　すうせんばか　　やからいちどう　 せいひつ
衆徒忽ち先非を耻じ、各　後悔に及ぶ。數千許りの輩一同に靜謐す。

なかんづく　ししゃ　　ゆうし　　　ようぼう　　びこう　　こうべん　 ぶんめい　　ただ　 ぐんじんの ぶりゃく　 たつ　　　　　あらず　 すで　 れいじょうのれいせつ　ぞん　えた
就中に使者の勇士、容貌の美好、口弁の分明、匪に軍陣之武略に達するに啻。已に靈塲之礼節を存じ得り。

なにけ　　 だれひとや のよし　　どうおん　 これ　 かん　　　　のち　 ため　 せいめい　 き　　　　　　 ほつ　　　　 なの　　　べ　　　 のむね　　しきり　ことば　つく
何家の誰人哉之由、同音に之を感ず。後の爲に姓名を聞かんと欲す。名謁る可し之旨、頻に詞を盡す。

ともみつ　おやま　　しょうさず　　ゆうきのしちろう　　ごう　　をは　　　　きさん　　　　うんぬん
朝光、小山と稱不、結城七郎と号し訖り、歸參すと云々。」

堂(大仏殿)前のひさしの下にお座りになられたあと、見物の武者僧達が門内へ群れとなって入ろうとした時、警備の兵に対して数々のもめごとがありました。梶原景時がこれを鎮めようとして威圧的に指図をしたので、武者僧達は、とてもこれを怒り出しました。お互いに言い合いを始めたので、今にも喧嘩が起きそうな気配です。それを見て将軍頼朝様は、小山七郎朝光をお呼びになりました。朝光は、座を立ち、将軍様の御前に進んだ時は、手を周り廊下の簀子の縁にかけて立ったまま、騒ぎを鎮めるようにと命令を承りました。

武者僧に向かう時は、その前に膝まづいて、
「前右大将家の使いである。」と云ったので、僧兵はその礼儀正しさに感じて、おのずから騒ぐのをやめました。朝光が、重々しく将軍様の意向を伝えていうのには、「この東大寺は、平相国清盛のために火事にあってしまい、むなしく礎石ばかりを残し、全て灰になってしまいました。僧兵達の一番悲しい出来事でしょう。源氏の大将が運よく大スポンサーとして、建設の初めから完成の今に至るまで、力を注いできました。そればかりか、邪魔者を排除して仏のための完成祝賀会を遂行するために、数百里の道のりを乗り越えて、大きな建造物伽藍に詣でました。これを何故僧兵が喜ばないのでしょうか。残酷な武士でありながらも、なお仏との縁を結ぼうと思って、大事業の基礎にたずさわれたのを喜びました。知恵も学問もある僧侶が、何故騒ぎを好んで、自分達の寺の再興を邪魔するのでしょう。その思惑はとても不穏当なことですよ。理由を承りましょうか。」と言いました。武者僧達は、すぐにその行為を恥ずかしいと思い、後悔しました。

数千人の武者僧が一斉に静かになりました。特に使いの者の勇気と姿の良さ、弁舌のさわやかさに、ただ単に軍隊の武力に長けているばかりでなく、寺社での礼儀すらも承知している。坊さんたちは興味を持って、どこの家の誰なんだろうと、一同は思いました。後々のために名前を聞きたいと思い、名を名乗って欲しいと何度も言いました。朝光は「小山」と言わずに「結城七郎」と名乗って、元へ戻りましたとさ。

つぎ　 ぎょうこう　　しっぺい　いげ　 けいしょう　うんかく　おお　もつ　　 ぐぶ
次に行幸�@。執柄�A以下の卿相�B雲客�C多く以て供奉す。

ひつじのこく　くよう の ぎ　 あ　　　　どうし　　 こうふくじべっとうそうじょうかくけん　　しゅがんじ　　 とうじべっとう　ごんのそうじょうしょうけん
未尅、供養之儀有り。導師は興福寺別當僧正覺憲。咒願師�Dは當寺別當 權僧正勝賢。

およ　　にんなじ ほっしんのう いげ　　　しょじ　 りゅうぞう　しゅう  あわ　　　いっせんく　　およ　　　　うんぬん
凡そ仁和寺法親王�E以下、諸寺の龍象�F衆 會せて一千口�Gに及ぶと云々。

まこと　これ　 ちょうけ ぶもんの だいえい　　けんぶつもんぽうのはんじょうなり
誠に是、朝家武門之大營。見佛聞法之繁昌也。

参考�@行幸は、後鳥羽天皇の行幸。
参考�A執柄は、政治権力を握ることなので摂関。ここでは九条兼実。
参考�B卿相は、公卿や大臣。
参考�C雲客は、雲の上の人。殿上人。雲上人(うんじょうびと)。これも公卿。
参考�D咒願師は、まじない師。
参考�E仁和寺法親王は、後白河法皇の二男守覚。
参考�F龍象は、名僧。
参考�G一千口は、坊さん千人。坊さんは人では無く、口ばっかりなので一人二人と数えず、一口二口と呼ぶ。

次に天皇がおいでになられ、摂関家(九条兼実)以下公卿や殿上人が沢山ついてきました。未の刻(午後二時頃)に、開眼供養の儀式がありました。指導僧は、向福寺長官僧正覚憲。まじない師は、東大寺長官権僧正勝賢。参集したのは仁和寺の法親王守覚を始めとするいろいろな寺の名僧達が合わせて一千人にもなりましたとさ。全くもって、天皇家と武家との大いなる事業です。仏を見て仏法を聞く集まりです。

説明ここからは、東大寺が燃えてから再建までを語っている。

とうがらん　は　　 あんとくてんのう　 おんう　　 じしょうよねんかのえね じうにがつにじうはちにち
當伽藍者、安徳天皇の御宇、治承四年庚子 十二月廿八日、

へいしょうこくぜんもん　あくぎょう　よつ　　　ぶつぞうはい　 か　　　　どうしゃもえくひ　のこ　をはんぬ
平相國禪門の 惡行に依て、佛像灰と化し、堂舎 燼を殘し畢。

ここ　　ほうおう　ちょうげんしょうにん　ちょく　　いは　　　　ほんがん　おうちょく　とぶら　　　こうひ　　ちしき　　いざな　　　　ししょう　　おは　　てせいふう　　わざ　　つと　　せし
爰に法皇、重源上人に勅して曰く、本願の往躅を訪ひ、高卑の知識を唱ひ、梓匠に課せ而成風の業を勤め令め、

だんしゅ　 かわ　 て　　　ふじつ　　こう　　しま　　べ　　　　のよしてへ　　　　　しょうにんめいし　うけたまは
檀主に代り而、不日の功を終う可し之由者れば、上人命旨を奉り、

さんぬ　じゅえいにねんみずのとうしがつじうくにち　　だいそうこくちんなけい　 し　　 はじ　　　 ほんぶつ　 みぐし　　いたてまつ　せし
去る壽永二年癸夘四月十九日、 大宋國陳和卿を令て始めて本佛の御頭を鑄奉ら令む。

おな　　　 ごがつにじうごにち　　いた　　　　しゅびさんじうよにち　　やちう　じうしど　　ようはん　　こう　　な　　をはんぬ
同じき五月廿五日に至り、首尾卅余日、冶鑄十四度、鎔範の功を成し訖。

ぶんじがんねんきのとうはちがつにじうはちにち　だじょうほうおう てづよ　　ごかいがん　　 ときに ほうおう すうえ　　あしじろ　 よじのぼ　　　　じうろくじょう　けいぞう　 せんぎょう　たま
 文治元年乙夘八月廿八日、  太上法皇手自り御開眼。時于法皇數重の足代を攣登り、十六丈の形像を瞻仰し給ふ。

　ぐぶ　　けいしょう　いげ　　　め　　　くら　　　　あし　　ふる　　て　　 みなはんかい　とど　　　うんぬん
供奉の卿相以下、目を眩まし足は振え而、皆半階に留むと云々。

　くよう　　しょうどう　　とうじべっとうほうむそうじょうていへん　　しゅがんし　　こうふくじべっとうごんのそうじょうしんえん　　こうし　　どうじごんのべっとうだいそうづかくけん
供養の唱導は當寺別當法務僧正定遍。咒願師は興福寺別當權僧正信圓。講師は同寺權別當大僧都覺憲。

そう　　　　くつ　　　　ところ　 のうえ いっせんくなり
惣じて屈する所の衲衣一千口也。

この寺院は、安徳天皇時代の治承四年庚子十二月二十八日、平相国禅門清盛の悪行のために、仏像は灰となり、建物は燃え残かすの柱ばかりを残しました。そこで後白河法皇は、重源上人に命じられたのが、「大仏建立の願を先人の歩いた道に調べて、偉い人もいやしい人も皆の知識を導き出して、建具工人と大工さんとに仕事をさせて、建物を立ち上げるように勤めさせ、天皇のかわりに日をおかずに仕上げるように。」との賜れて、重源上人はその旨を承知されて、先の寿永二年癸卯四月十九日、宋の国の陳和卿に任せて大仏の頭を鋳させました。同じ年の五月二十五日から三十数日をかけて銅を溶かすこと十四度もくりかえし、型へ流し込む工事をやりとげました。

文治元年(1185)乙巳八月二十八日、後白河法皇自ら筆を執り開眼(目を書き込んだ)しました。その時は、法王が数段もの足場をよじ登って、十六丈(48m座っているので半分)のお像を仰ぎ見たのです。手伝いの公卿たちは、目を回して足が震えて、皆半分の場所で立ち止まってしまいました。開眼供養のお経を歌のように唱える指導僧は、東大寺長官で寺務を統括する僧正定遍。まじない師は、向福寺長官権僧正信円。仏法を解く講師は、向福寺副長官大僧都覚憲。全体で拝んでいた僧侶の数は、一千人でした。

そ　　　ご　　 しょうにんおうじゃくのれい　たず　　　だいじんぐう　 もう　　　　ぞうじ　　 きねん　　 いた　　のところ
其の後、上人往昔之例を尋ね、太神宮に詣で、造寺の祈念を致す之處、

かぜのやしろ　しんけん　 よつ　　　まのあたり　にか　 ほうしゅ　　え　　　　　とうじ　　 ちょうほう　　な　　　　　ちょくふうぐら　　あ
 風社�@の神眷に依て、親に二顆の寳珠を得て、當寺の重寳と爲し、勅封藏に在り。

おな　　　 にねんひのえうましがつとおか　　はじ　　　すおうのくに　　い　　　　りょうざい　　ぬ　　　と　　　　ちゅうそ　　かま　　　　いた　　　　どぼく　　 こう　　くはだ
同じく二年丙午四月十日、始めて周防國に入り、料材を抽き採り、柱礎の搆へを致し、土木の功を企つ。

はしらいっぽん　の　　　のくるま　　うしにひゃくにじっとう　が　　 これ　　ひ　　 せし　　なり
柱一本を載せる之車、牛百二十頭に駕し之を牽か令む也。

けんきゅうがんねんかのえいぬしちがつにじうしちにち　だいぶつでんおもや　はしらにほんはじ　　これ　　た　　　　おな　　　じうがつじうくにちじょうとう　　みゆきあ　　　うんぬん
　建久元年庚戌七月廿七日、　　大佛殿母屋の柱二本始めて之を立つ。同じき十月十九日上棟。御幸有りと云々。

参考�@風社は、伊勢神宮外宮の現風宮。元末社格が、1281年(弘安4年)元寇の時に神風を起こし日本を守ったとして別宮に昇格した。

その後、重源上人は昔の例を調べて伊勢神宮にお参りをして東大寺再建のお祈りをした所、風の社の神の力で、たちまち二粒の宝の珠を手に入れたので、東大寺の宝物として、正倉院にあります。同じ文治二年(1186)丙午四月十日に初めて周防国へ入り、良い材木を伐採し、柱の礎石を据えるなど、土木工事の計画を立てました。柱一本を乗せた車に牛百二十頭をつないで、これを曳かせましたとさ。建久元年(1190)庚戌七月二十七日、大仏殿の建物の柱二本を初めて立てました。同年十月十九日に上棟式で、法皇も出席されましたとさ。

参考ここからは、東大寺の歴史を語っている。

そうそう　らんしょう　　い　　　ば　　　しょうむてんのう　おんう　てんぴょうじうよねんみずのえうまじういちがつみっか　　とうじこんりゅうのえいがん　よつ
草創の濫觴を謂は者、聖武天皇の御宇　天平十四年壬午十一月三日、　當寺建立之叡願に依て、

たいかけいえいの きしょう　　ため　　はじ　　　 ちょくしを だいじんぐう　　はっけん　　　 さだいじんもろえこうこれなり
大廈經營之祈請の爲、始めて勅使於太神宮へ發遣す。左大臣諸兄公是也。

おな　　　じうしちねんきのととりはちがつにじうさんにち　ま　　しきち　　だん　　かま　　　　おな　　　 ほとけ　うしろやま　きづ
同じく 十七年乙酉八月廿三日、 先ず敷地に壇を搆へ、同じく佛の後山を築き、

おな　　　じうくねんひのといくがつにじうくにち　　 だいぶつ　いたてまつ
同じく十九年丁亥九月廿九日、大佛を鑄奉る。

こうけんてんのうおんう　てんぴょうしょうほうがんねんつちのとうし　じうがつにじうよっか　そ　　 こう　　おえ　　　〔　さんかねんのかん　はちかど　これ　　いたてまつ　〕
孝謙天皇御宇　天平勝寳　元年 己丑　十月廿四日其の功を終る。〔三ケ年之間八ケ度之を鑄奉る。〕

おな　　　じうにがつなぬかひのとい　　　くよう　　　と　　　らる　　　　てんのうなら　　　　だじょうこう　〔しょうむ〕　 じいん　　ぎょう
同じく十二月七日丁亥、供養を遂げ被る。天皇并びに太上皇〔聖武〕寺院に幸したまふ。

　どうし　　みなみてんじく　ばらもんそうじょう　　しゅがんし　　　　ぎょうきだいそうじょう　　てんぴょうしょうほうよねんみずのえたつさんがつじうよっか　はじ　　　きんを だいぶつ　でい　たてまつ
導師は、南天竺波羅門僧正。咒願師は、行基大僧正。　天平勝寳　四年 壬辰 三月十四日、始めて金於大佛に泥し奉る。

　〔きん　　　　てんぴょうにじうねん　はじ　　　　　おうしゅうよ　　　　けん　　　　ところなり　　これ　　　わがちょう　さきんのはじめたり　　うんぬん　〕
〔金は、天平廿年　始めて奥州自り獻ずる所也。是、吾朝の砂金之始爲と云々。〕

東大寺創建の伝承は、聖武天皇の時代の天平十四年(742)壬午十一月三日、この寺を建立したいとの願いによって、立派な大きな建物建設のために、初めて天皇の使者を伊勢神宮へ派遣しました。左大臣の橘諸兄様がそうなのです。同じ十七年乙酉八月二十三日、まず敷地に基壇を突き固め、その後ろに山をこさえました。同じ天平十九年(747)丁亥九月二十九日に大仏様を鋳始めました。孝謙天皇の時代の天平勝宝元年(749)十月二十四日にその工事が終わりました。〔三年間に八回鋳たわけです。〕同じ十二月七日丁亥に、開眼供養の完成式典を実施されました。天皇も太上皇〔聖武天皇〕も寺へ参りました。指導僧は、南インドのバラモン僧正、施主の願意を受けて唱えるのは行基大僧正でした。天平勝宝四年(753)壬辰三月十四日、初めて大仏様に金メッキをしました。〔金は天平二十年に初めて奥州(東北地方)から献上されたものです。これが我が国での砂金の最初なのです〕

読下し　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しょうぐんけ　だいぶつでん　ぎょさん　 ここ　ちんなけいそうちょう　 らいきゃく　 な　　　　わしゅう　　こうしょう　おう
建久六年(1195)三月大十三日戊戌。�ﾘ。將軍家、大佛殿へ御參。爰に陳和卿宋朝の來客と爲し、和州の巧匠に應ず。

およ　　そ　　びるしゃなぶつのしゅうしょく　　おが　　　　　ほと　　　　びしゅかつま　の さいたん　　いひ　　べ　　　　まこと　ただなるひと　あらずか
凡そ厥の盧遮那佛之修餝を拝むに、殆んど毘首羯摩�@之再誕と謂つ可し。誠に直也人に匪歟。

よっ　しょうぐん　ちょうげんしょうにん　もっ　　ちゅうし　 な　　  　　 ちぐ　けちえん　 ため　　　 なけい　　まね　　せし　　たま　 のところ
仍て將軍、重源上人を以て中使と爲し、値遇結縁の爲に、和卿を招か令め給ふ之處、

こくてきたいじの とき　　おお　 じんめい　 た　　　　　ざいごうふか　 おも　　なり　　えつ　 およ　　ず　のよし　　 こじ　さいさん
國敵對治之時、多く人命を断ち、罪業深く重き也。謁に及ば不之由、固辞再三す。

しょうぐんかんるい　おさ　　おうしゅうせいばつのとき　　き たま　ところのかちゅうなら　　　 あんめ さんびき　 きんぎんら　　もっ　　おくらる
將軍感涙を抑へ、奥州征伐之時、着給ふ所之甲冑并びに鞍馬三疋、金銀等を以て贈被る。

なけい たま　　　かっちゅう　 ぞうえい　　くぎりょう　な　　　　　がらんに　せにゅう
和卿賜はる甲冑を造營の釘料と爲し、伽藍于施入す。

くらひとくち　　と　　　　　てがいえ　じうれつのうつしぐら　　な　　　　おな　　　これ　　 きしん
鞍一口を止め、手掻會十列之移鞍�Aと爲し、同じく之を寄進す。

そ　　　ほか　りゅうてい いげ　　りょうのう　あたはず　ことごと　もっ　　これ　 かへ　 けん　　　　　うんぬん
其の外の龍蹄以下は領納に不能、悉く以て之を返し献ずると云々。

参考�@毘首羯摩は、帝釈天の弟子で仏師の祖と言われる。「毘首羯摩の作」と伝承される仏像は多い。
参考�A移鞍は、乗り換え用の馬の鞍。

現代語建久六年(1195)三月大十三日戊戌。晴れです。将軍頼朝様は、大仏殿にお参りです。そういえば、陳和卿が宋の国からの来客として日本の工人を指導しました。その毘盧遮那仏の出来上がりを拝むと、仏師の祖の毘首羯摩の生まれ変わりと云えましょう。本当に単なる普通の人ではありません。それなので将軍頼朝様は、重源上人に仲立ちしてもらって、仏縁あるものにめぐり合いたいと陳和卿を招いたのですが、「国の敵として平家を退治した時に、沢山の人を殺しており、その罪業は深く重いのでお会いしたくありません。」と、辞退しました。将軍は、その清潔さに感動の涙を流し、奥州征伐の時に来ていた鎧兜と鞍を乗せた馬三頭や金銀を贈りました。和卿はもらった鎧兜を大仏殿建立の釘代として寺に納めました。鞍ひとつは、手掻会の祭典用の乗り換え馬の鞍として同様に寄付しました。それ以外の立派な馬以下は受け取る訳にはいかないと、全て返してよこしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　きらくせし　 たま　　　　うんぬん
建久六年(1195)三月大十四日己亥。將軍家歸洛令め給ふと云々。

現代語建久六年(1195)三月大十四日己亥。将軍頼朝様は京都へ戻られましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　ばん　　およ　　　　せんようもんいん　 まい　 たま　　　　うんぬん
建久六年(1195)三月大十六日丙子。晩に及び、宣陽門院に參り給ふと云々。

現代語建久六年(1195)三月大十六日丙子。(頼朝様は)夜になって、宣陽門院を訪問なされましたとさ。

説明宣陽門院は、法性寺殿の塔頭。後白河法皇と高階栄子が鳥羽殿に押し込められているときに出来た子(覲子)が住み宣陽門院と呼ばれ、後に後白河法皇から長講堂領を貰うので百八十箇所の荘園領主となる。

読下し　　　　　　　　　　　　  しょうぐんけ　くめ　にじっぴき　　きんり　　  すす　 せし　 たま　　　　うんぬん
建久六年(1195)三月大廿日甲辰。將軍家貢馬二十疋を禁裏へ進ま令め給ふと云々。

現代語建久六年(1195)三月大二十日甲辰。将軍頼朝様は、馬二十頭を京都御所へ贈られましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　 ごさんだい あ　　　　まえがけりょうさんやから　また　ずいへいはっきさいまつ　あ　　　　　いはゆる
建久六年(1195)三月大廿七日辛亥。御參内有り。前駈兩三輩。 又、隨兵八騎最末に在り。所謂。

　　　ほうじょうのこしろうよしとき　　　　　　　　　うさみのさぶろうすけもち
　北條小四郎義時　　　　 宇佐美三郎祐茂

　　　おやまのしちろうともみつ　　　　　　　　　はんがやのしろうしげとも
　小山七郎朝光　　　　　 榛谷四郎重朝

　　　みうらのへいろくひょうえのじょうよしむら　かじわらのへいじさえもんのじょうかげたか
　三浦平六兵衛尉義村　　 梶原平二左衛門尉景高

　　　しもこうべのしょうじゆきひら　　　　　　　　ちばのへいじひょうえのじょうつねひで
　下河邊庄司行平　　　　 千葉平二兵衛尉常秀

現代語建久六年(1195)三月大二十七日辛亥。京都御所へお上りになられました。朝廷から派遣された露払いが三頭です。また、武装兵八騎が一番後ろにつきました。それは、
　北条小四郎義時　　　宇佐美三郎助茂
　小山七郎朝光　　　　榛谷四郎重朝
　三浦平六兵衛尉義村　梶原平次左衛門尉景高
　下河辺庄司行平　　　千葉境平次兵衛尉常秀　　

読下し　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　　あまたんごにほん　　〔せんようもんにん　　おんははぎ　　　きゅういんしっけんにょぼうなり　　〕　　を　ろくはらおんてい　　しょうせい　　たま
建久六年(1195)三月大廿九日癸丑。將軍家、尼丹後二品�@〔宣陽門院が御母儀。舊院執権女房也。〕於六波羅御亭に招請し給ふ。

みだいどころ　ひめぎみら たいめん　たま　　　おんおくりもの　〔ぎんさくまきばこ　もつ　　　さきんさんびゃくりょう　おさ　　　　しろあやさんじったん　　　もつ　　　ちばん　　かざ　　　　うんぬん　〕　　あ
御臺所、姫君等對面し給ふ。御贈物〔銀作蒔筥を以て砂金三百兩を納め、白綾三十端を以て地盤を餝ると云々〕有り。

また　　こしょう　　しょだいぶ　　さむらいら　おな　　　おんひきでもの　　およ　　　うんぬん　　さこんしょうげんよしなお　さえもんのじょうともしげら　しょやく　 したが　　 うんぬん
又、扈從の諸大夫、侍等、同じく御引出物に及ぶと云々。左近將監能直、左衛門尉朝重等 所役に從うと云々。

参考�@尼丹後二品は、高階栄子。

現代語建久六年(1195)三月大廿九日癸丑。将軍頼朝は、尼丹後ニ品(にほん)局を六波羅の館に招待しました。〔この人は宣陽門院のお母さんです。後白河院の院の庁の妾たちの宿舎取締役です。〕政子様と姫君(数え年１８歳)が対面されまして贈り物をしました。〔銀作りの蒔絵の箱に砂金を三百両納めて、白綾三十反に上に乗せて飾りました。〕また、お供の侍達に同様に土産を出しました。左近將監大友能直と左衛門尉八田知重が役目をしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけごさんだい　　でんか　ごさんかいあ　　　　　うんぬん
建久六年(1195)三月大卅日甲寅。將軍家御參内。殿下�@御參會有りと云々。

こ　　 かん　　もんぜん　　をい　　　ほんまのうまのじょう　はんにん　 から　　と　　　 　うんぬん
此の間、門前に於て、本間右馬允、犯人を搦め取ると云々。

参考�@殿下は、九条兼実だが、彼の日記「玉葉」には、この日の記事が無い。

現代語建久六年(1195)三月大三十日甲寅。将軍頼朝様は、京都御所へ上がられました。摂政の九条兼実様も来合わせたそうです。その時に、御所の門前で、本間右馬允義忠が犯罪者を捕まえたそうです。

四月へ

吾妻鏡入門第十五巻