吾妻鏡入門第十五巻

建久六年(1195)六月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけわかぎみ　〔いちまんぎみ　　　としじうし　　　ほい　　　〕　　 ごさんだい　　あじろぐるま　 が　　　たま
建久六年(1195)六月小三日丙辰。將軍家若公〔一万公。歳十四。布衣。〕御參内。網代車に駕し給ふ。
参考布衣は、布製の狩衣の別称。狩衣は武家社会では、束帯に次ぐ礼装であった。

さまのかみたかやすあそん　あいぐ　　　　　ふち　　　くは　　　　ためなり
左馬頭隆保朝臣 相具す。扶持を加へん爲也。

　　ぐ　ぶ　にん
　供奉人

　　　　さがみのかみこれよし　　　　　　 いずのかみよしのり
　　相摸守惟義　　　　伊豆守義範

　　　　さこんしょうげんよしなお　　　　　 さえもんのじょうよしもり
　　左近將監能直　　　左衛門尉義盛

　　　　しげ　　　　　　とも　　　　　　　　　かげ　　　　　 すえ
　　重　　　朝　　　　景　　　季

　　　　さえもんのじょうきよしげ　　　　　　つね　　　　　 ひで
　　左兵衛尉�C重　　　常　　　秀

　　　　かげ　　　　　　もち　　　　　　　　 うきょうのしんすえとき　〔おのおの　　ほい　　　　きば　　〕
　　景　　　茂　　　　右京進秀時 〔 各、 布衣に騎馬〕

　　　　おやまのごろうむねまさ　　　　　　ささきのなかつかさのじょうつねたか　〔おのおの　ひたたれ　おくるま　　さゆう　　　そうら　〕
　　小山五郎宗政　　　佐々木中務丞經高　〔 各、 直垂で御車の左右に候う〕

　ゆばどの　　 をい　　　　ぎょけん　 たま　　らる　　　さいしょうちうじょうただつね　これ　　つた　　　　うんぬん
弓塲殿に於て、御釼を賜は被る。 宰相中將忠經、 之を傳うと云々。

現代語建久六年(1195)六月小三日丙辰。将軍頼朝様の若公〔一万公。年十四。礼装の狩衣〕が京都御所へ上がりました。網代編みの牛車に乗っていきました。左馬頭源隆保様が一緒なのは、若君の面倒を見るためです。

　お供の人は、
　相模守大内惟義　　　伊豆守山名義範
　左近将監大友能直　　左衛門尉和田義盛
　榛谷四郎重朝　　　　梶原源太左衛門尉景季
　葛西左兵衛尉清重　　千葉境平次常秀
　梶原三郎兵衛尉景茂　右京進中原季時〔それぞれ礼装の狩衣で馬に乗っています〕
　小山長沼五郎宗政　　佐々木仲務丞経高〔それぞれ直垂で牛車の左右に付きました。〕

天皇が射技を見るための弓場殿で剣を与えられました。宰相中将花山院忠経がこれを手渡しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　ぎょさん　〔ろくじょうでん〕　　　　うんぬん
建久六年(1195)六月小八日辛酉。將軍家御參〔六條殿〕すと云々。

現代語建久六年(1195)六月小八日辛酉。頼朝様は、後鳥羽上皇の六条殿へ参られました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 こいん　 ほけどう　　 ぎょさん　　　　うんぬん
建久六年(1195)六月小十三日丙寅。故院法花堂へ御參すと云々。

現代語建久六年(1195)六月小十三日丙寅。頼朝様は、後白河法皇の法華堂へ参られました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しもこうべのしょうじゆきひら　へいしけにん　かつらのひょうえのじょうさだかね　め　　しん
建久六年(1195)六月小十四日丁夘。下河邊庄司行平、平氏家人　桂兵衛尉貞兼を　召し進ず。

 ひごろ せいとへん　 はんめん　　　うんぬん　　およ　　か　　　 よとう ら　　　さが　　もと　　らる　ところなり
日者西都邊に半面すと云々。凡そ彼の与黨等を搜し求め被る所也。

現代語建久六年(1195)六月小十四日丁卯。下河辺庄司行平が、平家の家来の桂兵衛尉貞兼を捕えて差し出しました。普段、西京に隠れていたそうです。平家の残党を探していたところなのです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 みだいどころ　ひめぎみらみつみつ　きよみずでらいげ　　れいち　じゅんれいせし　たま　　　うんぬん
建久六年(1195)六月小十八日辛未。御臺所、姫公等密々に�C水寺以下の靈地を巡礼令め給ふと云々。

現代語建久六年(1195)六月小十八日辛未。御台所政子様と姫君（数え年１８歳）が私的に石清水八幡宮を始めとする古刹の霊地を巡礼しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さいしゅ じんぎおおすけ よしたかあそん　　ろくはら　　　さん　　　　しょうぐんけ　ごたいめん　あ　　　　ごだんわ　　およ
建久六年(1195)六月小廿一日甲戌。祭主�@神祗�A大副能隆朝臣、六波羅へ參ず。將軍家御對面有り。御談話に及ぶ。

これ　　さんぬ　ぶんじがんねんじういちがつ さいしゅ　 ぶ　　　　　いらい　　ごきとう　　　　ことら こと　　おお　 つ　　　らる　　のかん　　すこぶ　かいぜん　　うんぬん
是、去る 文治元年十一月 祭主に補して以來、御祈祷の事等殊に仰せ付け被る之間、頗る快然と云々。

みずか　ぎょけん これ　と　　　たま　　　　うんぬん
自ら釼授 之を取り給ふと云々。

参考�@祭主は、伊勢神宮の神職の長。古くは中臣氏。
参考�A神祇は、律令制で設置された祭祀を司る官職。

現代語建久六年(1195)六月小二十一日甲戌。伊勢神宮の神職の長祭主の神祇大副(副官)大中臣能隆様が六波羅へ参りました。将軍頼朝様はお会いになり、話をなされました。この人は、去る文治元年(1185)十一月に祭主に任命されて以来、源氏の安泰を祈るように、特に言いつけてから、とても良かったからだそうです。将軍みずから剣を取られ、お与えになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おんしを　ほうぼう　　めぐ　　さる　　　　みょごにちかんとう　　おもむ　せし　 たま　　べ　　　 のよし　　おお　 らる　　　 よっ　　なり
建久六年(1195)六月小廿三日丙子。御使於方々へ廻ら被る。明後日關東へ赴か令め給ふ可きの由、仰せ被るに依て也。

現代語建久六年(1195)六月小二十三日丙子。使者にあちこちを回させました。明後日、関東へ出発するからと伝えるためです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ ごさんだい　 わかぎみ　〔おりもの　かりぎぬ　〕　おな　　　　さん　　たま
建久六年(1195)六月小廿四日丁丑。將軍家御參内。若公〔織物の狩衣〕同じく參じ給ふ。

かんとう　ごげこう　　いとま　 もう　　せし　　たま　　　　よっ　　なり
關東御下向の暇を申さ令め給ふに依て也。

現代語建久六年(1195)六月小二十四日丁丑。将軍頼朝様は、が京都御所へ上がりました。若君〔模様織の狩衣です〕も同様に参りました。関東へ下るので、その挨拶を述べるためです。

説明狩衣は、〔もと、狩りなどのときに着たところから〕盤領(まるえり)で脇を縫い合わせず、くくり緒のある袖が後ろ身頃にわずかに付いているだけの衣服。地質は、布(ふ)を用いるので布衣(ほい)とも呼んだが、のちに絹綾(きぬあや)のものもできた。平安時代には公家の平常の略服であったが、鎌倉時代以後は公家・武家ともに正服、または礼服として用いた。現在は、神官の服装に見られる。狩襖(かりあお)。かりごろも。Goo電子辞書から

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ときどきあめふる　しょうぐんけ かんとう　　ごげこう なり　　　ぐぶにん　ごじゅらく の　とき　　おな
建久六年(1195)六月小廿五日戊寅。時々雨降。將軍家關東へ御下向也。供奉人御入洛之時に同じ。

ただ　 きないさいかいのかん　 むねとたるのやから　おお　 もっ　 こしょう　　　うんぬん
但し畿内西海之間、宗爲之輩、多く以て扈從すと云々。

また　　 ちうなごんりっしちうかい　　〔　かどわきちうなごんのりもりきょう　　こ　〕　　　　ちうなごんぜんじぞうせい　　〔　しんちうなごんとももりきょう　　そく　〕　ら
又、中納言律師忠快〔門脇中納言教盛卿の子〕、中納言禪師増盛〔新中納言知盛卿の息〕等、

なら　　　 さきのみののかみのりきよ　しそく　　　これ　 あいともな　せし　 たま　　　 うんぬん　　これみな　 へいし　　えんざなり
并びに前美濃守則�Cが子息、之を相伴は令め給ふと云々。是皆、平氏が縁坐也。

現代語建久六年(1195)六月小二十五日戊寅。時々雨が降りました。将軍頼朝様は、関東へお帰りです。お供の行列は京都へ入った時と同じです。ただし、関西や九州の人のうち、主だった人が沢山お供に加わりました。また、中納言律師小川忠快〔門脇中納言平教盛様のお子〕、中納言禅師増盛〔新中納言平知盛の息子〕や、前美濃守平則清の息子など、これを連れられたとのことです。この人たちは、平家一族としての罪です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みののくに　おあばかのうまや　にちゃくごせし　　さがみのかみこれよし だしゅう　けん　　　 そうしゅう　みののくに しゅごなり
建久六年(1195)六月小廿八日辛巳。美濃國��波賀驛�@于着御令む。相摸守惟義 駄餉を献ず。相州は美乃國守護也。

ここ　 いなげのさぶろうしげなり　つま　〔ほうじょうどのそくじょ〕　　むさしのくに　をい　　　 びょうのうはなは　ききゅうのよし　 ひきゃくとうらい
爰に稻毛三郎重成�Aが妻〔北條殿息女〕武藏國に於て、病惱太だ危急之由、飛脚到着す。

よっ　　は　　　くだ　　　　　　ほっ　　　 しょうぐん　しゅんめいっぴき　〔くろ〕　　たま　　　　　　しげなりすなは　これ　が　　　むち　 あ　　　　うんぬん
仍て馳せ下らんと欲す。將軍、駿馬一疋〔黒〕を賜はる。重成則ち之に駕し鞭を揚ぐと云々。

参考�@��波賀驛は、岐阜県大垣市青墓町。
参考�A稻毛三郎重成は、神奈川県川崎市多摩区枡形６丁目に枡形城跡お呼び稲毛山廣福寺あり。

現代語建久六年(1195)六月小二十八日辛巳。美濃国青墓(大垣市)の宿場に到着しました。相模守大内惟義が、昼飯を差し上げました。相州大内惟義は、美濃国の守護だからです。
ここで、稲毛三郎重成の妻〔北條時政殿の娘〕が、武蔵国の自宅で、重病になり、とても危険だと伝令が飛んできました。それですぐに走って帰ろうとしました。将軍頼朝様は一頭の素早い馬〔黒〕を与えました。稲毛三郎重成はすぐにこれに飛び乗り走り出しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 おわりのくに かやづのしゅく　つ　　たま　　　　とうごくしゅごにん　　のざのぎょうぶのじょうなりつな　ぞうじ　しん　　　うんぬん
建久六年(1195)六月小廿九日壬午。尾張國萱津宿�@に着き給ふ。當國守護人の野三刑部丞成綱、雜事を進ずと云々。

参考�@萱津宿は、愛知県海部郡甚目寺町下萱津。

現代語建久六年(1195)六月小二十九日壬午。尾張国萱津の宿場に着かれました。この国の守護人の小野三刑部丞成綱が、万端手配をしましたとさ。

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