吾妻鏡入門第十五巻

建久六年(1195)十二月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  するがのくに ふじぐん　　せいもつわたせんりょう　　きょうと　　すす　 らる　　　　つねきよ　 ときさわら おんし　　な　　　　　うんぬん
建久六年(1195)十二月大二日壬子。駿河國富士郡の濟物　綿千兩、京都へ進め被る。常�C、時澤等御使と爲すと云々。

現代語建久六年(1195)十二月大二日壬子。駿河国富士郡の年貢として真綿千両を京都へ送られました。雑用の常清と時沢が使いをしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 とおとうみのくに じゅうにん かつまたげんばのすけなりなが めしあげらる
建久六年(1195)十二月大五日丙辰。遠江國　 住人　勝間田玄番助成長�@召上被る。

これとうごくの　ふ　ひかりどう　　をい　　　　とうらんにんじょうら　およ　　のゆえなり　　うんぬん
是當國之苻�A光堂に於て、鬪亂刃傷等に及ぶ之故也と云々。

参考�@勝間田玄番助成は、静岡県牧之原市勝間に勝間田郵便局・勝間田小学校あり。元榛原郡榛原町勝間。
参考�A當國之苻は、遠江の国府は確定していないが、静岡県磐田市見付に国分寺跡あり、その南の市役所の町名が国府台である。

現代語建久六年(1195)十二月大五日丙辰。遠江国の地侍の勝間田玄番助が、領地を取り上げられました。これは、この国の国府(又は国分寺)の光堂で、乱闘の上、刃傷沙汰を起こしたからです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　さがみ　　むさし　　りょうごく　　しょさいいとわたら　きょうと　　すす　　らる　　　しんとうじとしながこれ　　あいぐ　　　　うんぬん
建久六年(1195)十二月大七日戊午。相摸、武藏の兩國の所濟糸綿等京都へ進め被る。新藤二俊長之を相具すと云々。

現代語建久六年(1195)十二月大七日戊午。相模・武蔵両国の年貢の糸や真綿を京都へ送りました。新藤次鎌田俊長が持って行きましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 ちばのすけつねたねかんじょう　ささ　　 これ　　ぎょりん　　かくよく　　じん　 むか　　　　まいどの　くんこう　　か
建久六年(1195)十二月大十二日癸亥。千葉介常胤款状を捧ぐ。是、魚鱗、鶴翼の陣に向い、毎度之勲功を抽く。

けいよじゅんちゅう　とき　はげ　　　　　 れんねんおくんろう　　つ　　　　ひそか　そ　　ていしん　 ろん　　　　おそ　　　 とうるい な　　　　に
警夜巡晝の節を勵まし、連年之勤勞を積む。潜に其の貞心を論じ、恐らく等類無きに似る。

ろうめい　　こうえい　　ご　　 がた　　　　せじ　ただじょうしょう　たの
老命、後榮を期し難し。世事只上賞を憑む。

はや　ぞんじつのきわ　 おんたく　 よく　　　 すうやから　 しそん　　はぶ　　　　　 ほっ　　のよし これ　　の
早く存日之際に恩澤に浴し、數輩の子孫に省かんと欲す之由之を載せる。

こと　　ゆいしょ　あ　　　 しょう　　　 みののくにはちやのしょう　のぞ　もう　　　　うんぬん
殊に由緒有ると稱し、美濃國蜂屋庄を望み申すと云々。

こうせきまこと　よ　　　おお　　　りんじゅつしたが　ひと　 すぐ　　なり　　よっ　れんれんおんしょう　くは　られをはんぬ
功績誠に世を被い、燐恤隨いて人に軼る也。仍て連々恩賞を加へ被訖。

かさ　　　 おお　　らる　　べ　　 のじょう　　あへ　　おも　　め　　わすれず
重ねて仰せ被る可し之條、曾て思い食し忘不。

ただ　はちやのしょう　をい　　は　　　こいん　 おんとき　　おお　　　 よっ　　ぢとうしき　　 ちょうじせし　　のかん　　いまさらこれ　　もう　　う　　　あてたま　　　　あたはずか
但し蜂屋庄に於て者、故院の御時、仰せに依て地頭職を停止令む之間、今更之を申し請け宛賜うに不能歟。

びんぎの　ち　　　もっ　　　 かなら　おんはか　 あ　　　べ　　　のむね　　ごへんぽういきょく　 つくさる
便宜之地を以て、必ず御計り有る可し之旨、御返報委曲�@を盡被る。

ときにつねたねはなは　らくるい　　　いんぎん　 みけしき　すで　　あらは　をはんぬ　ぶしょう　　ごちうさくまた や　　　　な
時于常胤 太だ落涙し、慇懃の御氣色已に顯れ訖。　武將の御籌策又止むは無し。

いま　　をい　 は　そ　　　ち　　　たま　 ざる　　いへど　　うらみ　かぎ　　　あらざるのよし　 これ　 もう　　　　うんぬん
今に於て者其の地を賜は不と雖も、恨の限りに非之由、之を申すと云々。

参考�@委曲は、丁寧に。

現代語建久六年(1195)十二月大十二日癸亥。千葉介常胤が、褒賞要望の文書を提出しました。
それは、「戦場で魚の鱗の様にグループが並んだ陣営や、横に展開する鶴の翼の様な陣営に向かって、何時も手柄を立てている様子を描いております。また、夜の警備や昼間の巡回もおろそかにしていない長年の勤めを重ねてきました。内々にその忠節心を云うならば、たぶん比べる相手が無いであろう。老いた身には、後日の栄光まで待てないので、今すぐにでも褒美を欲しいのです。早く生きている間に褒美に預り、大勢の子孫のために残したいのです」と書いています。
「特に我が家と関係のあるのだと云って、美濃国蜂屋庄を欲しい。」と云いました。
「手柄を本当に世に施しており、他を哀れむことも他の人以上である。だから、何度も恩賞を与えてきました。なお、追加して褒めることも忘れてはいません。しかし、蜂屋庄については、故後白河院の御世に、院の命令によって地頭職を廃止しているので、今さら朝廷に申し出て地頭取り分を設置しても収入にならないよ。他の適当な土地を、必ず用意するので。」と、ご返事を丁寧になされました。
それで、千葉介常胤はとても涙を流して、「真心のこもっているお心が現れております。将軍の御配慮は尊いものです。こうなったらその地を戴かなくても、恨みを持つようなことはありません」と申し上げましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 いずのくにがんじょうじゅいん　　をい　　ちんじゅ　　あが　たてまつ　べ　　よし　 そ　　　　さた　あ
建久六年(1195)十二月大十六日丁夘。伊豆國願成就院に於て、鎭守を崇め奉る可し由、其の沙汰有り。

これさんぬ　ころ　　じちう　　まいよ　かいいら　あ　　　　 いはゆる　 ある　　　　つぶて　　もっ　　どうしゃ　　とびら　うちやぶ　　　てんじょう　どうようひとのあゆみ　ごと　　　　うんぬん
是去る比、寺中に毎夜恠異等有り。所謂、或ひは飛礫を以て堂舎の扉を打破り、天井の動搖人之歩の如きと云々。

あやし　　とくにかたず　　ぶっしんすううけい　そ　　いつは　な　　　　　ば　　　　まき　　　しょうげ　　なん　　あやう　　あ　　　　　や
妖み徳于勝不。 佛神崇敬 其の詐り無くん者、魔鬼の障旱、何の危き有らん哉。

現代語建久六年(1195)十二月大十六日丁卯。伊豆国の願成就院内に、寺を守る神社を祀るようにと、命令がありました。それは、先日来、寺の敷地内で毎晩おかしなことがあるからです。それは、ある時は石つぶてが飛んできて、お堂の扉を壊したり、天井が人が歩いているみたいにぎしぎしと揺れたりするのだそうです。怪しさは徳には勝てないはずだ。神や仏への崇拝に偽りがなければ、魔物の妨げなんか、何を恐れることがあろうか。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 しょうぐんけ　とうくろうもりなが　　あまなわ　　いえ　　にゅうぎょ　　　 こんや　　ごししゅく　　うんぬん
建久六年(1195)十二月大廿二日癸酉。將軍家藤九郎盛長の甘繩の家へ入御す。今夜は御止宿と云々。

現代語建久六年(1195)十二月大二十二日癸酉。将軍頼朝様は、藤九郎盛長の尼縄の家へ出かけられました。今夜はお泊りだそうです。

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