吾妻鏡入門第十六巻

正治二年(1200)庚申三月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はなは　あめしゅうじつ　き　 ぬ　　　　ごと　　おおかぜあいまじは　 きょう つるがおか　ほうえ
正治二年(1200)三月大三日戊午。甚だ雨終日。樹を抜くが如き大風相交る。今日鶴岡の法會。

うりん　ぎょさんあ　　　　　　　ほっ　　　 のところ　　ふうう　　　よっ　　 や　　 せし　 たま　　　　えまのしろうぬし　ほうへい　　おんし　　な
羽林御參有らんと欲する之處、風雨に依て止め令め給ふ。江馬四郎主奉幣の御使を爲す。

現代語正治二年(1200)三月大三日戊午。激しい雨が一日中降ってました。おまけに木が抜け飛ばされる程の強い風も交じっていました。今日は、鶴岡八幡宮の仏事(上巳の節句)です。中将頼家様は出席しようと思いましたが、この風雨のため止めました。江間四郎北条義時様が幣を捧げる代参をしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 あさあめふ　　　　 にっちゅうせいてん　 いへど　　　よかん ふゆを　はなは
正治二年(1200)三月大十四日己巳。朝雨降る。日中�ﾘ天すと雖も、餘寒冬於甚だし。

きょう 　　おかざきのしろうよしざねにゅうどう はとのつえ　　か　　　　あまみだいどころ　おんてい　まい
今日、 岡崎四郎義實入道 鳩杖�@を懸け、尼御臺所の御亭へ參る。

はちじゅん　ろうすい　おっ　 やまい と うれい　　けいかい　　　よみょうたんぼ　　あ
八旬の衰老。迫て病 与 愁と計會す。餘命旦暮に在り。

これ　　くは　　　　こと　　をい　　びんぼう　　　しょうがい　 たの　 ところな　　　おんちいくならず
之に加へ、事に於て貧乏し、生涯を憑む所無し。恩地幾不。

よしただかじゃ　　むご　　　とぶら　　　ため　　ぶつじ　　せにゅうのこころざしあ
義忠冠者の夢後を訪はん爲、佛寺に施入之 志　 有り。

のこ　ところわづか　はり　 た　　　　これさら　　しそん　あんど　 　はか　　　 およ　　がた　　 のよし　　な　　　　 うれ　　もう
殘る所僅に針を立つ。是更に子孫安堵�Aの計りに覃び難し之由、泣いて愁ひ申す。

てい　 ぬしこと　 れんみんせし　たま　　　いしばしかっせんのころ　もっぱ　たいこう　 いた　　ものなり
亭の主殊に憐愍令め給ふ。石橋合戰之比、專ら大功を致す者也。

ろうご　　いへど　　　もっと　しょうがんされ　はや　 いっしょ　 あてたま　　　　たま　　べ　　　のよし　　 うりん　　 もうさる　　　　　うんぬん　 ゆきみつおんしたり
老後と雖も、尤も賞翫被、早く一所を宛賜はり給ふ可き之由、羽林に申被ると云々。行光御使爲。

参考�@鳩杖は、頭部の握りに鳩の飾りがつけられた杖で、高齢者にその長寿を賀するために贈呈された。鳩は物をついばむ時にむせないからだそうな。ウィキペディアから
参考�A安堵は、元々「堵の内に安んじる」ことから領地を持つこと。或いは領地を保障する。

現代語正治二年(1200)三月大十四日己巳。朝のうち雨でした。日中になって晴れましたが、寒さが残り冬以上でした。今日、岡崎四郎義実入道が鳩の杖を突きなが、尼御台所政子さまの屋敷へやってきました。「八十を超えて、迫りくる病と嘆きの日々を過ごし、余命もいくばくもありません。そればかりか、すっかり貧乏して、生活の当てもありません。恩賞で戴いた土地もいくらもなく、亡くなった倅の佐那田余一義忠の菩提を弔うために寺に寄付するつもりなので、残るのは針を建てる程度の少なさです。これでは、子孫の未来を託す事もできません」と泣き泣き嘆き申しあげました。政子さまは、とても哀れにお思いになられ、「石橋山合戦の頃には、とても大きな手柄を立てた者なので、老後の今こそ大事にするべきなので、早く領地を一か所与えるように。」と中将頼家様に言い伝えましたとさ。二階堂行光が使いをしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　しょうちょうじゅいん　さきのべっとうえげんぼうあじゃり　　にゅうめつ
正治二年(1200)三月大廿九日甲申。勝長壽院の前別當惠眼房阿闍梨、入滅す。

現代語正治二年(1200)三月大二十九日甲申。勝長寿院の前の代表の恵眼坊阿闍梨が、亡くなられました。

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