吾妻鏡入門第十六巻

正治二年(1200)庚申十一月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　はれ　さがみごんのかみ　なら　　　　ささきのさえもんのじょうさだつなら　　　ひきゃくきょうとよ　　さんちゃく
正治二年(1200)十一月大一日癸丑。�ﾘ。相摸權守�@、并びに佐々木左衛門尉定綱等が飛脚京都自り參着す。

さんぬ　つきにじうににち　とうのべんきんさだあそんぶぎょう　な　　　おうみのくに じゅうにん　かしわばらのいやさぶろう　ついとうすべ　　のよしせんげさる
去る月廿二日、 頭弁�A公定朝臣奉行と爲し、近江國 住人　 柏原弥三郎�Bを追討可き之由宣下被る。

これ　 きんねんこと　をい　 みかど　めい　 そむ　　のゆえなり　　うんぬん
是、近年事に於て帝の命に背く之故也と云々。

参考�@相摸權守は、源仲章。宇多源氏の公卿流。宇多源氏は全部で二十六流有。
参考�A頭弁は、弁官で蔵人頭を兼ねた人。
参考�B柏原弥三郎は、為永。清和源氏で頼光の弟頼平の系統。近江柏原庄は、滋賀県米原市柏原。

現代語正治二年(1200)十一月大一日癸丑。相模権守源仲章と佐々木左衛門尉定綱の伝令が京都から着きました。先月の二十二日に弁官で蔵人筆頭(上皇の取り次ぎ)を兼ねた藤原公定様を指揮担当者として、近江の豪族柏原弥三郎為永を攻め滅ぼすように朝廷から命令が出ました。これは、最近朝廷の納税命令に従わないからだそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　はれ　つるがおか　りんじさい　　　おかぐら　　おこなはらる　　あまみだいどころなら　　 うりん　ごさんぐう
正治二年(1200)十一月大三日乙夘。霽。鶴岡、臨時祭の御神樂を行被る。尼御臺所并びに羽林御參宮。

現代語正治二年(1200)十一月大三日乙卯。晴れました。鶴岡八幡宮の臨時のお祭りでお神楽が奉納されました。尼御台所政子さまと頼家様がお参りをなさいました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 くも　　　　　こさめつね　　ふ　　　　 きょう　　　しぶやのじろうたかしげ　　といのせんじろうこれみつ しせつ　 な　　　じょうらく
正治二年(1200)十一月大四日丙辰。陰り。小雨常に降る。今日、澁谷次郎高重、土肥先次郎惟光使節と爲し上洛す。

これ　かしわばらのいやさぶろう　ついとう　　　ためなり　　おのおの　ま　　 さがみのくに　 しょりょう　いた　　　　か　　　くに　　しょしょよ　　　しんぱつすべ　　　うんぬん
是、 柏原弥三郎 を追討する爲也。　各、先ず相摸國の所領に到り、彼の國の所々自り進發可きと云々。

現代語正治二年(1200)十一月大四日丙辰。曇りです。小雨が降ったり止んだりです。今日、渋谷次郎高重・土肥先次郎惟光が派遣員として京都へ向かいます。これは、柏原弥三郎為永を成敗するためです。それぞれとりあえず相模国の自分の所領へ行って、それぞれの所領から出発するようにとのことでした。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　はれ　　きょうと　　ししゃ　とうちゃく　　　さんぬ　つき にじうろくにち　　じしょ　　じさん
正治二年(1200)十一月大七日己未。�ﾘ。京都の使者到着す。去る月 廿六日の除書を持參す。

ちうじょうけ　　さえもんのかみ　　にん　　　　じゅさんみ　　じょ　　たま
中將家、左衛門督に任じ、從三位に敍し給ふ。

また　　あ　　　もうさる　ところのあだちのげんざちかなが　やましろのじろうゆきむらら　 しょうじょう　にん　　　うんぬん
又、擧げ申被る所之安達源三親長、山城次郎行村等は少尉に任ずと云々。

現代語正治二年(1200)十一月大七日己未。晴れです。京都からの使いが到着しました。先月二十六日の人事辞令を持ってきました。中将頼家様が、左衛門府の長官「左衛門督」に任命され、従三位を与えられました。又、推薦された安達源三親長と山城次郎二階堂行村は、衛門府の三等官「少尉」に任命されましたとさ。

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