正治二年(1200)庚申
鎌倉左衛門督頼家より御祈祷のこと仰らるゝ處に京よ里まいらせらるゝ重而の御返事也 高雄文覺上人 重而の御文くハしく承候ぬ。御返事ハ已前に申て候へとも。かさねて仰候へハ。猶おなしことを申候也。返々も故大將殿仰を承ハるとおほえて。忝あリにこそ候へ。御祈事故大將殿東寺修造の事も申おこなハせ給て候き。又高雄の興隆もひとへに御力にて候しかハ。其功徳にてこそ。後世も助からせをハしまし候らめ。文覺も御力により候て。佛の恩徳をむくひて。衆生を利益する事にて候へハ。御恩のいたり。申はか里なく悦存候て。仰なきさCり安穩にもおはしませと。念願する事にて候。但徳を行善をこのむ人にとりて。祈はかなふ事にて候。不儀に振舞家にハいかなる祈も叶はす候。不儀とハ無道に物のいのちをたち。酒色財にふけりて歡樂してあかし暮すほとに。人のなけきをしらす。國のやすからぬをかへり見さるを申計にて候。徳とも善とも申ハ。佛法をあかめ。王法をおもんし。世をすくひたすけはくゝむ心也。あやしのしつのおしつの女百姓万民にいたるまて。よろつの物に父母のことくにたのまるゝ心はへをもちたるを申候也。かやうの心つかひなくて。放逸不思儀なるか。さすか身をたもたはやとおもふ人。僧侶にあつらへ。諸道におほせて祈精するを。僧侶しかるへき蒙仰たりとていのり申て。たのもしけに申ゐたれとも。その壇那よからされハあへてかんおうなし。還而あしく候也。さ候へハ。僧も陰陽道もしつらひたる心なくて。しきたいせす。ありのまゝに候はむ物に御祈を仰付て。御身のとかをもきかせ給ひて。をしなをしく してそよく候へき。御身おさまらすして。たゝいのれく とはか里にてはあふなき事にて候。殿の御身ハ日本國の大將軍にておはします。されハいのりまいらせん物も。廣大正直のこゝろをもちて。ゆめく 千秋万歳のそらほめしたてまつらぬ無想のこハ物の。しかも慈悲あらん人か御祈の師にハ相應すへく候也。すへて君をいのりたてまつり。御身をもいのらんとおほしめさハ。先國土を祈万民をいのらせ給へく候。祈ハ人の身の分齋による事にて候。威勢世にかうふらしめさるやうに候物こそ。我身をハいのる事にて候へ。近代ハ君も臣もたゝ身をのみいのらせ給へハ。はかく しき事は候はす候。佛神の冥慮にも叶ハす。蒼天の照覽にもたかひ候也。返〃も鎌倉の中將殿の御恩にて。無道のうれへなけきもなく。よこさまのわさハひにもあハぬそと。よろつの人におもリ。たのまれむとおほしめせ。さたにも候はゝ。別而御祈候ハすとも。伊勢太神宮。八幡大菩薩。賀茂春日みなく うれしく とおほしめし。諸佛諸聖諸天善神。必〃まほりまいらせさせ給候へく候也。おほかた佛法いまた候はさりし時。天竺晨旦日本にをのく 賢王聖王おはしまして。世の中めてたく。一切諸人たのしく候き。君も寳祚長遠にて。百姓万民の父となり母とならせ給候き。すなはち三皇五帝とて。尭舜の君も。佛法已前の人にておはしまし候しそかし。さ候へハ無量億劫にもあひかたき三寳にあひたてまつる得分。たゝ後生をいのりて。三界の火宅を出て。生死の心うきめのみくり返しく あひ候事をまぬかれて。佛果菩提にとくく いたらむといふ祈を。君も臣も心にかけさせ給へきにて候とそ覺候。此上に仏法にも外法にも災をはらひ福をまねくへき事あきらかに候。されは三國相傳して其効驗も利益もなきもあらす。しかれは先御身をおさめて政をとゝのへて。其上に御祈候はゝ。ひきの聲に應すると申たとへのことく。額のかなつちにてあるへく候。さても近代のやう大人のつくり給功徳も祈も人めはかりにて。眞實のそこにハ國のついへ人のなけきにて候へは。仏も神も請させ給はさる也。仏神はひとへに徳と信とを納受して。物により財をよろこはせ給はぬ事としろしめすへきにて候也。かやうにことのいリを御心得候て。武家を収て 帝王の御まほりとなり。諸人の依怙とならせ給ハんを。いさゝかもわ籙はらく籙おもひまいらせん物ハ。日本國のみな人のかたきにて候ハんすれハ。その身自然にほろひ候へし。如此くハしくも申ひらかすして。仏神の御心をハかへりみおそれす。たのもしけに申なして。御祈申候ハん事は。田地のついへとなり。庫藏の物のみうせて。御ためにハ一切其益候まし。かへりて御あたにても候也。文覺も罪業を請候へく候。さる御損をハいかゝとらせまいらせ候へき。猶〃 伊勢八幡等大神善神ハ物をまいらするにハ。ふけらせ給候ハぬ事と御存知候へ。たゝ心うるはしく身おさまりたる人をまほらせ給候也。八幡大菩薩の御託宣にハ。われわけるあかゝねのほむらをハのむとも。心のよからさらん物のそなへむ物をハうくへからすと候也。又同託宣に。我日夜に國家をまほらんとするに。人主よからすハ。三寳諸天にくしとやおほしめすらん。あなくやしあなかなしと候めり。されハ高雄神護寺の御託宣にハ。自力のありかたき故に。佛力をあふくと仰られて候也。神も猶三寳をたのみたてまつりて。皇基をまほり。人民をはくゝませ給事にて候へハ。諸寺諸山をハ御威勢をもつてやすらからしめむと思食へく候。大海ハくほきによ里て水のたまり候樣に。心うるはしき人の身に福幸ハあつまり候也。さてもく 八幡の心うるハしき物をまほらんと仰候ハ。心うるはしきと申候ハ。 帝王攝政將軍のたのしみをおもハす。たゝいかにしても人をついやさす。人をくるしめわひしめす。國土をたのしくやすくして。寒暑時をあやまたす。厩渡わさはひなく。兵乱なく。浪風もたゝす世中をしつかになさんといとなみ給を。心のうるはしきとハ申候也。これはいかにもく して。一もおとさすならひそなへんとはけませ給へ。さて君の御敵となる謀叛人にもあらす。無道に人をわひしむる惡人にもあらすして。させる罪なからん物を。かまへてく ほろほさしとおほしめせ。いたくかりすなとりをこのみたのしみて。そゝろに物をころさす。物の命をたすくる人をよき將軍とは申候也。しかるを我身たにおさまらすして。天下の諸人によき人ともおもリさせ給はねハ。山賊海賊強盜竊盜おほくして。つゐには國のほろひ候也。禁制しきりにくたり。御下知しけくはなたるれとも。いよく 仰こそか籙なり候へ。一人をきらせ給候ハゝ。惡黨十人になるへく候。いよいよこそあしく候ハんすれ。これをはわか御身のとかとハつやく おほしめさて。惡黨のとかとのみおほしめして。とらへからめよ。うてリめしこめよ。ろうやに入よ。くひをきれ。あしてをきれと候ハん事心うく候。後生の罪をハいかゝせさせ給へく候。またく人のする科にてはなし。我身のおさまらぬ故にと。ふかくおほしめせハ。武家の政の道ハ。いかさまにも物しりにとひ候しかは。よにやすきとて。たゝ一口にこたへしは。的をいるににたりと申候也。これを御心得候へ。是は本文のめてたき事にて候なるに。さて我身たにおさまりぬれハ。とあれかくあれとの御制もなく。いましめもなく。御下知もなく。御教書候はねとも。あらおそろしとて。自然に國土はおたしく候也。かくめてたき時にあたりても。むかし今のあひたに。惡黨なきにはあらす。身をおさめ世をすくハせ給てのうへに。わろか覽ゑせ物をうしなはせ給候はん事は。菩薩の大行にても候へし。世もしつまり候へし。御教書もをもく候へし。御罪にもなるましく候也。かさねて申上候也。故大將殿は文覺をハひた口のこハ物とおほしめして候し也。殿にハ別に奉公も候はぬにこれほとまて申候事。おそれ存候。御ゆるし候へ。殿ハたのしみたうとくて。人のなけき民のくるしみをしらてやおはしまさんと。あさましく思まいらせ候しあひた。いつくへまれ。なかしまいらせさせ給へ。それそいとおしく思まいらせさせ給。至極後の御業にて候へきと。大將殿にハ内々申て候し也。京中の物の申あひ候なるハいたくか里をこのみ人のなけきをしらせ給ハす。いよく 御あやにく候故に。人みな口をとちて。めてたくおはしますとのみ申はかりをきかせ給ハす。しらせ給ハぬと。さゝやきそしり申けに候。もし左樣におはしまさハ。いかてかおやの御跡をハつきて。 帝王をまほりまいらせ。國土のかためとならせ給候へき。それをおしなをさせおハしまさハ。いかに祈まいらせ候とも。しるしありかたく候。まして文覺なとはかなふましく候。あるまゝの事を心にまかせて申候へハ。一定うとまれまいらせ候へし。それもくやしく思ふましく候。よくてもよくおはしませとてこそ申事にて候へ。物しりたる人の本文を引て申候しを請給リハ。君のため世のためよき事たゝ一ことハ申いたしたるハ。千兩万兩のこかねをまいらせたるにハまさりて候と。明王はさためをかせ給て候なるに。けにも殿の御身にハこかねをはなにゝかせさせ給へき。君に黄金をまいらせさせ給候ハんよりハ。國土をしつめて。米穀をおほく成て。民をゆたかになしてまいらせさせ給候へく候。それ忩ほきなる御忠にて候へき。いかにもく 我御とりをきかせ給候へ。とかをきかすして。國土をおさめんとするは。病をハいとひて藥をにくむかことくと請給候也。とかをきくにハ色代せさらん忠節の人むねと御たい所にてましますへく候あひた。口のきくほうしに御めみせて。やハら密〃に申させてきこしめせ。そしりまいらすれハ。いかにも御はらたち候也。能〃ねむしてきこしめせ。あつきやいとうをねんしてやけハやまひいへ候也。せんする所。色代申物にすきたるとかハなし。我とかをいひしらする物にすきたる忠ハなしと。ふかくおほしめしつめて御心にかなひていとおしくとも。是ハゑせ物としり。にくゝみたからすおほしめすとも。これハよき物とおほしめせ。世をおさむるハか里事。たゝこの事最詮至極にてありけに候也。いつしか重たる御文給ハる事をそれおほえ候く 。忝候へはおそれく 申候也。 正治二年正月十日 文覺 鎌倉殿 御返事 |
参考この手紙は、神護寺に残っていたものらしく、頼家に送ったのかどうかは、不明である。(読みにくいので漢字へ変換は3ポにする)
かまくらさえもんのかみよりいえ より ごきとうの こと おおせらるる ところに きょうより 参らせらるる かさねて ごへんじ たかおもんがくしょうにん
鎌倉左衛門督頼家より御祈祷のこと仰らるゝ處に京よ里まいらせらるゝ重而の御返事 高雄文覺上人
現代語鎌倉の左衛門督より頼まれた祈祷について、仰せを伺っておりましたところへ、京都から又云ってきたので、もう一度返事します 高尾の門覚上人
重ね而の御文くハしく承
候ぬ。 御返事ハ 已 前に
申て 候へとも、かさねて仰せ候へハ。
なお 同じことを もうし そうろう なり かえすがえす こたいしょうどの おおせを うけたまはると 覚えて かたじけなくも あわれにこそ そうらへ
猶おなしことを申 候也。 返々も
故大將殿 仰せを承ハるとおほえて、
忝 あリにこそ候へ。
現代語二度目のお手紙も詳しく承知しました。返事は前に出しておりますけれど、改めて言ってこられたので、尚同じことを申しあげます。何度考えても、故大将頼朝様の御命令に従っているものと考えられて、恐れ多くもしみじみ心に感じてください。
おんいのりのこと こたいしょうどの とうじしゅうぞう ことも もうし 行 わ せ たまいて
そうらい
御祈事
故大將殿 東寺修造の事も
申おこなハせ給て 候き。
また たかおの こうりゅうも 偏に おんちからにて そうらいしかば
その
くどく にて こそ こうせいも たすからせ おわしまし そうろうめ
又、高雄の興隆もひとへに御力にて
候しかハ、其功徳にてこそ、後世も助からせをハしまし候らめ。
もんがくも おんちからにより そうろうて ほとけのおんとくを 報いて しゅじょうを りやくする ことにて
そうらえば ごおんの 至り
文覺も 御力により
候て、佛の恩徳をむくひて、衆生を利益する事にて候へハ、御恩のいたり。
もうす ばかりなく よろこびぞんじそうらいて おおせ無き先より あんのんにも
おわしませと
ねんがんする ことにて そうろう
申はか里なく悦
存 候て、仰なきさCり安穩にもおはしませと、念願する事にて候。
現代語お祈りをすることも、故大将頼朝殿から東寺の修理についても命じられ行わせてきました。又、高雄の神護寺を栄えさせたのも、全て頼朝様のおちからのおかげですので、その仏への功徳で、後生はきっと助かって極楽浄土におられることでしょう。門覚も頼朝様のお力によって、仏様の恩や徳のお返しに、一般民衆を救ってあげれば、ご恩への???申すばかりでなくさぞかしお喜びになっておられることでしょう。貴方に云われるまでもなく、世間が無事であるように念願する事なのです。
ただし
とくを おこなひぜん 好む ひと 取りて いのりは 叶う ことにて そうろ う ふぎ
に ふるまういえには 如何なる いのりもかなはず そうろう
但し、徳を行ひ善をこのむ人にとりて、祈はかなふ事にて候。不儀に振舞家にハいかなる祈も叶はす候。
ふぎ とは むどうに ものの 命を 絶ち しゅしょくざいに 耽りて かんらくして 飽かし
くらす 程に
ひとの 嘆きを
知らず
不儀とハ無道に物のいのちをたち、酒色財にふけりて歡樂してあかし暮すほとに、人のなけきをしらす、
くにの 安らかぬを 顧ざるを もうしはかるにてそうろう
國のやすからぬをかへり見さるを申
計 にて候。
現代語但し、良い徳を積み善い行いを好む人にとって、祈りの願はかなうものなのです。人として守るべき道に外れた行い不義をする者には、どんなお祈りも効き目はありません。不義と云うのは、人として守るべき道に外れて、むやみに動物を殺したり、酒や女におぼれて快楽の中に人生を明け暮れて居るので、人の情けを知りませんから、国の政治を安定させることをかえりみない発言や行いです。
とくとも
ぜんとも もうすは ぶっぽうを 崇め おうほうを 重んじ よを 救い 助け 育む こころなり
徳とも善とも申ハ、佛法をあかめ、王法をおもんし、世をすくひたすけはくゝむ心也。
怪しの 賤のを 賤の め ひゃくせいばんみんに 至るまで 萬の
ものに ふぼの 如くに 頼まるる こころ映えを 持ちたるをもうしそうろうなり
あやしのしつのおしつの女 百姓 万民にいたるまて、よろつの物に父母のことくにたのまるゝ心はへをもちたるを申候也。
可様の こころ使い 無くて ほういつ ふしぎ なるか
かやうの心つかひなくて、放逸不思儀なるか。
さすが みを 保たばやと 思うひと そうりょに 誂え しょどう 仰せて きしょうするを そうりょ しかるべき こうむりおおせたりとて
さすか身をたもたはやとおもふ人、僧侶にあつらへ、諸道におほせて祈精するを、僧侶しかるへき蒙仰たりとて
祈り もうして 頼もしげに もうしいたれども その だんな 良からざれば あえて 観応 無し かえって 悪しくそうろうなり
いのり申て、たのもしけに申ゐたれとも、その壇那よからされハあへてかんおうなし。還而あしく候也。
さそうらへば そうも おんみょうどうも 設いたる こころ無くて しきたいせず ありのままに そうらわむものにおいのりを おおせつけて
さ候へハ、僧も陰陽道もしつらひたる心なくて、しきたいせす、ありのまゝに候はむ物に御祈を仰付て、
おんみの 咎をも 聞かせ たまいて 押し直しくして 押し直しくしてず よくそうらへき
御身のとかをもきかせ給ひて、をしなをしく 〃 してそよく候へき。
おんみ 修まらずして 只 祈れ 祈れと ばかり にては 危なき ことにて そうろう とのの おんみは にっぽんこくのだいしょうぐんにて お座します
御身おさまらすして、たゝいのれ〃とはか里にてはあふなき事にて候。 殿の御身ハ 日本國の大將軍にておはします。
されば 祈りまいらせんものも こうだいしょうじきの 心を 持ちて 夢 夢 せんしゅうばんざいの 空褒めし 奉らぬ
されハいのりまいらせん物も、廣大正直のこゝろをもちて、ゆめ〃 千秋万歳 のそらほめしたてまつらぬ
むそうの 強ものの しかも じひ 有らん ひとが おいのりの し には そうおう すべくそうろうなり 全て
きみを 祈り 奉り
無想のこハ物の、しかも慈悲あらん人か御祈の師にハ相應すへく候也。
すへて君をいのりたてまつり、
おんみをも 祈らんと 思し召さば ますこくど いのり ばんみんを 祈らせ たまふべくそうろう
御身をもいのらんとおほしめさハ、先國土を祈
万民をいのらせ給へく候。
いのりはひとの みの ぶんざいによる ことにてそうろう いせいよに 蒙らしめざるように そうろうものこそ
祈ハ人の身の分齋による事にて候。威勢世にかうふらしめさるやうに候物こそ、
わがみをば 祈る ことにて そうらえ きんだいは きみも おみも ただ みを のみ 祈らせ たまえば はかばかしき ことは そうらわずそうろう
我身をハいのる事にて候へ。近代ハ
君も 臣も
たゝ身をのみいのらせ給へハ、はか〃しき事は候はす候。
ほとけさまのめいりょにも かなわず そうてんのしょうらんにも 違い そうろうなり かえす がえすも かまくらの ちうじょうどのの ごおんにて
佛神の冥慮にも叶ハす。蒼天の照覽にもたかひ候也。返 〃 も
鎌倉の中將殿の御恩にて、
むどうの 憂い 嘆きも 無く 横様の 災いにも 会わぬぞと 萬の ひとに 思われ 頼まれむと 思しめせ
無道のうれへなけきもなく、よこさまのわさハひにもあハぬそと、よろつの人におもリ、たのまれむとおほしめせ。
沙汰にもそうらわば べっしておいのりそうらわずとも
いせのだいじんぐう
はちまんだいぼさつ かも かすが
皆 皆 嬉し 嬉し と 思し召し
さたにも候はゝ、別而御祈候ハすとも、伊勢太神宮、八幡大菩薩、賀茂春日みな〃うれし〃とおほしめし、
しょぶつ
しょせい しょてん ぜんしん かならず
かならず まぼりまいらせさせ たまいそうろうべくそうろうなり 大方 ぶっぽう 今だ そうらわざりし とき
諸佛
諸聖 諸天 善神。 必 〃
まほりまいらせさせ給候へく候也。おほかた佛法いまた候はさりし時、
てんじくしんたんにっぽんに おの
おの けんおうせいおう お座しまして よのなか 目出度く いっさいしょにん 楽しく そうらいき
天竺晨旦日本にを
の
〃 賢王聖王おはしまして、世の中めてたく、一切諸人たのしく候き。
きみも ほうそ 長生にて ひゃくせいばんみんのちちとなり ははとならせたまいそうらいき
君も寳祚長遠にて、百姓万民の父となり母とならせ給候き。
即ち さんこうごていとて ぎょうしゅんのきみも ぼっぽういぜんの ひとにて お座しまして そうらいしぞかし
すなはち三皇五帝とて、尭舜の君も、佛法已前の人にておはしまし候しそかし、
さそうらいえば むりょうおくごうにも 会い 難き
さんぽうに 会い 奉る とくぶん ただ ごしょうを 祈りて さんかいの かたくを いで
さ候へハ無量億劫にもあひかたき三寳にあひたてまつる得分、たゝ後生をいのりて、三界の火宅を出て、
せいしのこころ 憂き目
のみ 繰りかえし 繰りかえしあい そうろうことを 免れて ぶっかぼだいに とくとく 至らむと 言う いのりを
生死の心うきめのみくり返し
〃 あひ候事をまぬかれて、佛果菩提にとく〃いたらむといふ祈を、
きみも おみもこころに 掛けさせ たまうべきにて そうろうろとぞ おぼえそうろう このうえにぶっぽうにも げほうにもわざわいを 祓い ふくを 招くべき こと 明らかにそうろう
君も臣も心にかけさせ給へきにて候とそ 覺候、 此上に仏法にも外法にも災をはらひ福をまねくへき事あきらかに候。
されば さんごくそうでんして そのこうけんも りやくも 無きも あらず
されは三國相傳して其効驗も利益もなきもあらす。
然れば まずおんみを 治めて まつりごとを 整えて そのうえに おいのりそうらわば 響きの こえに おうずると もうす 喩えの 如く
しかれは先御身をおさめて政をとゝのへて、其上に御祈候はゝ、ひゝきの聲に應すると申たとへのことく、
ひたいの 金槌にて あるべくそうろう さても きんだいの様 おとなの つくり たまう くどくも いのりも 人目ばかりにて
額のかなつちにてあるへく候。さても近代のやう大人のつくり給功徳も祈も人めはかりにて、
しんじつの 底には くにの 費え ひとの 嘆きにて そうらえば ほとけもかみも うけさせ たまわざる なり
眞實のそこにハ國のついへ人のなけきにて候へは、仏も神も請させ給はさる也。
ぶっしんは 偏に
とくと しんとを しゅうじゅして ものにより ざいを 喜ばせ たまわぬことと 知ろしめすべきにて そうろうなり
仏神はひとへに徳と信とを納受して、物により財をよろこはせ給はぬ事としろしめすへきにて候也。
か様に 事の いわれを おんこころえてそうらいて ぶけを おさめていぇいおうの おん守りとなり しょにんの いこと ならせ たまわんを 聊かも
かやうにことのいリを御
心
得 候て、武家を収て帝王の御まほりとなり、諸人の依怙とならせ給ハんを、いさゝかも
悪く 腹黒く 思い 参らせん ものは にっぽんこくの 皆 ひとの 敵にて そうらわずれば そのみ じねんに 滅び そうらえし
わろくはらくろくおもひまいらせん物ハ、日本國のみな人のかたきにて候ハんすれハ、その身自然にほろひ候へし。
かくの
ごとく くわしく もうしひらかずして ぶっしんのみこころをば 省み 恐れず 頼もし気に もうしなし おいのりもうしそうらわんことは
此の如くハしくも申ひらかすして、仏神の御心をハかへりみおそれす。たのもしけに申なして、御祈申候ハん事は、
でんちの 費えとなり こぞうのもののみ 失せて おん為には いっさいそのえきそうらまじ かえって おん仇にても そうろうなり
田地のついへとなり、庫藏の物のみうせて、御ためにハ一切其益候まし、かへりて御あたにても候也。
もんがくも ざいごうを うけそうらうべくそうろう さるごそんをば いかが 取らせ 参らせ そうろうべき
文覺も罪業を請候へく候。さる御損をハいかゝとらせまいらせ候へき。
なおなお いせ はちまんら おおがみぜんじんはものを 参らするには ふけらせたまいそうらわぬことと ごぞんじそうらへ
猶〃 伊勢
八幡等 大神
善神ハ物をまいらするにハ、ふけらせ給候ハぬ事と御存知候へ。
ただ こころ 麗しく み 治まりたる ひとを 守らせ たまいそうろうなり
たゝ心うるはしく身おさまりたる人をまほらせ給候也。
はちまんだいぼさつの ごたくせん には 我 沸ける 銅 の 炎 をば 飲むとも
八幡大菩薩の御託宣にハ、われわけるあかゝねのほむらをハのむとも、
こころの 良からざらん ものの 供えむ ものおば 憂くべからずと そうろうなり
心のよからさらん物のそなへむ物をハうくへからすと候也。
またおな たくせんに われにちやに こっかを 守らんと するに ひとぬし 良からずば さんぽうしょてん 憎しとや 思しめすらん
又同じき託宣に、我日夜に國家をまほらんとするに、人主よからすハ、三寳諸天にくしとやおほしめすらん。
あな 悔し あな 悲し そうろうめり
あなくやしあなかなしと候めり。
されば たかおのじんごじ の ごたくせんには じりきの 有り難き ゆえに ぶつりきを 仰ぐと おおせられて そうろうなり
されハ高雄神護寺の御託宣にハ、自力のありかたき故に、佛力をあふくと仰られて候也。
かみも
なおさんぽうを 頼み 奉りて こうきを 守り じんみんを 育ませ たまうことにて そうらえば
神も猶三寳をたのみたてまつりて、皇基をまほり、人民をはくゝませ給事にて候へハ、
しょじ しょざんをば ごいせいを もって 安らからしめむと おぼしめすべくそうろう たいかいは 窪きに よりて みずの 溜り そうろうように
諸寺諸山をハ御威勢をもつてやすらからしめむと思食へく候。 大海ハくほきによ里て水のたまり候樣に、
こころ 麗しき ひとの みに ふくこうは 集り そうろうなり
心うるはしき人の身に福幸ハあつまり候也。
さても さても はちまんのこころ 麗しき
ものを 守らんと おおせそうろうは こころ 麗しきと もうしそうろうは
さても〃 八幡の心うるハしき物をまほらんと仰候ハ。 心うるはしきと申候ハ。
ていおう
せっしょう しょうぐんの 楽しみを 思わず
帝王
攝政 將軍のたのしみをおもハす、
只 如何にしても ひとを 費やさず ひとを 苦しめ 侘しめず こくどを 楽しく 安くして かんしょのときを 誤たず
たゝいかにしても人をついやさす。人をくるしめわひしめす。國土をたのしくやすくして、寒暑時をあやまたす。
うまや わたり 災い 無く へいらん無く ろうふうも たたず よのなかを 静に なさんと 営み たまうを こころの 麗しきとは もうしそうろうなり
厩 渡わさはひなく。兵乱なく。浪風もたゝす世中をしつかになさんといとなみ給を、心のうるはしきとハ申候也。
これは 如何にも 如何にも して ひとつも 落とさず 並び 供えんと 励ませ たまえ さてきみの おんてきとなる むほんにんにも あらず
これはいかにも
〃
して。一もおとさすならひそなへんとはけませ給へ。さて君の御敵となる謀叛人にもあらす。
むどうに ひとを 詫びしむる あくにんにも あらずして 指せる つみ 無かんらん ものを 構えて 構えて 滅ぼさじと 思し召せ
無道に人をわひしむる惡人にもあらすして、させる罪なからん物を、かまへて
〃 ほろほさしとおほしめせ。
いたく 狩 漁りを 好み 楽しみて そぞろに ものを 殺さず もののいのちを 助くる ひとを 良き しょうぐんとは もうしそうろうなり
いたくかりすなとりをこのみたのしみて、そゝろに物をころさす、物の命をたすくる人をよき將軍とは申候也。
しかるを わがみだに 治まらずして てんかの しょにんに 良き ひととも 思われさせ たまわねば さんぞく かいぞく ごうとう せっとう 多くして
しかるを我身たにおさまらすして、天下の諸人によき人ともおもリさせ給はねハ。山賊
海賊 強盜 竊盜おほくして、
ついには くにの 滅び そうろうなり きんせい しきりに 下り ごげち 繁く 放たるれども いよいよ おおせこそ 軽くなり そうらえ
つゐには國のほろひ候也。禁制しきりにくたり、御下知しけくはなたるれとも、いよ〃 仰こそかろくなり候へ。
ひとりを 切らせ たまいそうらわば あくとうじうにんに なるべく そうろう いよいよこそ 悪しく そうらわんずれ
一人をきらせ給候ハゝ。惡黨十人になるへく候。いよいよこそあしく候ハんすれ。
これをば 我が おんみの 咎とは つやつや 思し召されて あくとうの 咎とのみ 思し 召して 捕え 絡めよ
これをはわか御身のとかとハつや〃おほしめさて、惡黨のとかとのみおほしめして、とらへからめよ。
討て 張れ 召し込めよ 牢屋に いれよ 首を 切れ 足 手を 切れと そうらわんこと こころ 憂く そうろう
うてリめしこめよ。ろうやに入よ。くひをきれ。あしてをきれと候ハん事
心うく候。
ごしょうの つみをば 如何 せさせ たまうべくそうろう 全く ひとのする とがにては 無し
後生の罪をハいかゝせさせ給へく候。またく人のする科にてはなし。
わがみの 治まらぬ ゆえにと 深く 思し 召せば
我身のおさまらぬ故にと、ふかくおほしめせハ。
ぶけのまつりごとのみちは いかさまにも 物知りに 問いそうらいしかば 世に 安き とて 只 ひとくちに 答えしは
武家の政の道ハ、いかさまにも物しりにとひ候しかは、よにやすきとて、たゝ一口にこたへしは、
まとを 射るに 似たりと もうしそうろうなり これを おんこころえそうらへ
的をいるににたりと申候也。これを御心得候へ。
これは ほんぶんの 目出度き ことにて そうろうなるに さて わがみだに 治まるぬれば 兎あれ 角あれとの せいぎょも 無く
是は本文のめてたき事にて候なるに、さて我身たにおさまりぬれハ、とあれかくあれとの御制もなく、
戒めも 無く ごげちも 無く みぎょうそそうらわねとも あら 恐ろしとて じねんに こくどは 隠しく そうろうなり
いましめもなく、御下知もなく。御教書候はねとも、あらおそろしとて、自然に國土はおたしく候也。
かく 目出度き ときに 当たりても 昔 いまの 間に あくとう 無きには あらず
かくめてたき時にあたりても、むかし今のあひたに、惡黨なきにはあらす。
みを 治め よを 救わせ たまいての 上に 悪からん 偽物を 失わせ たまいそうらわんことは ぼさつの たいぎょうにても そうらいし
身をおさめ世をすくハせ給てのうへに、わろか覽ゑせ物をうしなはせ給候はん事は。菩薩の大行にても候へし。
よも 静まり そうらえし みぎょうしょも 重く そうろうべし
おんつみにも なるまじく そうろうなり 重ねて もうしあげそうろうなり
世もしつまり候へし。御教書もをもく候へし。御罪にもなるましく候也。かさねて申上候也。
こたいしょうどのはもんがくをば ひたぐちの こわものと おぼしめして そうらいしなり
故大將殿は文覺をハひた口のこハ物とおほしめして候し也。
とのには べつに ほうこうも そうらわぬに これ程まで もうしそうろうこと 恐れぞんじそうろう
殿にハ別に奉公も候はぬにこれほとまて申候事、おそれ存候。
お許し そうらえ とのは 楽しみ 尊くて ひとの 嘆き たみの 苦しみを 知らでや お座しまさんと
御ゆるし候へ。殿ハたのしみたうとくて、人のなけき民のくるしみをしらてやおはしまさんと、
浅ましく おもい 参らせ そうらいし 間 何くへまれ 流し 参らせ させたまへ
あさましく思まいらせ候しあひた、いつくへまれ、なかしまいらせさせ給へ。
それぞ いとおしく おもい 参らせ させたまう
それそいとおしく思まいらせさせ給。
しごく のちの ごぎょうにて そうろうべきと たいしょうどのには ないないもうしてそうらいしなり
至極後の御業にて候へきと、大將殿にハ内々申て候し也。
けいちうの ものの もうしあいそうろうなるは いたく 狩を 好み ひとの 嘆きを 知らせ たまはず
京中の物の申あひ候なるハいたくか里をこのみ人のなけきをしらせ給ハす。
いよいよ おん生憎 そうろうゆえに ひと 皆 くちを 閉じて 目出度く お座しますとのみ もうすばかりを 聞かせ たまわず
いよ〃御あやにく候故に、人みな口をとちて、めてたくおはしますとのみ申はかりをきかせ給ハす。
知らせ たまわぬと 囁き 謗り もうしげにそうろう
しらせ給ハぬと、さゝやきそしり申けに候。
もし さように お座しまさば いかでか 親の おんあとをば 継ぎて ていおうを 守り 参らせ こくどの 固めと ならせたまいそうらうべき
もし左樣におはしまさハ、いかてかおやの御跡をハつきて、帝王をまほりまいらせ、國土のかためとならせ給候へき。
それを 押し 直させ お座しまさば 如何に いのり 参らせ そうろうとも 験 有り 難く そうろう まして もんがくなどは 叶う まじく そうろう
それをおしなをさせおハしまさハ、いかに祈まいらせ候とも、しるしありかたく候。まして文覺なとはかなふましく候。
あるままの ことを こころに 任せて もうしそうらへば いちじょう 疎まれ 参らせ そうろうべし それも
悔しく
おもうまじく そうろう
あるまゝの事を心にまかせて申候へハ、一定うとまれまいらせ候へし。それもくやしく思ふましく候。
良くても よく お座しませとてこそ もうすことにて そうらへ もの 知りたる ひとの ほんぶんを ひいて もうしそうらいしをうけたまわれば
よくてもよくおはしませとてこそ申事にて候へ。物しりたる人の本文を引て申候しを請給リハ、
きみのため よのため 良き こと 只 ひとことは もうし 致したるは せんりょうまんりょうの 黄金を 参らせたるには 勝りて そうろうと
君のため世のためよき事たゝ一ことハ申いたしたるハ、千兩万兩のこかねをまいらせたるにハまさりて候と、
みょうおうは 定め
置かせ たまいてそうろうなるに げにも とのの おんみには 黄金をば 何にか せさせ たまいき
明王はさためをかせ給て候なるに、けにも殿の御身にハこかねをはなにゝかせさせ給へき。
きみは こがねを 参らせさせ たまいそうらわんよりは こくどを 静めて べいこくを 多く なして
君に黄金をまいらせさせ給候ハんよりハ、國土をしつめて、米穀をおほく成て、
たみを 豊かに なして 参らせさせ たまいそうらえ そうろう
民をゆたかになしてまいらせさせ給候へく候。
それぞ 大きなる ごちうにてそうらいき いかにも いかにも わがおん咎を 聞かせ たまいそうらへ
それそおほきなる御忠にて候へき。いかにも 〃 我御とかをきかせ給候へ。
咎を 聞かずして
こくどを 治めんと するは やまいをば 厭いて くすりを 憎むが 如く と うけたまいそうろうなり
とかをきかすして、國土をおさめんとするは、病をハいとひて藥をにくむかことくと請給候也。
咎を
聞くには しきだい せさらん
ちうせつのひと 宗人
御台所にて
ましますべく そうろう 間 くちのきく 法師に 御見眼せて、
とかをきくにハ色代@せさらん忠節の人むねと御たい所にてましますへく候あひた、口のきくほうしに御めみせて、
やはら みつみつに もうさせて 聞こし 召せ 謗り 参らすれば いかにも おん 腹立ち そうろうなり よくよく 念じて 聞こし召せ
やハら密〃に申させてきこしめせ。そしりまいらすれハ、いかにも御はらたち候也。能〃ねむしてきこしめせ。
あつき やいとう を 念じて 焼けば 病 いえそうろうなり
あつきやいとうAをねんしてやけハやまひいへ候也。
選ずる ところ しきだいもうすものに 過ぎたる 咎は 無し わが 咎を 云い 知らする ものに 過ぎたる ちうは 無しと
せんする所、色代申物にすきたるとかハなし。我とかをいひしらする物にすきたる忠ハなしと。
深く 思し召しつめて おんこころに 叶いて いとおしくとも これは 偽者と 知り 憎くみ 見たからず 思し召すとも
ふかくおほしめしつめて御心にかなひていとおしくとも、是ハゑせ物としり、にくゝみたからすおほしめすとも、
これは 良き ものと 思し召せ よを 治むる はかりごと 只 このこと さいせんしごくにて ありげに そうろうなり
これハよき物とおほしめせ。世をおさむるハか里事、たゝこの事最詮至極にてありけに候也。
いつしか かさねたる おんふみたまはる こと 恐れ 覚え そうろう 恐れ覚えそうろう かたじけなくそうらえば おそれ おそれ もうしそうろうなり
いつしか重たる
御文給ハる事 をそれおほえ候 〃 。 忝 候へは
おそれ〃 申候也。
正治二年正月十日 文覺
かまくらどの ごへんじ
鎌倉殿 御返事
参考@色代は、追従。
参考Aやいとうは、お灸。