吾妻鏡入門第十七巻

建仁元年辛酉(1201)四月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 えちごのくに　ちえき　　  さん　　もう　　　　　い
建仁元年(1201)四月大二日辛巳。�ﾘ。越後國の馳驛�@、參じ申して云はく、

じょうのこたろうすけもり　〔じょうのたろうすけなが　むすこ　　ながもち　　おい〕　とうごく　　をい　　　　ほっこくのやから　まね　　　　むほん　　くわだ　　　　　ぎ
城小太郎資盛〔城太郎助永が男で長用が甥〕當國に於て、北國之輩を招き、叛逆を企てんと擬す。

　さど　　　 えちご りょうごく　ぐんぴょうこれ　おそ　　　いへど　　 すけもり　　もうい　　 ふる　　 のかん　　あえ　 じん　 やぶ　　　　あたはず　　うんぬん
佐渡、越後兩國の軍兵之を襲うと雖も、資盛が猛威を振う之間、敢て陣を破るに不能と云々。

参考�@馳驛は、馬駅・飛脚。早馬。

現代語建仁元年(1201)四月大二日辛巳。晴れです。越後国(新潟県)の早馬の飛脚がやってきて、報告するのには「城小太郎資盛〔城太郎資永の息子で長用の甥〕が、越後の国で北国の連中を呼び集め、謀反をたくらんでいます。佐渡と越後の兵隊を集めて攻めていますが、資盛の勢いが強いので、やっつけることができません」とさ。

　　　　　　　　　　　┌─資盛
参考　　　　┌─資永─┼─資家　　　　　助永(すけなが)＝資永(すけなが)
　城　資国─┼─永用　└─資正　　　　　長用(ながもち)＝永用(ながもち)
　　　　　　└─板額(はんがくごぜんは、飯角御前＝イイズミゴゼン中条町資料)　

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 えんしゅう　ひろもとあそん　　よしのぶら さんかい　　　えっしゅう　ひきゃく　すけもり むほん　 こと　　つ
建仁元年(1201)四月大三日壬午。�ﾘ。遠州、廣元朝臣、善信等參會し、越州の飛脚の資盛謀叛の事に就き、

ざいこく　さむらい　おお　　　　　ついとうさる　 べ　　　　 いな　　　　とうさんのやから　つか　　さる　　べ　　　　いな　　おのおの　ひょうじょう　こらさる
在國の士に仰せて、追討被る可きか否か、當參之輩を遣は被る可きか否か、各、評定を擬被る。

しか　　　 ながもち これ　ちう　　らる　　　 いへど　　　そ　　 ばんるいいま　 ちら　　　　のときなり
而して長用之を誅せ被ると雖も、其の伴類未だ散ざる之時也。

もっと　ようい　　めぐ　　さる　　べ　　　のところ　　なん　　ひとり　 いへど　 とうさん　さむらい　うしな　べけんや
尤も用意を廻ら被る可き之處、何ぞ一人と雖も當參の士を失う可哉。

はや　 ざいこくのさむらい　おお　らる　べ　　　　　ただ　　おりふしとうごく　　しか　　べ　やからな
早く在國之士に仰せ被る可し。但し折節當國に然る可き輩無し。

ささきのさぶろうひょうえのじょうもりつなほっし　〔ほうみょう　さいねん〕　 こうづけのくにいそべの ごう　　あ
佐々木三郎兵衛尉盛綱法師〔法名は西念。〕上野國礒部之郷�@に有り。

か　　　もの　　おお　 らる　　べ　　　　 よっ　　えちごのくにごけにんら　　　もよお　　　 すけもり　 ちう　　べ　　　のむね　　みぎょうしょを もりつなにゅうどう　つか
彼の者に仰せ被る可し�A。仍て越後國御家人等を催し、資盛を誅す可し之旨、御教書於盛綱入道に遣はす。

くだん　みぎょうしょよしもりこれ　　たま　　　　　 ひきゃく　 つ　　じょうしゅう　くだ　　つか　　　　　　うんぬん
件の御教書義盛之を給はり、飛脚に付け上州に下し遣はすと云々。

参考�@上野國礒部之郷は、磯部温泉。
参考�A彼の者に仰せらるるべしは、総大将を命じよう。

現代語建仁元年(1201)四月大三日壬午。晴れです。遠江守北條時政殿と大江広元・三善善信が集まって、越後の伝令が云ってた城四郎資盛の反逆について、上越方面の国元在住の武士に命令して、攻撃させるかどうか、現在鎌倉へ出仕している連中を行かせるべきかどうか、協議をしていました。しかし、城四郎長茂は処刑したけど、その仲間はバラバラになっていないので、よくよく考えなくてはならない時なので、たとえ一人として鎌倉へ出仕している武士を失うべきではないだろう。早く、国元に在住の武士に命じることにしよう。但し、たまたま越後の国に指揮を出来るそれ相応の人がおりません。佐々木三郎兵衛尉盛綱法師〔出家した法名は西念〕は、上野国磯部の郷におります。彼に命じるのが良いだろう。そこで、越後国の御家人を呼び集め(軍勢催促)、資盛を処刑するように、公式命令書の御教書を盛綱入道に発行しました。その御教書は、侍所長官の和田左衛門尉義盛が受け取り、伝令に持たして上野国の盛綱へ行かせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　よ　　　い　　　　　よしもり　　ひきゃくこうづけのくによ　きさん　　もう　　　　い
建仁元年(1201)四月大六日乙酉。�ﾘ。夜に入り、義盛が飛脚上野國自り歸參し申して云はく。

みぎょうしょを　さいねんの　たく　　も　　　むか
御教書於西念之宅に持ち向う。

おりふしさいねんもんがい　あ　　　　た　　 なが　 これ　 はいけん　　　 もんない　 い 　　あたはず　　もん　かたわらにた　ところの　あんめ　　と
折節西念門外に有り。立ち乍ら之を拜見し、門内に入り不能、門の傍于立つ所之鞍馬を取り、

これ　　の　　　　すなは　むち　あ　　 えっしゅう　は　　 むか　　　 うんぬん
之に乗り、即ち鞭を揚げ越州に馳せ向うと云々。

ろうじゅうら おっ　　ろじ　に　いた　　　　そこつの　よし　 うれ
郎從等追て路次于至り、楚忽之由を愁う。

さいねん　い　　　　　われき　てんぎょうねんちゅう たいらのまさかど とうごく　　をい　ほんぎゃく　くはだて　のとき　　うじのみんぶのきょう　〔ただぶみ〕　　もつ　　　ついとうし　　　な
西念云はく、吾聞く 天慶年中�@平將門　東國に於て 叛逆を企る之時、宇治民部卿〔忠文〕を以て追討使と爲す。

しか　　　　ぜん　 すす　　　　のかん　　かく　　せんげ あ 　　べ　　　のむね　　き　　　　　 こぶ　　はし　 なげう　　　ざ　　　 た　　　　すなは　さんだい
而るに膳に羞むる之間、此の宣下有る可し之旨を聞き、戸部�A箸を抛ちて座を起ち、則ち參内す。

せっとう　　たま　　　　ののち　　きたく　　あたはず　　ただち　らくがい　おもむ　　うんぬん
節刀を給はる之後、歸宅に不能、直に洛外へ赴くと云々。

ゆうしの ここざ　ところこれ　 もつ　　ぜん　 な　　 なり　　うんぬん
勇士之志す所之を以て善と爲す也と云々。

参考�@天慶年中は、938−947年。天慶の乱は939年。参考�A戸部は、民部卿の唐名。

現代語建仁元年(1201)四月大六日乙酉。晴れです。夜になって、和田義盛の伝令が上野国から帰ってきて報告しました。「命令書を盛綱西念の屋敷へ持って行きました。ちょうど盛綱は屋敷の門の外に出ており、立ったまま命令書を読んで、門の中へ入らず、門の脇につないでいた鞍置き馬の手綱を取り、これに乗りました。すぐに一鞭当てて越後へ走っていきました。」だとさ。
家来達が後を追って走って追いついて、「いくらなんでも軽率すぎるでしょ。」と文句をいいました。
盛綱が答えて「俺が聞いた話では、天慶の年に平将門が関東で叛逆を起こした時に、宇治民部卿藤原忠文を討伐責任者に任命した。彼は飯を食っている最中に、その命令があると聞いたので、民部卿はすぐに箸を放り出して、朝廷へ出仕し、攻撃責任者として朝廷から刀を拝領して、家へ戻らずそのまま京都を出たそうだと聞いてる。」との事です。勇敢なる武士が志すのは、こういう所作が良い事なのだそうだ。

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