吾妻鏡入門第十七巻

建仁元年辛酉(1201)八月大

建仁元年(1201)八月大十一日戊子。甚雨午尅大風。郷里穿屋。江浦覆船。鶴岳宮寺廻廊八足門已下。所々佛閣塔廟顛倒。凡万家一宇無全所云々。下総國葛西郡海邊潮牽人屋。千餘人漂没云々。

読下し                     はなは あめ  うま  こくおおかぜ  ごうり   おく  うが    えのうら  ふね くつがへ
建仁元年(1201)八月大十一日戊子。甚だ雨。午の尅大風。郷里の屋を穿ち、江浦に船を覆す。

つるがおかぐうじ かいろう  はっそくもん いか  しょしょ  ぶっかく  とう  びょう てんとう    およ  まんけ  いちう  まった ところな   うんぬん
鶴岳宮寺の廻廊、八足門以下、所々の佛閣、塔、廟 顛倒す。凡そ萬家に一宇も全き所無しと云々。

しもふさのくに かさいぐんかいへん うしお じんおく  ひ    せんよにんひょうぼつ   うんぬん
 下総國 葛西郡海邊の潮、人屋を牽く。千餘人@漂没すと云々。

参考@千餘人は、大勢の意味で千人以上も住んでいるとは思えない。

現代語建仁元年(1201)八月大十一日戊子。大雨です。午の刻(昼頃)に大風も吹いて(台風)、陸上の里では家屋を倒し、港では船がひっくり返されました。鶴岡八幡宮寺の回廊や八足門を始めとするあちこちの仏殿や塔や廟も倒れました。なんと一万軒に一軒も災難に合わない所はありません。下総国の葛西郡の海辺では潮が押し寄せ、家屋を引き流し、大勢の人が漂流させられたようです。

建仁元年(1201)八月大十五日壬辰。陰。鶴岳放生會延引。依廻廊顛倒也。

読下し                     くもり つるがおか ほうじょうえ えんいん   かいろうてんとう  よっ  なり
建仁元年(1201)八月大十五日壬辰。陰。鶴岳 放生會 延引す。廻廊顛倒に依て也。

現代語建仁元年(1201)八月大十五日壬辰。曇りです。鶴岡八幡宮の生き物を放して供養する放生会は延期です。先日の台風で回廊が倒れてしまったからです。

建仁元年(1201)八月大廿三日庚子。甚雨大風。如去十一日。依兩度暴風。於國土損亡五穀。於庫倉不納一物云々。

読下し                     はなは あめおおかぜ さんぬ じういちにち ごと
建仁元年(1201)八月大廿三日庚子。甚だ雨 大風、去る十一日の如し。

りょうど   ぼうふう  よっ     こくど   をい    ごこく   そんぼう    こそう   をい    いちもつ おさめず  うんぬん
兩度の暴風に依て、國土に於ては五穀@を損亡し、庫倉に於ては一物も納不と云々。

参考@五穀を損亡しは、この時代は稲に早稲や奥米など、収穫時期の違う品種がないので、台風でやられると皆だめになってしまう。

現代語建仁元年(1201)八月大二十三日庚子。大雨と大風は、先日の十一日と同じです。二度の台風で、国々では五穀が取れなくなってしまい、倉庫(官庫)には何一つ納められませんとさ。

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