吾妻鏡入門第十七巻

建仁元年辛酉(1201)十月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　ごしょ　　おんまり
建仁元年(1201)十月大一日戊寅。�ﾘ。御所の御鞠。

ほうじょうのごろう　　きない　　とみべのごろう　　ひたのはちろう　　ひきのいやしろう　　げんしょう　　ぎいんら これ　　こう
北條五郎、紀内�@、冨部五郎、肥多八郎、比企弥四郎、源性、義印等之に候ず。

かず　さんびゃくろくじうなり
數は三百六十也。

参考�@紀内は、所行景で、九月七日条で頼家が京都から呼んだ蹴鞠の名人。

現代語建仁元年(1201)十月大一日戊寅。晴れです。御所では蹴鞠で、北条五郎時連・紀内所行景・冨部五郎・肥多八郎宗直・比企弥四郎時員・大輔房源性・加賀房義印達がこれに付き合いました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　よ　　　い　　　　しんしょうほうげん　ひそか　えまのたろうどの　 やかた　さん　　　　もう　　　　い
建仁元年(1201)十月大二日己夘。霽。夜に入り。親�C法眼�@、潜に江馬太郎殿が舘に參じ、申して云はく。

さんる　つきにじうににち　よしなり　 だん　 おお　 らる　　こと　 つぶさ　ちょう　たっ
去る月廿二日、能成に談じ仰せ被る事、具に聽に達す�A。

ただ　 ひびゅうあいまじは　か　　かん　　 ふそ　　さしお　ふうかん　 もうさる　　のじょう　　　みけしき　　 たが　　のよし　　たしか　そ　　　ありさま　　み　　　なり
但し紕繆�B相交る歟の間、父祖を閣き諷諌し申被る之條、御氣色に違う之由、慥に其の形勢を見る也。

しからば　　ごしょる　　　しょう　　　しばら　ざいこくせし　 たま　　べ　　　か
然者、御所勞と稱し、暫く在國令め給ふ�C可き歟。

さきざき　 　た　　 かみ　 み　　　　　　　みけしきあなが　　　しゅんげつ　　へず　　 ただいったん　ことなり　　うんぬん
先々の�D他の上を見るに�E、御氣色強ちに旬月�Fを歴不。只一旦の事也と云々。

てい　あるじおお　　　い　　　　　　 まった　ふうかん　 もう　　　　あらず　　ぐい　のおよ　　ところ　　　いささ　きんじゅう　じん　 あいだん　　　ばか　　なり
亭の主仰せて云はく。全く諷諌を申すに非。愚意之覃ぶ所を、聊か近習の仁に相談ずる許り也。

ざいか　　しょさる　　　　をい　　は　　　ざいこく　　よ　　 べからざ　 か　　　ただ　　きゅう　ことあ　　　　　　みょうぎょうほうじょう　げこう　　　　　　ほっ
罪科に處被るに於て者、在國に依る不可る歟。但し急の事有りて、明曉北條へ下向せんと欲す。

かね　　もん　　い　　　せし　をはんぬ　いま　　つげ　 つ　　 かま　　いで　　　あらず
兼て門を出で令め畢。今の告に就き搆へ出るに非。

きぼう　　すいさつ　 はじ　 しょう　　　りょぐ　　〔　みのかさなど　　いた　ことごと　　こ　　　　なか　　　あ　　　〕　など　　めしいだ　　　み せし　 たま　　　　うんぬん
貴房の推察を耻と稱し、旅具〔蓑笠等に至り悉く此の中に在り〕等を召出し、見令め給ふと云々。

参考�@親�C法眼は、異本に観清ともある。
参考�A聽に達すは、頼家の耳に入った。
参考�B紕繆は、誤り、間違い、誤謬。嘘。嘘が混ざっている。
参考�C在國令め給ふは、国へ帰って謹慎した方が良い。
参考�D先々のは、今までの。
参考�E他の上を見るには、他の場合の上司の様子を見ると。
参考�F旬月は、月の旬で十日。

現代語建仁元年(1201)十月大二日己卯。晴れました。夜になって、親清法眼は内緒で江間太郎泰時の屋敷にやってきて云うのには、「先月二十二日に、中野五郎能成に申されたことが、詳しく将軍の耳に入りました。但し、嘘も混ざっているので、父や祖父を飛び越えて注意をするなんて生意気だと、御機嫌を損ねているとありありとこの目で見ました。そこで、御病気だと云われて、しばらく国元へ帰っていては如何でしょうか。今までの将軍の様子を見ている限りでは、不機嫌はそうは十日もひと月も続きません。ほんの一時の事ですから。」との事です。屋敷の主の泰時が返事をして「全然注意をしたつもりではありません。愚かな私が思うところを、多少おそば近く仕える者に相談しただけなんですけどね。もし処罰されるならば、国元にいても同じです。こんな話が出る前に急な用事が出来たので、明日の夜明けに伊豆の北条へ下っていくつもりです。前もって門を出る儀式を終えています。今の忠告によってあえて出発するわけではありません。あなたの配慮を恥ずかしく思います。」と云って、旅の道具〔蓑も笠もすべてこの中に用意してあります〕を引っ張り出して、わざわざ見せましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　うのこく　　えまのたろうどの　ほうじょう　　げこうせし　 たま
建仁元年(1201)十月大三日庚辰。�ﾘ。卯剋。江馬太郎殿北條�@へ下向令め給ふ。

参考�@北條は、静岡県伊豆の国市寺家に北条氏邸跡あり。

現代語建仁元年(1201)十月大三日庚辰。晴れです。卯の刻(午前六時頃)に、江間太郎(泰時)様は伊豆の北条へ向かわれました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　えまのたろうどの　さくじつ　ずしゅう ほうじょう　げちゃく　 たま
建仁元年(1201)十月大六日癸未。江馬太郎殿昨日、豆州北條へ下着し給ふ。

とうしょ　　きょねんすくな　そんぼう　 よっ　　　 さんぬ　はる　しょみんら かてとぼ　　　　　　なか　　こうさく　　はか　　　　うしな　 のかん
當所、去年少き損亡に依て、去る春、庶民等 粮乏しく、央ば耕作の計りを失う之間、

すうじうにんれんしょじょう　ささ　　　　すいこまい　ごじっこく　　たま
數十人連署状を捧げ、出擧�@米五十石�Aを給はる。

よっ　　へんじょう　ご　　　ことし　　あきたるのところ　　さんぬ　つき おおかぜののち　 こくぐんおお　　　そんぼう　　　 うえ　 たえれずのやから
仍て返上の期、今年の秋爲之處、去る月　大風之後、國郡大いに損亡し、飢に堪不之族、

すで　 もっ　　　がし　　　　　　　ほっ　　　　ゆえ　　くだん　こめ　 お　　　かさ　　　 のやから　かね　 けんせき　 おそ
已に以て餓死せんと欲すの故、件の米を負い累ねる之輩、兼て譴責�Bを怖れ、

ちくてん　 おも　　　さしはさ　のよし　　き　　 およ　　せし　 たま　　のかん　　たみ　 うれい　すく　　　　ため　　むち　　あ　　　らる　ところなり
逐電�Cの思いを挿む之由、聞き及び令め給ふ之間、民の愁を救はん爲、鞭を揚げ被る所也。

きょう　　　か　　　すうじうにん　　おいびと　ら　　 め　　　あつ　　　 そ　　　め　　 まえ　　をい　　　しょうもん　　や　　　す　　られをはんぬ
今日、彼の數十人の負人�D等を召し聚め、其の眼の前に於て、證文を燒き弃て被畢。

ほうねん　　ぞく　　　いへど　　　ただ　　かえ　　 さた　あ　　べからざるのよし　 じき　 おお　 ふく　 らる
豊稔に屬すと雖も、糺し返す沙汰有る不可之由、直に仰せ含め被る。

あまつさ　めしさけなら　　じんべつ　いっと　　こめ　　たま
剩へ飯酒并びに人別に一斗の米を賜はる。

おのおの　かつう　きえつ　　　 かつう　ていきゅう　たいしゅつ　　みなて　　　あわ　　ごしそん　　はんえい　ねが　　　　うんぬん
各、且は喜悦し、且は涕泣し退出す。皆手を合せ御子孫の繁榮を願うと云々。

めしさけ　　ごと　　こと　　　　けんじつ　　さたにん　よういさる　 ところなり
飯酒の如き事は、兼日に沙汰人�E用意被る所也。

参考�@出擧は、律令下で政府から種籾を貸し与え、同量の利子を添えて返納させていた。そこから利子のつく貸借を出挙と呼ぶ。奈良時代末期には貸して返すのが面倒なので利息だけを徴するので、出挙という税金になっていく。公の出挙は倍だが、私出挙は利息が倍で三倍返す。
参考�A五十石は、一石は十斗で、一俵は四斗60kgなので一石は150kg。150kg×50＝7500kg。
参考�B譴責は、不正・過失・失敗などをとがめしかること。
参考�C逐電は、逃げて姿をかくすこと。この場合は逃散。
参考�D負人は、年貢を負う人の意。負債者。
参考�E沙汰人は、代官。

現代語建仁元年(1201)十月大六日癸未。江間太郎(泰時)様は、昨日伊豆の北条へ到着されました。ここでは、去年収穫が少なく飢饉だったので、今年の春に農民たちが種もみが足りなくて作付に困り、数十人が署名の嘆願書を出してきたので、貸借米五十石を与えました。それの返済時期は、今年の収穫時期の秋ですが、先日の台風の後、国中が不作になってしまったので、食糧が乏しく飢えた人々は餓死してしまいそうです。それなので、その返済米を返せない連中は、責め立てられることを怖がって逃げてしまおうかと思っていると、耳に入ったので、民衆の嘆き悲しみを救ってあげるために伊豆へ急いで旅立ってきたのです。

今日、それらの数十人の債務者を呼び集めて、その目の前で借用証文を焼き捨てられました。「豊年になったからと云って、調べなおして返させるようなことはしません。」と直接云って聞かせました。そればかりか、飯に酒、それに一人当たり一斗の米を与えました。皆、大喜びをして、すすり泣きながら帰りました。皆手を合わせて、泰時様の子孫が繁栄するように祈ったそうです。飯や酒などは、かねて現地管理人に用意をさせていたものです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　えまのたろうどの　いずのくによ　　　きちゃくせし　 たま
建仁元年(1201)十月大十日丁亥。霽。江馬太郎殿伊豆國自り歸着令め給ふ。

現代語建仁元年(1201)十月大十日丁亥。晴れました。江間太郎(泰時)様は、伊豆の北条から鎌倉へ帰り着かれました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごしょ　　　おんまり
建仁元年(1201)十月大廿一日戊戌。御所の御鞠。

ほうじょうのごろう　　きない　　とみべのごろう　　ひきのいやしろう　　ひたのはちろう　　げんしょう　　ぎいんら そ　　　にわ　　こう
北條五郎、紀内、冨部五郎、比企弥四郎、肥田八郎、源性、義印等其の庭に候ず。

さがみのかみしげより　わかみやさんみぼうら　げんしょう　こう　　　 かず　きゅうひゃくごじうなり
相摸守重頼。若宮三位房等 見證に候ず。數、九百五十也。

現代語建仁元年(1201)十月大二十一日戊戌。御所で蹴鞠です。北条五郎時連・紀内所行景・冨部五郎・比企弥四郎時員・肥多八郎宗直・大輔房源性・加賀房義印たちがその庭にそろいました。相模守藤原重頼・若宮三位房が立ち会い検数員です。数は九百五十でした。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　つるがおかはちまんぐう　かいろう　　はっそくもんじょうとう　　　たくみらろく　　たま
建仁元年(1201)十月大廿七日甲辰。�ﾘ。 鶴岳八幡宮 の廻廊、八足門上棟す。匠等祿を給はる。

えんしゅう　がいかんれい　たいふさかんにゅうどうら　　ぐうじ　　 まい　　かく　　ぎ　　　おこな　 らる　　　 そ　　ほか　 ひとびとぐんさん
遠州、 大官令、 大夫屬入道等、宮寺へ參り此の儀を行は被る。其の外の人々群參す。

現代語建仁元年(1201)十月大二十七日甲辰。晴れです。鶴岡八幡宮の回廊と八足門の上棟式です。大工さんたちが褒美をもらいました。遠江守北条時政殿・大江広元・大夫属入道三善善信達が、神宮寺へ来てその儀式を執り行いました。その他にも人々が群れ集まりました。

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