吾妻鏡入門第十七巻

建仁二年壬戌(1202)九月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 つるがおか　まつり れい　ごと　　　しょうぐんけ　ごさんぐう
建仁二年(1202)九月大九日庚戌。�ﾘ。 鶴岳 の祭例の如し。將軍家御參宮。

現代語建仁二年(1202)九月大九日庚戌。晴れです。鶴岡八幡宮の重陽の節句のお祭りは何時もの通りです。将軍様もお参りです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 みしましゃ　　まつり　　えまのしろうぬし　ほうへい　　おんし　　な
建仁二年(1202)九月大十日辛亥。霽。三嶋社�@の祭。江馬四郎主奉幣の御使と爲す。」

きょう　　　おんまり　さんかど　あ　　　　にんずう　 ほうじょうのごろうときふさ　きないゆきかげ　 ひたのはちろうむねなお　ひきのいやしろう　　げんしょう　　ぎいんら　なり
今日、御鞠三ケ度有り。人數、北條五郎時房、紀内行景、肥田八郎宗直、比企弥四郎、源性、義印等也。

かず　 あさ　 まり　にひゃくしちじゅ　ひゃくろくじう　　ひる　にひゃくはちじう　　にひゃくさんじう　　 ゆう　ひゃくさんじう　さんびゃくくじう　　ごひゃくごじうなり
員、朝の鞠二百七十、 百六十。 晝は二百八十、二百三十。 夕は百卅、 三百九十、五百五十也。

参考�@三島社の荘園は北条氏の領地。

現代語建仁二年(1202)九月大十日辛亥。晴れました。三島神社のお祭りです。江間四郎北条義時様が幣を奉納する代参です。」今日は、蹴鞠が三度ありました。人数は、北条五郎時連・紀内所行景・肥多八郎宗直・比企弥四郎時員・大輔房源性・加賀房義印等でした。数は、朝の内が２７０・１６０。昼が２８０・２３０．夕方が３００・３９０・５５０でした。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　えがらしゃ　 まつりなり　　ひろもとあそんほうへい　おんし　　な
建仁二年(1202)九月大十一日壬子。霽。荏柄社の祭也。廣元朝臣奉幣の御使と爲す。

現代語建仁二年(1202)九月大十一日壬子。晴れました。荏柄天神社のお祭りです。大江広元さんが幣を奉納する代参です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 おんまりあ　　　　　かずにひゃくさんじう　ひゃくろくじうののち　　へいしょく　ほど　　しょうぐんけまた　　いしのおんつぼに いでたま
建仁二年(1202)九月大十五日丙辰。御鞠有り。員 二百卅。 百六十之後。 秉燭の程、 將軍家又、 石御壷于 出御う。

へいちうもん　　うち　　ゆきかげ　　め　　　　　こまり　　もっ　　しょうぶ　　あらそ　せし　　たま　　　に　さんぞくののち　　ゆきかげ　たま　　　 ゆきかげまたけんじょう
屏中門の内に行景を召し、小鞠を以て勝負を爭は令め給ふ。二三足之後、行景に給ふ。々々又献上す。

たびたび　およ　　　 すで　 かずひゃくごじうこれ　 あ　　　 ところ　　いきのほうがんともやす　ざ　　た　　くだん　まり　　う　　　おと　　のかん　　しょうぐんけにゅうぎょ
度々に及び、已に員百五十之を揚ぐる處、壹岐判官知康座を起ち件の鞠を打ち落す之間、將軍家入御す。

ゆきかげ たいしゅつのご　 のぞ　　　　ともやす い　　　　　 きみ　おとせし　 ば　　 こうしたがい　ちじょくたるべ　　　　　よっ　ともやすこれ　　う　　　おと　　　　うんぬん
行景 退出之期に臨み、知康云はく。君�@落令め者、公私互に耻辱爲可し。仍て知康之を打ち落すと云々。

ゆきかげ すなは　みだいどころ　さん　　　 ともやす　 しわざ　　　さ　　　　　おこ　　　しょぞんそうら　　　あらざ　　のよし　　にょぼう　　もっ　　もう　　のかん　　しきり　　ごじゅきょう　　うんぬん
行景 即ち御臺所�Aに參じ、知康が所爲、指せる尾籠の所存候うに非る之由、女房を以て申す之間、頻に御入興と云々。

参考�@君は、将軍。
参考�A御臺所は、比企四郎能員の娘若狭局。

現代語建仁二年(1202)九月大十五日丙辰。蹴鞠がありました。数は、２３０・１６０の後、灯りを灯す頃になって、将軍がまた内庭の石の壺に出られました。塀を回した中門に紀内所行景を呼んで、小さな鞠でけり合いの勝負をしました。二三回けって、紀内所行景にパスをしました。紀内所行景が蹴り返し、何度か繰り返すうち１５０を超えたところで、堤判官知康がこの鞠を打ち落したので、将軍は館へ入りました。紀内所行景が退出するときに、知康が云うには「主君が鞠を落とせば、将軍にも先生のあなたにとっても、共に恥をかくことになる。そこで私は打ち下ろしたのだ。」とさ。紀内所行景はすぐに、将軍夫人に対し「知康の行動は、馬鹿げた行動なのではありませんよ。」と、女官を通じて申しあげたので、とても感心されておりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 しょうぐんけ　つるがおかぐう　ぎょさん　　　　ほうじょうのごろうときふさ　ぎょけん　 えき　　　 なかののごろうよしなり　ごちょうど　　か
建仁二年(1202)九月大十八日己未。�ﾘ。 將軍　鶴岳宮 に御參す。 北條五郎時房�@御釼を役す。中野五郎能成 御調度を懸く。

参考�@北條五郎時房は、北條五郎時連から名を変えている。

現代語建仁二年(1202)九月大十八日己未。晴れです。将軍様は鶴岡八幡宮へお参りです。北条五郎時房が太刀持ちです。中野五郎能成が弓箭を肩に懸けています。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 くも　　　　しょうぐんけ　いず　　　するが　　りょうごく　　かりくら　　げこう　　　たま　　　　すうひゃっき　　めしぐさる
建仁二年(1202)九月大廿一日壬戌。陰り。將軍家伊豆、駿河の兩國の狩倉へ下向し給ふ。數百騎を召具被る。

しか　　　　ないがい　　せこ　　 さだ　 らる
而して内外の勢子を定め被る。

うち　　そうらうべ　　　のやから　 おがさわらあわのいやたろう　　ひきのさぶろう　　わだのさぶろう　　ほそののひょうえのじょう　 なかののごろうよしなりなり
内に候 可き之輩、小笠原阿波弥太郎、比企三郎、和田三郎、 細野兵衛尉、 中野五郎能成也。

おのおの　ゆみた　　おびず　　たけがさ　 むかばき　 つけ　　むち　 さ　　　　ただ　 よしなり　ひとり　　ゆみや　　ゆるさる
　各　弓箭を帶不、竹笠、行騰を着て鞭を差す。但し能成一人は弓矢を聽被る。

かく　 ほか　 やから　みなそと　そうら　べ　　　　　これまた　　ゆみや　 おびず　　これ　 おびせし　　　もの　　　　　いて　じうにんばか　　なり
此の外の輩は皆外に候う可し。是又、弓矢を帶不。之を帶令むの者は、射手十人許り也。

　いて　　　い　　　もの　　わだのひょうえのじょうつねもり　はんがやつにしろうしげとも　わだのへいたたねなが　　うんののこたろうゆきうじ　　もちづきのさぶろうしげたか
射手と謂う者、 和田兵衛尉常盛、 榛谷四郎重朝、 和田平太胤長、 海野小太郎幸氏、 望月三郎重隆、 

こさかのいやさぶろう　　かまたのこじろう　　　かさはらのじうろう　　にたんのしろうただつね　　くどうのこじろうゆきみつら　なり
小坂弥三郎、鎌田小次郎、笠原十郎、 新田四郎忠常、 工藤小次郎行光等也。

現代語建仁二年(1202)九月大二十一日戌。曇りです。将軍様は伊豆と駿河のお狩場へ出かけられました。数百騎馬のお供を命じて連れて行きました。そして、将軍と一緒にいる内の勢子と離れた外の追い出し役の勢子を決めました。一緒にいるのは、小笠原阿波弥太郎・比企三郎・和田三郎宗實・細野兵衛尉・中野五郎能成です。それぞれ弓矢は持たないで、竹で編んだ笠と行縢(ローハイド)を着けて鞭を持ちました。ただし、中野五郎能成一人は弓矢を許されました。それ以外の人達は、皆離れた外の勢子をやりなさい。その人達も同様に弓矢は持たされません。弓矢を持っているのは射手の十人だけです。その十人は、和田兵衛尉常盛・榛谷四郎重朝・和田平太胤長・海野小太郎幸氏・望月三郎重隆・小坂弥三郎。鎌田小次郎・笠原十郎親景・新田四郎忠常・工藤小次郎行光です。

説明小笠原阿波弥太郎は、父が元阿波守であろう。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 しょうぐんけようや　かまくら　　かえ　　せし　　たま　　　　しか　　　　きょう　　にたんのしろうただつね　　たく　　とぎょ
建仁二年(1202)九月大廿九日庚午。將軍家漸く鎌倉へ還ら令め給ふ�@。而して今日、新田四郎忠常が宅へ渡御す。

 しゅうじつこがさがけあ　　　ただつねかけものじうぶつひゃく　けん
終日小笠懸有り。忠常 懸物�A十物百�Bを献ず。

 しか　　　　くだん　かけものじうの　くは　　　ゆきうじ　しげたか　 しげとも　 たねなが　 よしなり　 ゆきみつら　やかずあ　　　　　よっ　　　　これ　　もっ　　たま
而して件の懸物十之九者、幸氏、重隆、重朝、胤長、能成、行光等箭數有る�Cに依て、之を以て給はる。

参考�@還ら令め給ふは、帰ることになった。
参考�A懸物は、賭ける物。
参考�B十物百は、十種類で百個。
参考�C箭數有るは、当たりが多い。

現代語建仁二年(1202)九月大二十九日庚午。将軍様がやっと鎌倉へ帰ってきました。そして今日、新田四郎忠常の屋敷へお渡りになられました。一日中、小笠懸がありました。新田四郎忠常は商品十個づつを百用意して差出ました。それで、その商品の十中八九は、海野小太郎幸氏・望月三郎重隆・榛谷四郎重朝・和田平太胤長・工藤小次郎行光達が当たり矢が多かったので、お与えになってしまいました。

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