吾妻鏡入門第十八巻

建仁三年癸亥(1203)十二月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しょうぐんけ　　ごがん　　　な　　　つるがおか　じょうげ　 みや　 をい　　　　ほっけはちこう　　おこなはれ
建仁三年(1203)十二月大一日乙未。�ﾘ。將軍家の御願と爲し、鶴岳の上下の宮に於て、法花八講�@を行被る。

こうじ　　あんらくぼうなり　　　うきょうのしんなかなりぶぎょう　な　　びょうてい　そうら　　　あまみだいどころ　〔おんこし〕　みつみつ　 かいろう　 さん　 せし　 たま
々師は安樂坊也。右京進仲業奉行と爲し廟庭に候う。 尼御臺所 〔御輿〕密々に廻廊へ參じ令め給ふ。

参考�@法華八講は、法華経八巻を八座に分け、普通朝夕二座講じて四日間で完了する法会。

現代語建仁三年(1203)十二月大一日乙未。晴れです。将軍実朝様の願として、鶴岡八幡宮の上下の宮で法華八講を行いました。講義をするのは安楽坊です。右京進仲業が実施責任者として宮前に居りました。尼御台所政子様は、非公式に回廊へお参りしました。〔輿を使いました〕

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　あまみだいどころ　おんはか　　　な　　　　つるがおかべっとうあじゃり　〔そんぎょう〕　　　おお
建仁三年(1203)十二月大三日丁酉。�ﾘ。尼御臺所の御計りと爲し、鶴岳別當阿闍梨〔尊曉〕に仰せて

ぐうじ　　　なか　　とうばの　えいさく　　 ちょうじさる
宮寺の中の塔婆之營作を停止被る。

かく　　とうこんりゅう　はじ　　　　かさい　あ　　　　　とうぐう いか かまくらちう　すうちょうしょうぼう
此の塔建立の始めに火災有り。當宮以下鎌倉中の數町燒亡す。

そ　　　ご　さいこう　　ため　　そ　　 ち　　 ひかれる　 のところ　　いくにっす　　　へず　　　　 きんごしょうぐんごびょうのう
其の後再興の爲、其の地を曳被る之處、幾日數を經不に、金吾將軍御病惱す。

よっ　　ふきつの　よし　　そ　　　　さた　あ　　　　　うんぬん
仍て不吉之由、其の沙汰有ると云々。

現代語建仁三年(1203)十二月大三日丁酉。晴れです。尼御台所政子様の責任で、鶴岡八幡宮筆頭の阿闍梨尊暁に命じて、鶴岡八幡宮内の塔の建設を中止しました。この塔は建立してすぐに火災にあい、八幡宮を始めとして数町も焼けてしまいました。その後、復興しようと地に設計を曳いたら幾日もしないで左衛門督頼家様が病気になりました。これは不吉な事ばかり続くので、中止とお決めになりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むさしのくに そめどの べっとうしき　　こと　　こばっかしょうぐん　　おんはから　まか
建仁三年(1203)十二月大十三日丁未。武藏國 染殿 別當職の事、故幕下將軍の御計いに任せ、

こうづけのつぼね　もっ　　そ　　　しき　　な　　　　　うんぬん
上野局 を以て其の職と爲すと云々。

現代語現代語建仁三年(1203)十二月大十三日丁未。武蔵国衙での調布を染める工房染殿の筆頭職は、故頼朝様のご配慮どおりに、女官上野局をその職に就けておくとんだそうな。

説明染殿は、この場合武蔵国なので国衙の役職で、調布として朝廷へ出す布を染める工房の長。幕府へ提出される分から当然ピンはね分がある。七巻文治三年(1187)六月八日条で、上野局は幕府の染殿別当に補されている。この後、貞応二年四月九日条ででも、安堵されている。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　　ようふくじ　いか　　　みどう　　　さん　　たま　　　　ごらいぶつの ぎ　あ　　　　おんこしなり
建仁三年(1203)十二月大十四日戊申。將軍家、永福寺以下の御堂に參じ給ふ。御礼佛之儀有り。御輿也。

ほうじょうのごろう　　げんのたいふしょうげん　　やまとのぜんじ　　ゆうきのしちろう　　ながぬまのごろう　　あだちのうえもんのじょう　　みうらのひょうえのじょう　　あだちのさえもんのじょう
北條五郎、 源大夫將監、　大和前司、結城七郎、長沼五郎、　安達右衛門尉、　三浦兵衛尉、　足立左衛門尉、

ちばのひょうえのじょう　ささきのさえもんのじょう　　　わだのしんひょうえのじょうら　これ　　 ぐぶ
千葉兵衛尉、 佐々木左衛門尉、 和田新兵衛尉 等之に供奉す。

現代語建仁三年(1203)十二月大十四日戊申。将軍実朝様は、永福寺などのお堂にお参りです。仏様に合掌礼拝の儀式を執り行いました。お出かけは輿です。北条五郎時房・源右近将監親廣・前大和守山田重弘・結城七郎朝光・長沼五郎宗政・安達右衛門尉景盛・三浦平六兵衛尉義村・足立左衛門尉遠元・千葉平次境兵衛尉常秀・佐々木左衛門尉定綱・和田兵衛尉常盛達がお供をしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あまみだいどころ　　おんはか　　　な　　　　　しょこく　　ぢとうぶん　　しゅりょう　　と　　　らる
建仁三年(1203)十二月大十五日己酉。尼御臺所の御計りと爲し、諸國の地頭分の狩獵�@を止め被る。

せいとしょのじょうきよさだこれ　ぶぎょう
�C圖書允�C定 之を奉行す。

参考�@地頭分の狩獵は、地頭が許されている範囲での狩猟。神事としての狩猟は許される。

現代語建仁三年(1203)十二月大十五日己酉。尼御台所政子様の責任で、諸国の地頭の狩猟権を止め殺生禁断をさせました。清原図書允清定が担当しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょにん　　そろん　　　ぜひ　　　もんじょ　 すす　 み　　　ののち　　　みっかび　　いた　　　　　げち　　くは　　ざれば
建仁三年(1203)十二月大十八日壬子。諸人の訴論の是非、文書を進め覽る之後、三ケ日に至り、下知を加へ不者、

ぶぎょうにんを　けたい　　とが　　しょさる　　べ　　　のよし　　 そ　　 ほう　　もうけ　　　 うんぬん
奉行人於緩怠の過に處被る可し之由、其の法を儲ると云々。

現代語建仁三年(1203)十二月大十八日壬子。人々からの訴訟の是非については、文書を提出されてから、三日もたって何も進めて居なければ、担当奉行は怠けていると処罰にするように、その規則を決めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　えいちう　　ぞうじ　　 ほうじょうのごろう　ぶぎょうせし　 べ　　 のよし　　おお　　つ　　　らる　　　　うんぬん
建仁三年(1203)十二月大廿二日丙辰。營中の雜事、北條五郎 奉行令む可し之由、仰せ付け被ると云々。

現代語建仁三年(1203)十二月大二十二日丙辰。御所内での将軍の身の回りの雑務については、北条五郎時房が取り仕切るように命じられましたとさ。

説明營中の雜事は、将来雑事役の小侍所になっていき、小侍所別当が置かれる。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ようちびと　　　いせのくにしゅご　　らんにゅう　　　そ　　ちょうほんしんしゆきつなたるのよし　　よしもりこれ　　もう
建仁三年(1203)十二月大廿五日己未。夜討人、伊勢國守護へ乱入す。其の張本進士�@行綱�A爲之由、義盛之を申す。

参考�@進士は、大宝律令の制で、大学、国学出身の貢挙の人で、式部省の試験に及第した者。後に文章生と称した。
参考�A行綱は、員部大領家綱の子。員部郡司。三重県いなべ市員弁町。七巻文治三年六月二十九日条で、畠山重忠の代官が横領し家綱が重忠を訴えている。建仁四年二月十日条で和田太郎義盛に捕まる。元久元年(1204)五月八日に無罪。

現代語建仁三年(1203)十二月大二十五日己未。夜中に伊勢の代官所へ押し入った者がおり、その張本人は印部文章生行綱でしたと、侍所長官の和田義盛が報告しました。

建仁四年(1204)甲子正月へ

吾妻鏡入門第十八巻