吾妻鏡入門第十八巻

建仁四年甲子(1204)四月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　するが　　　むさし　　えちごら　　　くにぐに　　かさ　　　　ないけん　　と　　　　　べ　　　　　よっ
元久元年(1204)四月小一日甲午。駿河、武藏、越後等の國々、重ねて内檢�@を遂げる可きに依て、

のぶひら　なかなり　　あきさだら　　くだ　 つか　 らる　　べ　　のよし　　そ　　　　さた　あ　　　　 ひろもとあそん　　きよさだぶぎょう　　な
宣衡・仲業・明定等を下し遣は被る可き之由、其の沙汰有り。廣元朝臣、�C定奉行を爲す。

参考�@内檢は、検地をする。隠し田の摘発。将軍交代の検地。

現代語元久元年(1204)四月小一日甲午。駿河・武蔵・越後の国等については、尚も検地をきちんとするべきなので、文章生三善宣衡・右京進中原仲業・明定(坂上？)を現地へ派遣させるように、取り決めました。大江広元・図書允�C定が担当です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　かさぎ　げだつしょうにん　 ししゃさんぬ　ころさんちゃく
元久元年(1204)四月小十日癸夘。�ﾘ。笠置�@解脱上人�Aが使者去る比參着す。

とうじ　　　をい　　　　れいどう　　た　　　　　べ　　　　 かん　　しょうぐんけ ごほうか　もう　ところなり　　よっ　　きょう　 さきん　 いか　　　ちょうほうら を　か　 つかい　たま
當寺に於ては礼堂を建てる可きの間、將軍家御奉加申す所也。仍て今日砂金已下の重寳等於彼の使に賜はる。

ただ　　ごほうか　の　じょう な　　　　うんぬん
但し御奉加�B之状無きと云々。

参考�@笠置は、京都府相楽郡笠置町笠置の笠置寺。
参考�A解脱上人は、解脱房貞慶(1155-1213)藤原通憲(信西)の孫。
参考�B御奉加は、寄付。

現代語元久元年(1204)四月小十日癸卯。晴れです。笠置寺の解脱上人の使いが先日到着しました。この笠置寺に弥勒磨崖仏を礼拝するための礼堂を再興するために、将軍実朝様の寄付をしたいと云ったからです。それで今日、砂金を始めとする宝物を使いに与えました。ただし、寄付目録は無しだとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　するが　いか　さんかこくないけん　　こと　　せんじつちじょうせし　　いへど　　　かさ　　　　そ　　　　さた　あ　　　　　えんいん
元久元年(1204)四月小十六日己酉。駿河以下三ケ國内檢の事、先日治定令むと雖も、重ねて其の沙汰有り、延引す。

これ　　きょねんみよはじめ　ゆえ　　ぶみん　おんはから　あ　　べ　　　　　よっ　　　　かぎ　 あ　　　なおぐ　なおいんずう　へらされをはんぬ
是、去年御代始の故、撫民の御計い有る可きに依て、限り有る乃貢猶員數を減被 訖。

ことし　そ　　　ふし　　と　　　らる　　　　をい　 は　　 みんこ　さだ　　　 やす　　がた　 か　　 しからば　 ぜんせい　おこな　らるざるごと　　　しばら　ひらかれ　べ　　　のよし　　うんぬん
今年其の節を遂げ被るに於て者、民戸定めし休み難き歟。然者、善政を行は被不如く、暫く閣被る可し之由と云々。

現代語元久元年(1204)四月小十六日己酉。駿河以下三カ国の検地について、先日決めたばかりですが、尚もその検討をして延期にしました。それは、去年から新将軍の政治はじめなので、民衆をいたわり大事にすべきなので、出来るだけ年貢や勤労奉仕の人数を減らしてきました。それなのに今年検地をしてしまうと、農民の気の休まる暇がないでしょう。そこで良い政治を行うために、しばらく延期することにしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　ごむそうの　つ　　　よっ　　　　いわどのかんのんどう　　まい　　たま
元久元年(1204)四月小十八日辛亥。將軍家御夢想之告げに依て、岩殿觀音堂へ參り給ふ。

えんしゅうなら　　　しろう　　ごろうら　ぬし　　およ　　　ひろもとあそん　いか　　　こしょううんか　　ごと　　　　みうらのさえもんのじょうごだすう　　　　うんぬん
遠州并びに四郎、五郎等主、及び廣元朝臣以下の扈從雲霞の如し。三浦左衛門尉御駄餉すと云々。

現代語元久元年(1204)四月小十八日辛亥。将軍実朝様は、夢のお告げがあったので、岩殿観音堂(逗子の岩殿寺)へお参りに行きました。遠江守北条時政殿・北条五郎時房と大江広元を始めとするお供が雲か霞の如く大勢でした。三浦左衛門尉義連が弁当を用意したんだとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごけにんの　うち　　こうだいしょうぐんみづか　ひつ　　おんしょ　　お　　　　のやから　ままこれあ　　　うんぬん
元久元年(1204)四月小廿日癸丑。御家人之中、故右大將軍自ら筆の御書を帶びる之輩、間之在りと云々。

しんらんすべ　 のよしおお　 くださる　　　　これ　 うつ　 とど　 られ　　ためなり　　きよさだぶぎょう　　な　　 これ　 め　　　おお　　　 うんぬん
進覽可し之由仰せ下被る。之を寫し留め被ん爲也。�C定奉行と爲し之を召し仰すと云々。

現代語元久元年(1204)四月小二十日癸丑。御家人の中に、頼朝様自らサインをした命令書を持っている連中が、結構います。提出して見せてほしいと仰せになりました。それらを写して置いておきたいからです。図書允清定が担当して取り集めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  はれ　むさしのかみともまさ　 ひきゃくとうちゃく　　　もう　　　　い　　　　　　 さんぬ　つきにじうさんにちしゅっきょう
元久元年(1204)四月小廿一日甲寅。�ﾘ。武藏守朝雅が飛脚到着す。申して云はく。去る月 廿三日 出京す。

ここ　　いせ　へいしら　すずかのせきしょ　ふさ
爰に伊勢平氏等鈴鹿關所を塞ぐ。

けんそ　　さぐ　　 のきわ　　たと　　かっせん　とげず　　いへど　　　 じんばこれ　 とお　 がた　　　　よっ　　　　みののくに　 めぐ　　　　おな　　　にじゅしちにちいせのくに　い
險阻を索る之際、縱い合戰を遂不と雖も、人馬之を通し難きに依て、美濃國を廻り、同じき廿七日伊勢國へ入る。

けいぎ　　はか　　　　こんげつとおかよ　　　　　どうじうににち　　いた　　かっせん
計議を凝り。今月十日自り。同十二日に至り合戰す。

ま　　　しんしさぶろうもとのり　　あさけぐんとみだ　のやかた　　おそ　　　 ちょうせんとき　うつ
先ず進士三郎基度、朝明郡冨田�@之舘を襲い。挑戰尅を移す。

もとのりなら　　　　しゃてい まつもとのさぶろうもりみつ　おな　　　しろう　だれそれ　おな　　　くろう　ら　　　　ちう
基度并びに舎弟 松本三郎盛光�A、同じき四郎〃〃、同じき九郎等を誅す。

つぎ　　あのうぐん　　 をい　　　　おかのはちろうさだしげ およ　しそくばんるい　こうげき　　　
次に安濃郡�Bに於て、 岡八郎貞重�C及び子息伴類を攻撃す。

つぎ　　　たきぐん　　いた　　　　しょうだのさぶろうすけふさ　　おな　　　　しそくもろふさら　と　あいたたか
次に多氣郡�Dに到り。庄田三郎佐房�E、 同じき子息師房等与相戰う。

か　　やからつい　もっ　　はいぼく　　　また　　かわだのぎょうぶたいふ　いけど　　　　およ　　ろうるいりょうこく　なびか　　いへど　　　ほうきみっか　　すぎず
彼の輩遂に以て敗北す。又、河田刑部大夫を生虜る。凡そ狼唳兩國を靡すと雖も、蜂起三日と軼不�F。

くだん　ざんとうなお いがのくに　あ　　　　 かさ　　　　これ　 ついとうすべ　　　 うんぬん
件の殘黨猶伊賀國に在り。重ねて之を追討可きと云々。

参考�@朝明郡冨田は、三重県四日市市富田。
参考�A松本三郎盛光は、四日市市楠木町本郷。
参考�B安濃郡は、郡域は全て現在の津市に含まれている。
参考�C岡八郎貞重は、津市白山町岡。
参考�D多氣郡は、多気町、明和町、大台町、松阪市の一部。
参考�E庄田三郎佐房は、松阪市殿町カ。
参考�F蜂起三日と軼不は、三日平氏の乱。

現代語元久元年(1204)四月小二十一日甲寅。晴れです。平賀武蔵守朝雅の伝令が到着して申しあげました。「先月の二十三日に京都を出ました。しかし、伊勢平氏が鈴鹿峠の関所を塞いだので、険しい山道をたどれば、たとえ戦いをしなくて済むと云っても、とてものこと人も馬も通れるものではありませんので、美濃国を回って二十七日に伊勢国へ入りました。作戦を練って今月の十日から十二日まで戦いをしました。まず進士三郎基度の朝明郡冨田の屋敷に攻めかかり、しばらく戦い基度と弟の松本三郎盛光・四郎某・同九郎を殺しました。次に安濃郡へ攻めて、岡八郎貞重とその子供や同族を攻撃しました。それから多気郡に行って、庄田三郎佐房とその子供の師房と戦いました。彼らもついに負けてしまい、河田刑部大夫を生け捕りました。これで浪々の連中が両国を占領しましたけれど、たった三日にすぎませんでした。その残党の連中は伊賀の国におりますが、なおも攻め取ろうと思います。」とのことでした。

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