吾妻鏡入門第十八巻

建仁四年甲子(1204)五月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くも　　　つるがおかりんじさいれい　　ごと　　　　しょうぐんけぎょさんな　　　　　ひろもとあそんほうへい　　おんし　　な　　　　　うんぬん
元久元年(1204)五月小五日丁夘。陰り。鶴岳臨時祭例の如し。將軍家御參宮無し。廣元朝臣奉幣の御使を爲すと云々。

現代語元久元年(1204)五月小五日丁卯。曇りです。鶴岡八幡宮の端午の節句の臨時の祭は何時もの通りです。将軍実朝様のお参りは無です。大江広元が幣を奉納する代参だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　ともまさ　　ひきゃくかさ　　　　とうらい
元久元年(1204)五月小六日戊辰。�ﾘ。朝雅が飛脚重ねて到來す。

さんぬ　つき にじうくにち いせのくに　いた
去る月 廿九日伊勢國に到る。

へいし　うたのすけさぶろうもりときなら　　　　してつら　　　とうごく　むこやま　　をい　じょうかく　　かま　　　　すうじつあいささ　　　　　いへど
平氏雅樂助三郎盛時并びに子姪等、當國六ケ山�@に於て城郭を搆へ、數日相支えると雖も、

ともまさぶゆう　　はげ　　　　のかん　　かれら　　 ぼうせん り　 うしな　はいぼく
朝雅武勇を勵ます之間、彼等の防戰利を失い敗北す。

およ　ちょうほん　　わかのごろう　じょうかく　　しょしょ　　かま　　　　　　いはゆる　 いせのくに ひなが　 わかまつ　みなみむら　たかつの　せき　　おの　ら　なり
凡そ張本の若菜五郎�A城郭を處所に搆へる。所謂、伊勢國日永�B、若松�C、南村�D、高角�E、關�F、小野�G等也。

つい　 せき　　 おの　　 をい　　そ　　いのち　ほろ　　　　　　うんぬん
遂に關、小野に於て其の命を亡ぼすと云々。

たびたび　かっせん　　しだい　　ぐんし　　ちゅうひら　　 ぶんめい　 これ　 ちう　　もう
度々の合戰の次第、軍士の忠否等、分明に之を�H注し申す。

やまのうちのしゅどうぎょうぼのじょうつねとし　おな　　 たきぐちろくろうら　　　はじ　　は　へいし　　もうい　　おそ　　　　ちくてんせし　　　　いへど
　山内首藤刑部丞經俊、　同じき瀧口六郎等、始め者平氏の猛威を怖れ、逐電令むと雖も、

しまい　は　ともまさ　　ゆきあ　　　　 あいとも　 せいばつ　　はげ　　のよし　　おな　　これ　　の　　　　　　　うんぬん
後に者朝雅に行逢い、相共に征伐に勵む之由、同じく之を載せると云々。

参考�@六ケ山は、名張市。六箇山（むこやま）とは、名張川上流の伊勢神宮領のこと。東限高回河、其河後伊賀郡阿保村主（青山町）南限大和国水界（奈良県曽爾村、神末）西限粟河在夏見郷夏見村主（名張市夏見）北限大地頭在（名張市小波田）とある。
参考�A若菜五郎は、盛高。松阪市六根町。
参考�B日永は、四日市市日永。
参考�C若松は、鈴鹿市若松北、中、西、東。
参考�D南村は、四日市市内。
参考�E高角は、四日市市高角町。
参考�F關は、亀山市関町。
参考�G小野は、亀山市小野町。
参考�H分明に之をの、これは合戦状。

現代語元久元年(1204)五月小六日戊辰。平賀武蔵守朝雅の伝令が続いてやってきました。先月二十九日に伊勢の国へ着きました。平氏の雅楽助三郎盛時と子や甥たちは伊勢六ケ山に砦を造り、数日は戦っていましたが、平賀朝雅が盛んに攻め立てたので、彼らは防戦に耐えられず負けました。今度の反逆の一番の張本人若菜五郎は、砦をあちこちに築いております。それは、伊勢国の日永(四日市市)若松(鈴鹿市)南村(四日市市)高角(四日市市)関(亀山市)小野(亀山市)などです。しかし、仕舞には関か小野で命を取られましたとさ。この何度かの戦いのいきさつや軍兵の手柄などを詳しく書いてよこしました。山内首藤刑部丞三郎經俊と瀧口六郎達は、最初は平氏のすさまじい兵力を恐れて逃げ出してしまいましたが、後になって平賀朝雅に出会ったので、一緒に戦ったと、同じようにこのことも書いてよこしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 こくし　ら　の　うった　　　つ　　　　　　さた　　　 へら　　　　のことあ
元久元年(1204)五月小八日庚午。國司等之訴へに就き、沙汰を經被る之事有り。

いはゆる　 さんかい　しゅりょう　 こくが　　しょえき　　したが　べ　　　こと
所謂、山海の狩漁は國衙の所役に從う可き事、

しおや　　しょとう　　　さんぶいち　 もっ　　ぢとうぶん　　な　　　よくりゅうのぎ　　　　や　　　　べ　　　こと
塩屋の所當は三分一を以て地頭分と爲し抑留之儀を止める可き事、

せちりょう　やきまい　 こくし　　　とくぶんたるべ　　こと　　いじょう　　さんかじょう
節料の燒米は國司の得分爲可き事、以上の三ケ條。

かつう　こくせん　したが　　　かつう　せんれい　まか　　　　さた　いた　　べ　　のむね　　　ぢとうら　　　おお　　つ　　　らる
且は國宣に随い、且は先例に任せ、沙汰致す可き之旨、地頭等に仰せ付け被る。

さえもんのじょうよしむら　　さきょうのしんなかなり ぶぎょう　 な　　　　うんぬん
左衛門尉義村、 左京進仲業 奉行を爲すと云々。

また　 いせのくに いんべぐんじ しんしゆきつな　　ようち の　うたが　 あ　　　　　よっ　　　　めしうどたる　いへど
又、伊勢國員辨郡司進士行綱�@、夜討之疑い有るに依て、囚人爲と雖も、

か　　　ようちは　　　　いせへいし　わかなのごろうら　　　しわざたるのよし　　じゅうるい　はくじょういできた　のかん
彼の夜討者、伊勢平氏若菜五郎等の所行爲之由、從類が白状出來る之間、

ゆきつなとがな　 のむね　　そ　　　　さた　あ　　　　　　　きょうこうめん　　こうむ
行綱過無き之旨、其の沙汰有りて、今日厚免を蒙る。

あまつさ　ほんじょ　あんどすべ　のおもむき　　えんしゅう　げち　　くは　　たま　　　　うんぬん
剩へ 本所を安堵可し之趣、 遠州 下知を加へ給ふと云々。

参考�@行綱は、員部大領家綱の子。員部郡司。三重県いなべ市員弁町。七巻文治三年六月二十九日条で、畠山重忠の代官が横領し家綱が重忠を訴えている。建仁三年(1203)十二月二十五日条で疑いをかけられ、建仁四年(1204)二月十日条で和田太郎義盛に捕まる。

現代語元久元年(1204)五月小八日庚午。朝廷を通して国司たちから訴えがあったので、審議裁決をする課題があります。それは、山や海での狩猟者は国衙へ税金を納める事、製塩事業者は三分の一だけを地頭への納付分とし、その他の滞納を止める事、節の行事に用いる飲食物の焼き米の税金は、国司の取り分である事、以上の三つについては、一つは国司の交付文書に従う事、一つは先例に合わせ、処理をするように地頭に命令を出しました。三浦左衛門尉義村と右京進中原仲業が担当だそうです。

また、伊勢国の伊部郡の郡長印部文章生行綱は、夜中に伊勢の代官所へ押し入った者として疑いがあるので囚人として預けられていましたが、その夜討は平氏の若菜五郎などの行為だと分かり、仲間から自白状に出たので、行綱は罪がありませんので、その裁決があって今日、許されました。その上、本来の領地を従来通り管理するように、遠江守北条時政殿が命令を出しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いせへいしら　ついとう　　しょう　こと　　　そ　　　さた　あ　　　　　ひろもとあそん　もんちうじょにゅうどうら　これ　ぶぎょう
元久元年(1204)五月小十日壬申。伊勢平氏等追討の賞の事、其の沙汰有り。廣元朝臣、問注所入道等之を奉行す。

ともまさ　いせのくにしゅごしき　　ぶにん　　　　　　 また　　か　 やから　 しりょうすいでん　たま　　　　くだん　りょうごく　　しゅごは　　つねとし　　ほんしきなり
朝雅伊勢國守護職に補任さる。又、彼の輩の私領水田を給ふ。件の兩國の守護者、經俊が本職也。

しか　　　　へいしの　へんし　　　けんいに　おそ　　とうぼうのかん　　かいぶ　さる　　ところなり
而るに平氏之片時の權威于恐れ逃亡之間、改補�@被る所也。

参考�@改補は、改めて(取り替えて)任命される。

現代語元久元年(1204)五月小十日壬申。伊勢平氏をやっつけた褒美について、その裁決がありました。大江広元と問注所入道三善善信がこれを指示担当しました。平賀武蔵守朝雅は、伊勢国の守護職に任命されました。また、伊勢平氏たちが管理していた領地や水田を与えられました。伊勢と伊賀の二つの国の守護は、山内経俊が元の職でしたが、平氏が攻めてきた時に、一時の軍勢力を恐れて逃げ出したので、替えられたのです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あまみだいどころ　こんごうじゅふくじ　　をい　　　　おんぶつじ　　しゅうさる　　　　そふぼ　　　ごついぜん　　うんぬん
元久元年(1204)五月小十六日戊寅。尼御臺所 金剛壽福寺に於て、御佛事を修被る。祖父母の御追善と云々。

現代語元久元年(1204)五月小十六日戊寅。尼御台所政子様は、金剛寿福寺で法事を行いました。祖父母の追善供養だそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こうだいしょうけ　　　おんしょら　　　こと　　せんじつ　　おたずね　つ　　　　しょじのやからおお　 もっ　 これ　 しんらんせし
元久元年(1204)五月小十九日辛巳。故右大將家の御書等の事、先日の御尋に就き、所持之輩多く以て之を進覽令む。

そ　　　うち　　おやまのさえもんのじょう　どうしちろう　ちばのすけ　　おのおの　すうじっつう　　けん　 せし　　　 そ　　　ほか　　あるひ　いっし　　も　　　　　　　これりょうさんつう
其の中、小山左衛門尉、同七郎、千葉介、　各　數十通を献ぜ令む。其の外は或は一帋。若しくは之兩三通。

みなこれ　うつ　　おかれ　　　　　か　　　とき　　ごせいばい　　いしゅ　　し　　　　　め　　れんためなり　 ひろもとあそんもう　　おこな　　　うんぬん
皆之を寫し置被る。彼の時の御成敗の意趣を知ろし食さ被爲也。廣元朝臣申し行うと云々。

現代語元久元年(1204)五月小十九日辛巳。故右大将家頼朝様の花押(サイン)で発出した文書について、先日の将軍実朝様の質問に対し、持っている多くの連中は、これをご覧に提出しました。その内、小山左衛門尉朝政・結城七郎朝光・千葉介成胤は、それぞれ数十枚を提出しました。その他の人達は、一通から二・三通でした。これを皆写し取っておかれました。その時の裁決の政治方針を知るためなのです。大江広元が勧めましたとさ。

六月へ

吾妻鏡入門第十八巻