吾妻鏡入門第十八巻

元久二年乙丑(1205)八月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　きょうと　　はっけんのひきゃくかんとうに　きさん　　　　きんご ちう　　ふく　　よしこれ　　もう
元久二年(1205)八月小二日丙辰。�ﾘ。京都へ發遣之飛脚關東于歸參す。金吾誅に伏す由之を申す。

現代語元久二年(1205)八月小二日丙辰。晴れです。京都へ派遣した伝令が関東へ帰ってきました。平賀右衛門佐朝雅は殺されましたと報告しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　ねのこく　　おおおかのびぜんのかみときちか　しゅっけ　　　 これ　えんしゅう らくしょくさる　こと　　よっ　　なり
元久二年(1205)八月小五日己未。霽。子尅。　 大岡備前守時親�@　出家す。是、遠州 落餝被る事に依て也。

参考�@大岡時親は、牧三郎宗親の子。時政の後妻、牧の方の兄弟にあたるので、その縁座であろう。

現代語元久二年(1205)八月小五日己未。晴れました。夜中の十二時頃に、大岡備前守時親が頭を丸めました。これは、遠江守北条時政殿の出家との関わりです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 くも　　　　うつのみやのいやさぶろうよりつな　　むほん はっかく
元久二年(1205)八月小七日辛酉。陰り。 宇都宮弥三郎頼綱 が謀叛發覺す。

すで　　いちぞくなら　　　ろうじゅうら　　いんそつ　　　かまくら　　まい　　　　　　こ　　　　　のよし　　　ふうぶんあ　　　　よっ
已に一族并びに郎從等を引卒し、鎌倉へ參らんと擬らす之由、風聞有るに依て、

そうしゅう　ひろもとあそん　　 かげもりら　 あまみだいどころ　おんてい　　さん　　　ひょうぎあ
相州、廣元朝臣、景盛等、尼御臺所の御亭へ參じ、評議有り。

ことをは　 おやまのさえもんのじょうともまさ　 め　　　〔　ひきがき　　　すいかんばかま　　き　　　　〕　 　　ともまささんじょう　　　そうしゅう　　 ござ　　 たい　 そんきょ
事訖り小山左衛門尉朝政を召す〔曳柿の水干�@袴を着る〕。々々參上し、相州の御座に對し蹲居す。

ひろもとおお　うけたまは　い
廣元仰せ奉りて云はく。

きんじつ　 しょにん　 ろうるいあいつづ　 せし　　　とうかん せいひつせず
近日、諸人の狼唳相續か令め、東關 靜謐不。

そ　つつし　これおも　　のところ　　よりつな またかんきょく　たく　　 　しょうぐんけ　 はか　たてまつ　　 　ほっ　　　　うんぬん
其の愼み惟重き之處、頼綱 亦奸曲を巧み、將軍家を謀り奉らんと欲すと云々。

しか　　　　ともまさ　　のうそひでさとあそん まさかど　 ついとう　 けんじょう　あずか　いらい　　げしゅう　　まも　　　　そ　　　しきいま　　ちうぜつ
而るに朝政、曩祖秀郷朝臣將門を追討し勸賞に預る以來、下州の護り、其の職未だ中絶せず。

こくない　〔うつのみや〕　　　 きょうしゃ　いかで　これ　 しずめざるや
國内〔宇都宮〕の驕奢、爭か之を鎭不乎。

したがって　さんぬ　じゅえいにねん　しだのさぶろうせんじょう　 ほうき　　 たいじ　　　　　のかん　　　とひ　かん　　どう
随而、去る壽永二年、志太三郎先生の蜂起を對治する之間、都鄙感を動ず。

よっ　　しょう　 おこ　　らる　　　のひ　　おんくだしぶみの ししゅげんみつ　 これ ぶげい　 びもくなり　　しからば　　またよりつな　 きょうしゃ　 の　　 べ
仍て賞を行は被る之日、 御下文 之旨趣嚴密。是武藝の眉目也。然者、亦頼綱が驕者を退く可し。

ともまさもう　　　　い
朝政申して云はく。

よりつなは　しゅくのよしみあ　　　　 たと　　げんめい　おう　　　　そ　　　じつ　 へん　　　　　いへど　　　たちま　ついとうし　たてまつ　　　　　ほうじょうな　　　　　　や
頼綱者叔家之好有り。縱い嚴命に應じ、其の昵を變ずると雖も、忽ち追討使を奉るは、芳情無からん乎。

はや　たのひと　　おお　 らる　 べ　　　か　　　ただ　 ともまさほんぎゃく　よどうせず　　ぼうせん　 をい　 は　　 きんりょく　つく　　べ　　　のよし　　これ　　じ　　　もう
早く他人に仰せ被る可き歟。但し朝政叛逆に与同不。防戰に於て者、筋力を盡す可き之由、之を辞し申す。

参考�@水干は、狩衣の変化したもので、水張りにして干した絹の服、下に袴を穿く。

現代語元久二年(1205)八月小七日辛酉。曇りです。宇都宮弥三郎頼綱の反逆がばれました。既に一族や家来たちを引き連れて、鎌倉へ来ようとしているとの噂があるので、相州北条義時・大江広元・安達景盛達が、尼御台所政子様の屋敷へ集まって、会議をしました。相談が終わって、小山左衛門尉朝政を呼びました〔柿色の水干を着ています〕。小山朝政がやってきて義時の座席の前に膝をついて控えました。大江広元が、尼御台所政子様からの命令を承って言いました。

「最近、あちこちに騒ぎが続いて、関東が落ち着かない。それを思えば、静かに慎むのが重要な時なのに、宇都宮頼綱が悪だくみをして、将軍実朝様を亡き者にしようと考えているそうだ。そこで小山朝政は、先祖の藤原秀郷が将門を追悼して恩賞を貰って以来、下野の守護としてその職が中断することなく続いている。国内でおごりたかぶっている宇都宮をどうして征伐しないのだ。昔の寿永二年に志田三郎先生義廣が叛逆に立ち上がったのを征伐した時、世間は皆感動したものです。その表彰を行った日の頼朝様の命令書は絶大です。それは武士として大変名誉なことです。それだから、おごりたかぶる者を排除すべきなのです。」

小山朝政は返答しました。「宇都宮頼綱とは叔父甥の付き合いがあります。たとえ、命令に従って、その間柄を変えたとしても、すぐさま征伐の大将を受けることは、薄情ではありませんか。どうか他の人に命じられてください。ただし、小山朝政は叛逆に味方するようなことはありません。攻めてこられれば防ぎ戦うことはちゃんとします。」と云って、この役を辞退しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　うつのみやのいやさぶろうよりつな　じょうを そうしゅう　 けん　　　　ともまさじょうをあいそ　　か　　　ふみ　　と　　すす
元久二年(1205)八月小十一日癸酉。�ﾘ。 宇都宮弥三郎頼綱、 状於相州に献ず。朝政状於相副へ彼の文を取り進む。

これ　 ぼうけい　 ぞんぜずのよしちん　 もう　　　　けだ　　ともまさ　　きょうくん　え　　　のゆえなり
是、謀計を存不之由陳じ申す。盖し朝政が教訓を得る之故也。

それ　　つ　　　　 だいかんれい　ごと　　　　　 せいだん　 こ　　　　　　 ごほう　　あたはず　　うんぬん
其に就き、大官令の如きが、�C談を凝らし、御報に能不と云々。

現代語元久二年(1205)八月小十一日癸酉。宇都宮弥三郎頼綱は、手紙を義時に差し出しました。小山朝政が一筆添えて彼の手紙を取り次ぎました。内容は、叛逆なんか考えていませんと弁解しています。まさしく小山左衛門尉朝政の教えを受けたからでしょう。これについて、大江広元等が検討して、わざわざ報告する必要はないでしょうとのことです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はなは　あめ　 つるがおか　ほうじょうえ　しょうぐんけぎょしゅつな　　　すがのぜんじすえときほうへ　　おんし　　 な　　　　　うんぬん
元久二年(1205)八月小十五日己巳。甚だ雨。鶴岳の放生會。將軍家御出無し。駿河前司季時奉幣の御使を爲すと云々。

現代語元久二年(1205)八月小十五日己巳。ものすごい大雨です。鶴岡八幡宮の生き物を放つ儀式放生会です。将軍実朝様は出ません。駿河前司中原季時が代参です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　しょうぐんけ　　またぎょしゅつな　　 すえときさんぐうきのう　おな
元久二年(1205)八月小十六日庚午。霽。將軍家、又御出無し。季時參宮昨に同じ。」

きょう　うつのみやのいやさぶろうよりつな　　しもつけのくに　をい　　ぞく　　のが　　　〔ほうみょう　　れんしょう〕　　おな　　　　ろうじゅうろじうよにんしゅっけ　　　　うんぬん
今日 宇都宮弥三郎頼綱、 下野國 に於て俗を遁る〔法名は蓮生〕。同じく郎從六十餘人出家すと云々。

現代語元久二年(1205)八月小十六日庚午。晴れました。（鶴岡八幡宮の流鏑馬の奉納）将軍実朝様は又も出ません。右京進中原季時が昨日と同じ代参です。」
今日、宇都宮弥三郎頼綱は、下野国(宇都宮市)で、出家をしました〔法名は蓮生〕。同様に部下六十余人も出家したそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　れんしょうほっし　 うつのみや　　た　　　　　かまくら　　しんぱつ　　 これ　　そ　　　あやま　な　　 のよし　　あやま　もう　　ため　　うんぬん
元久二年(1205)八月小十七日辛未。�ﾘ。蓮生法師、宇都宮を立ち、鎌倉へ進發す。是、其の誤り無き之由を謝り申す爲と云々。

現代語元久二年(1205)八月小十七日辛未。晴れです。蓮生法師(宇都宮弥三郎頼綱)は、宇都宮から鎌倉へ出発しました。叛逆の心は無いので出家したことに間違いないと謝って弁解するためだそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　うつのみやのいやさぶろうにゅうどうれんしょう　　かまくらにとうちゃく　そうしゅう　おんてい　 まい　　　いへど　　　たいめん　 たまはず
元久二年(1205)八月小十九日癸酉。　宇都宮弥三郎入道蓮生、　鎌倉于到着し相州の御亭へ參ると雖も、對面し給不。

ゆうきのしちろうともみつ　ふ　 もとどり　けん　　　　これ　　ちんしゃのあまりなり　　ともみついんぎん　　これ　　と　　　もう
結城七郎朝光に付し髻を献ず。是、陳謝之餘也。朝光慇懃に之を執り申す。

もとどり　をい　　は　　　ごらん　　へ　　　ののち　　ともみつ　　あず　　らる　　ところ　うんぬん
 髻に於て者、御覽を歴る之後、朝光に預け被る所と云々。

現代語元久二年(1205)八月小十九日癸酉。宇都宮彌三郎頼綱蓮生は、鎌倉に到着して義時の屋敷へ行きましたが、会ってはもらえませんでした。結城七郎朝光を通してちょんまげの髻を提出しました。それは、事情を詫びるためです。結城朝光は丁寧にこれを取り次ぎました。(義時は)髻については見たあと、朝光に預け置いたそうです。

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