吾妻鏡入門第十八巻

建永元年丙寅(1206)五月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれくも　　　さいしゅ　じゅにいよしたかきょう　ししゃ　　　すす　　　　　　もう　　　　い
建永元年(1206)五月大六日丙戌。�ﾘ陰り。祭主�@從二位能隆�A卿、使者を進めて、申して云はく。

かとうさえもんのじょうみつかずは　　　びしん　　けいし　なり　　しか　　　けいねんのかん　　かんとう　　しこう　せし　　　　よっ　　　　　ぶい　　 つの　　　 しょかん　　したが　ず
加藤左衛門尉光員者、微臣�Bが家司�C也。而るに頃年之間、關東に祗候令むに依て、武威を募り、所堪�Dに從は不。

しんりょう　をい　　は　　 また　ほしいまま　すうかしょこれ　　ちぎょうせし
神領に於て者、又、 恣に 數ケ所之を知行令む。

あまつさ　しさい　　あいふ　　　ず　　　　きょねんじういちがつ　ひそか　し　　 せんじ　　こうむ　　　うんぬん
剩へ子細を相觸れ不に、去年十一月、潜に使の宣旨�Eを蒙ると云々。

はや　　そ　　 しき　　と　　　らる　　べ　　 てへ　　　　　　ここ　　そうしゅう　ひろもとあそん　　ぜんしんら　さた　　へ　らる
早く其の職を止め被る可し者れば。爰に相州、廣元朝臣、善信等沙汰を經被る。

みつかず　　しんりょう　をい　　ちぎょう　 ことは　きんあつ　くわ　　べ
光員、神領に於て知行の事者禁遏を加へる可し。

ていい　　 こと　　いた　　　 は　さいめん　 こう　　のかん　　せんとう　 おんはか　 たるか　　　かんとう　　　ごさた　　およばずのよし これ　 おお　 らる　　　　うんぬん
廷尉の事に至りて者西面�Fに候ず之間、仙洞の御計り爲歟。關東の御沙汰に及不之由之を仰せ被ると云々。

参考�@祭主は、伊勢神宮の神職の長。大中臣氏の世襲。
参考�A能隆は、大中臣（1146-1234）で、神祇官の大副（すけ）。父は親隆。母は卜部兼時女。伊勢祭主。大二位殿と呼ばれた。ウィキペディアから
参考�B微臣は、この表現は珍しいので、吾妻鏡が書かれた時代に手紙の実物があったのではないだろうか。
参考�C家司は、家の司なので、家礼と思われる。当時家礼は絶対服従の必要も無く、複数の主人に仕えても良い。但し家人となると主人はひとり。
参考�D所堪は、命令。
参考�E使の宣旨は、検非違使を任命された。
参考�F西面は、初見。白河法皇が置いた院直属の軍隊北面に加え、西面は後鳥羽上皇が置いた。

現代語建永元年(1206)五月大六日丙戌。晴れたり曇ったり。伊勢神宮の神職の長の従二位大中臣能隆が、使いをよこして申し入れてきました。「加藤太左衛門尉光員は、私どもに仕える執事でした。しかし、いつの頃からか関東に仕えるようになったので、関東の武家権威をかさにきて、命令を聞かなくなりました。伊勢神宮の領地についても、同様に好き勝手に数か所を管理してしまいました。そればかりか、去年の十一月には、鎌倉に内緒で警察庁である検非違使の任命を受けている。」との事です。「早くその職をやめさせなさい。」と云いましたので、義時・大江広元・三善善信等が検討しました。加藤太光員が伊勢神宮の領地を横取りしていることは禁止させましょう。検非違使職については、後鳥羽上皇が御所の西に設置した護衛兵の西面になったので、上皇の指示でしょうから、関東で口を出すべきではないと報告しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あめふ　　　　さきのだいぜんだいぶぶぎょう　な　　　 よしたかきょうのもう　ところ　　みつかずに たず　くださる　 のところ
建永元年(1206)五月大廿四日甲辰。雨降る。前大膳大夫奉行と爲し、能隆卿之申す所。光員于尋ね下被る之處、

ちん　　もう　　　　い　　　　　　　いせのくにどうぜんぐん　まんどころしきは　　さいしゅ　おんこたるのかん　　そ　　　せいばい　したが　ところなり
陳じ申して�@云はく。伊勢國道前郡�Aの政所職者、祭主の恩顧�B爲之間、其の成敗に從う所也。

しんりょう　ちぎょう　　ことは　　　もと　 みづか　かいはつ　のち　　かむほく　　きふ　　　　　ばか　　なり　　おうりょう　しょう　がた　　　 うんぬん
神領の知行の事者、元は自ら開發�C之地。神祝�Dに寄附する許り也。押領と稱し難しと云々。

これ　 よっ　　　さた　　 およばず　 うんぬん
之に依て沙汰に及不と云々。

参考�@陳じ申しは、弁解をする。
参考�A道前郡は、三重県いなべ市藤原町。
参考�B恩顧は、ご恩と奉公の御恩。
参考�C開發は、柳御厨で開発本領主。
参考�D神祝は、恐らく神様を指していると思われる。又は祝（はふり）。

現代語建永元年(1206)五月大二十四日甲辰。雨が降りました。大江広元が担当して、大中臣能隆が訴えてきたことを、加藤太光員に尋ねましたところ、弁解していうのには「伊勢国道前郡の管理職は、伊勢神宮長官に命じられたことですから、その指図に従っております。神宮領を管理しているのは、元々自分が開発した土地であり、上級管理者分は神様に寄付はしましたが、横取りをしていることにはなりませんよ。」との事なので、これ以上介入する必要はないと決めましたとさ。

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