吾妻鏡入門第十八巻

建永元年丙寅(1206)十二月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しげたね　　そうしゅう　さん　　　　みけしき　　こうむ　こと　　しゅうたんやす　　がた　　のよし　　もう
建永元年(1206)十二月大廿三日己巳。�ﾘ。重胤、相州に參じ、御氣色を蒙る事、愁歎休み難き之由を申す。

そうしゅう　おお　　られ　　い　　　　　　　これしじゅう　こと　あらずなり　　およ　　かく　　ごと　わざわい　あ　　　ば　　　これかんじのなら
相州、仰せ被て云はく。是始終の事に非哉。凡そ此の如き殃に逢う者、之官仕之習いなり。

ただ　　えいか　　　けん　　　　ば　　　さだ　　　　かいぜんか　　　うんぬん　　よっ　　とうざ　　をい　　ふで　　そ　　　　　いっしゅ　　ぎん　　せし　　られ
但し詠哥を献ずれ者、定めし快然歟と云々。仍て當座に於て筆を染め、一首を詠じ令め被る。

そうしゅう　これ　　かん　　　　あいともな　　ごしょ　　まい　　たま　　　　しげたねは　もんがい　　はいかい　　　　ときに しょうぐんけ　　おりふしなんめん　　しゅつご
相州、之を感じ、相伴い御所へ參り給ふ。重胤者門外を徘徊す。時于將軍家、折節南面へ出御す。

そうしゅう　か　　うたを　ごぜん　　お　　　ひらかれ　　　　いげたね　　しゅうちょのあま　　じゅっかい　およ　　　　ことのていふびんのよし　　これ　　もうさる
相州彼の哥於御前に置き披被る。重胤、愁緒之餘り述懷に及ぶ。事之躰不便之由、之を申被る。

しょうぐんけ　　ごえいか　りょうさんたん　　およ　　　　すなは　ごぜん　　め　　　　　　へんど　　ふゆ　　け　　　かれの　　ちょうぼう　　たかがり　　ゆき　　あと　　あさなど　　こと　　たず　　おお　　らる
將軍家、御詠歌兩三反に及ぶ。即ち御前に召し、片土の冬の氣、枯野の眺望、鷹狩、雪の後の朝等の事、尋ね仰せ被る。

すうこくののち　　　そうしゅたいしゅつ　たま　　　　しげたねていじょうにおく　たてまつ　　て　　　あわ　　　　けんりょ　　よっ　　めんきょ　　あずか　　　　たちま　ちんりんのうらみ　は
數剋之後、相州退出し給ふ。重胤庭上于送り奉り、手を合せ、賢慮に依て免許に預り、忽ち沈淪之恨を散らす。

しよう　そんし　　　なが　　もんか　　　そうら　べ　　　のよし　　これ　　もう　　　　　うんぬん
子葉孫枝、永く門下に候う可し之由、之を申すと云々。

現代語建永元年(1206)十二月大二十三日己巳。晴れです。東平太重胤は、相州義時の所へ来て、「将軍実朝様に怒られているので、心がめげて気が休まりません。」と云いました。
相州義時さんが言われるのには「これは何時までも続くことではありませんよ。だいたいこのような目に合うのは勤めている者ならば必ずやあることですよ。それでも和歌を献上すれば、御機嫌も直ることでしょうよ。」とのことです。
そこでその場ですぐに書き出して和歌一首を詠みました。義時さんはこれを感心して、一緒に連れて御所へ向かいました。東平太重胤は門の外で待ちました。そしたら将軍実朝様はたまたま公務の南面へ出てきていました。義時さんはその和歌を目の前に置きました。
「東平太重胤は、将軍実朝様のお怒りに悲しんで嘆いてきました。あまりにも気の毒なことですよ。」と申しあげました。
将軍実朝様はその和歌を三度も読み上げて、すぐに目の前へ呼び寄せて、片田舎の冬の様子や、冬枯れた景色、鷹狩、雪の降った翌朝の風情などについて、お聞きになりました。しばらくして、義時は引き下がりました。
東平太重胤は庭へ送り出しながら手を合わせて、御配慮のおかげでお許しを戴き、あっという間に沈んだ心は晴れあがりました。子々孫々までながく、部下としてお仕え致しますとお礼を述べましたとさ。

建永二年(1207)丁卯正月へ

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