吾妻鏡入門第十八巻

建永二年丁卯(1207)六月大

十月廿五日改元承元々年

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　あまののみんぶにゅうどうれんぎょう　〔ぞくみょうとおかげ〕　かんじょう　ささ　　　　ま　　 そうしゅう　 しん　　　 これ　　おんたく　 しょもうなり
建永二年(1207)六月大二日丙午。�ﾘ。 天野民部入道蓮景 〔俗名遠景�@〕款状�Aを捧ぐ。先ず相州に進ず。是、恩澤の所望也。

はじ　　　　じしょうよねんはちがつ　やまきがっせんよ　　　いこう　　　たびたび　くんこう　　はか　　　じういっかじょうのじゅっかい　 の　　　　だいかんれいこれ　しっ　 もう
始めに治承四年八月の山木合戰自り以降、度々の勳功を計り、十一箇條之述懷を載せ、大官令之を執し申す�B。

参考�@天野遠景は、鎮西奉行の経緯がある。
参考�A款状は、ご恩の催促が多い。
参考�B執し申すは、取次いだ。

現代語建永二年(1207)六月大二日丙午。晴れです。天野民部入道蓮景〔出家前の名は藤内遠景〕が上申書を出しました。まず、相州北条義時に提出しました。内容は褒美の要求です。最初に治承四年(1180)八月の山木判官兼隆を攻めた戦以来、何度も手柄を立てた事を考えて、十一か条に過去の出来事を書き出しました。大官令大江広元が取り次ぎました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くも　　　　れいき　れいねん　　にず　　すこぶ　さんしがつ　　ごと　　　　せじょう　　きせん おお　 もっ　 びょうのう
建永二年(1207)六月大十六日庚申。陰り。凉氣例年に似不。頗る三四月の如し。世上の貴賎多く以て病惱す。

現代語建永二年(1207)六月大十六日庚申。曇りです。今年は夏だと云うのに、気温が上がらずまるで三月か四月の陽気です。このため世の中の偉い人も貧乏人も皆、大勢が病気がちです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　ぼうもんあそう　〔のぶきよきょう〕　　　ししゃさんちゃく　　　　にんなじ　おむろ　　 りょうじ　　すす　　らる　ところなり
建永二年(1207)六月大廿二日丙寅。霽。坊門亞相�@〔信�C卿〕の使者參着す。仁和寺御室�Aの令旨を進め被る所也。

これ　　きいのくに　　 どみんら　こうやさん　　 らんにゅう　　 しゅりょう　 くはだ　　　 じりょう　　おうぼう　　　　いずみ　　きいのくにしゅごだいもっぱ　　そ　　 ちょうほんたり
是、紀伊國の土民等高野山へ乱入し、狩獵を企て、寺領を押妨す。和泉、紀伊國守護代專ら其の張本爲。

かんとう　　 おんさた　　　な　　　　 ろうぜき　 とめらる　　べ　　のおもむき　　じもん しゅうそ あ　　のかん　　おむろ　　くだん　　こんごうぶじ　しょしら　　　　じょう　 もっ　　　　ぼうもん　　おお　 あわさる
關東の御沙汰と爲し、狼藉を止被る可き之趣、寺門愁訴有る之間、御室、件の金剛峯寺�B所司等の状を以て、坊門に仰せ合被る。

よっ　　また　　 そ　　むね　 つた　　もうさる　　　　うんぬん
仍て又、其の旨を傳へ申被ると云々。

参考�@亞相は、相に続くで大納言。相は、律令制では太政大臣、右大臣、左大臣の三職のみ相で三公と云う。摂関家では左右内大臣を指す。
参考�A仁和寺御室は、後白河法皇の息子で高倉上皇の猶子。
参考�B金剛峯寺は、高野山。

現代語建永二年(1207)六月大二十二日丙寅。晴れました。将軍奥さんの父の坊門大納言〔信清さんです〕の使いが到着しました。仁和寺の御室(後白河息子)の手紙を取り次いできたのです。その内容は。紀州(和歌山県)の民衆達が高野山へ入り込んで、狩をして寺の年貢を横取りしています。それが和泉国紀伊国守護の代官が先に立っての狼藉なのです。関東からの命令として乱暴な行為を止めるようにと、三井寺から訴えて来たので、御室がその高野山の事務長の手紙を添えて、坊門信清様に頼んできたのです。それなので、信清様はそれを伝えてきた訳です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　おむろ　　 おお　　　 つ　　　　　ぼうもんあそう　　こうやさん　　しゅうそ　　きいのくに　どみん　　ろうぜき　　 こと　　しっ　 もうさる
建永二年(1207)六月大廿四日戊辰。�ﾘ。御室の仰せに就き、坊門亞相、高野山の愁訴、紀伊國土民の狼藉の事を執し申被る。

ごしょ　　　をい　　そ　　　　さた　あ
御所に於て其の沙汰有り。

いずみ　　　きいりょうごく　　しゅご　は　　 さわらのじうろうさえもんのじょうよしつら　しきなり　　よしつらそっきょ　ののち　 いま　　そ　　　か　　　　　ぶされ
和泉、紀伊兩國の守護者、佐原十郎左衛門尉義連の職也。義連卒去�@之後、未だ其の替へを補被ず。

しか　　　　か　　りょうごく　　いん　 おんくまのもうで　　ため　　えきけ　　ぞうじ　　　いまよ　　　いご　　　さ　　　　　こと　　ほかな　　　　　しゅごにん　　お　　　べからず
而るに彼の兩國。院の御熊野詣の爲の驛家の雜事、今自り以後、指せる事の外無し。守護人を置く不可。

これ　　つ　　　　　しょじ　せんとう　 おんはか　たるべ　　　のよし　　これ　　さだ　　らる
之に就き、諸事仙洞の御計り爲可き之由、之を定め被る。

よっ　　よしつら　 かは　 はや　 めしあ　　 べ　　　 のよし　　おんしょを　かもんにゅうどうじゃくにんのもと　　つか　　さる　ところなり　　ひろもとあそんこれ　　ぶぎょう
仍て義連の代り�A早く召上ぐ可し之由、御書於 掃部入道寂忍 之許へ遣は被る所也。廣元朝臣之を奉行す。

参考�@義連卒去は、建仁三年(1203)の死亡時まで和泉、紀伊の守護をしていた。
参考�A義連の代りは、代官。

現代語建永二年(1207)六月大二十四日戊辰。晴れです。御室からの言い分について、坊門大納言信清様が高野山の訴えの紀州の民衆の乱暴を取り次いできました。御所でそのことについて検討されました。和泉国紀伊国の守護は、三浦十郎左衛門尉義連の持ってる職です。三浦義連が亡くなった後、未だに交代の者を決めていませんでした。しかし、この両国は、後鳥羽院の熊野詣のための宿場の雑事以外は無いので、今後幕府としては用がないので、守護を置く必要がありません。そこで、ここは上皇の事務所に任せるのが良いと決められました。それなので、三浦義連の代官を引き揚げさせるように、命令書を京都の掃部入道寂忍(中原親能)に出すことになりました。大江広元が担当です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おんみょうじ さきょうのすけこれのり　きょうとよ　　　さんちゃく
建永二年(1207)六月大廿九日癸酉。 陰陽師 左京亮維範、京都自り參着す。

　ごきとう　　　こと　　おお　 つ　　 られ　 ため　　わざ　　もっ　　これ　　めしくださる
御祈祷の事を仰せ付け被ん爲、態と以て之を召下被る。

現代語建永二年(1207)六月大二十九日癸酉。陰陽師の左京亮安陪惟範が、京都から到着しました。お祈りをさせるためにわざわざ京都から呼び寄せたのです。

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