吾妻鏡入門第十九巻

承元二年戊辰(1208)十月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　あまみだいどころ　 ごすくがん　　はた　　　 ため　　くまのさん　　ぎょさん　　　　こんちょううのこく　しんぱつせし　 たま
承元二年(1208)十月大十日丙子。�ﾘ。尼御臺所、御宿願�@を果さん爲、熊野山へ御參す。今朝夘尅、進發令め給ふ。

むさしのかみこしょう　　　　〔おな　　　　にじうしちにちごじゅらくなり〕
武藏守扈從す。〔同じく廿七日御入洛也。〕

参考�@御宿願は、神かけ頼む願い事。愚管抄に「実朝サアリシ時子モモウケヌニサヤ有ヘキナト卿二位物語シタリシ」とある。

現代語承元二年(1208)十月大十日丙子。晴れです。尼御台所政子様は、前からの願を果たすために、熊野詣でに出かけました。今朝の卯の刻（六時頃）に出発しました。武蔵守北条五郎時房がお供です。〔同じ今月の二十七日に京都入りしました〕

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　とうのへいたしげたね　〔とうのところ　ごう　　〕　せんと　　と　　　　　きょうとよ　　　きさん
承元二年(1208)十月大廿一日丁亥。東平太重胤〔東所と号す〕先途を遂げ�@、京都自り歸參す。

すなは　ごしょ　　めされ　　　らくちう　　ことなど　　もう
即ち御所に召被、洛中の事等を申す。

ま　　　くまがいのじろうなおざねにゅうどう　　くがつじうよっかひつじのく　もっ　　しゅうえんのご たるべ　　 よしあいふる　 のかん
先ず 熊谷二郎直實入道 、九月十四日未尅を以て終焉之期爲可き由相觸る之間、

とうじつ　　いた　　　 けちえん　 どうぞく　　か　 ひがしやま　 そうあん　 いぎょう
當日に至り、結縁の道俗、彼の東山の草庵を圍繞する。

じこく　　　　　　けさ　　　ちゃくい　　　　らいばん　のぼ　　　　たんざがっしょう　　　こわだか　 ねんぶつ　 とな　 と　　 おえ　　　　かね　 いささ　　　びょうきな　　　　うんぬん
時尅に、袈裟を着衣し、礼盤に昇り、端坐合掌し、高聲に念佛を唱へ執り終る。兼て聊かも病氣無しと云々。

つぎ　さんぬ　つき　にじうしちにちやはん　すざくもんしょうぼう　　　ひたちのすけともとし　〔ともたかきょうまっそん　きゅうばすまい　　たっしゃ〕　　たいまつ　　と　　　もん　　のぼ
次に去る月、廿七日夜半、朱雀門燒亡す。常陸介朝俊〔朝隆卿末孫。弓馬相撲の達者〕松明を取り門へ昇り、

はとのこ　　と　　　かえ　　さ　　　のかん　　くだん　ひ　こ　わざわい　な
鳩子を取り歸り去る之間、件の火此の災を成す。

およ　 きんねん　 てんし　　じょうこう　ことごと　はと　 この　　せし　 たま　　　　ながふさ　やすのりら　もとよ　　　ようきゅう　　とき　　えて　こと　　ふんそう　　　　うんぬん
凡そ近年、天子、上皇、悉く鳩を好ま令め給ふ。長房、保教等本自り養鳩。時を得兮殊に奔走すと云々。

か　　　もん　しょうぼう　　よっ　　　さんぬ　いつか　 しゃば　　 はじ　　　　ひ　　　　　うんぬん
彼の門の燒亡に依て、去る五日射塲�Aを始めて引くと云々。

参考�@先途を遂げは、閏四月二十七日に上西門院に奉公のため上洛している。
参考�A射塲は、弓の練習をする所。矢場、弓場とも。（但しこの文章ではいきさつが良くわからない）

現代語承元二年(1208)十月大二十一日丁亥。東平太重胤〔東所と名乗る〕上西門院への奉公を終えて、京都から戻りました。すぐに御所へ呼ばれて、京都の事などを報告しました。

まず、熊谷次郎直実入道蓮生坊が、九月十四日未の刻（午後二時頃）にこの世を去ると発表していたので、その日になって、仏の縁を結びたいと集まった僧も大衆も、かれの東山の庵を取り囲みました。時刻になると袈裟を着て、高座にのぼって姿勢を但して座り手を合わせて、大きな声で南無阿弥陀仏の念仏を唱えながら終末を迎えました。普段からまったく病気もないのにです。

次に、先月の二十七日の夜半に朱雀門が燃えてしまいました。常陸介朝俊〔藤原北家朝隆様の末孫で弓馬相撲がうまいのです〕が、松明を持って門に昇って、鳩の子を取ってきた時の火の不始末が原因でこの火事になりました。どうも最近、土御門天皇も後鳥羽上皇も、何かに付けて鳩を好んでいます。長房と保教はもともと鳩を飼っていますので、この時とばかり特に手を尽くしたそうです。この門の火事があったので、先日の五日に弓の練習場弓場の位置を初めて決めましたとさ。

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