吾妻鏡入門第十九巻

承元三年己巳(1209)十二月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 みだいどころ　　おんかた　　しこう　　しょだいぶ　さむらいら　しょうぐんぎょしゅつ　　 ぐぶ　　　したが　べ
承元三年(1209)十二月小一日辛酉。御臺所の御方に祗候の諸大夫、侍等、 將軍御出 の供奉に随う可し。

また　　か　　 しんおん　 つの　　　　へいきん　　 くじ　　 つと　　べ　　　 のよし　　きょう　これ　　さだ　 らる　　　　うんぬん
又、彼の新恩に募り、平均に公事を勤む可き之由、今日之を定め被ると云々。

現代語承元三年(1209)十二月小一日辛酉。将軍実朝様奥さんに京都から着いてきたお供の連中の五位の者や侍達は、将軍実朝様のお出かけにはお供をするように。又、鎌倉幕府から領地などを貰ったものは、全員が公務への勤務をするように、今日、お決めになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 みまさかくらんどともちか　　おがしまたちばなさえもんのじょうきんなり と　　そこつ　　かっせん　 いた　　　　　　ほっ
承元三年(1209)十二月小十一日辛未。 美作藏人朝親、 小鹿嶋橘左衛門尉公業 与、楚忽に合戰を致さんと欲す。

あいたが　　　えんじゃきそ　　は　　　　　　 みうら　　いちぞく　　かたうど　　しょう　　　きんなりのもと　　きた　　くは
相互いに縁者競い馳せる。三浦の一族、方人と稱し、公業之許へ來り加はる。

たけだ　　おがさわらのやから　　　 また　　ともちか　 たす　　　　ためはし　 あつ
武田、小笠原之輩は、又、朝親を扶けん爲奔り集まる。

しょうぐんけ　き　　　　め　　 おどろ　のところ　さむらいどころべっとう　　よしもり　　をい　　は　　 はや　　　 きんなりかた　 あ
將軍家聞こし食し驚く之處、 侍所 別當 の義盛に於て者、早くも公業方に在り。

ぶしゅう　　つか　　　　　 なだ　 おお　 らる　　のかんしばら　　むい　　　うんぬん
武州を遣はし。宥め仰せ被る之間暫く無爲と云々。

これ　　ともちか　　きんなりら　　すくしょ　　もんび あいたい　　　 とも　　がんろなり　　 しか　　　　ともちか　 つま しさいあ　　　　　　さいつごろ にはか　もっ　　ちくてん
是、朝親、公業等が宿所�@は門扉相對し、共に眼路也。而るに朝親が妻子細有りて、近曽 俄に以て逐電す。

そ　　　ころ　　へいしょくのほど　　　あおめ ひとり こつぜん　　　て きんなり　　もんない　 い　　　きた
其の比、秉燭之程に、��女一人忽然とし而公業が門内へ入り來る。

わづか　げっこう　 あた　 これ　 み　　　　　かたちほと　　しゅみょう　いひ　　べ　　　そ　　　ゆえ　　しらず　いへど　　　きんなりいろ　　ふけ　のこころざし あ
微に月光に當り之を覲る。皃殆んど殊妙と謂つ可し。其の故を知不と雖も、公業色に耽る之 志 有り。

ことと　　　ず　　  ごうすく　　　　すで　 すうじつ　　およ
事問は不に合宿し、已に數日に及ぶ。

きょうがいのものあ　　　　　ともちか　れんぼのみぎりにゆきむか　　　　ひごろ　きんあり　か　おんな　　みっつうせし　　　けっく　どうけ　　　　のよしこれ　　かた
凶害之者有り。朝親、戀慕之砌于行向い、日來公業彼の女に密通令め、結句同家する之由之を語る。

よっ　　すくい　　と　　　　　　　ほっ　　　　うんぬん
仍て宿意を遂げんと欲すと云々。

ぶしゅう　　おお　　　うけたま　　 たず　 きは　 らる　 のところ　　くだん　つまたるのじょう　　 いぎ　な　　 のかん　　ほんぷ　　いだ　 わた　 べ　　　のむねおお　　あ
武州、仰せを奉り、尋ね究め被る之處、件の妻爲之條、異儀無き之間、本夫に出し渡す可き之旨仰せ有り。

きんなりいったん　　もう　　のむねあ　　　　いへど　　 ただはか　 ざ　　 かいごうなり　　こなん　あ　　べからずのよし　　さいおう おんさた　　 へ　ら
公業一旦は申す之旨有りと雖も、只圖ら不る會合也。巨難有る不可之由、再往御沙汰を經被る。

さら　　とんぴの　すべな　　　　 つ　　　　　これ　 おく　　つか　　　　 いへど　　　　かさ　　　あと　　くら　　　　　　ともちかなおかっせんの　ぎ　　そな　　　　うんぬん
更に遁避之術無きに就き、之を送り遣はすと雖も、重ねて跡を暗ます。朝親猶合戰之儀に備うと云々。

参考�@宿所は、石井進氏の説く御家人の屋敷地三点セット『�@は幕府へ出仕する際に正装するための「着替用上屋敷」(鎌倉中心部)。�A鎌倉での寝泊りや普段の暮らしの為の「生活用中屋敷」(鎌倉内周辺部)と思われる。�Bは鎌倉での生活のための食糧生産の「供給用外屋敷」(鎌倉郊外)。但し名称は塾長命名』のうち�Aの「生活用中屋敷」と思われる。

現代語承元三年(1209)十二月小十一日辛未。美作蔵人朝親が、小鹿島橘次左衛門尉公成と突然戦おうとしました。
双方ともに縁故の者が駆けつけました。三浦の一族は仲良しだと云って、橘次公成のところへ加勢しました。武田と小笠原の連中はまた、朝親を助けるために走って集まってきました。
将軍実朝様はこれを聞いて驚いきましたが、軍事警察担当の侍所の長官和田左衛門尉義盛が、役目を忘れ三浦一族としてさっさと橘次公成のところに居ます。
そこで武州時房を派遣してなだめさせたところ、無事だったそうな。
さて、朝親と橘次公成の生活屋敷は門が向かい合って、互いに目の前なのです。そして朝親の奥さんは事情があって、最近急にどこかへ行ってしまったのです。その頃、灯りを灯す夕暮れに女が一人前触れもなく橘次公成の門の中へ入ってきました。わずかな月光を浴びたその姿はとても色っぽかったのです。そういういきさつを知らないとはいっても橘次公成はスケベ心がたっぷりなので、事情を聴かずに抱いて寝てしまい数日経ってしまいました。
ここでたちの悪い奴がおりました、朝親の恋い慕っている気持ちにつけこんで、普段から橘次公成が、あなたの妻と浮気をしていて、挙句の果てに同居してしまったんだと告げ口をしました。これで恋のかたき討ちをしようとしてるんだとさ。
武州時房は、将軍実朝様の命令で、調べつくしたところ、その女が彼の妻だったことは間違いなかったので、元の夫に返すようにと命じられました。橘次公成にも言い分はあるだろうけれども、偶然に起こった出会いにすぎないのだからで、これ以上騒いではいけないと、再度云われました。
これ以上隠して置く訳にもいかないので、送り返しましたが、又もやどこかへ消えてしまいました。朝親は余計橘次公成との戦いの準備をしてるんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 あまみだいどころなら　　 しょうぐんけ　　　ほけどう　　まい　　せし　　たま　　　　こうれい　　おんぶつじあ
承元三年(1209)十二月小十三日癸酉。尼御臺所并びに將軍家、法花堂に參ら令め給ふ。恒例の御佛事有り。

しょうごんぼうぎょうゆう　　ごどうし　　　な　　　　　うんぬん
莊嚴房行勇、御導師を爲すと云々。

現代語承元三年(1209)十二月小十三日癸酉。尼御台所政子様と将軍実朝様は、頼朝法華堂に行かれました。恒例の月違い命日の法事です。荘厳坊退耕行勇が指導僧をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おうみのくに　しゅご　　ぶにん　 おんくだしぶみら これ　 びしん
承元三年(1209)十二月小十五日乙亥。近國の守護、補任の御下文等 之を備進す。

そ　　　うち　　ちばのすけなりたねは　 せんぞ　ちばのたいふもとなが　いご　とうしょう　けびいどころたるのかん
其の中、千葉介成胤者、先祖千葉大夫元永以後 當庄 檢非違所爲之間、

うだいしょうけ　　 おんとき　 つねたね　 もっ　 しもふさいっこく　　しゅごしき　　　ぶさる　　のよしこれ　　もう
右大將家の御時、常胤を以て下総一國の守護職を補被る之由之を申す。

みうらのひょうえのじょうよしむら は　　そふ　よしあき　てんじいらい　さがみのくに　　ぞうじ　　あいまじ　　　　　　よっ
 三浦兵衞尉義村　者、祖父義明 天治以來相摸國の雜事に相交はるに依て、

おな　　　おんとき　　けんだん　 ことおな　　　　さた　いた　　べ　　　のむね　　よしずみ これ　うけたまは　をは　　　のよしこれ　　もう
同じき御時、檢断の事同じく沙汰致す可き之旨、義澄 之を承り訖んぬ之由之を申す。

おやまのさえもんのじょうともまさ　もう　　　　い　　　　　　　もと　　おんくだしぶみ　おびず
小山左衛門尉朝政、申して云はく、本の御下文を帶不。

のうそ しもつけのしょうじょう とよさわ　とうごく　　おうりょうし　　な　　　　　けんだんごと　　のこと　　いっこう　　これ　　と　　　おこな
曩祖 下野少掾豊澤�@、當國の押領使と爲し、檢断如き之事、一向に之を執り行う。

ひでさとあそん　　てんぎょうさんねん さら　　かんぷ　　たま　　　　ののち　　じうさんだいすうひゃくさいぶぎょう　　　　のかん　　へんし　　ちゅうぜつのれいな
秀郷朝臣、 天慶三年 更に官苻を賜はる之後、十三代數百歳奉行する之間、片時も中絶之例無し。

ただ　　うだいしょうけ　　おんときは　　けんちうねんちう　　ぼうふまさみつにゅうどう　こ　　 しきを　ともまさ　　ゆず　 あた　　　　つ　　　　 あんど　 おんくだしぶみ　たま　　　ばか　なり
但し右大將家の御時者、建久年中、亡父政光入道、此の職於朝政に讓り与うに就き、安堵の御下文を賜はる許り也。

あえ　　しんおんのしき　　あらず　　ごふしん　 さん　　べ　　　　 しょう　　　　か　　 かんぷ　いか　　 じょうら　　 しんらん　　　　うんぬん
敢て新恩之職に非。御不審を散ず可しと稱し、彼の官苻以下の状等を進覽すと云々。

そ　　 ほか　 くにぐにまた　　うだいしょうけ　　おんくだしぶみ　お　をはんぬ　 たと　　しょうか　 おか　　　いへど　　すなは　かいぶされがた　のおもむき　そ　　　さた　あ
其の外の國々又、右大將家の御下文を帶び訖。 縱い小過を犯すと雖も、輙ち改補被難き之趣、 其の沙汰有り。

きょうご　　こと　　けかん　　ぞん　　べからずのよし　　めんめん　 おお　 ふく　 らる　　　　ひろもとこれ　　ぶぎょう
向後、殊に懈緩を存ず不可之由、面々に仰せ含め被る。廣元之を奉行す。

参考�@下野少掾豊沢は、俵藤太藤原秀郷の祖父。

現代語承元三年(1209)十二月小十五日乙亥。鎌倉に近い国の守護の任命の命令書を将軍決裁に用意しました。
そのうちの千葉介成胤は、先祖の千葉大夫元永以来、千葉庄の軍事警察裁判権保持者で、頼朝様の時代に千葉介常胤を下総一国の守護職に任命されたのだ云っております。
三浦平六兵衛尉義村はは、祖父の三浦介義明が天治(1124-25)以来、相模国の国衙の役職を果たしてきましたので、同じ頼朝様の時代から軍事警察裁判権を同様に執務するようにと、三浦介義澄が承ったのだと云っております。
小山左衛門尉朝政が申し出たのは、元の命令書は持っておりませんが、先祖の下野少掾豊沢は、下野国の軍事警察裁判権の派遣隊長として、裁断等を一手に行ってきました。俵藤太藤原秀郷が天慶三年(940)更に将門討伐の手柄として従四位下の太政官符を貰った以後、十三代数百年もの間支配して一時も中断したことがありません。但し、頼朝様の時代の建久年間に亡き父の政光入道が、この職を朝政に譲渡するにあたって、許可の命令書を戴きました。ですから、新しくいただいた恩賞ではありません。お疑いをはらしてくださいと、その太政官符を始めとする書状を見せましたとさ。
その他の国も同様に、頼朝様の命令書を持っております。従って、多少の罪を犯したとしても、安易に変えられるべきではないとの判断がありました。今後においても、特に怠けたりせずに鎌倉幕府に仕えるようにそれぞれに伝えさせました。大江広元が担当しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ともちか　　きんなりら　　　けんか　　こと　　かね　　　　なだ　　おお　　らる　　　　ぶしゅうおんしたり
承元三年(1209)十二月小十七日丁丑。朝親、公業等が喧嘩の事、重ねて宥め仰せ被る。武州御使爲。

よっ　　ともちか　　いま　　をい　　は　かくしつあ　　　べからざるのよしこれ　　もう　　　　きんなりもとよ　　　しょぞんな　　　　　うんぬん
仍て朝親、今に於て者確執有る不可之由之を申す。公業本自り所存無しと云々。

現代語承元三年(1209)十二月小十七日丁丑。美作蔵人朝親と小鹿島橘次左衛門尉公成の喧嘩について、なおも慰めの言葉を、武州時房を使って与えました。それで朝親は、今はもう文句はありませんと申し上げました。公業は元々不満はないのだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ささきのひょうえのたろうにゅうどうさいじん　すずりいちめんをしょうぐんけ　けん
承元三年(1209)十二月小十九日己夘。佐々木兵衛太郎入道西仁�@、硯一面於將軍家に獻ず。

ちょうほうなり　　さんみみちもりきょう　すずり　うんぬん　　こと　　ごじあい　あ　　　　　うんぬん
重寳也。三位通盛卿の硯と云々。殊に御自愛有りと云々。

参考�@佐々木兵衛太郎入道西仁は、信実。佐々木三郎盛綱の子。十巻建久元年七月二十日出演。

現代語承元三年(1209)十二月小十九日己卯。佐々木兵衛太郎入道西仁(信実)は、硯一面を将軍実朝様に献上しました。お宝もので、越前三位平通盛様の硯だそうです。特に喜んで愛用しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しょうぐんけ　しょうちょうじゅいん　　ようふくじ　　　ほけどう　ら　　ぎょさん　　　　ぐぶにんさいさいたり
承元三年(1209)十二月小廿三日癸未。將軍家、勝長壽院、永福寺、法華堂等に御參す。供奉人濟々焉。

現代語承元三年(1209)十二月小二十三日癸未。将軍実朝様は、勝長寿院・永福寺・頼朝法華堂へお参りです。お供は大勢でした。

承元四年庚午正月へ

吾妻鏡入門第十九巻