吾妻鏡入門第廿一巻

建暦三年癸酉(1213)正月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　てんがんかいせい　みのこくぢしん　うまのこく　 しょうぐんけ つるがおかはちまんぐう　　まい　　たま
建暦三年(1213)正月小一日癸夘。天顏快霽。巳尅地震。午尅、將軍家　鶴岡八幡宮　へ參り御う。

ま　　　ひろもとあそんおくるま　　よ　　　　　　　こ　　　かん　　そうしゅうろうね　 つまど　 あいだ　そうら　たま　　　　おんみょうしょうじょうちかもと　おんみがため　そうら
先ず廣元朝臣御車を寄せる。此の間、相州廊根の妻戸の間に候い給ふ。　陰陽少允親職　 御身固に候う。

くないひょうえのじょうきんうじ　ぎょけん　と　　　　　ひょうえのたいふうすえただ　さず　　　　　ぐぶにん さんしん
宮内兵衛尉公氏　御釼を取り、 兵衛大夫季忠 に授く。供奉人參進す。

 おくるまみなみもん　いで　　ののち　おのおの　　きば　　たいふほうがんもときよさいまつ　　そうら
御車南門を出る之後、　各　騎馬。大夫判官基�C最末に候う。

ぐうじ　 　 をい　　 くようさる　　　ほけきょう れい　 ごと　　　　どうし　　　だいがくほうげんぎょうじなり
宮寺に於て供養被る法華經例の如し。導師は大學法眼行慈也。

かんごののち　　おうばんのぎ　　さっ　　らる　　　　ひろもとあそんこれ　　けいえい
還御之後、垸飯之儀を刷せ被る。廣元朝臣之を經營す。

　　　　おひきでもの　やく　　ひと
　　御引出物役の人

　　ぎょけん　　　　　　ひょうえのたいふすえただ
　御釼　　　兵衛大夫季忠

　　ごちょうど　　　　　　わださえもんのじょうよしもり
　御調度　　和田左衛門尉義盛

　　おんむかばきくつ　ゆうきのさえもんのじょうともみつ
　御行騰沓　結城左衛門尉朝光

　　おんうま　ごひき
　御馬五疋

現代語建暦三年(1213)正月小一日癸卯。天高く晴れ上がってます。巳の刻(午前十時頃)地震がありました。
午の刻(昼頃)将軍実朝様は鶴岡八幡宮へお参りされました。まず、大江広元さんが牛車を濡れ縁へ寄せました。この間に、相州義時さんは濡れ縁の端の扉戸に控えてました。陰陽師少允親職が将軍の身の回りを防禦するまじないを行いました。宮内兵衛尉公氏が将軍の刀を持って、兵衛大夫季忠に渡しました。お供がそばへ寄って来ました。将軍の牛車が南門を出た後、お供は馬に乗って従います。大夫判官基清は檢非違使なので一番後から清めをしながらついていきます。鶴岡八幡宮寺での法華経を上げるのはいつも通りです。指導僧は大学法眼行慈です。
御所へお戻りになられてから、御馳走のふるまいを行いました。大江広元が負担しました。
　　将軍への引き出物を持ってくる役は、
　刀が兵衛大夫季忠
　弓矢が和田左衛門尉義盛
　行縢(乗馬袴)と乗馬沓は結城左衛門尉朝光
　馬は五頭です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そうしゅうおうばん　けん　　らる
建暦三年(1213)正月小二日甲辰。相州垸飯を献ぜ被る。

　　　　ごしんもつ　　やく　　ひと
　　御進物の役の人

　　ぎょけん　　　　　　むさしのかみ
　御釼　　　武藏守

　　ごちょうど　　　　　　さこんのたいふともちか
　御調度　　左近大夫朝親

　　おんむかばきくつ　みんぶのたいふやすとし
　御行騰沓　民部大夫康俊

　　いちのおぬま　　 いがのじろうひょうえのじょう　　　　　　　 おなじきさぶろう
　一御馬　　伊賀次郎兵衛尉　　　　同三郎

　　にのおんうま　　　 みうらのくろうさえもんのじょう　　　　　　　さはらのまたたろう
　二御馬　　三浦九郎左衛門尉　　　佐原又太郎

　　さんのおんうま　　 ささきのさこんしょうげん　　　　　　　　　 かぢのろくろう
　三御馬　　佐々木左近將監　　　　加地六郎

　　よんのおんうま　　 とうないさえもんのじょう　　　　　　　　　　かとうひょうえのじょう
　四御馬　　藤内左衛門尉　　　　　加藤兵衛尉

　　ごのおぬま　　　　 なんじょうのたろう　　　　　　　　　　　　　そがのこたろう
　五御馬　　南條七郎　　　　　　　曾我小太郎

現代語建暦三年(1213)正月小二日甲辰。相州義時さんが御馳走を振る舞われました。
　　将軍様への贈り物の役の人は
　刀が武蔵守時房
　弓矢は美作左近大夫朝親
　行縢(乗馬袴)と乗馬沓が民部大夫三善康俊。
　一番目の馬は、伊賀次郎兵衛尉光宗　　同じ伊賀三郎光資
　二番目の馬は、三浦九郎左衛門尉胤義　佐原又太郎
　三番目の馬は、佐々木左近将監信綱　　加治六郎
　四番目の馬は、藤内左衛門尉藤原季康　加藤兵衛尉光資
　五番目の馬は、南条七郎時員　　　　　曽我小太郎祐綱

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ぶしゅう　　　さた　　　おうばん　　しん　　らる
建暦三年(1213)正月小三日乙巳。武州の沙汰で垸飯を進じ被る。

　　　　しんもつ　　やく　　ひと
　　進物の役の人

　　ぎょけん　　　　　 おやまのさえもんのじょうともまさ
　御釼　　　小山左衛門尉朝政

　　ごちょうど　　　　　 やましろのほうがんゆきむら
　御調度　　山城判官行村

　　おんむかばきくつ　みうらのくろうさえもんのじょうたねよし
　御行騰沓　三浦九郎左衛門尉胤義

　　いちのおんうま　　 むさしのたろう　　　　　　　　　　　　　　 ひたのはちろう
　一御馬　　武藏太郎　　　　　　　肥田八郎

　　にのおんうま　　　 あだちのはちろうひょうえのじょう　　　　 おなじきくろう
　二御馬　　足立八郎兵衛尉　　　　同九郎

　　さんのおんうま　　 きらのじろう　　　　　　　　　　　　　　　　 おなじきさぶろう
　三御馬　　吉良次郎　　　　　　　同三郎

　　よんのおんうま　　 てしまのこたろう　　　　　　　　　　　　　 おなじきまたたろう
　四御馬　　豊嶋小太郎　　　　　　同又太郎

　　ごのおんうま　　　 やまとのほうがんだい　　　　　　　　　　　おなじきしんじ
　五御馬　　大和判官代　　　　　　同進士

現代語建暦三年(1213)正月小三日乙巳。武州時房さんの負担で御馳走を振る舞われました。
　　将軍様への贈り物の役の人は
　刀が小山左衛門尉朝政
　弓矢は山城判官二階堂行村
　行縢(乗馬袴)と乗馬沓が三浦九郎左衛門尉胤義。
　一番目の馬は、武蔵太郎時盛　　　　肥多八郎宗直
　二番目の馬は、足立八郎兵衛尉元春　女手が同じ足立九郎
　三番目の馬は、吉良次郎　　　　　　同じ三郎
　四番目の馬は、豊島小太郎　　　　　同じ又太郎
　五番目の馬は、大和判官代　　　　　同じ進士

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 おうばん　 わだのさえもんのじょうよしもり これ　　さた
建暦三年(1213)正月小四日丙午。垸飯。和田左衛門尉義盛之を沙汰す。

　　　　 しんもつ　 やく　　ひと
　　進物の役の人

　　ぎょけん　　　　　　みうらのさえもんのじょうよしむら
　御劔　　　三浦左衛門尉義村

　　ごちょうど　　　　　 いがのかみともみつ
　御調度　　伊賀守朝光

　 おんむかばき　くつ　わだのしんさえもんのじょうつねもり
　御行騰、 沓　和田新左衛門尉常盛

　　おんうま　ごひき
　御馬五疋

　そ　　ご　　　しょうぐんけそうしゅう　おんてい　にゅうご　　　つい　 わかみやべっとう　ゆきのしたほんぼう　とぎょ　　　へいしょくのほど　 かんごせし　　たま　　　　うんぬん
其の後、將軍家相州が御亭へ入御す。次で若宮別當が雪下本坊へ渡御す。秉燭之程に還御令め給ふと云々。

現代語建暦三年(1213)正月小四日丙午。御馳走を振る舞いは、和田左衛門尉義盛が負担しました。
　　将軍様への贈り物の役の人は
　刀が三浦平六兵衛尉義村
　弓矢は伊賀守朝光
　行縢(乗馬袴)と乗馬沓が和田新左衛門尉常盛。
　馬が五頭。
その後、将軍実朝様は相州義時さんの屋敷へ行かれました。次に鶴岡八幡宮長官の雪ノ下の公邸へ行かれました。灯りを灯す頃になってお帰りになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　そうしゅう　おんてい　　をい　　　　じんじゃぶつじ　いげ　きちじら　はじ　　　 そ 　　　さた　あ
建暦三年(1213)正月小十日壬子。天�ﾘ。相州の御亭に於て、神社佛寺以下吉事等始め、其の沙汰有り。

にしょ　ごしょうじん　　こと　　ひなみ　な　　　のよし　　おんみょうどう これ　 もう　　　　いへど　　　いそ　 おぼ　 め　　　　　よっ　　　　なおきんじつ　さだ　 らる　　　　うんぬん
二所御精進の事、日次無き之由、 陰陽道 之を申すと雖も、忩ぎ思し食すに依て、猶近日に定め被ると云々。

現代語建暦三年(1213)正月小十日壬子。空は晴れです。相州義時さんの屋敷で、神社仏事を始めとする縁起の良いことを書き始めの日程を決めました。熱海の走湯神社と箱根神社への参拝二所権現参りについては、お日柄の良い日がないと占い師の陰陽道が言ってますが、急ぐべきなので、近日中に行くように決めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ばくふ　　　にょぼうら そうしあわ　　　　え　あ　　　　　しょうぐんけこれ　　はん　　せし　　たま　　　　うんぬん
建暦三年(1213)正月小十二日甲寅。幕府の女房等双紙合せの會有り。將軍家之を判じ令め給ふと云々。

現代語建暦三年(1213)正月小十二日甲寅。幕府の女官を集めて持ち寄った絵や表装の優劣を争う絵合わせ会がありました。将軍実朝様が、審判官をされたそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　しょうぐんけ　のしょ　 ごしょうじんはじめなり
建暦三年(1213)正月小十六日戊午。天霽。將軍家二所の御精進始也。

現代語建暦三年(1213)正月小十六日戊午。空は晴れです。将軍実朝様は、熱海の走湯神社と箱根神社への参拝二所権現参りのための精進潔斎を始められました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　にしょ　ごしんぱつ　　そうしゅう　ぶしゅうら　ぐぶ　　　たま　　　　ゆう　　およ　 にはか　ふううはなはだ
建暦三年(1213)正月小廿二日甲子。天�ﾘ。二所御進發。相州、武州等供奉し給ふ。夕に及び俄に風雨甚し。

いぬのこく　さかわのうまや　　つ　　たま　　　うんぬん
戌尅、 酒匂驛 に着き御うと云々。

現代語建暦三年(1213)正月小二十二日甲子。空は晴れです。二所権現参りに出発です。相州義時様、武州時房さまがお供をしました。夕方になって急に風雨が強くなりました。戌の刻(午後八時頃)に川勾の宿に到着しましたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しょうぐんけ　のしょよ　　 ごきちゃく　　 うんぬん
建暦三年(1213)正月小廿六日戊辰。霽。將軍家二所自り御歸着と云々。」

きょう　　いちじょうじじゅうよしうじ　さんちゃく
今日、一條侍從能氏�@參着す。

参考�@一條侍從能氏は、一条能保の孫。能保一高能一能氏。

現代語建暦三年(1213)正月小二十六日戊辰。晴れました。将軍実朝様は二所権現参りからお帰りです。」
今日、一条侍従能氏が京都からやって来ました。

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