吾妻鏡入門第廿一巻

建暦三年癸酉(1213)五月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くもり　　ちくごのさえもんのじょうともしげ　　よしもりのきんりん　　あ　　　　　しか　　　 よしもり　 やかた　ぐんぴょうきそ　あつ
建暦三年(1213)五月小二日壬寅。陰。筑後左衛門尉朝重、義盛之近隣に在り。而るに義盛の舘に軍兵競い集まる。

そ　　 よそほ　　　み　　　　　そ　　　おと　 き　　　　　じゅうふく　そな　　　　ししゃ　 はつ　　　　ことの　よしを さきのだいぜんだいぶ　つ
其の粧ひを見て、其の音を聞き、戎服に備へ、使者を發し、事之由於前大膳大夫に告ぐ。

ときに　くだん　あそん　　ひんきゃく ざ　あ　　　　はいしゅまさ　さかん　 てい　あるじこれ　き　　　　　ひと　　ざ　　　た　　　 ごしょ　　はし　　まい
時于件の朝臣、賓客座に在り。杯酒方に酣。亭の主之を聞き、獨り座を起ち御所へ奔り參る。

つぎ　みうらのへいろくさえもんのじょうよしむら　　おな　　　　くろううえもんのじょうたねよしら　　　 はじ　　は よしもりと　いちだく　　な　　　　 きたもん　 けいご すべ　　のよし
次で 三浦平六左衛門尉義村、 同じく九郎右衛門尉胤義等、始め者義盛与一諾を成し、北門を警固可し之由、

どうしん　　きしょうもん　　か　　　なが　　　　のち　　は これ　 かいへんせし　　きょうだい おのおの　あいぎ　　　い
同心の起請文を書き乍ら、後に者之を改變令め、 兄弟 各、相議して云はく。

のうそ　みうらのへいたろうためつぐ　　はちまんどの　ぞく　たてまつ　 おうしゅう　たけひら　 いえひら　せい　　いこう　　あくま　そ　　　おんろく　 ついば　ところなり
曩祖 三浦平太郎爲継、八幡殿に属し奉り、奥州の武衡、家衡を征し以降、飽で其の恩祿を啄む所也。

いま　　ないしんのすす　　　 つ　　　　たちま　るいだい　 しゅくん　 いたてまつ　ば　　さだ　　　 てんけん　 のが　 べからざ　 ものか
今、内親之勸めに就き、忽ち累代の主君を射奉ら者、定めし天譴を遁る不可る者歟。

はや　　せんぴ　ひるがえ　　か　　ないぎのおもむき　　つ　　もう　　　べ　　　　　　　こうかい　　およ
早く先非を飜し、彼の内儀之趣を 告げ申す可しと、後悔に及ぶ。

すなは　そうしゅう　おんてい　 まい　い　　　　よしもりすで　しゅつぐんのよし　 もう
則ち相州の御亭に參り入り、義盛已に出軍之由を申す。

ときに　そうしゅう　いご　　かいあ　　　　 こ　　　こと　　き　　　　 いへど　　　あえ　 もつ　 きょうどうの け な
時于相州圍碁の會有り。此の事を聞くと雖も、敢て以て驚動之氣無し。

こころしずか　もくさん　くは　　　　ののち　　ざ　　　た　　　おれえぼしを たてえぼし　　あらた　　　すいかん　 しょうぞく　　　ばくふ　　まい　　たま
 心靜に目算を加へる之後、座を起ち折烏帽子於立烏帽子に改め、水干を裝束し、幕府へ參り給ふ。

しか　　　　よしもりと　ときかね　　ぼうごうのうたがいあ　　　いへど　　　けさ の こと　　あらざるか　よし　　ゆうよ　の　かん　　ごしょ　　をい　　　　あえ　　けいえいのそなえ　な
而るに義盛与時兼、謀合之疑有ると雖も、今朝之事に非歟の由、猶豫之間、御所に於て、敢て警衛之備へ無し。

しかれども　りょうきゃくの　つ　　　よつ　　　　あまみだいどころなら　　みだいどころら えいちう　 さ　　　きたみかど　 い　　　　　つるがおかべっとうぼう　とぎょ　　　　うんぬん
 然而、兩客之告げに依て、尼御臺所并びに御臺所等營中を去り北御門を出で、鶴岳別當坊へ渡御すと云々。

さるのこく　わだのさえもんのじょうよしもりがんとう　　ひき　　　たちま　しょうぐんばっか　おそ
申刻。和田左衛門尉義盛伴黨を率い、忽ち將軍幕下を襲う。

いはゆ　くだん　　よりき　　しょうは　　ちゃくなんわだのしんさえもんのじょうつねもり　おな　　　しそく　しんひょうえのじょうとももりにゅうどう　さんなん あさいなのさぶろうよしひで
 謂る件の与力の衆者、嫡男 和田新左衛門尉常盛、 同じき子息 新兵衛尉朝盛入道、 三男 朝夷名三郎義秀、

よんなんわだのしろうさえもんのじょうよしなお　　ごなんおな　　　ごろうひょうえのじょうよししげ　ろくなんおな　　ろくろうひょうえのじょうよしのぶ　しちなんおな　しちろうひでもり
四男和田四郎左衛門尉義直、五男同じき 五郎兵衛尉義重、六男同じき六郎兵衛尉義信、 七男同じき七郎秀盛。

こ　　　ほか　　つちやのだいがくのすけよしきよ　ふるごおりのさえもんのじょうやすただ　しぶやのじろうたかしげ　〔よこやまのごんのかみときしげ　むこ〕　なかやまのしろうしげまさ
此の外、　土屋大學助義�C、　 古郡左衛門尉保忠、　澁谷次郎高重〔横山權守時重が聟〕、中山四郎重政、

おな　　　たろうゆきしげ　　といのせんじろうさえもんのじょうこれひら　　おかざきのさえもんのじょうさねただ　〔さなだのよいちよしただ　こ〕
同じき太郎行重、土肥先次郎左衛門尉惟平、 岡崎左衛門尉實忠 〔真田与一義忠が子〕

かじわらのろくろうともかげ　おな　　　じろうかげひら　　おな　　　　さぶろうかげもり　　おな　　　　しちろうかげうじ　　おおばのこじろうかげかね　　ふかさわのさぶろうかげいえ
梶原六郎朝景、 同じき次郎景衡、同じき三郎景盛、 同じき七郎景氏、 大庭小次郎景兼、 深澤三郎景家�@、

参考�@深澤三郎景家は、細川重男氏の研究によると五月六日条の虜捕人々のふかさわの次郎と同一人で鎌倉党。三郎は二郎の転写間違いであろうとしている。湯山学氏も同じだそうな。

おおかたのごろうまさなお　おな　　　　たろうとおまさ　　えんやのさぶろうこれもり　いげ　　ある　　　しんせき　　な　　　　　ある　　　　ほうゆう　　な
大方五郎政直、 同じき太郎遠政、塩屋三郎惟守 以下、或ひは親戚を爲し、或ひは朋友と爲す。

さぬ　　はるいらい　　とう　 むす　　むれ　 な　　　のやからなり
去る春以來、黨を結び群を成す之輩也。

みなとうざい　　をい　 た　　　　ひゃくごじう　　ぐんぜいを　さんて　　あいわか　　　ま　　　ばくふみなみもんなら　　そうしゅうおんだい 〔こまちかみ〕 　にし　 きた　 りょうもん　かこ
皆東西に於て起ち、百五十の軍勢於三手に相分ち、先ず幕府南門并びに相州御第〔小町上〕西、北の兩門を圍む。

そうしゅうばくふ　そうらはれる　 いへど　　　 るす　　　そうし　ら　 ぎせい あ
相州幕府に候被ると雖も、留守の壯士等義勢有り。

おのおの　はさみいた　き　　　　そ　 すきま　 もつ　　　やせきのみち　　な　　　せ　　たたか　　 ぎへいおお　 もつ　　しょうし
 各、 夾板を切り、其の隙を以て矢石之路と爲し攻め戰い、義兵多く以て傷死す。

つい　 ひろもとあそんてい　　しゅきゃくざ　あ　　　　　いま　　さら　　　 みぎり　　　よしもり　　たいぐんきそ　 いた　 もんぜん　 すす
次で廣元朝臣亭、酒客座に在り。未だ去ざる砌に、義盛が大軍競い到り門前に進む。

そ　　　みょうじ　　しらず　　いへど　　　すで　 や　　 はな　　せ　　 たたか
其の名字を知不と雖も、已に矢を發ち攻め戰う。

そ　　　ご　　　きょうと　よこおおじ　　〔ごしょなんせい　　みちなり〕　　　　いた　　　　ごしょ　　せいなん　まんどころまえ　をい　　　　ごけにんら　これ　　ささ　　　 かっせんすうたん　 およ　 なり
其の後、凶徒横大路〔御所南西の道也〕に到り、御所の西南の政所前に於て、御家人等之を支へ、合戰數反に及ぶ也。

はたののなかつかさのじょうただつな せんと　すす　　また　みうらのさえもんのじょうよしむら　これ　　は　　　くは
 波多野中務丞忠綱 先登に進む。又、 三浦左衛門尉義村 之に馳せ加はる。

とりのこく　 ぞくと つい　　ばくふ　　 しめん　　かこ　　　　はた　　なび　　　 や　　　と
酉剋、賊徒遂に幕府の四面を圍み、旗を摩かせ箭を飛ばす。

さがみしゅりのりょうやすとき　おな　　　　じろうともとき　　かずさのさぶろうよしうじら ふせ　 たたか　へいりゃく　つく
相摸修理亮泰時、同じき次郎朝時、上総三郎義氏等防ぎ戰ひ 兵略を盡す。

しか　　　　あさいなのさぶろうよしひで　そうもん　やぶ　　　　なんてい　 らんにゅう　　　こも　　ところのごけにんら　　　こうげき
而るに 朝夷名三郎義秀 惣門を敗り、南庭に乱入し、籠る所之御家人等を攻撃す。

あまつさ　　ひを　　ごしょ　　はな　　　　　　かくない　 しつおく　 いちう　のこ　　　しょうぼう
 剩へ 火於御所に縱ちて、郭内、室屋、一宇殘らず燒亡す。

これ　　よつ　　　 しょうぐんけ　うだいしょうけほけどう　に　い　　　たま　　　　 かさい　 のが　 たま　　べしのゆえなり　　そうしゅう　だいかんおんとも　そうらはれせし
之に依て、將軍家右大將家法花堂于入り御う。火災を遁れ御ふ可之故也。相州、大官御共に候被令む。

こ　　　かん　　のぞ　たたか　　 およ　　　なりかぶらあいわ　　　　　りけんやいば　かがやか
此の間、挑み戰うに及び、鳴鏑相和する。利劔刄を曜す。

なかんづく　よしひで もうい　　ふる　　　 そうりき　 あらは　　　　　すで　　もつ　　かみ　　ごと　　　　か に　てき　　　　の　ぐんし ら　し　　　まぬか　　　な
 就中に義秀猛威を振い。壯力を彰すは、既に以て神の如し。彼于敵する之軍士等死を免るは無し。

いはゆる　　いがらしのことよじ　　　くずぬきのさぶろうもりしげ　　しんやのさこんしょうげんかげなお　　れいはれんじょう いげ　すうやからがいさる
所謂、五十嵐小豊次、 葛貫三郎盛重、　新野左近將監景直、　礼羽蓮乘以下の數輩害被る。

そ　　うち　　たかいのさぶろうひょうえのじょうしげもち　　〔　わだのじろうよしもち　　　　こ　　　　よしもり　　おいなり　〕　　　よしひでと　せ　　　たたか
其の中、　高井三郎兵衛尉重茂　〔和田二郎義茂が子。義盛の甥也〕義秀与攻め戰う。

たがい　ゆみ　す　　くつわ　なら　　　　　しゆう　　けつ　　　　　　ほつ　　　りょうにんとりあ　　　　　とも　　もつ　　らくば　　　　 つい　 しげもちうたれをはんぬ
互に弓を弃て轡を並べ、雌雄を决さんと欲す。兩人取合い、共に以て落馬し、遂に重茂討被訖。

よしひで　　と　　　おと　　　　のもの　　　　　こ　　　ひとりたるのうえ　　　いちぞくのぼうきょく　くみせず　 ひと　　ごしょ　　 まい　 いのち　おと　 なり　　ひともっ　かんたんせず　な
義秀を取り落せる之者は、此の一人爲之上、一族之謀曲に与不、獨り御所に參り命を殞す也。人以て感歎不は莫し。

ここ　　よしひでいま　　きば　　　　　　　　のきわ　　さがみのじろうともとき　たち　　　と　　　　　よしひでに　たたか
爰に義秀未だ騎馬せざる之際、相摸次郎朝時太刀を取り、義秀于戰う。

そ　　　せい　　くら　　　　　　　　さら　　たいよう　 はじざる　 いへど　　 ともときぬしきず　 あいこうむ　なり
其の勢を比ぶれば、更に對揚に耻不と雖も、朝時主疵を逢蒙る也。

しかれど　そ　いのち　まっとう　　これ　へいりゃくときんりょくのいた　ところ　　ほと　　　　ぼうはい　　こ　　　　　のゆえなり
 然も其の命を全す。是、兵略与筋力之致す所。殆んど傍輩を越ゆる之故也。

また　　あしかがのさぶろうよしうじ　まんどころまえ　はしのかたわら　をい　よしひで　あいあ　　　　よしひでよしうじの　よろいそで　おいと
又、 足利三郎義氏、 政所前の橋之傍に 於て義秀に相逢う。々々義氏之 鎧袖を追取る。

こと はなは　きゅう　して　　よしうじしゅんめ　むちうち　　　ほり　　にし　　と　　 せし　　　　そ　かん よろいそで　なかより　た　　しかれども うま　 たおれず　　ぬし　 おちず
縡 太だ急に兮、義氏駿馬を 策て、隍の西に飛ば令む。其の間 鎧袖 中從絶つ。然而 馬は倒不。主は落不。

よしひで こころざし　はげ　　　　いへど　　　かっせんすうこく　　　　　 じょうば きは　　　　つか　　　　のかん　　なず　て ほり　ひがしにとどま
 義秀 志を 勵ますと雖も、合戰數剋して、乘馬極めて疲れる之間、泥み而隍�Aの東于留る。

参考�A隍は、城の周囲にめぐらした堀。西御門川であろうから筋替橋の南側か？

りょうしの　ゆうりき　　ろん　　　　　　　　たがい　きょうじゃくな　　　　けちえんなり　　み　　もの　て　　う　　　　　　した　　な
兩士之勇力を論ずれば、互に強弱無きこと揚焉也。見る者掌を抵ちて舌を鳴らす。

よしひでなお　きょうじょう　めぐ　　　 よしうじ　　お　　　　　　　ぎ　　　　　 のとき　　たかつかさかじゃ そ　　なか　 へだ　　　　あいささ　　　　　 よつ　　　 よしひで　 ためがいさる
義秀猶、橋上を廻り、義氏を追はんと擬する之刻、鷹司冠者其の中を隔て、相支へるに依て、義秀の爲害被る。

こ　　　かん　　よしうじ のが　　　え　　　はし　　　はし　　　　うんぬん
此の間に義氏遁れを得て奔りに走ると云々。

また　 たけだのごろうのぶみつ　　　わかみやおおじ よねまちぐち　をい　　　　よしひでに　ゆ　　あ　　　　たがい　め　　か　　　　　すで　　あいたたか　　　　ほつ　　　　のところ
又、武田五郎信光は、若宮大路 米町口に於て、義秀于行き逢い、互に目を懸け、已に相戰はんと欲する之處、

のぶみつ　だん あくさぶろうのぶただ　そ　なか　　は　　い　　　　　ときによしひで　　のぶただちち　 かわ　　　　　 ほつ　　　 の ありさま　　かん　　　　は　　 す　　をはんぬ
信光が男 惡三郎信忠 其の中に馳せ入る。時于義秀、信忠父に代らんと欲する之形勢に感じ、馳せ過ぎ畢。

およ　　よしもり　　ただ　　たいい　　ま　　　　あらず　　そ　　しそつ いち　 もつ　 せん　 あた　　　　てんち しんぬ　　　あいたたか
凡そ義盛、啻に大威を播くに匪。其の士率一を以て千に當る。天地震怒し相戰う。

　きょう　　くれよもすがら およ　　　　ほし　 み　　　　　いま　　やま　　　 しょうさく　まった　　か　　 ぶゆう　　　ふいせず
今日も暮終夜に及び、星を見るも未だ已ず。匠作、全く彼の武勇を怖畏不。

かつう　しんめい　す　　　　かつう　けんし　　　すす　　　　　 ととの　ふさ　　のかん
且は身命を弃て、且は健士を勸めて、調へ禦ぐ之間、

ぎょうこう　のぞ　　　　よしもりようや　へいつ　　や　　 きゅう　　　　ひば　　　むちう　　 まえはまへんに のが　 ひ
曉更に臨み、義盛漸く兵盡き箭に窮し、疲馬に策ち、前濱邊于遁れ退く。

すなは　しょうさくはた　あ　　せい　 ひき　　　　なか　　　げばばし　　 けいご　　たま
即ち匠作旗を揚げ勢を率い、中の下馬橋を警固し給ふ。

また　 よねまちつじ　おおまちおおじらの きっしょ　　をい　　かっせん
又、米町辻、大町大路等之切處に於て合戰す。

あしかがのさぶろうよしうじ　　ちくごのろくろうともなお　　はたののなかつかさじろうつねとも　うしおだのさうろうさねすえら　かち　　じょう　きょうと　せ　　　　や
 足利三郎義氏、 筑後六郎知尚、　波多野中務次郎經朝、　潮田三郎實季等勝に乘じ凶徒を攻めん矣。

ひろもとあそん　は　　ごぶんせきけいご　　ため　　ほけどう　よ　　まんどころに　かえ　　　　ろじ　　　　ごけにんら　　　そ　　　つか　　さる
廣元朝臣者、御文籍警固の爲、法花堂自り政所于還る。路次は御家人等を副へ遣は被る。

また　　じじゅうよしうじ　〔たかよしきょう　こ〕　　　あきごんのかみのりたか　〔　あつただいぐうじのりまさ　　　こ　〕　　　ら　のうりょうの　ち　　もと　　　　　きょう　へんど　　しょうよう
又、侍從能氏〔高能卿が子〕安藝權守範高〔熱田大宮司範雅が子〕等納凉之地を求め、今日邊土を逍遥す。

しか　　　 そうどうの　よし　　き　　　はし　　まい　　　 みち　ちまた みないくさば　な
而るに騒動之由を聞き奔り參る。路、巷皆戰塲と爲す。

よつ　りょうにんとも　　うまを やまのうちへん　ひか　　 のところ　　よしもりたいさんのすきま　うかが　　　ほけどう　　　まい　　　　うんぬん
仍て兩人共に馬於山内邊に扣へる之處、義盛退散之隙を伺ひ、法花堂へ參ると云々。

現代語建暦三年(1213)五月小二日壬寅。曇り。筑後左衛門尉八田知重は、和田義盛の近所におります。そしたら義盛の屋敷に軍勢がわれもわれもと集まって来ています。その様子を見てその物音を聞くと、鎧の音がするので、戦支度をしながら、使いをやってそういう事情を大江広元さんに伝えました。その時、大江広元さんは、お客が来ていて飲んでいる最中でした。しかし彼はその知らせを聞いて、一人だけ席を離れて御所へ走って行きました。

他の話ですが、三浦平六左衛門尉義村と弟の九郎右衛門尉胤義は、最初は義盛と結託して北門を守るように、同盟の誓いの文章を書いていたのですが、後になって心変わりをして、兄弟お互いに話し合って云うには「先祖の三浦平太為継は、八幡太郎義家に従ってきた。奥州で武衡・家衡を征伐してから、その源氏からの恩恵を受けて来たのです。今、縁故で親戚について、先祖代々の主人筋に戦を仕掛けては、きっと天罰が下るであろう。さっさと先の約束をひっくり返して、親戚の企てを通報するべきだろうと後悔しました。すぐに相州義時の屋敷へ行って、義盛の出陣を伝えました。

その時、相州義時は囲碁の最中でした。この話を聞いても、特に驚く気配はありませんでした。心を静めて目数を数えた後で、席を立ち、風折れ烏帽子を立ち烏帽子に取り替えて、水干に着替えて幕府へおいでになりました。しかし、和田義盛と横山右馬允時兼が結託して戦を仕掛ける疑いはあるけど、まさか今朝の事ではないだろうと、余裕も持ってるので、御所ではあえて防衛の準備をしていません。しかし大江広元と北条義時の二人の報告を聞いて、尼御台所政子様と坊門姫達は御所から北の門を出て、鶴岡八幡宮長官の房へお渡りになられましたとさ。

申の刻(午後四時頃)和田左衛門尉義盛は、仲間たちを引き連れて、なんと將軍御所を襲撃しました。

要するに彼に力を貸す連中は、跡継ぎの和田新左衛門尉常盛その息子の和田新兵衛尉朝盛入道、義盛の三男の朝夷名三郎義秀・四男の和田四郎左衛門尉義直、五男の五郎兵衛尉義重、六男の六郎兵衛尉義信、七男の七郎秀盛。

その他に、土屋大学助義清、古郡左衛門尉保忠、渋谷次郎高重〔横山権守時重の娘婿です〕、中山四郎重政・同太郎行重、土肥先次郎左衛門尉惟平、岡崎左衛門尉実忠〔佐那田余一義忠の子供〕、梶原六郎刑部烝朝景・同次郎景衡・同三郎景盛、同七郎景氏、大庭小次郎景兼、深沢三郎景家、大方五郎政直・同太郎遠政、塩谷三郎惟守以下で、ある者は親戚であり、ある者は友人である。先達ての春頃から一味となって徒党を組んできた連中です。

皆武装蜂起して、百五十の軍隊を三つに分けて、幕府の南門に一隊、義時の屋敷〔小町の北側〕の西の門に一隊、北の門に一隊で囲みました。義時さんは幕府に行ってますが、留守の意気盛んな男たちは、主従の義理をわきまえています。それぞれ板塀の一部を切欠いて、その隙間を矢狭間にして攻め戦ったのですが、守備隊の兵士は沢山死傷しました。

次に、大江広元さんの屋敷では、酒を飲んでるお客さんが未だ帰っていない、すぐ脇で和田義盛の大軍がやって来て門前を通りました。誰だかは分かりませんが、既に開始を告げる鏑矢を撃ち放って攻めています。

その後、叛逆軍は横大路〔御所南西の道です（三の鳥居前の東西の道の東側）〕に達し、御所の西南の政務事務所政所の前で、御家人達が立ちふさがって戦い合いは何度もありました。波多野中務丞小次郎忠綱が叛逆軍に向かって一番前に進み出ています。三浦平六左衛門尉義村が走ってこれに参戦しました。

酉の刻(午後六時頃)に、とうとう反逆軍は幕府の四面を囲んで、軍旗をひらひらゆるがせながら矢を射かけました。相模修理亮北条泰時弟の次郎朝時・上総三郎足利義氏達が防禦戦に力や作戦をつくしました。それでも朝夷名三郎義秀は、総門を突破して南庭に乱入して、防禦の御家人らを攻めました。そればかりか御所に火をつけたので、屋敷内の事務棟も住居棟もひとつ残らず燃えてしまいました。

この事によって、将軍実朝様は頼朝様の墓所法華堂へ入られました。御所の火災から逃れるためです。相州義時様と大江広元さんもご一緒しました。

この合間も戦いに挑戦する鏑矢の音が鳴り合って、刀のぶつかり合う音が響いています。中でも特に朝夷名三郎義秀はものすごい力を発揮して、そのすごさはまるで風神雷神のようです。彼と敵対して戦った者で死なない者はありませんでした。それらは、五十嵐小豊次、葛貫三郎盛重、新野左近将監景直、礼羽蓮乗を始めとする数人が殺されました。

その中で、高井三郎兵衛尉重茂〔和田次郎義茂の子で和田義盛の甥です〕が朝夷名義秀と戦いあいました。お互いに弓を投げ捨てて馬を並べて、勝負をつけようと、双方で取っ組み合って、一緒に落馬しましたが、ついに重茂は殺されてしまいました。朝夷名三郎義秀をやっつけられるのは、この人一人しかいないので、和田義盛の一族に味方しないで、一人で御所での戦に参加して命を落としてしまいましたので、人々は皆感心しないではいられませんでした。

そこで、朝夷名三郎義秀が未だ乗馬する前に、相模次郎朝時は刀で朝夷名三郎義秀にかかって行きました。その武力を比べたら、対等に戦えるはずだが、朝時は、傷つけられました。しかし、命までは取られませんでした。それは軍技も戦闘力も周りの連中を越えているからです。

又、足利三郎義氏は、政所の前の筋替橋のそばで朝夷名三郎義秀と出会ってしまいました。義秀は義氏の鎧袖を追っかけてひっつかみました。そしたらとても急いで義氏は馬に鞭をくれて、西御門川の西へ飛びました。そしたら、鎧袖は半ばから切り離れました。しかし、馬も倒れず、馬上の主も落馬しませんでした。

義秀はなおも頑張ろうとしましたが、合戦が始まって大分経ちますので、馬も疲れ切ってるので、難渋して西御門川の東側で留まりました。双方の勇士のありさまを云えば、決着が着かなかった事は明らかです。見ていた人達は手を叩いて舌打ちをしてブーイングでした。

義秀は、なおも橋の上を回って、義氏を追いかけようとした時に、鷹司冠者がその間に入って助けようとしたので、義秀にやられました。その合間に義氏は逃げる間を得て、思いっきり走りに走りましたとさ。

又、武田五郎信光は、若宮大路の米町口(下の下馬東)で、義秀と向かい合ったので、お互いに睨み付けて、今にも戦おうとした時に、信光の息子の悪三郎信忠がその間に割って入りました。そしたら義秀は、信忠が父に代わって死ぬつもりの心意気の健気さに感じて、そのまま走り去ってしまいました。

参考34巻仁治2年12月27日条に武田五郎信光の説明で、詳しく語っている。

和田左衛門尉義盛は、単に威力を張っているだけでなく、その部下達は一騎当千のもので、天地を震わせるほどに戦いました。今日も暮れて夜更けになり、星の出ている時間になっても未だに止みません。匠作泰時は、その和田一族の武勇を恐れません。命を顧みず、忠実で強力な部下達を使って、ちゃんと防いでいたので、明け方になって和田義盛は兵も少なくなり、矢も足りなくなってきました。疲れ切った馬に鞭打って由比ガ浜に引き下がりました。すぐに泰時は、旗を上げて部下を率いて中の下馬橋に防禦を固めました。

又、米町の十字路や大町大路の脇道の入口などで、合戦がありました。足利三郎義氏、筑後六郎八田知尚、波多野中務次郎経朝、瀬田三郎実季などが、勝ち戦に付け込んで、反乱軍を攻めました。

大江広元さんは、文書類を守るために頼朝法華堂から政務事務所の政所へ戻りました。途中の警護に御家人について行かせました。又、侍従一条能氏〔一条高能の子(一条能保の孫)〕・安芸権守藤原範高〔熱田神宮の大宮司藤原範雅の子〕達が涼しい遊び場を望んで郊外へ遊びに行っております。それなのに大騒ぎになっていると聞いて走ってきましたが、道も街中も全て戦場になっていました。それで二人とも馬を山内辺りで止めていた所、和田義盛は、引き下がったとの合間を狙って、頼朝法華堂へやってきましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こさめそそ　　　　よしもり　りょうどう　た　　じょうば　つか　　　　　　のところ　　とらのく
建暦三年(1213)五月小三日癸卯。小雨灑ぐ。義盛粮道絶へ、乘馬疲らかす之處、寅剋、

よこやまうまのじょうときかね　    はたののさぶろう　〔ときかね　　むこ〕　　よこやまのごろう　〔ときかね　　おい〕　　いげ　すうじうにんのしんじつ じゅうるいら　　いんそつ
 横山馬允時兼 が、波多野三郎〔時兼が聟〕横山五郎〔時兼が甥〕以下數十人之親昵 從類等を引率し、

こしごえうらに は　　　きた　 のところ　　すで　 かっせん　 さいちゅうなり
腰越浦于馳せ來る之處、既に合戰の最中也。

　〔　ときかねと　よしもり　　　ほんぎゃく　 こと　　　はか　　 あわ　　　　とき　　　きょう　　　 もつ　　　やあわ　　　　　ご　　　さだ　　　　　 よつ　　 いまきた　〕
〔時兼与義盛、叛逆の事を謀り合すの時、今日を以て箭合せの期と定む。仍て今來る〕推察この記事から推察すれば仕掛けたのは義時側になる。

よつ　　そ　　 とうるいみな　　か　　ところ　をい　　みのかさ　 す　　　　　つも　 て やま　 な　　　　　うんぬん　　しかるのち　よしもり　 じん　 くは
仍て其の黨類皆て彼の所に於て蓑笠を弃て、績り而山を成すと云々。然後、義盛の陣に加はる。

よしもり　　ときかねの　ごうりき　　え　　　　　しんき　の　うま　　あた　　　かれこれ ぐんぴょうさんぜんき　　なお　ごけにんら　　お　　 はし
義盛、時兼之合力を得て、新覊之馬に當る。彼是 軍兵三千騎。 尚御家人等を追い奔る。

たつのこく　　そが　　　なかむら　 にのみや　 かわむらのやから　くも　ごと　　さわ　　ほうき　　　ごと　　　おのおの　むさしおおじ およ　 いなむらがさき へんに　じん
 辰剋、曾我、中村、二宮、河村之輩 雲の如く騒ぎ、蜂起の如し。各、武藏大路及び 稻村崎 邊于陣どる。

　ほけどう　　　ごしょ　よ　　　　おんかん　あ　　　 いへど　　　ぎへい ぎたいの け あ　　　　　　　　そう　 な　　 さんじょう　 あたはず
法花堂の御所自り、恩喚有ると雖も、義兵疑貽之氣有りて、左右無く參上に不能。

みぎょうしょ　　つか　 され　　　 ほつ　　　　のころ　　すうひゃっきのなか　　 はたののいやじろうともさだ 　きずされなが　　　かく　　め　　　　　おう　　　 いしばしのみぎり　さん　 これ　 か
御教書を遣は被んと欲する之比、數百騎之中、波多野弥次郎朝定 疵被乍らも此の召しに應じ、石橋之砌に參じ之を書く。

か　　　みぎょうしょ　〔しょうぐん　　ごはん　　　の　　　らる　　　〕　は　　　あきのくにじうにん やまたむねたか　もつ　　　おんし　　つか　　さる　　　のかん
彼の御教書〔將軍の御判を載せ被る〕者、安藝國住人山太宗高を以て、御使を遣は被る之間、

ぐんぴょうこれ　はいけんせし　ことごと　もつ　　みかた　　さん
軍兵之を拝見令め、悉く以て御方に參ず。

また　　ちばのすけなりたねとうるい　いんそつ　は　　さん
又、千葉介成胤黨類を引率し馳せ參ず。

みのこく　 おんしょを　むさし いげ　　　きんごく　　つか　 され　　しかるべき ごけにんら　　おお　 くださる　　こと あ
巳剋、御書於武藏以下の近國へ遣は被、然可 御家人等に仰せ下被る事有り。

そうしゅう　だいかんれいれんしょのうえ　ごはん　　の　　　らる　ところなり　　そ　　　じょう　い
相州、大官令連署之上、御判を載せ被る所也。其の状に云はく、

　　 　近　辺　の　者　に、　　　　こ　の　 由　　を　ふ れ て 、　　召　し　具　す　べ　き　也　。　　　和　田　の　左　衛　門、　　　　土　屋　の　兵　衛、　　　　　　　横　山　の　者　共、
　きん邊のものに、このよしをふれて、めしくすへきなり。わたのさゑもん、津ちやのひやう衛、よこ山のものとも、

　　 　謀　反　を　起　 こ　し　て　、　　君　を　 　射　奉　る　と　　　 　云 え  ど  も  、　　べ つ の　こ と 無 き な り 。
　むほんをおこして、きみをいたてまつるといへとも、別ちの事なき也。

　　　　敵　　の　　散 り 散 り に　な り た る を　、　　急 ぎ　討 ち 取 り て　参　ら す べ し　。
　かたきのち里〜になりたるを、いそきうちとりてまいらすへし。

　　　　　　　　　　　ごがつみっか　　　みのこく　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だいぜんだいぶ（大江広元）
　　　　　五月三日　巳剋　　　　　　　　　　　　　　　　　大膳大夫

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみのかみ（北条義時））
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相 摸 守

　　　　ぼう　　どの
　　某　殿

おな　 とき　　たいぐんを はま　 む　　 て　かっせん　　　よしもりかさ　　　　　ごしょ　　おそ　　　　　　ぎ
同じ時、大軍於濱へ向け而合戰す。義盛重ねて御所を襲はんと擬す。

しかりて　　わかみやおおじは　 しょうさく　ぶしゅうぼうせん　 たま
然而、若宮大路者、匠作、武州防戰し給ふ。

まちおおじ は　　かずさのさぶろうよしうじ　　なごえは　 おうみのかみよりもち
町大路者、上総三郎義氏。名越者、近江守頼茂。

おおくらは　　 ささきのごろうよしきよ　　　ゆうきのさえもんのじょうともみつら
大倉者、佐々木五郎義�C、結城左衛門尉朝光等、

おのおの　じん　 は　　　 のかん　　とお　　　　　　ぎ　　　　　に　よんどころ　な
 各、 陣を張る之間、融らんと擬する于　據　無し。

よつ　　　ゆいのうらなら　　　　わかみやおおじ　をい　　　　かっせんとき　 うつ
仍て油比浦并びに若宮大路に於て、合戰時を移す。

およ　　さくゆうよ　　　こ　　　ひる　 いた　　　　せ　　 たたか　　 やまず　　　ぐんしら　おのおの　へいりゃく　つく　　　 うんぬん
凡そ昨夕自り此の晝に至り、攻め戰うを已不。軍士等 各、 兵略を盡すと云々。

みかた　　へい　　ゆりのちうはちたろうこれひさ　　　　　 もの あ　　　　　きゅうせんのみち　ほまれ た　なり
御方の兵に由利中八大郎維久という者有り。弓箭之道に譽 足る也。

わかみやおおじ　　をい　　　 みうらのやから　　い　　　　　そ　　 や　　 せいめい　 ちう
若宮大路に於て、三浦之輩を射る。其の箭に姓名を註す。

ふるごおりのさえもんのじょうやすただ　ろうじゅう　りょうさんやから こ　や　　 あた　　 やすただ おお　　いか　　て　　 くだん　　や　　　と　　　い かえ　　のところ
　古郡左衛門尉保忠　が郎從、兩三輩此の箭に中る。保忠大いに瞋っ兮、件の箭を取り射返す之處、

しょうさくのよろい　くさずり　　た　　 のかん　　これひさ　 よしもり　　くみせし　　　　みかた　　だいしょうぐん　いたてまつ　のよし　　ひろう　　　　うんぬん
匠作之鎧の草摺に立つ之間、維久、義盛に与令め、御方の大將軍を射奉る之由、披露すと云々。

ちんぜい　じゅうにん　こものまたたろうすけまさ　　　よしもりのじん　　　せ　　　い　　　 よしひで　 ため う　　と らる
鎭西の住人、小物又太郎資政�@、義盛之陣に攻め入り、義秀の爲討ち取被る。

  これ　 　こうだいしょうけ　　 おんとき　　こうらい　 せいさる　　のだいしょうぐんなり
是、故右大將家の御時、高麗を征被る�A之大將軍也。

参考�@小物又太郎資政は、薦野で現福岡県古賀市薦野。
参考�A高麗を征被るは、実は鬼怪嶋で現在の喜界島。同島の城久遺跡群では、8世紀末〜10世紀前半、11世紀〜12世紀頃の2時期に分かれた大集落跡や規則的に並ぶ建物と45ｍ以上続く石敷きの道路が発掘されているなど、出土品の量は国府に相当するそうな。

また　　いずものかみながさだ　おりふし　しこうのかん　　 ぶゆうの いえ　 あらず　いへど　　　こと　　ぼうせんのちゅう　 つく
又、 出雲守長定、 折節祗候之間、武勇之家に非と雖も、殊に防戰之忠を盡す。

これ　　ぎょうぶのきょうよりつねあそん　まご　　さえもんのすけつねなが　だんなり
是、 刑部卿頼經朝臣 の孫、左衛門佐經長が男也。

また　　にこうさんべっとうほうげんべんかく　〔ぞくめいおおかたよいち〕　　でし　　　　どうしゅくら　 いんそつ　　　まちおおじ　　をい　　　　なかやまのたろうゆきしげ と あいたたか
又、日光山別當法眼弁覺〔俗名大方余一�B〕弟子や同宿等を引率し、町大路に於て、中山太郎行重�C与相戰い、

しばらく　　　ゆきしげ に　　はし　　　　うんぬん
小時して行重迯げ奔ると云々。

参考�B大方余一は、常陸太田市大方で旧久慈郡金砂郷町大方。
参考�C中山太郎行重は、埼玉県飯能市中山。

ながおのしんろくさだかげの　　しそくたろうかげしげ　　じろうたねかげら　　よしきよ　 これひらに　あいあ　　　　　とうじょう
 長尾新六定景 之子息太郎景茂、次郎胤景等、義�C、惟平�D于相逢ひ、鬪諍す。

しか　　　 たねかげ　 しゃてい　 こわらべ 〔 あざ　　こうまる　　　とし　　　じうさん　〕　　 ながお よ　　　は　　　さん　　　　あに　 じん　 くは　　　　ぶげい　　ほどこ
而るに胤景が舎弟の小童〔字を江丸。年は十三〕長尾�E自り馳せ參じ、兄の陣に加はり武藝を施す。

よしきよら　これ　　かん　　　 か　　 たい　 や　　 はっせず　うんぬん
義�C等之に感じ、彼に對し箭を發不と云々。

参考�D惟平は、土肥次郎實平の孫。参考�E長尾は、神奈川県横浜市栄区長尾台。

よしきよ　 やすただ　 よしひでら さんき くつわ　なら　　　　しほうのへい　　 せ　　　　みかたの　ぐんし　　　たいさんたびたび　およ
義�C、保忠、義秀等三騎轡を並べ、四方之兵を攻め、御方之軍士の退散度々に及ぶ。

よつ　しょうさく　しょうだいのはちろうゆきひら　もつ　ししゃ　　な　　　　　　ほけどう　　　　ごしょ　　もうされ　　い
仍て匠作、小代八郎行平�Fを以て使者と爲し、法花堂の御所�Gへ申被て云はく。

参考�F小代八郎行平は、埼玉県東松山市正代。
参考�G法花堂の御所は、鎌倉市西御門にある頼朝墓の場所で、文治五年奥州征伐の際に頼朝が観音堂を建てさせ、死後頼朝の墓所として法華堂を建てた。

たぜいのたのみあ　　　　 に　　　　　　いへど　　　さら　　きょうとの　ぶ　ま　　　がた　　　　かさ　　　けんりょ　　めぐ　　さる　 べ　　　か　　 うんぬん
多勢之恃有るに似たりと雖も、更に凶徒之武敗け難し。重ねて賢慮を廻ら被る可き歟と云々。

しょうぐんけ　はなは　これ　 おどろ　せし　 たま　　　　ぼうせん　 こと　　なおもつ　 ひょうぎされ　　　ぎ
將軍家、太だ之を驚か令め給ふ。防戰の事、猶以て評議被んと擬す。

ときに ひろもとあそん まんどころ　そうら　せし　　のかん　　そ　　 めしあ　　　　　しか　　　　きょうと　ろじ　　　み　　　　　　ふい　な　　　　あらず
時于廣元朝臣政所へ候は令む之間、其の召有り。而るに凶徒路次に滿ち、怖畏無きに非。

けいご　　 ぶし　　　たま　　　　　　さんじょうすべ　 のよし　　これ　 もう　　　　よつ　　　　ぐんし　ら　　つか　　さる　　　のとき　　ひろもと 〔すいかん　くずばかま〕 さんじょうののち　　ごりゅうがん　　およ
警固の武士を賜はり、參上可し之由、之を申すに依て、軍士等を遣は被る之時、廣元〔水干に葛袴〕參上之後、御立願に及ぶ。

ひろもと ごがんしょ　　しっぴつ　 な　　　　 そ　　　おく　 おんじひつ　 もつ　　　　にしゅ　　　わか　　　くは　　らる
廣元御願書の執筆を爲す。其の奥に御自筆を以て、二首の歌を加へ被る。

すなは　きんうじ　 もつ　　　　か　　　ごがんしょ　つるがおか　をい　たてまつらる
即ち公氏を以て、彼の御願書を鶴岳に於て奉被る。

　そ　　とき　　あた　　　　だいがくのすけよしきよ あまなわよ　かめがやつ　い　 いわやどう　ぜんろ　 へ
斯の時に當り、 大學助義�C　甘縄自り龜谷に入り窟堂の前路を經る。

つぎ　 たびのごしょ　 さん　　　　　 ほつ　　　 のところ　　わかみや あかはしのみぎり　　　をい　　　ながれや これ よしきよ　　おか　ところ いのち　ほろぼ
次に旅御所に參ぜんと欲する之處、若宮　赤橋之砌　に於て、流矢 之 義�Cを犯す所 命を亡す。

くだん　や　ほっぽうよ　　と　　きた　　　　　これ　 かみ かぶらのよし　　おうか
件の箭北方自り飛び來る。是、神の鏑之由、謳歌す。

どうぼく か　　　くび　 と　　　じゅふくじ に ほうむ　　　　よしきよ とうじ　　ほんがんじゅ　 な　　　　 よつ　　なり
僮僕彼の首を取り壽福寺于葬る。義�C當寺の本願主を爲すに依て也。

参考土屋義�C没年記事。

これ　 おかざきのしろうよしざね　　じなん　　はは　　なかむらのしょうじむねひら　おんななり
是、岡崎四郎義實�@が二男。母は　中村庄司宗平�Aが女也。

けんりゃくにねんじうにがつさんじうにち だいがくごんのすけ　　にん　　　ほっしょうじ くじうのとう ぞうえい　　こう　　うんぬん
 建暦二年十二月卅日　　大學權助 に任ず。法勝寺 九重塔造營の功�Bと云々。

参考�@岡崎四郎義實は、三浦介義明の弟で中村宗平の婿となり、神奈川県平塚市岡崎の地を譲られた。
参考�A中村庄司宗平は、神奈川県足柄上郡中井町で、中井町は中村と井口村が合併した。
参考�B造營の功とは、法勝寺は天皇家の寺なので、そこへ塔を建立するのは天皇家の奉仕になる。

とりのこく　わだのしろうさえもんのじょうよしなお 〔としさんじうしち〕　　いぐのうまたろうもりしげ　　　ため　　う　　　と　らる　　　　ちちよしもり 〔としろくじうしち〕　　こと　　たんそく
酉剋、和田四郎左衛門尉義直〔年卅七〕伊具馬太郎盛重の爲に討ち取被る。父義盛〔年六十七〕殊に歎息す。

ねんらい　 よしなお　 ちょうあいせし　　よつ　 ろく　 ねが　ところなり　　いま　 をい　 は　　　かっせん　 はげ　　　　むえき　 うんぬん
年來、義直を鐘愛令むに依て祿を願う所也。今に於て者、合戰に勵むも無益と云々。

こえ　　あげ　　ひこく　　　　 とうざい　　めいわく　　　　つい　 えのさえもんのじょうよしのり　 しょじゅうに うたれる　　うんぬん
聲を揚て悲哭し、東西に迷惑�Dす。遂に江左衛門尉能範が所從于討被と云々。参考�D迷惑は、文字のとおりに迷い惑うこと。

おな　　　だん ごろうひょうえのじょうよししげ〔としさんじうし〕　ろくろうひょうえのじょうよしのぶ〔にじうはち〕　　しちろうひでもり 〔じうご〕　　いげ ちょうほん　しちにん　　とも　 ちう　 ふく
同じく男五郎兵衛尉義重〔年卅四〕、六郎兵衛尉義信〔廿八〕、七郎秀盛〔十五〕以下張本の七人、共に誅に伏す。

あさいなのさぶろうよしひで〔さんじうはち〕なら　　　すうそつら　かいひん　い　　　　 ふね　 さお　　　　あわのくに　　おもむ　　　そ　　ぜい ごひゃくき　 ふねろくそう　　うんぬん
朝夷名三郎義秀〔卅八〕并びに數率等海濱へ出で、船に棹さし安房國へ赴く。其の勢五百騎、船六艘と云々。

また　　しんさえもんのじょうつねもり　〔しじうに〕〕　　　　やまのうちのせんじろうさえもんのじょう　おかざきのよいちさえもんのじょう　よこやまのうまのじょう　ふるごおりのさえもんのじょう
又、新左衛門尉常盛〔四十二〕、 山内先次郎左衛門尉、　岡崎余一左衛門尉、　横山馬允、　古郡左衛門尉、

わだのしんひょうえにゅうどう　いじょうだいしょうぐんろくにん　　せんじょう　のが　　ちくてん　　うんぬん
和田新兵衛入道、以上大將軍六人は、戰塲を遁れ逐電すと云々。

参考□□□□□□□□□□□□大介□杉本□和田
三浦為通─為直─為継┬義継┬義明┬義宗┬義盛┬新左衛門尉常盛〔四十二〕─ 新兵衛尉朝盛入道
□□□□□□□□□□│□□ │□□│□□ │□□├義氏─重盛
□□□□□□□□□□│□□ │□□│□□ │□□├朝夷名三郎義秀〔卅八〕（巴御前の子の伝説あり）
□□□□□□□□□□│□□ │□□│□□ │□□├四郎左衛門尉義直〔年卅七〕
□□□□□□□□□□│□□ │□□│□□ │□□├五郎兵衛尉義重〔年卅四〕
□□□□□□□□□□│□□ │□□│□□ │□□├六郎兵衛尉義信〔廿八〕
□□□□□□□□□□│□□ │□□│□□ │□□├七郎秀盛。〔十五〕
□□□□□□□□□□│□□ │□□│□□ │□□└義国

かく　やから　ことごと　はいぼく　　　 のかん　　せじょう　むい　　ぞく　　　　そ　　　ご　　　そうしゅう　 ゆきちか　 ただいえ　 もつ　　　しがい　ら　　じっけんさる
此の輩、悉く敗北する之間、世上無爲に属す。其の後、相州は行親、忠家を以て、死骸等を實檢被る。

かりや　を　ゆいのうら　みぎわ　かま　　　　よしもり　いげ　　　くび　　と　　　あつ　　　　　　こんこく　 およ　　 のかん　 おのおの　たいまつ　　と
假屋於由比浦の汀に搆へ、義盛以下の首を取り聚める。昏黒に及ぶ之間、 各、松明を取る。

また　　そうしゅう　だいかんおお　うけたま　　　せし　　　　ひきゃく　 はつ　 られ　　おんしょを きょうと　　つか　　　　　りょうにんれんしょのうえ　　しょうぐんけ　　ごはん　　の　　 らる　 ところなり
又、相州、大官仰せを承はり令め、飛脚を發せ被、御書於京都へ遣はす。兩人連署之上、將軍家の御判を載せ被る所也。

これ　　よしもり　ちう　ふくせし　　　いへど　　 よとう これふんさんせし　　　 いま　　そ　　 そんぼう　 し　　　　　　　およ　　けいき のかん　　　　こつにく あ
是、義盛誅に伏令むと雖も、餘黨之紛散令め、未だ其の存亡を知らず。凡そ京畿之間に、骨肉有り。

ふじつ　　 けんさくの ぎ な　　　　　ば　　　　ごこん　　ろうるい　 た　　　がた　 なり　　おんしょの さま
不日に羂索之儀無くん者、後昆の狼唳を断ち難し也。御書之樣。

　　わだのさえもんのじょうよしもり　　つちやのだいがくのすけよしきよ　よこやまのうまのじょうときかね　　　全て　　さがみの　　もの共、　　　むほんを　　起こすと　　　いえども
　和田左衛門尉義盛、 土屋大學助義�C、　横山右馬允時兼。　すへて相摸の者とも、謀叛をおこすといへとも、

　　よしもりいのちをおとしをはんぬ
　義盛命を殞し畢。

　　おみかた　別のおんこと無し。　　　　　しかれども、　　　　　しんるいおおき上、　　　せんじょうよりも　　散り散りに　なる由　　　　聞こしめす。
　御所方別の御事なし。志かれとも、親類多きうへ、戰塲よりもちり〜に成よしきこしめす。

　　うみより　　さいかいへも　　おちゆきそうらひぬらん
　海より西海へも落行き候ぬらん。

　　ありのり　　ひろつな　おのおの　そなた様の　　　　御家人等に、　　　　　このおん文の　　　あんを　　　廻らして、　　　　　あまねく　　　　　相ふれて、
　有範、廣綱おの〜そなたさまの御家人等ニ、この御ふみの案をめくらして、あまねくあひふれて、

　　　よういを　　　致して、　　　　　討ち取り　　　　　参らすべきなり
　用意をいたして、うちとりてまいらすへき也。

　　　　　　　　　　　ごがつみっか　　とりのこく　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だいざんだいぶ
　　　　　五月三日　酉剋　　　　　　　　　　　　　　　　　　大膳大夫

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみのかみ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相 摸 守

　　　　　　ささきのさえもんのじょうどの
　　　佐々木左衛門尉殿

また　 さくこんりょうじつ　かっせんいた　のやから　おお　 もつ　 しょうさく　おんてい　 まい
又、昨今兩日、合戰致す之輩、多く以て匠作の御亭へ參る。

てい　あるじ はいしゅをくだん　らいきゃく　すす　 たま　　　　こ　　 かんおお　 られ　 い
々の主、盃酒於件の來客に勸め給ふ。此の間仰せ被て云はく。

さけ　 のむ　　をい　 は　　　なが　 これ　 ちょうじ　　　　　　ほつ　　　　そ　　　ゆえは　　さぬ　 ついたち よ　　い　　　　 すうこん　　え　あ
酒を飲に於て者、永く之を停止せんと欲す。其の故者、去る朔日夜に入り、數献の會有り。

しか　　　 ぎょうてん　〔ふつか〕　 よしもりおそ　 きた　　　 とき　なまじい　もつ　 かっちゅう　き　　　　　 きば せし　　　　いへど
而るに曉天〔二日〕義盛襲ひ來るの刻、憖に以て甲冑を着て、騎馬令むと雖も、

えんすいの　よけ　　 よつ　　　　ぼうぜん　 な　　　 のかん　　こうご だんしゅすべ　　のよし　　せいがん　をはんぬ
淵醉之餘氣に依て、惘然と爲す之間、向後断酒可し之由、誓願し訖。

しか　　　たびたびあいたたか　ののち　のど　 うるお　　ため　　みず　 たず　　　のところ　　かさいのろくろう　〔むさしのくにじゅうにん〕　ささえとさかづき　と　　　そ　　　これ　 すす
而るに度々相戰う之後、喉を潤さん爲、水を尋ねる之處、葛西六郎〔武藏國住人〕小筒与盞を取り副へ之を勸む。

そ　　　ご　　　のぞ　　　　いぜんの　い　　たちま　へん　　これ　 もち　　　さかずき　いた　　 は　　　かげつな　〔びとうのじろう〕　　　たま
其の期に臨み、以前之意、忽ち變じ之を用う。盞に至りて者、景綱〔尾藤次郎〕に給ふ�E。

ひと　 しょう　　とき　　をい　さだまらず　　ひきょう　ことなり　　ただ　　いまよ　　　いご　　　なおたいいん　この　 べからず　 うんぬん
人の性、時に於て不定、比興の事也。但し今自り以後、猶大飲を好む不可と云々。

参考�E盞に至りて者、景綱〔尾藤次郎〕に給ふを、後に尾藤は得宗被官となり、子孫がこの初代の話を誇りとして話している。

現代語建暦三年(1213)五月小三日癸卯。小雨が降っています。和田義盛は食料は無くなり、馬は疲れ切ってましたが、寅の刻(午前四時頃)横山右馬允時兼が波多野三郎盛通〔横山時兼の娘婿〕、横山五郎〔横山時兼の甥〕を始めとする数十人の親戚や部族を引き連れて、腰越浦に駆けて来たら、既に合戰をやっている最中でした。〔横山右馬允時兼と和田左衛門尉義盛とが、義時に叛逆する相談をした時に、今日を戦初めの鏑矢を射あうように決めていたので、今来たわけです〕参考この記事から推定すれば仕掛けたのは義時側になる。

それなので、一緒に来た連中は皆雨よけの笠をすてたので、笠の山となりましたとさ。それから和田左衛門尉義盛の陣地に交ざりました。和田義盛は横山右馬允時兼の応援がきたので新しい元気な馬を来たのと同じだ。全部で約三千騎(来たのが数十人なので三百程度が本当だろう)が、敵方の御家人を追いかけて走りました。

辰の刻(午前八時頃)、曽我・中村・二宮・河村の連中(皆神奈川県上下足柄郡)がわんさとやってきて騒ぐので、蜂の群れのようだ。それぞれ武蔵大路(現在の扇谷)及び稲村ケ崎のあたりに陣取りました。法華堂の将軍実朝様からお呼びがかかりましたが、勝負の行方が分からないので日和見をして安易に来ませんでした。命令書を出そうと思っていた時に、数百の軍勢の中から、波多弥次郎朝定は傷を受けながらも、この呼び出しに従って石段へ来てこれを書きました。

この命令書〔将軍実朝様の署名入り〕は、安芸国の侍山田太郎宗高を使者として行かせたところ、御家人の連中はこれを拝見して、皆全て味方にやってきました。又、千葉介成胤は一族を引き連れてやって来ました。

巳の刻(午前十時頃)、命令書を武蔵などの近場の国へ発出して、それ相応の御家人達に命令を出しました。相州義時と大江広元の署名をして花押を書き加えました。その文書には

近くの者に、この命令を伝えて連れて来るように。和田左衛門・土屋兵衛・横山の連中が、謀反を起こして、将軍に矢を射かけたけれど、大したことは無い。敵は散り散りになったので、急いで打ち取って来るように。

　五月三日　巳の刻　　　　　大膳大夫(大江広元)　相模守(北条義時)　　どなたへも

同じ時に大軍を由比の浦へ行かせて合戦です。和田左衛門尉義盛はもう一度御所を攻めようとしました。しかし、若宮大路には匠作泰時・武州時房が防ぎ、大町大路には、上総足利三郎義氏。名越には、近江守頼茂。大倉郷には佐々木五郎義�C・結城左衛門尉朝光などが、それぞれ陣を張っているので、通ろうとしても思うようになりません。それなので、由比浦や若宮大路の場所で合戦が続きました。おおよそ昨日の夕方から今日の昼まで攻撃や戦闘は終わらず。武士たちはそれぞれ力を尽くしました。

将軍側の兵隊に由利中八太郎惟久という人がいて、弓道の優れた者です。若宮大路で和田の連中を射ました。その矢に名前が書いてあります。古郡左衛門尉保忠の家来が二三人この矢に当たりました。古郡保忠は大変怒ってその矢を抜いて、逆に射返しました。その矢が匠作泰時の鎧の裾のスカート状の草摺に突き立ったので、惟久は和田義盛に味方して、味方の大將軍を射たぞと広めましたとさ。

九州の武士の小物又太郎資政は、和田義盛の陣へ攻め入りましたが、朝夷名三郎義秀のために討たれてしまいました。この人は、頼朝様の時代に高麗を抑えていた大將軍だったのです。 

また、出雲守定長は、たまたま来ていたので、武勇の家ではありませんが、特に忠節な防戦に頑張りました。この人は、刑部卿頼経さんの孫で、左衛門佐経長の息子です。

又、日光二荒山神社筆頭の法眼弁覚〔世俗の名前は大方余市〕は、弟子や一緒の宿泊者を引き連れて、大町大路で中山太郎行重と戦ったら、しばらくして行重は逃げて行きましたとさ。

長尾新六定景の倅の太郎景茂・次郎胤景達は、土屋大学助義清・土肥先次郎惟平に合ったので戦いました。なんと胤景の弟の未だ子供〔呼び名は江丸で年は数えの十三歳〕が長尾台から走って来て、兄の陣に加わり戦いの技を見せました。義清はこの勇気に感心して、彼に対して矢を射ることをしませんでしたとさ。

土屋大学助義清・古郡左衛門尉保忠・朝夷名三郎義秀が馬首を並べて周りの兵隊たちを蹴散らすので、味方の兵隊たちの退散は何遍にありました。それなので、匠作泰時は、小代八郎行平をつかわして頼朝法華堂の将軍実朝様に伝えて云うのには、「軍隊の数に物を言わせているように見えますけど、まだまだ反乱軍は負けそうにはありません。なおも、何か作戦を考えるべきでありましょう。」だとさ。将軍実朝様は大変驚きになられ、防戦について、なおも作戦会議を練ろうとなさいました。丁度大江広元さんが政務事務所へ来ているのでお呼びになられました。しかし、敵軍が道にあふれているので、受難の恐れがないわけじゃありませんので、警備の兵隊を与えるので来るようにとおっしゃるので、兵隊を行かせたら大江広元さん〔水干に葛の袴〕はやって来たので、神様への祈願書をしました。大江広元は、祈願書を書きました。その紙の奥書に将軍実朝様は自筆で二つの和歌を書き加えました。すぐに公氏に命じて、その祈願書を鶴岡八幡宮に届けさせました。

なんと丁度その時刻に、土屋大学助義清が甘縄から今小路を北上してきて、亀谷の寿福寺前で右折し、巌谷堂の前の道を走ってきました。そして、将軍実朝様の居る場所へ行こうとしましたが、八幡宮の赤橋の脇で流れ矢が当たり、命を失ってしまいました。この矢は、北側から飛んできました。きっと神様が射たのだろうと声を揃えて歌いました。土屋義清の小間使いがその首を切り離して持って行き、寿福寺に葬りました。義�Cはこの寺の元の地主だからです。

この人は、岡崎四郎義實の次男で、母は中村庄司宗平の娘です。建暦二年十二月三十日大学権助に任命されました。法勝寺の九重塔を寄付した手柄です。(これを成功(じょうごう)と云う)

酉の刻(午後六時頃)、和田四郎左衛門尉義直〔年三十七〕は、伊具右馬太郎盛重に討たれました。父の和田左衛門尉義盛〔年六十七〕は特にがっかりしました。「ずうっと義直を可愛がって来たので領地を継がせたかっただ。こうなっては合戦を続けても何も得るものはない。」と声を上げて男泣きして、ふらふらと迷い歩いていたので、ついに大江左衛門尉能範の部下に討ち取られてしまいました

同じ倅の五郎兵衛尉義重〔年三十四〕、六郎兵衛尉義信〔二十八〕、七郎秀盛〔十五〕を始めとする首謀者七人も同様に打ち取られました。

朝夷名三郎義秀〔三十八〕とその子分達は、海岸へ出て船で安房国へ行きました。その数は五百騎で船六艘だそうです。

又、和田新左衛門尉常盛〔四十二〕、山内先次郎左衛門尉、岡崎余一左衛門尉実忠、横山右馬允時兼、古郡左衛門尉保忠、和田新兵衛入道朝盛の以上大将軍六人は戦場を離れて逃げてしまいましたとさ。

これらの連中が、全て負けたので、世の中は無事になりました。その後、相州義時は、金窪兵衛尉行親・安東次郎忠家に命じて首実検をされました。仮の小屋を由比の浦の波打ち際へ造って、和田左衛門尉義盛を始めとする首を集めました。暗くなってしまったので松明を灯しました。

又、相州義時と大江広元は将軍の命により、飛脚を出発させ手紙を京都へ送りました。二人で署名して将軍実朝様の花押を載せました。これは和田義盛は滅ぼしましたが、仲間があちこちに逃げ散らばり、未だに消息が分からないからです。たぶん京都や関西にも肉親がいる事でしょう。日を置かずに探さないと後の禍を断ち切りにくいからです。その書かれた内容は、

和田左衛門尉義盛・土屋大学助義清・横山右馬允時兼、相模の連中が謀反を起こしましたが、その義盛がすでに死にました。将軍方は何事もありません。しかし、義盛には親戚も多く、戦場からばらばらに散って行ったと聞いております。海を渡って九州方面へ落ちて行った可能性もあります。平有範・佐々木広綱それぞれ様から在京御家人にこの手紙を回覧して漏らさず知らせて、準備をして討ち取ってください。

　　五月三日　酉の刻(午後六時頃)　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大江広元　＆　相模守義時

　　佐々木左衛門尉広綱　殿

又、昨日今日と合戦に参加した連中の多くは、匠作泰時の屋敷へ来ました。屋敷の主はお酒を来客たちに勧めました。
そして語るのには「これからは、永遠に酒を断とうと思う。その理由は、一日の日の夜になって多少の飲み会がありました。そしたら翌明け方〔二日(二日条には酉の刻午後六時頃とある)〕に和田義盛が攻めてきた時に、無理して鎧兜を着けて馬に乗ったけれど、二日酔いのため呆然としてたので、今後は断酒しようと神に誓いました。しかしながら、何度も戦っているうちに喉が渇いたので、飲み水を探していると葛西六郎〔武蔵の武士〕が竹筒の蓋を取って勧めてくれました。その時には、前の誓いも忘れて、これを呑んでしまいました。しかもお流れを景綱〔尾藤次郎〕に与えました。人の心なんぞ、定かではありませんね。おかしい話ですね。但し、これからは大酒は控えることにしましょう。」だってさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こさめふる
建暦三年(1213)五月小四日甲辰。小雨降。

ふるごおりのさえもんのじょう きょうだいは　　かいのくに　ばんどうやま　はかりのひがし　　きそいしごう　にっき　　 をい　　じさつ

　古郡左衛門尉　兄弟者、甲斐國 坂東山�@波加利�A之東、競石郷 二木に於て自殺す矣。

わだのしんさえもんのじょうつねもり　〔とし　しじうに　〕　なら　　　　よこやまうまのじょうときかね　〔としろくじういち〕　　 ら　は　　ばんどうやま　つぐはらべっしょ　をい　　じさつ　　　　うんぬん
和田新左衛門尉常盛〔年四十二〕并びに横山右馬允時兼〔年六十一〕等者、坂東山 償原別所�Bに於て自殺すと云々。

ときかねは　よこやまのごんのかみときひろ　ちゃくなんなり　　おば 〔ときひろ　いもうとなり〕 は　　よしもり　　つま　　な　　　　　いもうとはまた　　つねもり　　とつ
時兼者、 横山權守時廣が 嫡男也。伯母〔時廣が妹也〕者、義盛の妻と爲し、妹者又、常盛に嫁ぐ。

 ゆえ　 いま かく　むほん　　　よどう　　　　うんぬん
故に今此の謀叛に与同すと云々。

くだん　りょうにんのくび　　きょう　とうらい　　　　およ　　かたせがわへんに きょう　　ところのくび　にひゃくさんじうし　　うんぬん
件の兩人之首、今日到來す。凡そ固瀬河邊于梟する所之首、二百三十四と云々。

参考�@甲斐國坂東山は、山梨県都留市。参考�A波加利は、山梨県大月市初狩。参考�B償原別所は、都留市大菩薩峠。

たつのこく　しょうぐんけ　ほけどう　よ　　ひがしごしょ　〔あまみだいどころ　ごだい〕　　に　にゅうぎょ
辰剋、將軍家法花堂自り東御所〔尼御臺所が御第〕于入御す。

そ　　　ご　　　にしみかど　　〔まく　　　ひ　　　〕　　　 をい　　　りょうじつ　 かっせんのかん　 きずさる　　ぐんしら　 これ　　め　　 あつ　　らる　　じっけん　 くは　　らる
其の後、西御門〔幕を曳く〕に於て、兩日の合戰之間、疵被る軍士等之を召し聚め被、實檢を加へ被る。

やましろのほうがんゆきむらぶぎょう　　な　　　　　ゆきちか　 ただいえこれ　あいそ
 山城判官行村 奉行を爲す。々親、忠家之を相副へる。

きずさる　　もの　　　　およ　ひゃくはちじうはちにんなり
疵被る者は、凡そ百八十八人也。

そ　　　うち　　さがみのじろうは　ごしょちゅう　　まい　　　ていじょう　へ　　　　　こごしょ　ひがしつら　れんちゅうにはい
其の内、相摸次郎者御所中へ參り、庭上を經て、小御所東面の簾中于入る。

ぎょうほしんたいせず　よつ　　　しょうさく　ふち　　　たま
行歩進退不に依て、匠作扶持し給ふ。

これ　　さんぬ　ふつか よしひでと あいあたか　て きずせら　ところなり　ろうぐん こ　　てい　み　　　　　　らくるい　 およ　　　　うんぬん
是、去る二日　義秀与相戰っ而疵被る所也。老軍此の躰を見て、落涙に及ぶと云々。

つい　　しょうぐんけ　ぐんしら　　くんこうの せんしん　 たず　　き　　 せし　 たま
次で將軍家軍士等の勳功之淺深を尋ね聞か令め給ふ。

ここ　　はたののなかつかさのじょうただつな　もう　　　い　　　　　　　よねまちなら　　　まんどころ　をい　　　りょうど　せんと　　すす　　　　うんぬん
爰に　波多野中務丞忠綱　申して云はく、米町并びに政所に於て、兩度先登に進むと云々。

よねまち　 ことは　　　お　　 てろんぜず　　まんどころまえ　かっせんは　　みうらのさえもんのじょうよしむら　せんとのよし　　これ　 もう
米町が事者、置い而不論。 政所前の合戰者、 三浦左衛門尉義村 先登之由、之を申す。

なんてい　をい　おのおの　がうがう　ろん　　およ　　　のかん　　そうしゅうただつなをかんじょ　まね　　　みつみつ　おお　 られ　 い
南庭に於て 各、 嗷々の論に及ぶ之間、相州忠綱於閑所に招き、密々に仰せ被て云はく。

このたび　せじょう　ぶいのじょう　　ひとへ　よしむらのちうせつ　 よる
今度、世上無爲之條。偏に義村之忠節に依。

しからば　　よねまちかっせんせんと　こと　　いろん　な　　 のうえは　　まんどころまえ　せんと　　こと　　か　　　きんご　　たい　　　　そうろん　　　じぎ　　　かな　　がた　　か
然者、米町合戰先登の事、異論無き之上者、政所前の先登の事、彼の金吾に對する相論、時儀に叶い難き歟。

おんびん　ぞん　　　 ば　　ふじのしょう　　おこな　られる　　　そ　　うたが　　な　　　　うんぬん
穩便を存ずれ者不次之賞に行は被は、其の疑い無きと云々。

ただつな　もう　　　い
忠綱、申して云はく。

ゆうし　の　せんじょう　　むか　　　　　せんと　　もつ　　ほんい　　　な　　　　ただつな いやしく かぎょう　つ　　　　　きゅうば　　かかは
勇士之戰塲に向うは、先登を以て本意と爲す。忠綱 苟も 家業を繼ぎ、弓馬に携る。

なんかど　　　いへど　　 せんと　　 すす　　　 つく　　なり　　いったんのしょう　ふけ　　　　ばんだいのな　　けが　　べからず　　うんぬん
何箇度と雖も、先登に進むを盡す哉。一旦之賞に耽り、万代之名を黷す不可と云々。

しか　　　　か　　　 しんぎ　　し　　　　　め　　　　　　　ため　 ただつな　 よしむら らを　ほくめん　ふじ　 おんつぼうち　 め　　　　ゆきみつぶぎょうた
而して彼の眞僞を知るし食されん爲、忠綱、義村等於北面の藤の御壷内に召す。行光奉行爲り。

しょうぐんけ　い　　 たま　　　おんみす　あ　　 らる
將軍家出で御い、御簾を上げ被る。

そうしゅう〔すいかん〕　だいかんれい〔おな　　〕　みんぶのたいふゆきみつ〔ひたたれ〕 ら　　ひろびさし　そうら　られ　　たにん そ　ところ　のぞまず
相州〔水干〕大官令〔同じ〕民部大夫行光〔直垂〕等、廣廂に候は被、他人其の所に不臨。

ま　　　よしむら　〔こんむらこいよろいひたたれ〕　め　　　　　つい　 ただつな　〔もえぎらんぢよろいひたたれ〕　　　め　　　　　りょうにん すのこ　 えんざ　　そうら　　　たいけつ　　　と
先ず義村〔紺村濃鎧直垂〕を召す。次で忠綱〔黄木蘭地鎧直垂〕を召す。兩人簀子の圓座に候ひ、對决を遂ぐ。

よしむら　もう　　　い
義村申して云はく。

よしもり しゅうらいのさいぜん　よしむら まんどころのまえを みなみ　は　　むか　　　　や　　　はつ　　　　のとき　　 みじん　 いへど　 そ　　まえ　　と　　　ゆかず　　うんぬん
義盛 襲來之最前に義村 政所之前於 南に馳せ向ひ、箭を發する之時、微塵と雖も其の前を飛び行不と云々。

ただつな　もう　　　い　　　　　　　 ただつな ひとり せんと　すす　　　よしむらは ただつな　 しそく つねとも　　ともさだら　　 へだ　　こうじん　　あ
忠綱 申して云はく。忠綱一人先登に進む。義村者忠綱が子息經朝、々定等を隔て後陣に在り。

しか　　　　ただつな　 みざるのよし　　　もう　　　　　めくら　た　　　　　か
而るに忠綱を不見之由を申す。盲目爲らん歟。

これ　　よつ　　か　　 ときの せんし ら に たず　 らる　　　　こうごうぐうしょうしん　　やましろほうがんじろう　　かねこのたろう　こた　もう　　　　い
之に依て彼の時之戰士等于尋ね被る。皇后宮少進、山城判官次郎、金子太郎答へ申して云はく。

あかがわをどし　よろい　あしげのうま　が　　　の ぐんし せんと　　　うんぬん
 赤皮威の鎧、葦毛馬に駕す之軍士先登と云々。

これ ただつななり　くだん　うまは　そうしゅうよ　はいりょうせし　ところなり　 かたぶち　ごう　　　　うんぬん
是 忠綱也。件の馬者相州自り拝領令む所也。片淵と号すと云々。」

また　　よしもりじっこん　ばんとうら　これ　　もと　　　らる
又、義盛親昵の伴黨等之を搜め被る。

現代語建暦三年(1213)五月小四日甲辰。小雨が降っています。古郡左衛門尉兄弟は、山梨県の都留市、大月市初狩の東、競石村の二木で自殺しました。和田新左衛門尉常盛〔４２才〕と横山右馬允時兼〔６２才〕は山梨県都留市大菩薩峠で自殺しましたとさ。横山時兼は、横山時広の嫡男（跡継ぎ）です。叔母さん（時広の妹）は、和田義盛の妻となっており、横山時兼の妹が常盛に嫁いえでいます。こういう親戚関係の縁で和田義盛の旗揚げに加担したんだとさ。今日、この二人の首が到着しました。片瀬川の浜で晒し首にしたのは２３４なんだとさ。

辰の刻(午前八時頃)将軍実朝様は頼朝様の墓所法華堂から東の御所〔尼御台所政子様の住まい〕へ入られました。

その後、西御門〔幔幕で囲った〕で、二日間の合戦で怪我をさせられた武士たちを呼び集めて、実態を検査しました。山城判官二階堂行村が担当です。金窪兵衛尉行親・安東次郎忠家を手伝いに付けました。怪我を受けた者はおおよそ１８８人でした。

その中で相模次郎北条朝時は、御所へ来て庭を横切って小御所の東部屋の御簾の中へ入りました。怪我のため思うように歩けないので、兄の匠作泰時が手助けをしていました。この人は先日の二日に朝夷名三郎義秀と戦って傷つけられたのです。年寄の武士がこの様子を見て、涙をこぼしたそうです。
(編集者は御所は火事で燃えてしまった事を忘れて書いているようだが、将軍実朝の居る東の御所の事であろう。)

次に、将軍実朝様は武士たちの手柄の大小をお聞きになりました。

そしたら、波多野中務丞忠綱が申しあげるのには、「米町と政務事務所政所の場所の二か所で一番乗りで攻め込みました。」だとさ。「米町については意義はありませんが、政所前の合戦では、三浦平六左衛門尉義村が一番乗りでした。」と三浦義村が云いだしました。南の庭で、双方が言い争っているので、相州義時は、波多野忠綱を人の居ない場所へ呼んで、内々に云って聞かせました。「今度の合戦が無事に済んだのは、三浦義村が和田義盛を裏切って、将軍側についたからです。そこで、米町の合戦の一番乗りの手柄は異論がないのですから、政所前の先陣については、あの左衛門尉義村と争うことは現在の事情では難しいので、穏便に済ます事を承知すれば、前の手柄の破格の表彰は間違いないでしょう。」

しかし、波多野忠綱は云いました。「勇気ある武士が戦場に出る時には、一番乗りを目的とします。忠綱は少なくても武士の家柄をついで、馬上弓に係っている以上、何度でも一番乗りを心がけます。一時の褒美に埋没して、先々までの名誉を汚すものではありませんよ。」だとさ。

それなので、その真実を将軍の前ではっきりさせるために、波多野忠綱と三浦義村を藤の坪庭に呼び出しました。二階堂行光が担当しました。
将軍実朝様のお出ましで、御簾をあげました。(東の御所であろう)相州義時〔水干〕大江広元〔同じ〕二階堂民部大夫行光〔直垂〕達が、濡れ縁に控え、他の者は入れませんでした。

まず三浦義村〔紺のグラデーションの鎧直垂〕を呼びました。次に波多野忠綱〔萌黄の鎧直垂〕を呼びました。二人を簀子の上の藁の丸い座布団円座に座り、御前対決させました。
義村は云いました。「義盛を攻めて、一番前を義村は政所前を南に走って向かい矢を射た時、塵一つとして私の前を飛んでいく者はありませんでした。」だとさ。
忠綱は云いました。「私忠綱ひとりが一番に進みました。義村は私の子供等の経朝・朝定の後ろに居ました。それなのに忠綱を見ていないとは、目が悪いんじゃないの。」

そこで、その当時の戦闘員達に聞きました。皇后宮少進盛景・山城判官次郎基行・金子太郎が答えて云いました。「赤い皮でつづった赤皮威しの鎧を着て、葦毛の馬に乗ってた者が戦闘でした。」とのことです。これはもう忠綱です。その馬は相州義時からもらったもので、片淵と呼ばれるそうです。

又、義盛と仲の良い仲間を探しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　よしもり　 ときかね いげ　むほんのやから　しょりょう　 みまさか　　あわじら　　　くに　　しゅごしき
建暦三年(1213)五月小五日乙巳。天霽。義盛、時兼以下謀叛之輩が所領、美作、淡路等の國の守護職。

よこやまのしょう いげ むねとたるのしょしょ　　ま　　　もつ　　これ　 しゅうこう　　　　くんこうのしょう　　あ　　　らる　　べ　　　　うんぬん
 横山庄 以下 宗爲之所々、先ず以て之を収公し、勳功之賞に充て被る可しと云々。

　　そうしゅう　だいかん これ　 さた もうされせし　　　　つい　さむらいべっとう　こと　　よしもりのけつ　　もつ　　　　そうしゅう　　おお　 らる　　　うんぬん
相州、大官之を沙汰令むよう申被る。次で、侍別當の事、義盛之闕を以て、相州に仰せ被ると云々。

また　　さんぬ　みっか　 ゆりのちうはちたろうこれひさ　 しょうさく　いたてまつ　こと　ぞういのくはだてなり
又、去る三日、由利中八太郎維久、匠作を射奉る事 造意之 企 也。

すで　　よしもり　　おな　　　　きゅうめいさる　べ　　のよし　　　そ　　さた　あ
已に義盛に同じ、糺明被る可し之由、其の沙汰有り。

くだん　や　を　ごしょ　　　めさる　　のところ　　や　 ちゅうぶんめいなり　　さら　　そ　　　とが　 のが　 がた　　のかん　　みけしき　あ
件の箭於御所に召被る之處、矢の注分明也。 更に其の咎を遁れ難き之間、御氣色有り。

しか　　　 これひさ ちん　もう　　　　い　　　　　　　　みかた　　そうら　　　　きょうと　 ぼうぎょ　　　　こと　　ぶしゅう みし　　 せし　 たま
而るに維久陳じ申して云はく。御方に候ひ、凶徒を防禦する事、武州見知ら令め給ふ。

たず　 けっせら　　ののち　　ざいか　　とこう　あ　　　べ　　　か　　　うんぬん
尋ね决被る之後、罪科の左右有る可き歟と云々。

よつ　　ぶしゅう　　め　　　　 ぶしゅうもうされ　　い　　　　　　これひさわかみやおおじ　をい　　　 やすただ　 たい　　　　や　　はつ　　　　　 たびたび　 およ
仍て武州を召す。々々申被て云はく、維久若宮大路に於て、保忠に對し、箭を發するは度々に及ぶ。

そ　　　とききょうとら　すこぶ　ひきかえ　　 すいりょうのおよ　ところ　　あとう　　　か　　　や　　　いかえ　　か　　うんぬん　　しかれども　なおもつ　 これ　 ゆるされず　 うんぬん
斯の時凶徒等頗る引返す。推量之覃ぶ所。阿黨が彼の箭を射返す歟と云々。 然而、猶以て之を宥被不と云々。

現代語建暦三年(1213)五月小五日乙巳。空は晴れました。和田義盛・横山時兼を始めとする謀反人の領地や、美作・淡路などの国の守護職。横山庄を始めとする主だった者の領地をまず取り上げて、手柄を立てた褒美に充てることにしたそうです。相州義時・大江広元が実施するよう申されました。次に軍事警察権の侍所長官については、義盛の欠を相州義時に命じられましたとさ。

又、先日の三日に由利中八太郎惟久が、匠作泰時を射たことについては、反乱の意思と思われ、義盛と同じなので、取り調べるようにお決めになられました。その矢を御所に持ってこさせたところ、矢に書かれた名前ははっきりしています。その罪は逃れられようもないので、お怒りでした。しかし、惟久が弁解をするのには、「お味方に居て、敵方を防禦していた事を、武州時房が見て知っていました。ぜひお聞きになった上で、罪の有無を決めるべきでしょう。」だとさ。

そこで武州時房を呼びました。時房が言うには「惟久は若宮大路で、古郡左衛門尉保忠に対して矢を射る事が何度にも及びました。その時敵どもは、その矢を恐れて引いていました。推測すると敵どもがその矢を射返したのではないでしょうか。」との事です。しかしながらなおもまだ許されませんでしたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　おかざきのよいちさえもんのじょう おやこさんにん　ちうされ　うんぬん
建暦三年(1213)五月小六日丙午。天霽。 岡崎余一左衛門尉　父子三人 誅被ると云々。

さるのこく　しょうぐんけ　さきのだいぜんだいぶひろもとあそんの ていに　い　　たま　　　　これ　さんぬ　ふつか　　ごしょ　しょうしつ　　よっ　　なり
申尅。將軍家、 前大膳大夫廣元朝臣 之亭于入り御う。是、去る二日の御所の燒失に依て也。

みだいどころ〔おんこし〕　また　みなみみどう　よ　　そ　　　ところ　い　　　たま　　　あまみだいどころ〔おんこし〕　もと　ところ　わた　　たま
御臺所〔御輿〕又、南御堂自り其の所へ入り御う。尼御臺所〔御輿〕本の所へ渡り御う。

きょう　　　そうしゅう　さえもんのじょうゆきちか　　もつ　　さむらいしょし　さだ　らる　　　　うんぬん
今日、相州、左衛門尉行親を以て、侍所司に定め被ると云々。

また　　ゆきむら　　ゆきちか　　ただいえら　おお　　　　　 このたび　ぼうそつ　いけどりら　きゅうみょう　ちう　　らる
又、行村、行親、忠家等に仰せて、今度 亡率 生虜等の交名を注せ被る。

おのおの　ひごろひろ　これ　　たず　　き　　　　　 と　　けんじょうせし　ところなり　 ごらん　　　へ　　 ののち　　ひろもとあそん　　あず　　らる　　　 うんぬん　　
 各、 日來廣く之を尋ね記し、遂げ献上令む所也。御覽を歴る之後、廣元朝臣に預け被ると云々。

そ　　 じょう　い　　　　　　　　　〔 ほんにはつぶさ　　　これ　　き　　　　　　いまこれ　りゃく　　　　　　ひと　　かず　　はか　　 これ　　 き　　〕
其の状に云はく。〔本ニハ具に之を記す。今之を畧す。人の數を計り之を記す〕

　　　けんりゃくさんねんごがつふつかみっか かっせん　 う　　　れるひとびと　　にき
　　建暦三年五月二日三日 合戰で討た被人々の日記

　　わださえもんのじょう　　　　どうしんさえもんのじょう　　　あさいなのさぶろう　　　どうしろうさえもんのじょう
　和田左衛門尉　 同新左衛門尉　 朝夷名三郎　 同四郎左衛門尉

　　どうごろうひょうえ　　　　　　どうろくろうひょうえ　　　　　　どうしちろう　　　　　　　どうしんひょうえにゅうどう
　同五郎兵衛　　 同六郎兵衛　　 同七郎　　　 同新兵衛入道

　　どうはちろう　　　　　　　　　どうごろう　　　　　　　　　　　どうくないにゅうどう　　　どういやじろう
　同八郎　　　　 同五郎　　　　 同宮内入道　 同弥次郎

　　どういやさぶろう　〔こ　　ほか　こもの　ろうじゅうは　ちうさず　　いじょうじうさんにん〕
　同弥三郎〔此の外小者郎等ハ注不。以上十三人〕

ひとつ　よこやま　ひとびと
一　横山の人々

　　よこやまのうまのじょう　　　　やないのろくろう　　　　　　ひらやまのじろう　　　　　どうこじろう
　横山右馬允　　 屋な井の六郎　 平山次郎　　 同小次郎

　　あいはらのたろう　　　　　　　どうこじろう　　　　　　　　　どうとうごろう　　　　　　　 たなのひょうえ
　粟飯原太郎�@ 　 同小次郎　　　 同藤五郎　　 たな野兵衛�A

　　たなのたろう　　　　　　　　　おかののじろう　　　　　　　おやまのたろう　　　　　  ちみうのじろう
　たなの太郎　　 岡乃次郎　　　 小山太郎　　 ちミう次郎

　　どうたろう　　　　　　　　　　　どうじろう　　　　　　　　　　　どうごろう　　　　　　　　　ふるごおりのさえもん
　同太郎　　　　 同次郎　　　　 同五郎　　　 古郡左衛門

　　どうごろう　　　　　　　　　　　どうろくろう　　　　　　　　　　どうおいひとり　　　　　　 どうおとうとふたり
　同五郎　　　　 同六郎　　　　 同甥一人　　 同弟二人

　　どうじろう　　　　　　　　　　　くぬぎだのじろう　　　　　　　どうじろう　　　　　　　　　どうごろう
　同次郎　　　　 捫田太郎�B 　　 同次郎　　　 同五郎

　　どうさぶろう　　　　　　　　　 どうごろう　　　　　　　　　　　どうまたごろう　　　　　　　よこやまのろくろう
　同三郎　　　　 同五郎　　　　 同又五郎　　 横山六郎

　　どうしちろう　　　　　　　　　 どうくろう
　同七郎　　　　 同九郎

　　　　　　　　　いじょうさんじういちにん
　　　　以上三十一人

参考�@粟飯原は、神奈川県相模原市緑区相原。参考�A田名は、同市中央区田名。参考�B椚田は、東京都八王子市椚田町。

ひとつ　つちや　　ひとびと
一　土屋の人々

　　だいがくのすけ　　　　　　　どうしんひょうえ　　　　　　　どうじろう　　　　　　　　どうさぶろう
　大學助　　　　 同新兵衛　　　 同次郎　　　 同三郎

　　どうしろう　　　　　　　　　　　そのだのしちろう　　　　　　どうたろう　　　　　　　　どうじろう
　同四郎　　　　 薗田七郎　　　 同太郎　　　 同次郎

　　　やきいのしちろう　　　　　どうじろう
　屋き井七郎　　 同次郎

　　　　　　　　　いじょうじうにん
　　　　以上十人

ひとつ　やまのうち　ひとびと
一　山内の人々

　　やまのうちのさえもん　　　　　　どうたろう　　　　　　　　　どうじろう　　　　　　　　　　　　おかざきのさえもんのじょう
　山内左衛門　　　 同太郎　　　 同次郎　　　　　 岡崎左衛門尉

　　どうたろう　　　　　　　　　　　　 どうじろう　　　　　　　　　 ゆいのたろう　　　　　　　　　　 たかいのひょうえ
　同太郎　　　　　 同次郎　　　 由井太郎　　　　 高井兵衛

　　なべいのこじろう　　　　　　　　どうしちろう　　　　　　　　おおたわのしろう　　　　　　　　どうごろう
　なへいの小次郎　 同七郎　　　 大多和四郎　　　 同五郎

　　おおかたのこじろう　　　　　　 どうごろう　　　　　　　　　 なるやまのしろう　　　　　　　　 どうたろう
　大方小次郎�C 　　 同五郎　　　 成山四郎　　　　 同太郎

　　どうじろう　　　　　　　　　　　　 たかやなぎのこじろう　　 といのさえもんたろう　　　　　　どうじろう
　同次郎　　　　　 高柳小次郎　 土肥左衛門太郎　 同次郎

　　　　　　　　　いじょうにじうにん
　　　　以上二十人

参考�C大方は、下総。

ひとつ　しぶや　　ひとびと
一　澁谷の人々

　　しぶやのせんさのじろう　　　　　　　どうさぶろう　　　　　どうごろう　　　　　　　　どうこじろう
　澁谷せんさの次郎　 同三郎　　 同五郎　　　 同小次郎

　　どうこさぶろう　　　　　　　　　　　　　こやまのしろう　　　どうたろう　　　　　　　　どうじろう
　同小三郎　　　　　 小山四郎　 同太郎　　　 同次郎

　　　　　　　　　いじょうはちにん
　　　　以上八人

ひとつ　もり　　　ひとびと
一　毛利の人々

　　もりのたろう　　　　　　　　　　　どうこたろう　　　　　　　 どうこじろう　　　　　　　 もりのべのごろう
　毛利太郎　　　　 同小太郎　　 同小次郎　　 森邊五郎

　　おいひとり　　　ひこひとり　　　 しぶかわのさえもん　　 どうこじろう　　　　　　　 どうさえもんたろう
　甥一人　彦一人　 澁河左衛門　 同小次郎　　 同左衛門太郎

　　どうこじろう
　同次郎

　　　　　　　　　いじょうじうにん
　　　　以上十人

ひとつ　かまくら　　ひとびと
一　鎌倉の人々

　　かじわらのぎょうぶ　　　　　　　 どうたろう　　　　　　　　 どうこじろう　　　　　　　 うさみのへいたろうさえもん
　梶原刑部　　　　 同太郎　　　 同小次郎　　 宇佐美平太郎左衛門

　　おおばのこたろう　　　　　　　　 といのこたろう　　　　　 とよたのへいた　　　　　しのみやのさぶろう
　大庭小次郎　　　 土肥小太郎　 豊田平太　　 四宮三郎

　　どうたろう　　　　　　　　　　　　　あいこうのこたろう　　　 どうさぶろう　　　　　　　どうごろう
　同太郎　　　　　 愛甲小太郎　 同三郎　　　 同五郎

　　かねこのたろう
　金子太郎

　　　　　　　　　いじょうじうさんにん
　　　　以上十三人

ひとつ　いつみのごろう　　　　　　　　　どうじろう　　　　　　　　　　 どうたろう　　　　　　　　　　　えびなのひょうえ
一　逸見五郎　　　　 同次郎　　　　 同太郎　　　　 海老名兵衛

　　どうたろうひょうえ　　　　　　　　　　 どうじろう　　　　　　　　　　 どうさぶろう　　　　　　　　　　どうしろう
　同太郎兵衛　　　　 同次郎　　　　 同三郎　　　　 同四郎

　　荻野のはちろう　　　　　　　　　　　むつらのさぶろう　　　　　　どうへいざ　　　　　　　　　　 どうろくろう
　をきのゝ八郎　　　 六浦三郎　　　 同平三　　　　 同六郎

　　どうしちろう　　　　　　　　　　　　　　まつだのさぶろう　　　　　　どうこじろう　　　　　　　　　　どうしろう
　同七郎　　　　　　 松田三郎　　　 同小次郎　　　 同四郎

　　どうろくろう　　　　　　　　　　　　　　 どうしちろう　　　　　　　　 　あびこのさぶろう　　　　　　 どうしろう
　同六郎　　　　　　 同七郎　　　　 あひこの三郎　 同四郎

　　ささのぶのろくやた　　　　　　　　　 はたののさぶろう　　　　　　どうたろう　　　　　　　　　 　どういやじろう
　さゝのふの六野太　 波多野三郎　　 同太郎　　　　 同弥次郎

　　こざのにゅうどう　　　　　　　　　　　 どうぜんしはちろう　　　　　どうごろう　　　　　　　　　　 えんやのさぶろう
　こさの入道　　　　 同禪師八郎　　 同五郎　　　　 塩谷三郎

　　どうたろう　　　　　　　　　　　　　　　かせのいやじろう　　　　 しらねのよさじろう　　　　　　さなだのしゅんぱち
　同太郎　　　　　　 かせの弥二郎　 白根与三次郎　 佐奈田春八

　　かたひょうのいやはちどうろくろう　 どうたろう　　　　　　　　　　 どうじろう　　　　　　　　　　 どうさぶろう
　かたひうの弥八　　 同太郎　　　　 同次郎　　　　 同三郎

　　つくいのしちろう
　津久井の七郎

　　　　　　　 いじょうさんじうしちにん 〔 このほかこものろうとう　　　　かかず　〕
　　　　以上卅七人〔此外小物郎等をば不記〕

ひとつ　りょほ　　　ひとびと
一　虜捕の人々

　　あいこうのさえもん　　　　　　 どうたろう　　　　　　　　　 　　大千葉のさぶろう　　　　　　　 　むらおかのごろう
　愛甲左衛門　　　同太郎　　　　　おほちはの三郎　　村岡五郎

　　どうたろう　　　　　　　　　 　　どうさぶろう　　　　　 　　　　　どうしろう　　　　　　　　　　　　　　荻野のいやさぶろう
　同太郎　　　　　同三郎　　　　　同四郎　　　　　　をきのゝ弥八郎

　　どうたろう　　　　　　　　　 　　とみだのさぶろう　　　　　　　 みうらのたかいたろうおやこ　　〔おのおの　かね　しゅっけ〕　　　 こだかのたろう
　同太郎　　　　　冨田三郎　　　　三浦高井太郎父子〔 各 兼て出家〕　小高太郎

　 どうじろう　　　　　　　　　　　　かねこのよいちろう　　　　　　　どうおくじ　　　　　　　　　　　　　うさみのへいざえもん
　同次郎　　　　　金子与一太郎　　同奥次　　　　　　宇佐美平左衛門

　　をしぬきののざ　　　　　　 　　どうたろう　　　　　　　 　　　　ふかさわのじろう　　　　　　　　　　高麗のたろう
　をしぬきの野三　同太郎　　　　　ふかさわの次郎　　こまの太郎

　　たかだのさぶろう　　　　　 　　どうちうはちたろう　 　　　　　どうしろう　　　　　　　　　　　　　　菰野じろう　　　　　〔　筑　紫　の　ひと〕
　高田三郎　　　　同中八太郎　　　同四郎　　　　　　こもの次郎〔つくしの人〕

　　そのだのろくろう　　　　　 　　どうたろう　　　　　　 　　　　　向井のしろう
　薗田六郎　　　　同太郎　　　　　むかいの四郎

　　　　　　　 いじょうにじうはちにん
　　　　以上廿八人

ひとつ　みかた　　うたれ　　　ひとびと
一　御方の討被る人々

　　ちくごのしろうひょうえ　　　　 いきのひょうえ　　　　　　　　　　　どうしろう　　　　　　　　　　　　　 あんどうのしろうひょうえ
　筑後四郎兵衛　　壹岐兵衛　　　　　同四郎　　　　　　安東四郎兵衛

　　伊那のひょうえ　　　　　　　　染やまのひょうえ　　　　　　　　　 どうたろう　　　　　　　　　　　　　 古河のさぶろう
　いなの兵衛　　　そめ山の刑部　　　同太郎　　　　　　こかの三郎

　　土方のじろう　　　　　　　　　 おお貫のごろう　　　　　　　　　　 おがはのうまたろう　　　　　　　　 たかえのさこん
　ひちかたの次郎　大ぬきの五郎　　　小河馬太郎　　　　たかへの左近

　　とうじじゅうろう　　　　　　　　　　ときがやのしちろう　　　　　　　　　じんののさこん　　　　　　　　　　 そぢやまぜんじはちろう
　藤十郎　　　　　ときかやの七郎　　神野左近　　　　　そち山禪師八郎

　　しんへいまのじょう　　　　　　とみどころのじろう　　　　　　　　　どうこじろう　　　　　　　　　　　　　どうたろう
　新平馬允　　　　冨所次郎　　　　　同小次郎　　　　　同太郎

　　ぬまたのしちろう　　　　　　　どうじろう　　　　　　　　　　　　　　ごじょうしちろうたろう　　　　　　　 はやしのたろう
　沼田七郎　　　　同次郎　　　　　　五條七郎太郎　　　林太郎

　　くろだのいやへいた　　　　　ひらののよいち　　　　　　　　　　とみおかのごろう　　　　　　　　　　かわいのとうしろう
　黒田弥平太　　　平野与一　　　　　冨岡五郎　　　　　河井藤四郎

　　やまだのじろう　　　　　　　　 にしやまのだいはち　　　　　　　 どうたろう　　　　　　　　　　　　　　かたやまぎょうぶたろう
　山田次郎　　　　西山大八　　　　　同太郎　　　　　　片山刑部太郎

　　どうはちちろうたろう　　　　　 したかのこじろう　　　　　　　　　　いずみのろくろう　　　　　　　　　 まつもとのくろう
　同八郎太郎　　　志たかの小次郎　　泉六郎　　　　　　松本九郎

　　とうざ　　　　　　　　　　　　　　れんじょうぼう　　　　　　　　　　　うんののさこん　　　　　　　　　　　高　い　のひょうえ
　藤三　　　　　　蓮乘坊　　　　　　海野左近　　　　　たか井の兵衛

　　はやしうちとうじ　　　　　　　　津久井のさいたろう　　　　　　　 いがらしのことよじ　　　　　　　　  とうごのごろう
　林内藤次　　　　つくゐのさい太郎　五十嵐小豊次　　　藤五々郎

　　ふじのしろう　　　　　　　　　　くりばやしかとうじ　　　　　　　　　つくし　の　さいしょじろう　　　　　とのおかのごろう
　冨士四郎　　　　栗林加藤次　　　　津くしの税所次郎　殿岡五郎

　　あしあらいのしろう　　　　　　　よだのころう　　　　　　　　　　　　忍足のさぶろう
　足洗四郎　　　　与田小太郎　　　　おしたりの三郎

　　　　　　　　　いじょうごじうにん　〔　こ　　　ほか　ておい　　げんじ　さむらい　せんよにん　〕
　　　　以上五十人〔此の外手負の源氏の侍千余人〕

現代語建暦三年(1213)五月小六日丙午。空は晴れました。岡崎余一左衛門尉実忠親子三人は、死刑にされたそうな。（実忠　同太郎義国　同次郎実村）

申の刻(午後四時頃)将軍実朝様は大江広元の屋敷に入りました。それは、先日の二日に御所が燃えてしまったからです。奥さんの坊門姫も又、南御堂勝長寿院からそこへお入りになりました。尼御台所政子様〔輿〕は、元の東の御所へ行かれました。

今日、相州義時は、金窪左衛門尉行親を侍所の次官所司にお決めになられましたそうな。また、二階堂行村・金窪行親・安東忠家に命じて、今度の戦で死亡したものの名前を書き出させました。それぞれ、このところ多くの人に聞いて書き出し、出来上がって差し出しました。将軍実朝様はご覧になったうえで、大江広元さんに預けたそうです。その名簿に書いてあるのは、〔本来は細かく書かれていますが、ここでは略してます。人の数を数えて書きました〕

　建暦三年五月二日三日の合戦で撃たれた人々の日の記録

　和田左衛門尉義盛　同新左衛門尉常盛　朝夷名三郎義秀　同四郎左衛門尉義直　同五郎兵衛尉義重　同六郎兵衛尉義信　同田七郎秀盛　同新兵衛尉入道朝盛　同八郎　同五郎　同宮内入道　同弥次郎　同弥三郎　〔この他の身分の低い者や下働きの家来は書きません。以上十三人〕

一つ　横山党の人々
　横山右馬允時兼　箭内の六郎　平山次郎　同小次郎　粟飯原太郎　同小次郎　同藤五郎　田名の兵衛　田名の太郎　岡野次郎　小山太郎(有高カ)　ちみう次郎　同太郎　同次郎　同五郎　古郡左衛門尉保忠　同五郎　同六郎　同甥一人　同弟二人　同次郎　椚田太郎　同次郎　同五郎　同三郎　同五郎　同又五郎　横山六郎　同七郎　同九郎　以上三十一人

一つ　土屋の人々
　土屋大学助義清　同新兵衛　同次郎　同三郎　同四郎　薗田七郎成朝　同太郎　同次郎　屋紀伊七郎　同次郎　以上十人

一つ　山内の人々
　山内左衛門　同太郎　同次郎　岡崎左衛門尉実忠　同太郎義国　同次郎実村　由井太郎実常　高井兵衛重茂　名平の小次郎　同七郎　大多和四郎久盛　同五郎久村　大方小次郎　同五郎政直　成山四郎　同太郎　同次郎　高柳小次郎　同太郎　同次郎　以上二十人

一つ　渋谷の人々
　渋谷先三の次郎　同三郎　同五郎　同小次郎　同小三郎　中山四郎重政　同太郎行重　同次郎　以上八人（盛木昌弘著「鎌倉武士と横浜」によると小山は中山の間違いとあり、中山四郎重政は澁谷庄司重國の弟とある。）

一つ　毛利の人々
　毛利太郎景行　同小太郎　同小次郎　森辺五郎　甥一人　彦一人　渋川左衛門　同小次郎　同左衛門太郎　同次郎　以上十人

一つ　鎌倉の人々
　梶原刑部烝朝景　同太郎　同小次郎　宇佐美平太郎左衛門　大庭小太郎　土肥小太郎　豊田平太　四宮三郎　同太郎　愛甲小太郎　同三郎　同五郎　金子太郎　以上十三人

一つ　逸見五郎　同次郎　同太郎　海老名兵衛尉季綱　同太郎兵衛　同次郎　同三郎　同四郎　荻野の八郎　六浦三郎　同平三　同六郎　同七郎　松田三郎　同小次郎　同四郎　同六郎　同七郎　我孫子の三郎　同四郎　ささのぶの六野太　波多野三郎盛通(義景の子らしい)　同太郎 同弥次郎　こさの入道　同禅師八郎　同五郎　塩谷三郎　同太郎　かせの弥二郎　白根与三次郎　佐那田春八　片平の弥八　同太郎　同次郎　同三郎　津久井の七郎　以上三十七人〔この他の身分の低い者や下働きの家来は書きません。〕

一つ　捕虜になった人々
　愛甲左衛門　同太郎　おほちはの三郎　村岡五郎　同太郎　同三郎　同四郎　荻野の弥八郎　同太郎　冨田三郎　三浦高井太郎父子〔それぞれ前もって出家してます（和田高井越後奥山庄）〕　小高太郎　同次郎　金子与一太郎　同奥次　宇佐美平左衛門　をしぬきの野三　同太郎　深沢の次郎景家　高麗の太郎　高田次郎　同中八太郎　同四郎　菰の次郎〔筑紫の人〕　薗田六郎　同太郎　むかいの四郎　以上二十六人

一つ　味方で殺された人々
　筑後四郎兵衛　壱岐兵衛　同四郎　安東四郎兵衛　伊那の兵衛　染山の刑部　同太郎　古賀の太郎　土方の次郎　大貫の五郎　小川馬太郎　高部の左近　藤十郎　都幾川の七郎　神野左近　帥山禅師八郎　新平右馬允　冨所次郎　同小次郎　同太郎　沼田七郎　同次郎　五条七郎太郎　林太郎　黒田弥平太　平野与一　冨岡五郎　河井藤四郎　山田次郎重隆　西山大八　同太郎　片山刑部太郎　同八郎太郎　志多賀の小次郎　泉六郎　松本九郎　藤三　蓮乗坊　海野左近　高井の兵衛　林内藤次　津久井のさい太郎　五十嵐小豊次　藤五五郎　冨士四郎　栗林加藤次　筑紫の税所次郎　殿岡五郎　足洗四郎　与田小太郎　押足の三郎　以上五十人〔この他怪我をした源氏の侍は千余人〕

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 くんこう　　こと　 むねとたる　ぶんきょう ま　　　これ　　さだ　　らる
建暦三年(1213)五月小七日丁未。天�ﾘ。勳功の事、宗爲の分今日先ず之を定め被る。

はたののなかつかのじょうただつな　こと　　むそう　　 ぐんちう　　をい　　は　　 おうたが　　　およばず　 いへど　　 ごぜん　　をい　 たいけつのとき
 波多野中務丞忠綱 が事、無双の軍忠に於て者、御疑いに及不と雖も、御前に於て對决之時、

よしむら　 もっ　　もうもく　　しょう　　　あっこう　　ば　　　の うえ　　　　しょう　くはえず　　もっ　　　　ざいか　　　じゅん　　　べ　　　のよし　　　さた　あ　　　　　　さしおかる　ところなり
義村を以て盲目と稱し、惡口を爲す之上は、賞を加不を以て、罪科に准ずる可し之由、沙汰有りて、閣被る所也。

しそく　じろうつねとも　　しょう　　ことは これ　 おこな　らる　　　 また　　ゆりのちうはちたろう　 つい　 しょりょう　　めしはなたる　　　うんぬん
子息次郎經朝が賞の事者之を行は被る。又、由利中八太郎は遂に所領を召放被ると云々。

　　かいのくに　　はかりほんしょう　　〔たけだかじゃ〕　　　　　　　　　　　　　　どうしんじょう　〔しまづのさえもんのじょう〕
　甲斐國波加利本庄〔武田冠者〕信光　　　　同新庄〔嶋津左衛門尉〕忠久

参考波加利は、山梨県大月市初狩町。本庄新庄共に古郡保忠の所領。

　　どうこくふるごおり　〔かとうひょうえのじょう〕　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　どうこくいわま　　〔いがのじろうひょうえのじょう〕
　同國古郡〔加藤兵衛尉〕光季　　　　　　　 同國岩間〔伊賀二郎兵衛尉〕光宗

参考古郡は、山梨県上野原市上野原。　　　　　　　　　参考岩間は、山梨県西八代郡市川三郷町岩間。

　　どうこくふくち　　〔かまたひょうえのじょう〕　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　どうこくいのうえ　　〔おおすがのしろう〕
　同國福地〔鎌田兵衛尉〕爲成　　　　　　　　同國井上〔大須賀四郎〕胤信

参考福地は、山梨県大月市富浜町鳥沢。　　　　　　　　参考井上は、山梨県笛吹市御坂町井之上。

　　さがみのくにやまのうちのしょう　〔そうしゅう〕　　　　　　　　　　　　　　　　　どうこくふところじま　〔やましろのしろうひょうえのじょう〕
　相摸國山内庄〔相州〕義時　　　　　　　 同國懷嶋〔山城四郎兵衛尉〕

参考山内庄は、神奈川県鎌倉市山ノ内・旧戸塚区。　　　参考懐嶋は、神奈川県茅ヶ崎市円蔵。

　　どうこくおかざき　〔こんどうさえもんのじょう〕　　　　　　　　　　　　　　　　　　　どうこくしぶやのしょう　〔にょぼういなばのつぼね〕
　同國岡崎〔近藤左衛門尉〕　　　　　　　　同國澁谷庄〔女房因幡局〕

参考岡崎は、神奈川県平塚市岡崎。　　　　　　　　　　参考澁谷庄は、神奈川県大和市下和田に渋谷中学。小田急江ノ島線高座渋谷駅近く。

　　ばんどうたわら　　〔しむらのたろう〕
　坂東田原〔志村次郎〕

参考坂東田原は、不明。秦野市東田原のあたりカ？実朝首塚の南側の田原ふるさと公園で中世豪族館跡が発掘されている。

　　むさしのくにながいのしょう　〔とうくろうじろう〕　　　　　　　　　　　　　　　　　よこやまのしょう　〔だいぜんだいぶ〕
　武藏國長井庄〔藤九郎次郎〕　　　　　　　横山庄〔大膳大夫〕大江広元

参考長井庄は、幡羅郡長井庄で埼玉県熊谷市日向に長井神社が残る。参考横山庄は、東京都八王子市横山町。

　　かずさのくにいいとみのしょう　〔ぶしゅう〕　　　　　　　　　　　　　　　　　　　どうこくいほうぐん　〔へいくろうさえもんのじょう〕
　上総國飯冨庄〔武州〕時房　　　　　　　　同國伊北郡〔平九郎左衛門尉〕胤義

参考飯富庄は、千葉県袖ヶ浦市飯富。　　　　　　　　　　参考伊北郡は、勝浦市夷隅町あたりらしい。

　　どうこくいくよう　　〔とうないひょうえのじょう〕　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひたちのくに　さと　　〔いがのぜんじ〕
　同國幾与宇〔藤内兵衛尉〕　　　　　　　　常陸國佐都〔伊賀前司〕朝光

参考幾与宇は、旧海上郡で千葉県旭市幾世。             参考佐都は、旧佐都郡で茨城県常陸太田市。

　　こうづけのくにもものい　〔とうないさひょうえのじょう〕　　　　　　　　　　　　　　むつのくにとおたぐん　　〔しゅりのりょう〕
　上野國桃井〔藤内左衛門尉〕藤原季康　　　　陸奥國遠田郡〔修理亮〕泰時

参考桃井は、群馬県北群馬郡榛東村山子田に桃井郵便局。　参考遠田郡は、宮城県遠田郡。

　　どうこく　みさこ　〔とうのみんぶたいふ〕　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　どうこくなとりぐん　〔へいろくさえもんのじょう〕
　同國三迫〔藤民部大夫〕二階堂民部大夫行光　　 同國名取郡〔平六左衛門尉〕三浦平六兵衛尉義村

参考三迫は、宮城県栗原市栗駒、金成。　　　　　　　　　参考名取郡は、宮城県名取市。

　　どうこく　ゆりぐん　〔だいにのつぼね〕　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かなくぼ　〔さえもんのじょうゆきちか〕
　同國由利郡〔大貳局�@〕　　　　　　　　　 金窪〔左衛門尉行親〕

参考由利郡は、秋田県由利郡由理町。　　　　　　　　　　参考金窪は、埼玉県児玉郡上里町金久保。

参考�@大貳局は、頼家・実朝の面倒を見る。しかも建保４年（1216）11月23日に、「源氏大弐殿」（げんじだいにどの）が発注者となり、運慶に大威徳明王を作らせたのが平成１９年に県立金沢文庫で発表された。

きょう　　そうしゅうおおくらよ　　 わかみやおおじ　 おんてい　 わた　 たま　　　　そ　　　ご　　　しこうにんら　くんこうのしょう　　こうむ　　　うんぬん
今日、相州大倉自り若宮大路の御亭へ渡り御う。其の後、祗候人等�A勳功之賞を蒙ると云々。

参考�A祗候人等は、義時の家来。身内人。後の得宗被官。

現代語建暦三年(1213)五月小七日丁未。空は晴れです。今度の合戦での褒美について、主だった人の分を今日まず決めました。波多野中務丞忠綱については、比較する者のない手柄については、疑いがないのだけれども、将軍実朝様の前で御前対決をした際に、三浦義村をめくら呼ばわりしました。悪口を言ったので、褒賞をしない事で、罰に準ずるようにと決められたので、パスしました。子供の次郎経朝への褒賞は行われました。それと由利中八太郎は領地を取り上げられてしまいましたとさ。

　甲斐国初狩本庄〔武田信光〕　　　　同新庄〔島津忠久〕
　同国古郡〔加藤兵衛尉光資〕　　　　同国岩間〔伊賀二郎兵衛尉光宗〕
　同国福地〔鎌田兵衛尉為成〕　　　　同国井上〔大須賀四郎胤信〕
　相模国山内庄〔相州義時〕　　　　　同国懐島〔山城四郎兵衛尉二階堂元行〕
　同国岡崎〔近藤七左衛門尉〕　　　　同国渋谷庄〔女官の因幡局〕
　坂東田原〔志村次郎〕
　武蔵国長井庄〔藤九郎次郎〕　　　　横山庄〔大膳大夫大江広元〕
　上総国飯富庄〔武州時房〕　　　　　同国伊北郡〔三浦平九郎左衛門尉胤義〕
　同国幾与宇〔藤内兵衛尉〕　　　　　常陸国佐都〔伊賀朝光〕
　上野国桃井〔藤内左兵衛尉藤原季康〕陸奥国遠田郡〔修理亮泰時〕
　同国三迫〔藤民部大夫二階堂行光〕　同国名取郡〔三浦平六左衛門尉義村〕
　同国由利郡〔大二局〕　　　　　　　金窪〔左衛門尉行親〕

今日、相州義時様は大倉から若宮大路の屋敷へ入りました。その後、義時様の家来に褒賞をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　やまのうちのぎょうぶたいふつねとし　　よしもり　　よりき　　しゅう　　やまのうちのせんじろうさえもんのじょう　　〔さき　　しゅっけ〕　　　　いけど
建暦三年(1213)五月小八日戊申。　山内刑部大夫經俊、 義盛に与力の衆、　山内先次郎左衛門尉　〔先に出家〕を生虜る。

これ　　そ　　 よしみあ　　　 よっ　　　　つねとしの たく　　きた　　　　うんぬん
是、其の好有るに依て、經俊之宅へ來ると云々。

とおとうみのかみちかひろ　きょうとよ　　さんちゃく　　　しゅうぞうのとうば　くよう　　　じょうらく
 遠江守親廣�@、京都自り參着す。修造之塔婆供養に上洛す。

そ　　　とき　　お　　　　　のゆえ　　さんぬ　ふつかしゅきゅのところ　　ろぢ　　 をい　　かっせん　 こと　　き　　　　むち　　あ　　　　　うんぬん
其の節を終える之故、去る二日出京之處、路次に於て合戰の事を聞き、鞭を揚ぐと云々。

ばんけい　ぞく　　　しゅりのりょう　〔やすとき〕　　ごしょ　　まいらる　　　　これ　　さんぬ　いつかくんこう　　しょう　　あずか
晩景に屬し、修理亮〔泰時〕御所に參被る。是、去る五日勳功の賞に預被る。

しか　　　　ぞんあんあ　　　　しょう　　　くだん　おんくだしぶみをひろもとあそん　ぞく　　　じょうひょうさる　のかん　　しょうぐんけら じゅんしょうなり
而るに存案有ると稱し、件の御下文於廣元朝臣に属し、上表被る之間、將軍家等の巡賞也。

　じ　　もう　　べからずのむねおお　 くださる　　　いへど　　　こじ　さいさん　　およ
辞し申す不可之旨仰せ下被ると雖も、固辞再三に及ぶ。

よっ　　そ　　　いしゅ　　あやし　せし　 たま　 のところ　　ときにしょうさくもうされ　　い　　　　　　　よしもりかみ　　をい　　　ぎゃくしん　　さしはさまず
仍て其の意趣を恠み令め御う之處、時于匠作申被て云はく。義盛上に於ては逆心を挿不。

ただそうしゅう　　あとう　　な　　　　　むほん　　おこ　　のとき　　ぼうせんのあいだ　　これ　 そ　　よんどころ　な　　　　 ごけにん　おお　 ようぼう
只相州の阿黨と爲し、謀叛を起す之時、防戰之間、之に其の　寄　無く、御家人多く夭亡す。

しかずんば　こ　　ところ　もっ　　　　か　　　くんこう の　ふそく　　あ　　　おこなは　 べ　　 か
然者、此の所を以て、彼の勳功之不足に充て行被る可き歟。

げかん ちち　　てき　　こうげき　　　　　 よっ　　　 あなが　　 しょう　 こうむ　べ　　　　 あらず　うんぬん　　よ　もっ　 これ　 かんたんせざ　　　な
下官父の敵を攻撃するに依て、強ちに賞を蒙る可きに非と云々。世以て之を感歎不るは莫し。

しかりて　　かさ　　　 おお　 らる　 ところなり
然而、重ねて仰せ被る所也。

参考�@親廣は、大江広元の子だが、土御門通親（村上源氏）の養子になっているので源。

現代語建暦三年(1213)五月小八日戊申。山内刑部大夫首藤瀧口三郎経俊は、和田義盛の味方の山内先次郎左衛門尉政宣〔先に出家している〕を捕虜にしました。それは、付き合いがあるので、山内経俊の家へ来たからだそうです。遠江守源親広が、京都から到着しました。修理中の五重塔の完成供養に参加のため京都へ上ったのです。その行事を終えたので、先日の二日に京都を出発したのですが、道中の途中で合戦の情報を聞いて、馬に鞭を当てて先を急いだんだとさ。夜になって、修理亮〔泰時〕が御所へ来ました。それは、先日の五日に合戦の褒賞を貰いました。しかし考える事があって、その褒賞状を大江広元に託して将軍実朝様に返したのは、将軍実朝様からの褒賞でした。辞退しないようにと仰せになられましたが、何度も辞退しました。そこで、その理由を不思議に思いましたところ、泰時が云うのには、「和田義盛は、決して將軍に対しては反逆の心はありませんでした。ただ、義時に対して謀反を起こしたわけで、それに対し防ぎ戦った御家人が大勢亡くなりました。それならば、この褒美の領地を、その者達の手柄に使えばよいのですよ。私は、父にとっての敵を攻撃しただけで、何も幕府から褒賞されることじゃないですよ。」なんだとさ。皆感心しない者はおりませんでした。それでも将軍実朝様重ねて受け取るように云いましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　ひろもとあそんぶぎょう　　な　　　　　みぎょうしょを　ざいきょごけにんの　なか　　おくらる
建暦三年(1213)五月小九日己酉。天�ﾘ。廣元朝臣奉行と爲し、御教書於在京御家人之中へ送被る。

そうしゅう　だいかんれい　れんしょ　　　　また ごはん　　の　　　らる　　　 うんぬん
相州、大官令の連署し、又御判を載せ被ると云々。

これ　 ざいきょうぶし　さんこう　　　べからず　　かんとう　 をい　 は せいひつせし　をはんぬ　はや　　いん　　ごしょ　　しゅごすべ
是、在京武士參向する不可。關東に於て者靜謐令め 畢。 早く院の御所を守護可し。

また　 むほんのやからさいかい　 めぐ　 のよし　そ　　きこ　　あ　　　　　よういいた　　べ　　　のよしなり　　むねと　　ささきのさえもんのじょうひろつな　 おお　 らる　　　　うんぬん
又、謀叛之輩西海に廻る之由其の聞へ有り。用意致す可し之由也。宗の佐々木左衛門尉廣綱に仰せ被ると云々。

ばんけい　 およ　　　 おうみ　　　みの　　　おはりら　　　くにごけにんさんちゃく　　　　こくどじんみん　わずら　すで　　もっ　　せんまん　ことごと　とうさくのつとめ　わす　　　　うんぬん
晩景に及び、近江、美濃、尾張等の國御家人參着す。國土人民の煩い已に以て千万。悉く東作之勤を忘ると云々。

きょう かさ　　　　くんこう　　しょう　おんくだしぶみら これ　 たま　　　　　 いがのぜんじともみつ　いげ　　すうやから　うんぬん
今日重ねて勳功の賞の御下文等之を賜はる。伊賀前司朝光以下の數輩と云々。

また　 わだのへいたたねなが　 はいしょ　 むつのくに いわせぐん かがみぬま みなみへん　をい　ちうさる　　　　〔としさんじういち〕
又、和田平太胤長、配所の陸奥國 岩瀬郡 鏡沼　南邊 に於て誅被る〔年卅一〕。

現代語建暦三年(1213)五月小九日己酉。空は晴れです。大江広元が担当して、命令書を京都駐在の御家人達へ送りました。義時さんと大江広元さんが連名して、将軍実朝様の花押も載せましたとさ。その内容は、京都駐在の武士は来てはならない。既に関東では鎮静し終えました。院の御所を警備しなさい。又、謀反人の一味が九州方面に逃げたとの噂もあるますので、準備をしておくように、代表格の佐々木左衛門尉広綱に命じられましたとさ。

夜になって、近江・美濃・尾張の在国御家人が到着しました。国の農民たちが落ち着きがなくなって、春の耕作に従事していないとのことです。

今日、追加して手柄の褒美の文書を与えました。伊賀前司朝光以下数人だそうです。

又、和田平太胤長は流罪先の陸奥国岩瀬郡鏡沼（福島県須賀川市）の南のあたりで処刑されました〔年は31歳〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　にこうさんべっとう　たじまほうげんべんかく　　くんこう　 しょう　あずか　　　すなは　ごしょ　　め
建暦三年(1213)五月小十日庚戌。天霽。日光山別當 但馬法眼弁覺、勳功の賞に預る。即ち御所に召す。

そうと　　　みたる　 せんじょう　おもむ　　　ちうせつの いた　　　 もっと　かん　 おぼ　 め さる　　のよし　　そうしゅう　　もっ　　これ　 おお　　らる
僧徒の身爲に戰塲へ赴く。忠節之至り、尤も感じ思し食被る之由、相州を以て之を仰せ被る。

べんかくほう　　もう　　　　い　　　　　　　しょうぐんけ　　 ごほうさん　　いの　たてまつ　のかん　 じゅそ れいきの たた　　　 なおもっ　 こうぶくすべ
弁覺報じ申して云はく。將軍家の御壽算を祈り奉る之間、呪咀靈氣之崇り、猶以て降伏可し。

いはん　かたち　あらはせし　ところのおんてき　　なん　 これ　 ばっ　　　　　　　　や　　うんぬん　　はいりょう　　 ところ 　ちんぜいつちぐろのしょう　なり
况や 形を現令む 所之 御敵、盍ぞ之を罸せざらん哉と云々。拝領する所は鎮西土黒庄�@也。

また　　いづものかみながさだおな　　しょう　　こうむ　　　うんぬん
又、出雲守長定同じく賞を蒙ると云々。

参考�@土黒庄は、長崎県雲仙市国見町土黒甲乙丙丁戊(島原半島北辺)カ？

現代語建暦三年(1213)五月小十日庚戌。空は晴れました。日光山二荒山神社の但馬法眼弁覚が、褒美をもらいました。すぐに御所へ呼びました。「坊主でありながら戦場へ出て来たのは、将軍への忠誠心の表れだ。とっても感心しておる。」と義時を通じて仰せになられました。弁覚の返事は「将軍実朝様の長生きをお祈りしておりますので、他からの呪いやたたりもこの力で押さえつけましょう。ましてや姿かたちを表している敵なんかどうして罰せずにおかれましょうか。」だとさ。褒美に戴いた領地は、九州の土黒庄です。また、出雲守長定も同様に褒賞されましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　いのこく　 ぢしん りょうど
建暦三年(1213)五月小十五日乙夘。天�ﾘ。亥尅。地震兩度。

現代語建暦三年(1213)五月小十五日乙卯。空は晴れです。亥の刻(午後十時頃)地震が二度ありました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　せんじろうさえもんのじょうまさのぶ　　しょりょう　むさしのくに おおかわどのみくりやない はちじょうごう　　しきぶのたいふしげきよ　　たま
建暦三年(1213)五月小十七日丁巳。先次郎左衛門尉政宣が所領、武藏國　大河戸御厨内 八條郷�@は、式部大夫重�Cに賜はる。

ただ　 ぢとう しぶえのごろうみつひら は　　もと　 ところ 　ごと　　あんど すべ　　のよし　　おお　　くださる　ところなり　　そうしゅう　さきのだいぜんだいぶ　げち　　 くは　　らる　　　　うんぬん
但し地頭澁江五郎光衡�A者、本の所の如く安堵可し之由、仰せ下被る所也。相州、 前大膳大夫 下知を加へ被ると云々。

参考�@八条郷は、埼玉県八潮市八條。八條八幡あり。
参考�A澁江五郎光衡は、埼玉県さいたま市岩槻区本町の渋江交差点付近。

現代語建暦三年(1213)五月小十七日丁巳。山内先次郎左衛門尉政宣の領地の武蔵国大川戸御厨内の八条郷は、式部大夫重清に与えられました。但し、地頭の渋江五郎光衡は、元の通りに認めるように仰せになられました。義時さんと大江広元さんが命令書を出しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　うまのこくだいぢしん　　おと　あ　　　　しゃおくはかい　　　やま　 くず　 ぢ　　　さ
建暦三年(1213)五月小廿一日辛酉。午尅大地震。音有りて舎屋破壞し、山は崩れ地は裂ける。

 こ　　きょう　　をい　 きんだいかく　 ごと　　だいどう　な　　　 うんぬん　　しか　　　にじうごにち　うち　　　ひょうどう　あ　　べ　　　のよし　　おんみょうどうこれ　かん　 もう
此の境に於て近代此の如き大動無しと云々。而して廿五日の内に、兵動有る可し之由、陰陽道之を勘じ申す。

現代語建暦三年(1213)五月小二十一日辛酉。午の刻(昼頃)大地震があって、音を立て建物を壊し、崖崩れや地割れがありました。この東国では、近年このような大地震はなかったそうです。これは二十五日以内に合戦がある予兆だと、陰陽道の連中が申しあげました。

説明この地震に関して、吾妻鏡脱漏嘉祿三年(1227)三月大七日条に「建暦三年(1213)和田左衛門尉義盛の乱の時代に、このような大地震がありました。その時には、中の下馬橋の地面が割れたと古老が話しています。」との記事が載っている。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　かんとう　　ひきゃくら きょうと よ　　　きさん
建暦三年(1213)五月小廿二日壬戌。天�ﾘ。關東の飛脚等京都自り歸參す。

はじ　　　　しせつ さんぬ ようかいぬのこくじゅらく　　　　あと　　ひきゃくおな　　　じうよっかうしのこくじゅらく　　　　これ　　よっ　　けいちう　　うせつひと　 ならず
初めの使節去る八日戌尅 入洛す。後の飛脚同じく十四日丑尅 入洛す。茲に因て京中の浮説一つ非。

いんよ　　　ごきんせい　あ　　　　また　　ざいきょう　しそつさんこうすべ　　のよしもう　　　いへど　　　　てんき　あ　　　　　　らくちう　　けいご　　ため　　これ　　とど　　らる
院自り御禁制有り。亦、在京の士率參向可き之由申すと雖も、天氣有りて、洛中の警固の爲、之を留め被る。

 ささきのさえもんのじょうひろつな　 し　　　ひきゃく　　え　　　　ごじょうのたいふほうがんありのり　 あいともな　　 〔ありのり　　ひろつな　おのおの　ぼうもんどの よ　　　うま　　たま　　　　　　　〕
佐々木左衛門尉廣綱、私の飛脚を得て、五條大夫判官有範を相伴い〔有範、廣綱、各 坊門殿自り馬を給はる〕、

すで　 しんぱつ　 ぎ　　のところ　　みぎょうしょとうちゃくのかん　 とど　　 をはんぬ
已に進發を擬す之處、御教書到着之間、留まり訖。

また　　さんぬ　じうよっか　　こかもんのかみちかよしにゅうどう　ゆうし　 さえもんのじょうよしなお　　ろくはら　　 いえ　　あ
又、去る十四日、故掃部頭親能入道が猶子の左衛門尉能直、六波羅の家に在り。

みうら　　やからは　　　がいけのよしみあ　　　　よっ　　　　そ　　　み　　　けいご
三浦の輩者、外家之好有るに依て、其の身を警固す。

なつのじろうさえもんのじょうもりとき　　〔たいふのじょうよしもり　　こ　〕　つくし　よ　　　じょうらく
夏野次郎左衛門尉盛時�@〔大夫尉義盛の子〕筑紫自り上洛す。

か　　　きんご　　う　　　　　　　ほっ　　　　いんよ　　　ごきんせいのかん　　　ことな　　　　うんぬん
彼の金吾を討たんと欲す。院自り御禁制之間、事無しと云々。

参考�@夏野次郎左衛門尉盛時は、後鳥羽上皇の西面の武士。

現代語建暦三年(1213)五月小二十二日壬戌。空は晴れです。京都へ行かせた伝令が帰ってきました。一番手が先日の八日に京都へ入り、ラストの伝令が十四日の丑の刻(午前二時頃)に京都入りしました。このために京都内での噂は色々でした。後鳥羽院から箝口令が出されました。また、京都駐在の武士たちが鎌倉へ行こうとしましたが、後鳥羽上皇の命令が出て、京都市街の警備のために足止めをしました。佐々木左衛門尉広綱は、個人的に情報を得たので、五条大夫判官平有範を連れて〔有範・広綱それぞれ坊門忠清から馬を貰った〕、出発の準備が整ったところへ、命令書が届いたので、止めました。

また先達ての十四日に、故掃部頭中原親能入道の準養子の大友左衛門尉能直は、六波羅の家におりました。三浦の連中は遠縁の関係があるので、彼を警備しました。

夏野次郎左衛門尉盛時〔大夫尉義盛の子〕が九州北部の筑紫から京都へ上ってきました。その大友能直を討ちたいと希望しましたが、後鳥羽院が禁止したので、無事でしたとさ。

六月へ

吾妻鏡入門第廿一巻