吾妻鏡入門第廿一巻

建保元年(建暦三年)癸酉(1213)十二月大六日改元

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　いぬのこく　 ごしょ　　きんぺん　しょうぼう
建暦三年(1213)十二月大一日丁酉。天�ﾘ。戌尅。御所の近邊で燒亡す。

ぶしゅう　さきのだいぜんだいぶ　ちくごのかみ　ともいえにゅうどうら　 すくろ　〔わざわい　〕
武州、前大膳大夫、筑後守、知家入道等の宿廬〔災す〕。

現代語建暦三年(1213)十二月大一日丁酉。空は晴れです。戌の刻(午後十時頃)御所の近所で火事がありました。武州時房・大江広元・筑後守頼時・八田知家入道などの館が被災しました。

参考時房亭(着替用上屋敷)は、ここでは畠山重忠亭跡ではないか。五所の前、筋替え橋から東へ大江広元邸・八田知家邸・畠山重忠邸と並んでいたと思われる。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　　じゅふくじ　　まい　　たま　　　　ぶつじ　　しゅうせし　 たま
建暦三年(1213)十二月大三日己亥。將軍家、壽福寺に參り御い、佛事を修令め給ふ。

これ　 さえもんのじょうよしもり いげ　　 ぼうそつげだつ　　ため　　うんぬん
是、左衛門尉義盛以下の亡率得脱の爲と云々。

現代語建暦三年(1213)十二月大三日己亥。将軍実朝様は、寿福寺へ参られ、法事を行いました。これは、和田左衛門尉義盛を始めとする先日の戦で亡くなった人たちの成仏供養のためです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　 おんじぶつどう　　をい　　　　やくしほう　　しゅうさる　　　りゅうせんほっきょう　これ　 しぎょう　　　　うんぬん
建暦三年(1213)十二月大四日庚子。天�ﾘ。御持佛堂に於て、藥師法を修被る。隆宣法橋、之を始行すと云々。

現代語建暦三年(1213)十二月大四日庚子。空は晴れです。将軍実朝様の守り本尊を祀っている持仏堂で薬師如来のお経供養をしました。隆宣法橋が始めました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たかがり　 ちょう すべ　　のむね　　しょこくしゅごにんら　　　おお　 らる
建保元年(1213)十二月大七日癸卯。鷹狩を停止可し之旨、諸國守護人等に仰せ被る。

ことたびたびげんめいあ　　　いへど　　　ほういつのやから　ややもすれ　いはんあ　　　のむね　　き　　　　　め　　 およ　　　　よっ　　　　かく　　ごと　　　　うんぬん
事度々嚴命有ると雖も、放逸之輩、 動ば　違犯有る之旨、聞こし食し及ぶに依て、此の如しと云々。

ただ　　しょしょ　　じんじゃ　 ぐぜい　　こと　　をい　　は　　　せいの　かぎ　　 あらず　うんぬん　　としょのじょうきよさだ これ　 ぶぎょう
但し所處の神社の貢税の事に於て者、制之限りに非と云々。 圖書允�C定 之を奉行す。

現代語建保元年(1213)十二月大七日癸卯。鷹狩を止めるように、諸国の守護人へ命令されました。この事は、何度も厳しい命令が出ているけど、相変わらず守らない連中がいると噂が入っているので、このようにしました。但し、あちこちの神社への供物としての税負担は、この限りではありません。清原図書允清定が指揮担当しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　やくしほう けちがん　　　　おんふせ　かずけものふたえ　さきんひとふくろ　のだちひとこしなり
建保元年(1213)十二月大十日丙午。天�ﾘ。藥師法結願す。御布施。被物二重。沙金一裹。野劔一腰也。

さこんたいふともちか　　おうみのぜんじなかかね　きつざくらんどこれひろら これ　　と
左近大夫朝親、近江前司仲兼、橘三藏人惟廣等之を取る。

現代語建保元年(1213)十二月大十日丙午。空は晴れです。四日に始めた薬師如来のお経が七日で成就しました。坊さんへのお布施は、被り物二着・砂金一袋・公卿用の飾り太刀一本です。美作左近大夫朝親・近江前司仲兼・橘三蔵人惟広が持って与えました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くも　　　　うまのこく　　おおぢしん
建保元年(1213)十二月大十一日丁未。陰り。午刻。大地震。

現代語建保元年(1213)十二月大十一日丁未。曇りです。午の刻(正午頃)大地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 うしのこく　　ぢしん
建保元年(1213)十二月大十三日己酉。天霽。丑刻。地震。

現代語建保元年(1213)十二月大十三日己酉。空は晴れです。丑の刻(午前二時頃)地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かいげんしょうしょとうらい　　 さんぬ　むいか　けんりゃくさんねん　あらた　　 けんぽうがんねん　 な
建保元年(1213)十二月大十五日辛亥。改元詔書到來す。去る六日、建暦三年を改め、建保元年と爲す。

すなは　ひろもとあそん　とうおとうみのかみちかひろ　 し　　　ごしょ　 　しん　　　 うんぬん
即ち廣元朝臣、　遠江守親廣　を令て御所へ進ずと云々。

現代語建保元年(1213)十二月大十五日辛亥。改元の通知が来ました。先日の六日に建暦三年を建保元年に直しました。すぐに大江広元さんは、遠江守源親広に御所へ届けさせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　きょう　　　しゅりのすけ 〔やすとき〕　いずのくに　 あたみごう　 ぢとうしき　　　もっ　　　　そうとうさんごんげん　　よ　 たてまつ　せし　たま
建保元年(1213)十二月大十八日甲辰。天�ﾘ。今日、修理亮〔泰時〕伊豆國阿多美郷地頭職を以て、走湯山權現に寄せ奉ら令め給ふ。

これ　　もとは　　 くだん　しんりょうなり　 しか　　　けいねん　にたんのしろうただつね これ　てんとうせし　　　　か　　 めつぼうの のち　 しょうさくこれ　はいりょう　たま　をはんぬ
是、元者、件の神領也。而るに頃年に仁田四郎忠常 之を顛倒令む。彼の滅亡之後、匠作之を拝領し給ひ訖。

こんぽん　 ゆいしょ　　けさ　これ　　はじ　　　　き　　　　すなは　ほうじょうの ち　　な　　　　　なが　　きしんさる　　ところなり
根本の由緒、今朝之を始めて聞き、即ち放生之地と爲し、永く寄進被る所也。

現代語建保元年(1213)十二月大十八日甲辰。空は晴れです。今日、修理亮泰時さんは、伊豆国熱海郷の地頭職を走湯権現伊豆山神社へ寄付しました。これは元々その神社の領地でした。しかし、だいぶ前に仁田四郎忠常がこれを横取りしてしまいました。彼が死んだあと匠作泰時さんが将軍から頂いたのです。元々のいきさつを、今日初めてお聞きになり、すぐに生き物を助ける土地として、永遠に寄付されたのです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ゆきふる　　しょうぐんけ やまが けしき おもむき　ごらん　　ため　 みんぶたいふゆきみつの たく　 い　　　たま
建保元年(1213)十二月大十九日乙巳。雪降。將軍家山家の景の趣を御覽の爲、民部大夫行光之宅に入り御う。

こ　　 ついで　もっ　　　 ゆきみつはいしゅ　 けん　　 やましろほうがんゆきむらら ぐんさん　　　 わか　かんげんら　　ごゆうえんあ
此の次を以て、行光盃酒を献ず。山城判官行村等群參し、和哥管絃等の御遊宴有り。

 よ 　　い　　　かんご　　　　ゆきみつりゅうてい　〔くろ〕　　 すす　　　 うんぬん
夜に入り還御す。行光龍蹄〔黒〕を進むと云々。

現代語建保元年(1213)十二月大十九日乙巳。雪が降りました。将軍実朝様は、山中の家の雪景色を見るために、二階堂民部大夫行光の屋敷へ入られました。せっかくのお越しなので、二階堂行光はお酒を用意しました。山城判官二階堂行村達も集まって来て、和歌や管弦の宴会遊びとなりました。夜になってお帰りです。二階堂行光は、引き出物に黒馬を献上しましたとさ。

説明二階堂民部大夫行光・山城判官二階堂行村の家は、二階堂の地なので現在の瑞泉寺の谷戸あたりと思われる。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　けさ　　　しょうぐんけさんぬ　ゆうべ　ゆきみつすす　　ところ　うま　　ごらん　　　　　しか　　　　かみを　そ　　　たてがみ　　むす　　つ
建保元年(1213)十二月大廿日丙午。今朝、將軍家去る夕、行光進める所の馬を御覽す。而るに紙於其の立髪に結び付ける。

これ　　め　　　よ　　　ひらんのところ
之を召し寄せ披覽之處、

　　　　　　ゆき　　分　　　　　こころ　きみ　　　　　　ば　ぬしし　　こま　　　　　　　　　　　ぞ
　この雪をわけて心の君にあれは主知る駒のためしをそひく

かく　　ごと　　これ　　の　　　　　　 しょうぐんけすうたん　　ごぎんえい　 もっ　　　　ゆきみつ　 しわざ ゆうびのよし　　さいさんぎょかん　 およ　　　　けんりょ　　あいかな　　のゆえなり
此の如く之を載せる。將軍家數反、御詠吟を以て、行光が所爲優美之由、再三御感に及ぶ。賢慮に相叶う之故也。

すなは　じひつ　　そ　　　　　ごへんか　　つか　　さる　　　　こうし　　　えら　　　　ないとううまのじょうともちか　もっ　　おんし　　な
即ち自筆を染め、御返哥を遣は被る。好士を撰び、内藤馬允知親を以て御使と爲す。

　　ぬし知れ　　　ひき　　　　こま　　ゆき　 わけば かしこ　あと　　帰れ　　　と ぞ おも う
　主しれと引ける駒の雪を分は賢き跡にかへれとそ思ふ

現代語建保元年(1213)十二月大二十日丙午。今朝、将軍実朝様は夕べ二階堂民部大夫行光が土産によこした馬をご覧になりました。そしたら、紙がそのたてがみに結わえつけてありました。これを取ってよこさせ開いて見たところ、「この雪を分けて心の君にあれば主知る駒のためしをぞひく」（雪の降る日に雪をかき分けてまでおいでになられた優しい主君だからこそ、主が大事にしている馬を試に引いて行ってみたら、ちょうど合ってました）このように書かれていました。将軍実朝様は何度か歌ってみて、二階堂民部大夫行光の行為はなんと優雅で美しい事であろうと、何度も感激されていました。思いが通じたからです。すぐにご自分で筆を取って、返事の歌を書いて持って行かせました。歌のわかる侍を選び内藤馬允知親を使いとしました。「主知れと引ける駒の雪を分は賢き跡にかえれとぞ思う」（主を分かるやつだから引いて来た馬も雪をかき分けて頭が良いので、元の主のもとへ帰るんじゃないかと思いますよ）

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みょうしゅんしょうがつ　おうばん　こと　 こと　 けっこうせし　　べ　　　のむね　　ざっしょうら　　おお　　つ　　　らる
建保元年(1213)十二月大廿一日辛未。明春正月の垸飯の事、殊に結搆令む可し之旨、雜掌等に仰せ付け被る。

きんねん　たびたびそひん　のとが 　あ　　　いへど　　なお　かいつくろ　のぶんな　　　　 よっ　　べっ　　　 かく　　　さた　　　およ　　　　ゆきみつこれ　ぶぎょう
近年、度々麁品�@之咎有ると雖も、猶、 刷う�A之分無し。仍て別して此の沙汰に及ぶ。行光之を奉行す。

参考�@麁品は、粗悪品。
参考�A刷うは、身なりや服装をきちんと整える。

現代語建保元年(1213)十二月大二十一日辛未。来春の将軍への御馳走ふるまいの宴会について、特にちゃんとするように、雑務担当に命じられました。最近は、よく古くなり粗悪品になったと云うけど、無理に新調する必要はありません。それで特別にこの命令をしたのです。二階堂行光が指揮担当をします。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　きょう　よ　　　い　　　　そうしゅうちょうあい　わかぎみ　〔きゅうさい　とうふく〕　　ごしょ　　をい　　げんんぷくのぎ
建保元年(1213)十二月大廿八日甲寅。天�ﾘ。今日夜に入り、相州鍾愛の若公〔九才、當腹�@〕御所に於て元服之儀。

みうらのさもんのじょうよしむら　かかん　　な　　 なり　　しろうまさむら　　ごう　　　　 うんぬん
三浦左衛門尉義村加冠を爲す也。四郎政村と号すと云々。

参考�@當腹は、現在の妻で伊賀局。

現代語建保元年(1213)十二月大二十八日甲寅。空は晴れです。今日、夜になって相州義時さんの若君〔九才現在の妻の子〕、御所で元服の儀式を行いました。三浦平六左衛門尉義村が烏帽子をかぶせる役です。名前を四郎政村(義村の一字)と名付けました。

説明相州義時の息子は、太郎泰時、次郎朝時、三郎重時、四郎政村、五郎實泰、六郎有時、時尚(尚村)、時經である。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　おんじひつ　 そ　　　　ひごろ　えんがくきょう　 か　　うつせし　　たま
建保元年(1213)十二月大廿九日乙夘。將軍家御自筆を染め、日來圓覺經を書き冩令め給ふ。

きょう　　くようの　ぎ　あ　　　　　どうし　　しょうごんぼうぎょうゆう　　しょうそう　　さんく
今日供養之儀有り。導師は莊嚴房行勇。請僧は三口。

おんふせ
御布施

　かづけものふたえ　つつみものに　　ごい　いちりょう
　被物二重　裹物二　五衣一領

しょうそう　　ぶん
請僧の分

　かづけものひとえ　つつみものいち
　被物一重　裹物一

ともちか　 なかかねこれ　 と
朝親、仲兼之を取る。

現代語建保元年(1213)十二月大二十九日乙卯。将軍実朝様は自筆で、普段から円覚経を写経されております。今日、完成供養の儀式をしました。指導僧は荘厳房退耕行勇、お供の坊さんは三人。お布施は、被り物二着・袋包み二つ・お着物一着です。お供の坊さんの分は、被り物一着・袋包み一つです。美作朝親と近江前司仲兼が手に取って渡しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さくじつ　 もっ　　くよう　　きょうかん　　さえもんのじょうよしむら　　おお　　　　　　みうら　　つか　　　　　 かいてい　 しず　　らる　　　 うんぬん
建保元年(1213)十二月大卅日丙辰。昨日を以て供養の經巻。左衛門尉義村に仰せて、三浦に遣はし、海底に沈め被ると云々。

　ごむそう　　 つげあ　　　　　よっ　　なり
御夢想の告有るに依て也。

現代語建保元年(1213)十二月大三十日丙辰。昨日供養をした円覚経の巻物は、三浦平六左衛門尉義村に命じて三浦へ持って行かせ、海底へ沈めさせましたとさ。何でもそう夢のお告げがあったそうな。

吾妻鏡入門第廿一巻