吾妻鏡入門第廿二巻

建保二年甲戌(1214)二月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　いのこくぢしん　　 きょう しょうぐんけ　いずさん　　まい　　たま　　　　よ　　　い　　　ごほうへい
建保二年(1214)二月大一日丙申。�ﾘ。亥刻地震。今日將軍家伊豆山へ參り御う。夜に入り御奉幣。

現代語建保二年(1214)二月大一日丙申。晴れです。亥の刻(午後十時頃)地震がありました。今日、将軍実朝様は、伊豆山神社(走湯権現)にお参りです。夜になってから幣を捧げました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 くも　　　　ばんけい にしょよ　　　ごきちゃく　　あだちのうえもんのじょうかげもり　　あらかじ　ごしょに けいえい　 もう　　はいしゅ　 けん
建保二年(1214)二月大三日戊戌。陰り。晩景二所自り御皈着。安達右衞門尉景盛、豫め御所于經營を儲け盃酒を献ず。

きょう　 　　ぐぶ　のやからみささんこう　　　 じょうげ　はいしゃくすうじゅん　およ　　　こと　　び　　　つく　よもすがらしょにんえんすい　　　　うんぬん
今日の供奉之輩皆參候す。上下の盃酌數巡に及ぶ。縡に美を盡す。終夜諸人淵醉すと云々。

現代語建保二年(1214)二月大三日戊戌。曇りです。夕方になって二所詣でから帰り着きました。安達右衛門尉景盛は、前もって御所に準備しておきお酒を振る舞いました。今日にお供は皆参加しました。上下共にお酌を何度もし合いました。特に贅を凝らしましたので、一晩中皆さん飲みすぎましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 しょうぐんけ いささ　ごびょうのう　しょにんふんそう
建保二年(1214)二月大四日己亥。�ﾘ。將軍家聊か御病悩。諸人奔走す。

ただ　　　　こと　　　 おんこと　な　　　　 これ　 も　　　　　さんぬ　よ　　　ごえんすい　　 よけか
但し、殊なる御事無し。是は若しか去る夜の御淵醉の餘氣歟。

ここ　　ようじょうそうじょう　かじ　そうら　のところ　　 こ　　　こと　　　き　　　　　りょうやく　しょう　　　ほんじ よ　　 ちゃ　　いっせん め　 しん
爰に葉上僧正加持に候う之處、此の事を聞き、良藥と稱し、本寺自り茶を一盞召し進ず。

しか　　　 いっかん　　しょ　　 あいそ　　けん　せし　　のところ　　ちゃ　 とく　　ほ　　　　　　のしょなり　　しょうぐんけ　　ごかんえつ　　およ　　　うんぬん
而して一巻の書�@を相副へ献じ令む之所、茶の徳を譽める之書也。將軍家、御感悦に及ぶと云々。

さんぬ　つきのころ　　ざぜん　　　よか　　　こ　　みょう　　かきいだ　　のよし　　これ　　もう
去る月之比、坐禪の餘暇に此の抄を書出す之由、之を申す。

参考�@一巻の書は、これが有名な喫茶養生記である。上下二巻あり漢文。

現代文建保二年(1214)二月大四日己亥。晴れ。将軍実朝様が、ちょっと具合が悪いので皆バタバタとしましたが、大した事はありません。二日酔いなのでしょう。祈祷に来た栄西がこれを聞いて、良い薬ですと云って寿福寺からお茶を取り寄せ一杯進呈しました。そして一巻の書物を一緒に差し出したのが、茶の効果が書かれた飲茶の進めの本でした。将軍実朝様はたいそうお喜びになりました。先月頃に座禅の合間にこの趣旨を書き出したと申しあげました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 とらのこくおおぢしん
建保二年(1214)二月大七日壬寅。�ﾘ。寅尅大地震。

現代語建保二年(1214)二月大七日壬寅。晴れです。寅の刻(午前四時頃)地震がありました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あかつき　かぜすこ　　ふ　　　ちょうようかいせい　きょう　　　ぼうもんしんこうもん　〔ただのぶ〕　　　 ししゃ　　きょうとよ　　　さんちゃく
建保二年(1214)二月大十日乙巳。曉、風少し吹く。朝陽快霽。今日、坊門新黄門�@〔忠信〕が使者、京都自り參着す。

けまり　　　しょいっかん　 おく　 すす　 られ　　　　か　　きょう　　きょねんじうにがつふつか　むらさきがわ　したうず　　ゆるされ　　　むねながらあそんこれ　　おな　　　　うんぬん
蹴鞠の書一巻を送り進め被る。彼の卿、去年十二月二日、紫革 の 襪�Aを聽被る。宗長等朝臣之に同じと云々。

しょうぐんけしょどう　しょうがん　 たま　 なか　　こと　　ぎょい　　かな　　は　　　うた　　まりのりょうげいなり
將軍家諸道を賞翫し給ふ中、殊に御意に叶う者、歌と鞠之兩藝也。

参考�@黄門は、中納言の唐名。
参考�A襪（しとうず・したうづ）は、平安時代以後、許可を得て用いる一種の足袋。指の部分は分かれず、小鉤(こはぜ)はなくひもで結ぶ。Goo電子辞書から。蹴鞠用の沓。

現代語建保二年(1214)二月大十日乙巳。夜明けに少し風がありました。朝日は快晴です。今日、坊門新中将忠信さんの使いが京都から着きました。蹴鞠の手引書一巻を送ってよこしました。このお公卿さんは、去年の十二月二日に紫色の革の足袋を許可されました。藤原宗長さんも一緒だそうです。将軍実朝様は、色々と多芸を好んでいますが、特にお好きなのは、和歌と蹴鞠の両道です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　しょうぐんけ えんかのきょう　　もよ　 さる　　　　もりとのうら　　い　　　せし　　たま
建保二年(1214)二月大十四日己酉。霽。將軍家烟霞之興を催ほ被る。杜戸浦�@に出で令め給ふ。

ながえのしろうあきよし　　　ごだしゅう　　もう　　　　か　　　ところ　 をい　 こがさがけ　あ　　　　そうし ら　　おのおの　そ　　げい　 ほどこ
長江四郎明義�A、御駄餉を儲く。彼の所に於て小笠懸有り。壯士等、各　其の藝を施す。

ようや　たそがれ　およ　　　 めいげつのひかり　ま　　　　こしゅう　　さお　　　　　　ゆいがはま よ　　　かえ　 たま　　　　うんぬん
漸く黄昏に及び、明月之光を待ち、孤舟に棹して、由比濱自り還り御うと云々。

参考�@杜戸浦は、神奈川県三浦郡葉山町堀内1025森戸神社付近。
参考�A長江四郎明義は、神奈川県三浦郡葉山町長柄殿谷。

現代語建保二年(1214)二月大十四日己酉。晴れました。将軍実朝様は、雲の様にたちこめた霧もやを愛でる催しをしました。葉山の森戸の浦へおいでになられました。長江四郎明義がお弁当を用意しました。そこで小笠懸がありました。壮年たちがそれぞれ弓矢の芸を披露しました。次第に進行して日暮れになって、名月の光がさすのを待って船で由比ガ浜へお帰りになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くも　 　いぬのこくげっしょく　 はくうん　 すか　　しちぶしょうげん
建保二年(1214)二月大十五日庚戌。陰り。戌刻月蝕。白雲を透し七分正見す。

現代語建保二年(1214)二月大十五日庚戌。曇りです。戌の刻(午後八時頃)に月食です。うす雲を透かして七分ほど欠けたのを見ることができました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　しょうぐんけつるがおか　まい　 たま　　　そうしゅう ぐぶ　　たま
建保二年(1214)二月大廿三日戊子。�ﾘ。將軍家鶴岳に參り御う。相州供奉し給ふ。

現代語建保二年(1214)二月大二十三日戊子。晴れです。将軍実朝様は、鶴岡八幡宮へお参りです。相州義時さんがお供をされました。

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