吾妻鏡入門第廿二巻

建保二年甲戌(1214)五月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　おんじょうじかいろうのあいだ　からいんなら　　　どうしゃそうぼう　　しゅうぞうされ　べ　　　のよし　　そ　　　さた　あ
建保二年(1214)五月小七日辛未。�ﾘ。園城寺回祿之間、唐院并びに堂舎僧坊を修造被る可き之由、其の沙汰有り。

するがのぜんじこれよしあそん　ぶぜんのかみなおともら　もっ　　　　そうぶぎょう　　な　　　　うつのみやのにゅうどうれんしょう　〔さんのうしゃなら　　　　はいでん〕
駿河前司惟義朝臣、豊前守尚友等を以て、惣奉行と爲し、 宇都宮入道蓮生 〔山王社并びに拝殿〕、

ささきのさえもんのじょうひろつな　〔しそくもん〕　　　げんざさえもんのじょうちかなが〔しょうろう〕　　　ないとうさえもんのじょうもりいえ 〔よぼう〕　　　いげ
佐々木左衛門尉廣綱〔四足門〕、源三左衛門尉親長〔鐘樓〕、内藤左衛門尉盛家〔預坊〕已下、

じうはちにん　ざっしょう　 さだ　　られ　ところなり
十八人の雜掌を定め被る所也。

　とうじは　　げんけすうだいほうちょう　 てらなり　　いはゆる　 よしゅう しし ぜんしつ　〔よりよしあそん〕　　いちなん　かいよあじゃり　　　もっ　　ちしょうだいし　　　もんと　　くは
當寺者、源家數代崇重の寺也。所謂、豫州刺史�@禪室〔頼義朝臣〕一男快譽阿闍梨を以て智證大師の門徒に加へ�A、

さんなん ぎょうぶのじょうよしみつ　もっ　　しんらみょうじんうじびと　 な　　 いこう　　ちんじゅふしょうぐん　〔よしいえあそん〕　 こと　　 とうじ　の　たんき　　たの
三男　刑部丞義光 を以て新羅明神氏人と爲す以降、鎭守府將軍〔義家朝臣〕殊に當寺之丹祈を恃む。

しか　　　　さいあい　 ごそくじょめくら　　たま　　　にしごおりそうじょうぎょうかん　これ　　かじたてまつ　　たちま　もっ　　ふくほん
而して最愛の御息女盲し給ふ。　錦織僧正行觀　之を加持奉り、忽ち以て復本す。

しょうぐんかねつのあま　　　 みたびそうじょう　 はい　　　　わがしそんなが　 おしょう　 もんと　　　き　　　べ　　　　　うんぬん
將軍感悦之餘り、三度僧正を拝し、吾子孫永く和尚の門徒に歸す可きと云々。

ばっかしょうぐんは　　りょうかしょうえん　 もっ　　いちじ　　　えこ　　　な
幕下將軍者、兩ケ庄園を以て一寺の依怙�Bと爲す。

また　 かまくらちう　　こんりゅう　 すうう　の　がらん　　こうけん　　こういんりょうそうじょう　もっ　　くよう　　　どうし　　　な
又、鎌倉中に建立の數宇之伽藍、公顯、公胤兩僧正を以て供養の導師と爲す。

あまつさ　ごびんぱつをせいりゅういん　おさ　　られ　　これら　　ほうちょく　 よっ　　　 いま　　ぎ　　　およ　　か
 剩へ 御鬢髪於��龍院�Cに納め被、此等の芳躅に依て、今の儀に及ぶ歟。

参考�@刺史は、国守(こくしゆ)の唐名。
参考�A一男快譽阿闍梨を以て智證大師の門徒に加へは、頼義は988-1075で、智證大師円珍は814-891なのでつじつまが合わない。
参考�B依怙は、えこ贔屓のえこ、この場合は、頼りにすること。また、頼りにするもの。
参考�C青竜院は、頼朝が建久元年十二月八日条に修理料として御剣一腰・砂金十両を寄進している。又、ここへは八幡太郎義家が髪の毛を埋めるとある。

現代語建保二年(1214)五月小七日辛未。晴れです。三井寺園城寺が燃えてしまったので、唐院と大小の建物や坊さんの宿舎を建築するようにと、決定されました。前駿河守大内惟義と豊前守尚友を全体の指揮者として、宇都宮入道蓮生頼綱〔山王権現神殿と拝殿〕、佐々木左衛門尉廣綱〔四足門〕・源三左衛門尉親長〔鐘楼〕、内藤左衛門尉盛家〔預坊(事務局)〕を始めとして十八人の再建担当を決められました。この寺は、源氏の代々が敬ってきた寺です。
いわゆる、伊予国司の豫州禪門頼義は、男子の一人快誉阿闍梨を智證大師円珍の弟子にして、三男の刑部丞義光を三井寺鎮守の新羅明神で元服させて以降、鎮守府将軍八幡太郎義家は特にこの寺の御祈祷に頼ってきました。しかし、最愛の娘が目が見えなくなってしまったので、錦織僧正行観がこれを加持祈祷したところ、たちまち治りました。義家は感激のあまり、三度も僧正を拝んで、吾子孫は長く和尚の弟子たちに帰依することになったんだとさ。
頼朝様は、二つもの荘園を寄付してこの寺を頼りにしたのでした。又、鎌倉中に建立した幾つものお寺も、公顕・公胤の両僧正に指導僧を頼みました。そればかりか、義家が髪の毛を青竜院へ納めたりしたので、このような縁があるので、今このように決めました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 とらのこく　 つき　　たいはく　〔あいさ　　　さんじゃく　ところ〕　　おか　　 のよし　　 してんら　これ　　もう
建保二年(1214)五月小十五日己夘。�ﾘ。寅刻。月、太白〔相去る三尺の所〕を犯す之由。司天等之を申す。

現代語建保二年(1214)五月小十五日己卯。晴れです。寅の刻(午前四時頃)月が金星の軌道を犯しました〔三尺ほど離れて〕と、天文学者が報告しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　えんかん しゅん　わた　　　よっ　　　つるがおかぐう　をい　　　　　きう　　　おいのり　 おこ　　れる　　うんぬん
建保二年(1214)五月小廿八日壬辰。霽。炎旱 旬に渉るに依て、鶴岳宮に於て、祈雨の御祈を行は被と云々。

現代語建保二年(1214)五月小二十八日壬辰。晴れました。旱魃が十日以上も続くので、鶴岡八幡宮で雨乞いの祈祷を行いましたとさ。

六月へ

吾妻鏡入門第廿二巻