吾妻鏡入門第廿二巻

建保二年甲戌(1214)六月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　ばん　 およ　　　 いささ　くもし　かみなりな　　　　これごきしょう　　 げん　か
建保二年(1214)六月大一日甲午。�ﾘ。晩に及び、聊か雲筵き雷鳴る。是御祈請の驗歟。

現代語建保二年(1214)六月大一日甲午。晴れです。夜になって多少雲が敷き延べてきて雷が鳴りました。これは、雨乞いの祈りの霊験でしょうか。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しょこくえんかん　 うれ
建保二年(1214)六月大三日丙申。霽。諸國炎旱を愁う。

よっ　 しょうぐんけようじょうそうじょう　くっ　　　　　きう　　　ためはっかい　　も　　　　　ほけきょう　　てんどく　 たま
仍て將軍家葉上僧正を屈し、祈雨の爲八戒�@を持ち、法花經を轉讀し給ふ。

そうしゅう いげ　　 かまくらちう　　のうそ　　 きせん　しんぎょう　どくしょう　　 いっしんけっしん　て せいきんのまこと　いたされ　 なり
相州已下、鎌倉中の緇素、貴賎心經を讀誦す。一心潔信し而精勤之誠を致被る也。

参考�@八戒は、八斉戒で、在家の信者が守る八種の禁戒。不殺生・不偸盗(ちゅうとう)・不淫・不妄語・不飲酒(おんじゅ)の五戒に、高くゆったりした寝台に寝ない、歌舞を見聞きしたり化粧をしない、非時(ひじ)の食を取らないの三つを加えたもの。

現代語建保二年(1214)六月大三日丙申。晴れました。諸国では日照りに嘆いています。そこで、将軍実朝様は葉上坊僧正栄西を呼んで、雨乞いのために自ら八つの戒律を守り、法華経の摺り読みをしました。相州義時さん以下鎌倉中の出家も在俗も尊い人も卑しい人も般若心経を称えました。一心に清潔にして懸命に勤めを真面目にしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かんう　ふ　　　　これ　 ひとへ　しょうぐんけ ごたんきの いた　　ところか
建保二年(1214)六月大五日戊戌。甘雨降る。是、偏に將軍家御懇祈之致す所歟。

こうぎょくてんのうがんねん みずのえとら　しちがつ　てんか えんかんのあいだ　かたがた　　きとう　あ　　　　いへど
 皇極天皇 元年　壬寅　七月、 天下炎旱之間、 方々の祈祷有りと雖も、

そ　　 げん　な　　　よっ　　　　おおおみ えみし　〔うまこおおおみ　　だん〕　みずか　こうろ　　　と　　　きねん
其の驗無きに依て、大臣蝦夷〔馬子大臣が男〕自ら香爐を取り祈念す。

なおもっ　 あめ　 ふらず　　 おな　　　はちがつ　みかど かわかみ　こう　　　　しほう　　　おが　　せし　 たま　 のあいだ　　たちま　らいでん　　 あめふ　　　　 いつかにちきゅうし　　ず
猶以て雨は不降。同じき八月、 帝 河上に幸じ、四方を拝ま令め御う之間、忽ち雷電し、雨降る。五ケ日休止せ不。

こくどひゃっこくほうねん　き　　　　 うんぬん　　くんしんことな　　いへど　　　そ　こころざし　　あいおな　　ものか
國土百穀豊稔に歸すと云々。君臣異ると雖も、其の志は、相同じ者歟。

現代語建保二年(1214)六月大五日戊戌。有難い雨が降りました。これは、なんといっても将軍実朝様の祈りが通じたのでしょうかね。皇極天皇元年壬寅(642)七月、世間が日照りであった時、あちこちに御祈祷をしましたが、その効果はさっぱりないので、大臣蘇我蝦夷〔蘇我馬子大臣の息子〕が自ら香炉を持ってお祈りをしました。それでもなお、雨は降りません。同年八月天皇は川上へお出でになり、四方へお祈りをしたとたんに、たちまち雷が鳴って雨が降りました。五日間も降りやみませんでした。国の作物は豊作となりました。天皇と将軍とは、違いますけれどもその志の通じるのは同じものなんでしょうかね。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かんとう　　 しょごりょう　　 のうぐ　　　こと　　きた　　あき　よ　 さんぶのに めん　　られ　　べ
建保二年(1214)六月大十三日丙午。關東の諸御領の乃貢の事、來る秋自り三分二免じ被る可き。

けりょうかいねんいっしょ　　しだい　 じゅんぎ　　な　　　べ　　　のよし　　おお　 い　　 され　　　　うんぬん
假令毎年一所、次第に巡儀を爲す可き之由、仰せ出だ被ると云々。

現代語建保二年(1214)六月大十三日丙午。関東将軍の領地の年貢について、この秋の収穫では三分の二に減らしてあげよう。おおむね毎年一ヵ所づつ順番にそうしてあげようと仰せ出したそうです。

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