吾妻鏡入門第廿二巻

建保四年丙子(1216)閏六月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　いぬのこく　おおぢしん
建保四年(1216)閏六月小十一日癸亥。�ﾘ。戌刻。大地震。

現代語建保四年(1216)閏六月小十一日癸亥。晴れです。午後八時頃大地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ひろもとあそん こんげつついたち おおえせい　かへ　をはんぬ　ちょくさいのおもむき　　ゆきみつ　もっ　　これ　 もう　　いれ
建保四年(1216)閏六月小十四日丙寅。廣元朝臣 今月一日　大江姓へ遷り訖。　勅裁之趣は、行光を以て之を申し入る。

すなは　か　　ちんじら　　　　ごぜん　　うつ　　とど　　られ　　　 うんぬん
即ち彼の綸旨等、御前に冩し留め被ると云々。

　　しょうしいのげぎょう むつのかみ なかはらのあそんひろもと　せいこうせいきょう つつ　　　ごんじょう
　正四位下行 陸奥守　中原朝臣廣元　誠惶誠恐　謹んで言上す

　　　　　　こと　　てんおん　 こうむ　せんれい　いんじゅん　　　 なかはらせい　あらた　おおえうじ　　な　　　　 こ　　　じょう
　　　殊に天恩を蒙り先例に因准して、中原姓を改め大江氏と爲すの請う状

　　みぎ　　　 ひろもとつつし　あない　 けん　　　　　　　　 しさい あ　　　　　よっ　　　　うじせい　 あらた　せし　 は　　　かんけの いはん　　ほんちょうのこうきなり
　右は、廣元謹み案内を檢ずるに、子細有るに依て、氏姓を改め令む者、漢家之彝範、本朝之恒規也。

　りし　　　り　　　あらた　　 これすなは　はくようのせん　　きせい　 しゅう　　せん　　 
理氏は李に改め。是則ち伯陽之先。姫姓は蒋に遷ず。

またしゅくたんののちたり　たぐちただな　　 きせい　　あらた　　　　ゆげのもちとき　　おおえ　　な
又叔旦之後爲。田口齋名を紀姓に改め、弓削以言は大江と爲す。

 わとうの れいあげ　 かぞ　 べからず　　さんにじゅしいじょうおおえのあそんこれみつ　　ふし の　ぎ　あ　　　　 よっ　　　　すで　　けいしのことわり　かな
和唐之例勝て計う不可。散位從四位上大江朝臣維光、父子之儀有るに依て、已に繼嗣之理に叶う。

じゅしいのげぎょう かもんのかみなかはらあそんひろひで　よういくのあん　　こうむ　　　いへど　　せいうじの せき　 あらた　　　　　ほっ
從四位下行 掃部頭中原朝臣廣秀。 養育之恩を蒙ると雖も、姓氏之籍を改めんと欲す。

なかんづく　　けいねんいらい　なかはら　はやし　な　　　　しざい の がっこうこれおお
就中に、頃年以來、中原は林を成し。梓材之學校惟多し。

おおえ　 みず　 がく　　　　　しろう　の　ちえん せい　　　　　すくな　　　　はや　 ほんせい　ふく　　　 ぜっし　　 つ　　　べ　　　　　
大江は水に樂し、詞浪之知淵�Cなるは少し。早く本姓に復し、絶氏を繼ぐ可し。

のぞ　　こ　　　　てんおんせいれい　いんじゅん　　　　なかはらせい　あらた　せし　　　おおえうじ　　な　　　べ　　　のむね
望み請うは天恩先例に因准して、中原姓を改め令め、大江氏と爲す可き之旨、

せんじ　　くだされれば　いよいよ　こうたくの こうひ　　　あお　　　まさ　　じゅりゅうのさいこう　　し　　　　　ひろもとせいこうせいきょうきんげん
宣旨を下被者、 弥、皇澤之廣被を仰ぎ、將に儒流之再興を知る。廣元誠惶誠恐謹言。

　　　　けんぽうよねんろくがつじういちにち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうしいのげぎょうむつのかみなかはらあそんひろもと
　　建保四年六月十一日　　　　　　　　　　正四位下行陸奥守中原朝臣廣元

　　しょうにいぎょうちうなごんふじわらのあそんたかひらせん　ちょく　うけたまは　　うけ　　よ　　　てへ
　正二位行中納言藤原朝臣隆衡宣す。勅を奉るに、請に依る者り。

　　　　どうねんごのろくがつついたち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だいげきけんちくぜんのかみなかはらあそんもろしげ　〔ほうず〕
　　同年後六月一日　　　　　　　　　　　　大外記兼筑前守中原朝臣師重〔奉〕

現代語建保四年(1216)閏六月小十四日丙寅。中原広元さんは、今月一日大江性へ戻りました。天皇の許可の内容を、二階堂行光を通じて、将軍実朝様に申し入れました。すぐにその許可状の写しを書き写して保管したそうです。

　正四位下行陸奥守中原広元が、恐れながら謹んで申しあげます。
　　　特に朝廷の恩を戴いているので、先例に倣って中原性を戻して大江性にしたい願いです。
　右については、広元が謹んで先例を調べましたところ、事情があって性氏を直す事は、中国の常道手本、我国の恒なる規則にもある。理氏は李に直した。これは老子(李性)よりも先です。姫性は蒋にかえました。これも周公旦(姫叔旦)の後です。田口斉名は紀性に直し、弓削以言は大江としました。日本・中国の例は沢山あります。散位従四位上大江惟光は、実の親子なので継ぐのが妥当でしょう。従四位下行掃部頭中原広秀には、育てられた恩がありますけれど、性を変えたいのです。中原性は大勢になり性を継ぐ者が沢山おります。大江は水に流れるように縁者が少ないのです。早く元の性に戻って、絶えそうな性を継ぎたいのです。願わくば、朝廷は先例に合わせて、中原性を変えて大江広元に戻すように、命じていただければ、ますますもって朝廷を敬い、儒学の道を復興することを知られるでしょう。広元が恐れ敬いながら申し上げます。
　健保四年六月十一日　　　正四位下行陸奥守中原広元
　正二位行中納言藤原隆衡が、宣言します。天皇の許可があったので、申請通り認めます。
　同年閏六月一日　　　　　　　　　　　　　　大外記兼筑前守中原師重〔命じられて書きました〕

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 おがわのほういんちうかい　　りくじかりんほう　　しゅう　べ　　　こと
建保四年(1216)閏六月小廿四日丙子。�ﾘ。 小河法印忠快�@、六字河臨法�Aを修す可き事、

むつのかみひろもとあそん　　しなののかみゆきみつら ぶぎょう　 な
陸奥守廣元朝臣、信濃守行光等 奉行を爲す。

ひなみ　いげ　そ　　　 さた　あ　　　　おんみょうしょうじょうちかもと　しょうゆうたいふやすさだら ほのき
日次已下其の沙汰有り。 陰陽少允親職、 少輔大夫泰貞等風記�Bす。

きた　　しちがつついたちよ　　 おな　　　にじうくにちに いた　　　　　　みっかび　　　の　　　　　はか　　もち　　られ　　べ　　　のよしごんじょう
來る七月一日自り、同じき廿九日于至るまで三ケ日を載せ、計り用い被る可し之由言上す。

しか　　　 ほういん　じょうちうじゅん　をい　 は　さわ　　　もう　　　　にじうくにち　　いた　　ば　こなん　　くは　　　　のあいだ　　これ おんみょうどう のあやま　なり
而るに法印、上中旬に於て者障りを申す。廿九日に至ら者巨難を加うる之間、是 陰陽道 之誤り也。

しゅっし　　と　　　　　べ　　　 のよし　　おお　　くだされ　　　 よっ　　　　ゆきみつしさいをりょうにん　　あいふれ　　　よっ　おのおの　ろうきょ　　　うんぬん
出仕を止める可し之由、仰せ下被るに依て、行光子細於兩人に相觸る。仍て 各、籠居すと云々。

参考�@小河法印忠快は、台密小川流の祖。平教盛の子、丹波小河庄（現、京都府亀岡市千代川町小川）。鎌倉へ連れてこられて八幡宮寺の供僧となった。
参考�A六字河臨法は、「天台密教の本」によると六字明王を本尊とし、仕上げに川に船を浮かべその中で行法を行う。船は川上を向け浮かべ、岸から川上に向かい人が引っ張っていく。（略）調伏には北へ流れる川、息災は南へ流れる川とある。相模川は南流なので息災の祈祷になる。
参考�B風記は、メモをする。

現代語建保四年(1216)閏六月小二十四日丙子。晴れです。小川法印忠快が、六字河臨法をのお祈りをすることについて、大江広元と二階堂行光が指揮担当しました。
お日和の決定をするように決められ、陰陽少允安陪親職と少輔大夫安陪泰貞がメモをしました。来月の七月一日から二十九日までの間の三日を書いて、検討されるようにと申し上げました。
そしたら小川法印は、上旬中旬は良くないと云いました。29日になってしまっては、大きな災難があるだろうから、これは陰陽道の間違いである。役立たずは使う必要がないので、外すように将軍が云ったので、二階堂行光が事情を陰陽道に説明した。そこで、それぞれ謹慎しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　さんぬ　はつか　ひつじのこく　さきのだいそうじょうほうむこういん にゅうめつ　　 〔 とししちじうに 〕
建保四年(1216)閏六月小廿九日辛巳。去る廿日 未刻、　前大僧正法務公胤　入滅す。〔年七十二〕

おうじょう　 ずいあ　　　のよし　　きょう ふうぶん
往生の瑞有る之由、今日風聞す。

これ　　しょうぐんけ　ごきえ　　　そうなり　　こさきのばっかこと　　おお　 お　　 のむね　あ　　　　うんぬん
是、將軍家御皈依の僧也。故前幕下殊に仰せ置く之旨有りと云々。

現代語建保四年(1216)閏六月小二十九日辛巳。先達ての二十日の午後二時頃に、前大僧正法務公胤が無くなりました。〔年は72歳〕苦も無く往生した良い証があったと噂されました。この人は、将軍実朝様が信心していた坊さんです。頼朝様からの御遺言があったからだとさ。

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