吾妻鏡入門第廿三巻

建保五年丁丑(1217)五月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　さるのこく　つるがおかはちまんぐう べっとう さんみそうづていぎょう　　はれもの　　わずら　にゅうめつ
建保五年(1217)五月大十一日戊子。�ﾘ。申剋、　鶴岳八幡宮　別當 三位僧都定曉、腫物を煩ひ入滅す。

現代語建保五年(1217)五月大十一日戊子。晴れです。午後四時頃、鶴岡八幡宮筆頭の三位僧都定暁は、腫瘍が悪化して亡くなりました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　じゅふくじちょうろう　しょうごんぼうりっしぎょうゆう　　ごしょ　　まい
建保五年(1217)五月大十二日己丑。�ﾘ。壽福寺長老 莊嚴房律師行勇、御所へ參る。

これ　 しょたいそうろんのやから　 こと　いんきゅうもう　　のゆえなり　　しか　　　　かく　　ぎ　　　すで　　すうど　　およ　 のあいだ　 しょうぐんけ みけしき あ
是、所帶相論 之輩の事を引汲申す之故也。而るに此の儀は已に數度に及ぶ之間、將軍家御氣色有り。

ひろもとあそん　　もっ　　おお　 いだされ　 い
廣元朝臣を以て仰せ出被て云はく。

さんぽう　　　　　ごきえ　　　はなは　おも　　　いへど　　　せいどう　　こと　　しきり　もっ　　これ　　と　　　もうされ
三寳への御歸依は甚だ重きと雖も、政道の事、頻に以て之を執り申被る。

あえ　　そうと　の ぎょうぎ　あらず　 はや　　これ　　ちょうじ　　　しゅうれん　もっぱ　され　 べ　　　　 うんぬん
曾て僧徒之行儀に非。早く之を停止し、修練を專ら被る可きと云々。

ぎょうゆう　しんちう　　これ　　うら　　　　な　　　　　ほんじ　　かえ　　　　もん　　と　　　　　　　うんぬん
行勇、心中に之を恨み、泣いて本寺へ歸り、門を閇ざすと云々。

現代語建保五年(1217)五月大十二日己丑。晴れです。寿福寺筆頭住職の長老荘厳房退耕行勇が御所へ来ました。これは相続争いの連中の一方に加担しているからです。そういう内容なのに、何度も云ってくるので将軍実朝様は機嫌を壊してしまいました。
大江広元さんを通じて仰せになられるのには、「仏法僧の三宝を信じてすがることは尊い事ではあるが、政治向きについて盛んに口を出される。これは坊さんの礼儀ある行いじゃないんじゃないの。そんなことは止めて、坊さんとしての修業の方をちゃんとしてください。」だとさ。
荘厳房退耕行勇は、がっかりしながらもこの言葉に恨みを持って、泣き泣き寺へ帰り、門を閉じてしまいましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　くも　　　　しょうぐんけ じゅふくじ　　い　　　たま　　　　　りぶ　　　ぶしゅうらおんとも　　そうら　れる
建保五年(1217)五月大十五日壬辰。陰り。將軍家壽福寺へ入り御う。李部�@、武州�A等御共に候は被。

これ　ちょうろううっとう　　こと　　なだ　　おお　　られ　　　 よっ　　なり　　ぎょうゆう こと　　おそ　　もう
是、長老欝陶の事を宥め仰せ被るに依て也。行勇 殊に恐れ申す。

しばら　ぜんしつに　おは　　　　ぶっぽう　　ごだんわ　　　およ　　　　うんぬん
暫く禪室于御坐し、佛法の御談話に及ぶと云々。

参考�@李部は、式部大夫の唐名。
参考�A武州は、泰時より後に書かれているので、時房と思われるが、1月26日条で相州になっているはずである。

現代語建保五年(1217)五月大十五日壬辰。曇りです。将軍実朝様は、寿福寺へ参りました。李部泰時さん・武州時房などがお供をしました。
これは三日前の筆頭住職の気持ちを慰めるためなのです。荘厳房退耕行勇は恐縮しました。しばらく禅をする部屋でおはなしをされましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　うえもんのじょうきのやすつな　ねんらい そ　 こうあ　　　　いへど　　　　いま　　しんおん　　よく
建保五年(1217)五月大廿日丁酉。右衛門尉紀康綱、年來其の功有ると雖も、未だ新恩に欲さず。

きょう　いっしゅ　　　わか　　　すす　　　しんじょう　こと　　うれ　　もう
今日一首の和歌を進め、身上の事を愁い申す。

しか　　　 びちゅうのくに　むらこそごうない　こうみしゃまちは　　はちだいそうでんのよし　ごんじょうのあいだ　　ふゆ　のち　　　　な　　　　りょうしょうすべ　　のよしおお　　くだされ
而して備中國　村社郷内　小埋社町者、八代相傳之由、言上之間、不輸�@之地と爲す。領掌可き之由仰せ下被る。

むつのかみひろもとあそんこれ　ぶぎょう　　　　これ　 あわ　　　　えいか　 かん　　せし　 たま　　のゆえなり
陸奥守廣元朝臣之を奉行す。是、併せて詠歌を感じ令め給ふ之故也。

参考�@不輸は、荘園が租税の納入を免除されること。

現代語建保五年(1217)五月大二十日丁酉。右衛門尉紀康綱は、この数年良く勤めていますが、未だに新しい褒美をもらっていません。そこで今日、一首の和歌を詠んで不遇の身を嘆き申しあげました。そしたら、備中国村社郷のうち、小埋社町は八代前の先祖からの領地なんですと申しあげると、納税免除の地にして、管理するように仰せになられました。大江広元さんが担当します。これは、手柄もさることながら和歌に感じられたからです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  おんじぶつどう　　をい　　　　もんじゅぞう　　くようされ　　　　　どうし　　 じゅふくじちょうろう
建保五年(1217)五月大廿五日壬寅。御持佛堂に於て、文殊像を供養被る。導師は壽福寺長老。

しか　　　　しょうぐんねんらい　　ごしょじ　 　ごおう　　もっ　　おんふせ　　な
而るに將軍年來の御所持の牛玉�@を以て御布施と爲す。

ひろもとあそん しか　 べからずのよし　 かたぶ　もう　　　いへど　　　　ごきょよう　　あたはず　　うんぬん
廣元朝臣然る不可之由、傾け申すと雖も、御許容に不能と云々。

参考�@牛玉は、牛黄と書き、牛の胆嚢に生じる黄褐色の結石。漢方で狭心症・胃炎・腎盂炎などに薬用。

現代語建保五年(1217)五月大二十五日壬寅。将軍実朝様の守り本尊を安置する持仏堂で、文殊菩薩の法要を行いました。指導僧は寿福寺筆頭住職。そして、将軍実朝様は、前々から持っている牛黄を布施としました。大江広元さんが、そりゃまずいでしょうと注意しましたが、云うことを聞きませんでしたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さんぬ　がんねんごがつ　 ぼうそつ　 よしもり いげ 　　しょりょう　　じんじゃぶつじ　　こと
建保五年(1217)五月大廿七日甲辰。去る元年五月に亡卒の義盛以下の所領の神社佛寺の事、

ほんじゅのれい　 まか　　　 こうぎょうせし　　べ　　　のよし　　きょう　 か　　 あと　　はいりょうのやからに　おお　　られ　　　　うんぬん
本主之例に任せ、興行令む可き之由、今日彼の跡を 拝領之輩于 仰せ被ると云々。

現代語建保五年(1217)五月大二十七日甲辰。去る元年五月に亡くなった和田義盛達の領地の神社や寺について、元の領主の例の通り復興させるように、今日、その地を与えられた連中に仰せになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  みだいどころ　　じゅふくじ　　まい　　たま
建保五年(1217)五月大廿九日丙午。御臺所、壽福寺へ參り御う。

現代語建保五年(1217)五月大二十九日丙午。将軍の奥さんが、寿福寺へお参りです。

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