吾妻鏡入門第廿三巻

建保五年丁丑(1217)十二月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 さきのだいぜんだいぶにゅうどうかくあ　しょろう へいゆのあいだ　　きょう もくよく
建保五年(1217)十二月小十日癸丑。�ﾘ。 前大膳大夫入道覺阿、 所勞平愈之間、今日沐浴す。

ただ　 がんせいくら　 て　　 こくびゃく　わか　 たまはず　 うんぬん
但し眼精暗く兮、黒白を分ち不能と云々。

現代語建保五年(1217)十二月小十日癸丑。晴れです。前大膳大夫入道覚阿大江広元さんの病気が治ったので、病の穢れを落とす入浴をしました。但し、まだ目は暗くて黒白さえも見分けがつかないんだとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　うけいちょう　　さんう　じうににち　むつのかみ　かねたま
建保五年(1217)十二月小廿四日丁夘。霽。右京兆、去る十二日陸奥守を兼給ふ。

よっ　　ごしょ　　　さんが　され　　　　みまさかさこんたいふともちか もう　　つぎたり
仍て御所に參賀�@被る。美作左近大夫朝親申し次爲。

参考�@參賀は、形式的お礼参り。

現代語建保五年(1217)十二月小二十四日丁卯。晴れです。右京兆義時さんは、先日の十二日に陸奥守を兼任しました。それなので御所へお礼参りに来ました。美作左近大夫朝親が取り次ぎました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　よ　　　い　　　　　しょうぐんけかたたがい　ため　　ようふくじない　　そうぼうに　わた　　たま
建保五年(1217)十二月小廿五日戊辰。�ﾘ。夜に入り。將軍家御方違に爲、永福寺内の僧坊于渡り御う。

きんうじぎょけん　えき
公氏御劔を役す。

さがみしきぶのたいふ　　ゆうきのさえもんのじょうともみつ　　やましろのほうがんじろうもとゆきら　おんとも　　そうら　　　おんきば　　　 りぶ　 いげ　は　かちのぎなり
相摸式部大夫、 結城左衛門尉朝光、 山城判官次郎基行等 御共に候う。御騎馬。李部�@已下者歩儀也。

こと　みつみつのあいだ　さんかい　ひとな
縡に密々之間、參會の人無し。

か　　　そうぼう　　をい　　　 ゆきむらの もとよ　　じゅうぎょうひとあわせ　もも　くし　　めされ　　よもすがらつぎうた　　おんえ あ
彼の僧坊に於て、行村之許自り、 獸形�A一合、 桃九枝を召被、終夜續歌�Bの御會有り。

参考�@李部は、式部大夫の唐名。
参考�A獸形は、獣形慢と云い、紫宸殿に飾った幕。瑞雲・龍虎・麒麟・獅子・天馬を刺繍した。
参考�B續歌は、連歌の元。

現代語建保五年(1217)十二月小二十五日戊辰。晴れです。夜になって、将軍実朝様は縁起担ぎの方向転換「方違へ」の為、永福寺の坊さん宿舎へ行かれました。宮内兵衛尉公氏が太刀持ちです。相模式部大夫朝直・結城左衛門尉朝光・山城判官次郎後藤基行などがお供をしました。以上は馬に乗っています。李部泰時以下は歩行です。
特にないしょなので、お出迎えの人はおりません。その坊主の宿舎で、山城判官二階堂行村から幔幕の獣形慢一揃い・桃の枝九本を取り寄せ、一晩中連歌の会を催しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　みめい　　かんご　　　しか　　　　おんぞ にりょうを　か　　　そうぼう　 のこ　 おかれ
建保五年(1217)十二月小廿六日己巳。霽。未明に還御。而して御衣二領於彼の僧坊に殘し置被る。

あまつさ　いっしゅ　  ごえいか　 　そ　　　　られ　　　　およ　　こ　　　おんとき　　こと　 をい　　ごほうじょう　　つくされ　　　　うんぬん
　剩へ一首の御詠歌を副へ被る。凡そ此の御時、事に於て御芳情を盡被ると云々。

　　まるまち　　かすみ　そで　　　　重ね　　　　　 下　　　ころも　おき
　春待て霞の袖にかさねよと志もの衣を置てこそゆけ

現代語建保五年(1217)十二月小二十六日己巳。晴れました。夜明け前に帰りました。そしてお召し物二種類をその坊主の宿舎に置いてきました。そればかりか、一首の和歌をそえておられます。本当にこういう時こそ情のあるふるまいをなされます。

春待ちて霞の袖に重ねよと下の衣を置いてこそ行け（春を待ってる間、薄縁を重ねて着ていなさいと上の者こそ下の者を気遣ってあげるべきだ）

建保六年正月へ

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