吾妻鏡入門第廿三巻

建保六年戊寅(1218)三月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　 はたののいやじろうともさだ　　 きょうと よ　　　きちゃく　　　 さんぬ　むいか　　ぢしょ　　　じさん
建保六年(1218)三月大十六日丁亥。�ﾘ。波多野弥次郎朝定、京都自り歸着す。去る六日の除書を持參す。

しょうぐんけ　 さこんたいしょう　けんにんせし　 たま　　　 はじ　　おんしじゅらくの　とき　　こうだいしょうぐんの　れい　　まか　　　　う　　　にん　　られ　　べ
將軍家、左近大將を兼任令め給ふ。始め御使入洛之時、故右大將軍之例に任せ、右に任じ被る可し。

よっ　　 うばっか　じ　　　 もうされ　　　　 ぎ　　　 のとき　　ともさだじょうらく　　　 のかん　　またせんぺん　あらた　　 そ　　　 さた　あ
仍て右幕下辞し申被んと擬す之刻、朝定上洛する之間、亦先篇を改め、其の沙汰有り。

おんし　　はくろく　 おんていに おうはん すうかど　　うんぬん　くだん　ききがき　　あきごんのかみのりたか　さんしん　　　　ごぜん　　おかれ
御使、博陸の御亭于往反數箇度と云々。件の聞書、安藝權守範高 參進し、御前に置被る。

　　じじゅうとうののりあり　　　　　　　　　　　　ひょうぶごんのだいゆうとうのよりたか
　侍從藤範有　　　　　　兵部權大輔藤頼隆

　　かげゆのすけたいらののりすけ　　　　　 ではのじょうすけとうのかげもり
　勘解由次官平範輔　　　出羽城介藤景盛

　　いよのかみとうのさねまさ　　　　　〔かね　　〕　さこんたいしょう みなもとさねとも
　伊豫守藤實雅　　〔兼る〕左近大將 源實朝

　　しょうしょうとうのもりかね　　　　　　　　　 うこんしょうしょうとうのよしつぐ
　少將藤盛兼　　　　　　右近少將藤能繼

　　うえもんのごんのすけつねかね
　右衛門權佐經兼

　　ぞうにんこれ　　りゃく　　〔さんじうよにんか〕
　雜任之を略す〔三十餘人歟〕

　　じゅさんみとうのすけいえ　　　　　　　　 じゅしいげたいらのむねのぶ
　從三位藤資家　　　　　從四位下平宗宣

ま　　とうのうえもんのじょうかげもりを　ごぜん　　め　　　　　ききがき　 たま　　　　　　　〔のりたか ごぜん　　　をい　　さら　　 これ　　 かきうつ　　　〕　これ　　ではのかみ　 にん　　　　のゆえなり
先ず藤右衛門尉景盛於御前に召し、聞書を賜はる。〔範高御前に於て更に之を書冩す〕是、出羽守に任ずる之故也。

かげもりきょうえつ　がんしょく　あら　　　　　 とうしきは　　 だいごてんのう　　おんう　　しょうたいにねんいらい　ちうぜつ
景盛恐悦、顏色に彰はる。當職者、醍醐天皇の御宇、昌泰二年以來中絶す。

しか　　　 ごれいぜいいん　 おんとき　 いた　　　 えいしょうごねんくがつにち　たいらのしげもり　はじ　　　　これ　　にん
而るに後冷泉院の御時に至り、永承五年九月日、 平繁盛　始めて之を任ず。

 そ 　　ご また　　ぶにん　　ひとな　　　のところ　　いまた　　　　　　おこされ　　のじょう　　もっと　ちんちょう　い　　　　　べ　　　か
其の後亦、補任の人無き之處、今絶ゆるを興被る之條、尤も珍重と謂ひつ可き歟。

またさんう　つきじうはちにち　みなもと もんじょうはくじ なかあきらあそん　　じどくしょうでん　ことちょっきょ　　よくじつじうくにち せんげ
又去る月十八日、　源 文章博士 仲章朝臣　 侍讀昇殿の事勅許、 翌日十九日宣下。

これ　　かんとうの　ごきょ　　よ　　　　いへど　　　　きだい　　ちょうおんたるか
是、關東之御擧に依ると雖も、希代の朝恩爲歟。

つぎ　 ともさだを れんげ　　め　　　　　ぎょけん　　たま　　　　　　このたび　しせつの　ちう　　しょうされ　 ゆえなり
次に朝定於簾下に召し、御釼を賜はる。今度の使節之忠を賞被る故也。

現代語建保六年(1218)三月大十六日丁亥。晴れです。波多野弥次郎朝定が、京都から帰ってきました。先日の六日の辞令を持ってきました。将軍実朝様は左大将を兼務することになりました。始めに使いが、京都へ着いた時には、頼朝様の例にならって右大将に任命されました。それなら右大将実朝様は辞退しましょうとパフォーマンスをしたので、朝定が京都へ着く間に、急いで先の任命を変えるよう協議しました。使いは、関白の屋敷への往復が何度にもなったんだそうな。その辞令一覧を安芸権守藤原範高が持って出て将軍実朝様の前へ置きました。
　侍従藤原範有　　　兵庫権大輔藤原頼隆
　勘解由次官平範輔　出羽城介藤原安達景盛
　伊予守藤原実雅　　〔兼務〕左近大将源実朝
　少将藤原盛兼　　　右近少将藤原能継
　右衛門権佐経兼
　その他下っ端は略す〔三十数人らしい〕
　従三位藤原資家　　従四位下平宗宣
まず、藤原安達右衛門尉景盛を面前に呼び出し、辞令一覧を与えました〔範高が目の前で書き写したのです〕。こらは、出羽守に任命されたからです。景盛は感謝と喜びが顔に現れていました。この職は、醍醐天皇の時代の昌泰二年(899)以来欠員のままでした。しかし、後冷泉天皇の時代になって永承五年(1050)九月？日に平繁盛を初めて任命しました。その後またも任命に丁度いい人が居なくて絶えていたのを、今復興するのはめでたい事であろう。
又、先月の十八日に、文章博士源仲章さんが、講義のために院の御所へ上ることを許され、翌日の十九日に公表されました。これは、関東からの推薦があったからでは有りますが、世にもまれな朝廷の配慮です。
次に、波多野朝定を御簾の下へ呼んで、刀を与えました。今度の面倒な使者をちゃんとやりとげたご褒美です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　ごんのしょうげき なかはらしげつぐちょくし　な　　　げちゃく
建保六年(1218)三月大十八日己丑。霽。權少外記 中原重繼 勅使と爲し下着す。

これ　　さんぬ　むいかしょうぐんけ　 さまりょう ごかんたるべ　　　のむね　　せんげされ　　　　よっ　　くだん　せんじじょう　　じさん　　　ところなり
是、去る六日將軍家、左馬寮御監爲可き之旨、宣下被る。仍て件の宣旨状を持參する所也。

ま　　つるがおかぐう　かいろう　　つ　　　つぎ　さきのだいぜんだいぶにゅうどう　　さた　　　な　　　　　りょてい　　てん　　　　ちょくし　　う
先ず鶴岳宮の廻廊に着く。次に 前大膳大夫入道が 沙汰と爲し、旅亭を點じ、勅使を請く。

現代語建保六年(1218)三月大十八日己丑。晴れました。権少外記（枠外扱いの下級書記官）中原重継は、朝廷の使者として到着しました。これは先日の六日に将軍実朝様が、朝廷の左馬寮の長官を務めるよう院のお言葉が有りました。そこでその公文書を持って来たのです。まず、鶴岡八幡宮の回廊に着きました。その後、大江広元さんの負担で旅館を決めて朝廷の使者を招きました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　きょう りょうしんたる　よっ　　　　ちょくししげつぐごしょ　　まい
建保六年(1218)三月大廿三日甲午。霽。今日良辰爲に依て、勅使重繼御所へ參る。

ひなみよろし　　　ざるの　かん　 ひごろ えっせし　 たま　　ず　　　とうりゅうの ほど　　ごけにんら　　　やく　　な　　　　　まいにちちょくしに　けいえい
日次宣から不之間、日來謁令め給は不、逗留之程、御家人等の役と爲し、毎日勅使于經營す。

うまのこく　しげつぐ　〔ほうえき　　ほう　　　き　　〕　にしろう　　さんにゅう　　　　うけいちょう　〔　ほい　〕　 これ　　もうしつぎされ　　　しばらく　　て　しょうぐんけ　〔ごのうし〕　　い　　　たま
午剋、重繼〔縫腋の袍�@�Aを着る〕西廊に參入す。右京兆〔布衣〕之を申次被る。小時し而將軍家〔御直衣〕出で御う。

くるまよせ　あいだ　おんみす　あ　　　　　　ごたいめん　あ　　　　しげつぐしっこう　　　 せんじじょう　〔　だいげきもろしげほう　　〕　　を しゃく　　うえ　　お　　けんぜし
車寄の間の御簾を上げる。御對面有り。重繼膝行し、宣旨状〔大外記師重奉ず〕於笏の上に置き獻令む。

これ　　う　　　　　 い　　 たま　　ののち　　しげつぐを　しんでん　 とうめん　まね　　　　はいしゅ　　たま　　　　　うまにひき　　 ひ　　　れる　　　〔いっぴき　　くら　　お　　〕
之を請け、入り御う之後、重繼於寢殿の東面に招き、盃酒を賜はる。馬二疋を引か被。〔一疋は鞍を置く〕

ささきのたろうさえもんのじょうたかしげ　　おのでらのさえもんのじょうひでみちら これ　 ひ　　　　　ていじょう　くだ　　た　　 これ　 たま　　　　　 いっぱい　 たいしゅつ
佐々木太郎左衛門尉高重、小野寺左衛門尉秀通等之を引き、庭上に下し立て之を給はる。一拝し退出す。」

きょう　　　ひたちのくにしづく　ごうないがんじょうじじゅうそうら　　さんそ　　ことあ　　　　　けんちうし　　 しんぎ　　 もっ　　 じりょう　にゅうかんすべ　　のよし　ちょうぎょう　　　うんぬん
今日、常陸國志筑�B郷内願成寺住僧等、參訴の事有り。檢注使、新儀を以て寺領に入勘可き之由、張行すと云々。

よっ　 ちょうじすべ　のおもむき　 うけいちょうこれ　　げち　　 たま　　　　うんぬん
仍て停止可き之趣、右京兆之を下知し給ふと云々。

参考�@縫腋の袍は、両脇の下を縫い合わせて裾に欄を付けた袍。文官及び四位以上の武官が着用した。Goo電子辞書から
参考�A袍は、衣冠・束帯などのときに着用する盤領(まるえり)の上衣。身分によって色や布地に定めのある位袍と、好みによる雑袍がある。また、縫腋(ほうえき)（文官用）と闕腋(けつてき)（武官・幼年者用）の別がある。うえのきぬ。Goo電子辞書から
参考�B志筑は、茨城県かすみがうら市中志筑に志筑小学校あり。

現代語建保六年(1218)三月大二十三日甲午。晴れました。今日は、お日和が良いので、天皇からの使者勅使の中原重継は、御所へ来ました。お日和の良くない間は、お会いするわけには行かないので、留まっている間、御家人達に役を割り振って毎日接待をさせていました。昼頃に、重継〔縫い合わせの袍を着ている〕は、西の渡り廊下に入りました。右京兆義時さん〔狩衣の平服布衣〕が取り次ぎました。少しして将軍実朝様〔公卿の平服直衣〕お出ましです。車寄せの部屋の御簾を上げまして、お合いになりました。重継は正座のまま前へ進み、公文書を〔大外記上位書記官藤原師重が書きました〕を笏の上に置いて差し出しました。これを受け取られて奥の間へお入りになり、重継を寝殿(居間)の東へお呼びになり、お酒を与えました。馬二頭を引き出物として引出させました〔一頭は鞍置きです〕。佐々木太郎左衛門尉高重と小野寺左衛門尉秀通がこれを引いてきて、庭に下りて受け取らせました。手綱を受け取り一礼して引き下がりました。

今日、常陸国志筑郷内の願成寺の住職などが訴えにきました。「田畑の年貢を決める検注使が、新規に寺の領地を調べに強行してきました。」と云ってます。それなら、止めるようにと右京兆義時さんが命じましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　みのこく　　しげつぐきらく　　　しょぐんけ　あんめさんびき　 さきんひゃくりょう　つか　 され
建保六年(1218)三月大廿四日乙未。�ﾘ。巳剋、重繼歸洛す。將軍家鞍馬三疋、砂金百兩を遣は被る。

みうらのうえもんのじょうたねよし　おんしたり
三浦右衛門尉胤義、御使爲。

ちょくししんぱつせし　 のとき　　　りぶ　なら　　　 たいふほうがんゆきむら　おやまのさえもんのじょうともまさ　おお　　うけたまは　これ　おく　　　　ため　　かたせうまや　いた
勅使進發令む之時、李部并びに大夫判官行村、小山左衛門尉朝政、仰せを 奉り之を送らん爲、固瀬驛に到る。

しげつぐぜんと　 すすまず　 しきり　もっ　 けいくつのあいだ　おのおの　かえ　まい
重繼前途に不進。頻に以て敬屈之間、 各　還り參る。

また　　りぶ　さんしゅうし　　にんむすべ　　こと　　おお　 くださるのところ　　かぶん　　しょう　　　　こじ　もうされ
又、李部讃州史を任被可の事、仰せ下被之處、過分と稱し、固辞申被る。

よっ　　こ　おもむき　 そう　　べ　　　のよし　　しげつぐ　 おお　　られ　　　うんぬん
仍て此の趣を奏す可し之由、重繼に仰せ被ると云々。

現代語建保六年(1218)三月大二十四日乙未。晴れです。午前十時頃に、勅使の重継は京都へ出発です。将軍実朝様は馬三頭と砂金百両を送りました。三浦九郎左衛門尉胤義が使いです。勅使の出発の際に、李部泰時さんや、山城判官二階堂行村・小山左衛門尉朝政は将軍実朝様の命令で、送るために片瀬の宿まで行きました。重継が止まってしまい恐縮してここまでで充分ですと云うので、それぞれ帰りました。

又、泰時さんが讃岐国司に任命されるように将軍は云ってましたが、分に過ぎる事だと辞退しました。そこで将軍実朝様は、このいきさつを後鳥羽上皇に報告するように重継に仰せになられましたとさ。

説明最後の記事は、実朝は自ら昇官を望み、泰時は辞退すると言う、泰時伝説のようである。

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