吾妻鏡入門第廿三巻

建保六年戊寅(1218)六月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 いぬのこく　 とうほう　　はくこうみ　　　　 ただ　　かたぐもきそ　　　しゅせいまれ
建保六年(1218)六月小八日戊申。�ﾘ。戌刻、東方に白虹見ゆ。但し片雲競う。衆星希なり。

やはん　　およ　　あめふ　　　　　そ　　　へんけ　　　　　うんぬん
夜半に及び雨降る。其の變銷すと云々。

現代語建保六年(1218)六月小八日戊申。晴れです。午後八時頃、東の空に白い虹が見えました。但し、綿雲が多いので、多くの星もまばらにしか見えません。夜半になって雨が降ってきたので、それらの天変も消えてしまいましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　うのこく　 せいほう　　ごしき　　　にじみ 　　　　うえ　　ひとえ　き　　 つい　 ごしゃくよ へだ　 あかいろ
建保六年(1218)六月小十一日辛亥。陰。卯剋、西方に五色の虹見ゆ。上の一重黄。次で五尺餘隔て赤色。

つい　 あお　　つい　べにうめなり　　そ　　 なかまた　 あかいろ はなは　ひろ　あつ
次で��。次で紅梅也。其の中又、赤色 甚だ廣く厚し兮。

そ　　 いろてんち　　は　　　　　しばらく　　　　け　　　　　すなは　あめふ
其の色天地に映へ、小時して銷す。則ち雨降る。

現代語建保六年(1218)六月小十一日辛亥。曇りです。午前六時頃、西の空に五色の虹が見えました。一番上の層が黄色で、ついで五尺(150cm)も離れて赤色です。次が��、次が梅干しの紅色、その中に赤色が一段と広くあります。それらの色が天地に映えていたのに、しばらくして消えて、すぐに雨が降ってきました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　しんくろうどときひろ　きょうと よ　　さんちゃく
建保六年(1218)六月小十四日甲寅。霽。新藏人時廣�@京都自り參着す。

さんぬ　つきじうしちにちくろうど　 ぶ　　　　 おな　　　にじうしちにちういざん
去る月十七日藏人に補す。同じき廿七日初參す。

しか　　　　しょうぐんけたいしょう　ごけいが　ごしんぱいの　とき　　まえがけ　つと　　　 ため　　にじうはちにちしゅっきょう
而して將軍家大將の御慶賀御神拝之時、前駈を勤める爲、 廿八日 出京す。

そ　　 えき　 したが　ののちまた　　かえ　 まい　　べ　　　のよしそうもん　　　　うんぬん
其の役に從う之後又、還り參る可き之由奏聞すと云々。

参考�@新蔵人時広は、大江広元の次男。後に出羽国置賜郡長井庄(山形県長井市)を治め長井氏の祖となった。

現代語建保六年(1218)六月小十四日甲寅。晴れました。新しく蔵人に任命された大江長井時広が京都から到着しました。先月の十七日に蔵人に任命され、二十七日に初めて出仕しました。それから、将軍実朝様の大将任命のお礼参りの先払いをするために、28日京都を出てきました。その役が終えたら帰りますと朝廷に申し出ているんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  はれ　 いよのしょうしょうさねまさ　　かざんいんじじゅうよしうじ　ら　　きょうと よ　　　げこう　　　　〔さんぬ　じうににちしんぱつ　　〕
建保六年(1218)六月小十七日丁巳。�ﾘ。伊与少將實雅、花山院侍從能氏�@等、京都自り下向す〔去る十二日進發す〕。

これ　 しょうぐんけ ごしんぱい　 こしょう　　ため　　うんぬん　　また　　なかあきらあそんさんこう
是、將軍家御神拝の扈從の爲と云々。又、仲章朝臣參向す。

参考�@花山院侍從能氏は、一条能保の子の能高の子。一条能保孫。5月9日条参考。

現代語建保六年(1218)六月小十七日丁巳。晴れです。伊予少将藤原実雅・花山院侍従能氏等、京都からやってきました〔先日の12日に出発です〕。それは、将軍実朝様の大将就任お礼参りにお供をするためです。又、源仲章も一緒に来ました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 くらのかみただつなあそん　　ちょくし　　な　　　げこう　　　〔さんぬ　いつかしんぱつ〕
建保六年(1218)六月小廿日庚申。霽。内藏頭忠綱朝臣、勅使と爲し下向す〔去る五日進發す〕。

さる　ななめ　　ちうじょううえもんのじょういえなが　　わかみやおおじ　　いえ　　つ
申の斜に 中條右衛門尉家長が 若宮大路の家へ着く。

ま　　　おくるまにりょう　いげ　ごはいがりょう　　ちょうど　 〔みなこれ　　かご　　おさ　　　　〕　　ら これ　　ひ　　　せし　　　　ひっぷすうじうにんある　　れっ
先ず御車二兩已下御拝賀料の調度〔皆之を籠に嚢める〕等之を舁か令む。疋夫數十人歩き列す。

つぎ　　くだん　あそん　きば　　　さむらいじうにん　ぐ　　　　　そう　　　　　ごき　　　 しじうよにん　か　　　また　 いちじょうちうじょうのぶよしあそん げちゃく
次に件の朝臣騎馬し、侍十人を具す。惣じて後騎に四十餘人歟。又、 一條中將信能朝臣 下着す。

現代語建保六年(1218)六月小二十日庚申。晴れました。内蔵頭藤原忠綱さんが、朝廷からの使者として来ました〔先日の五日に出発です〕。午後五時頃に中条右衛門尉家長の若宮大路の家へ着きました。まず牛車二台を始めとするお礼参り用の衣装などの道具類調度品〔皆籠に入れてあります〕を引いてこらせました。運送人足数十人が列をなして歩いてきました。その後ろをその忠綱さんが馬に乗って、侍十人をお供にしていました。後ろの騎馬武者が四十数人らしいです。又、一条中将信能さんも来ました。

説明一条家は、実朝の従妹に当たる。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 うまのこく 　ただつなあそん　 くだん　 ごちょうどら　を　 ごしょ　　 はこ　　せし
建保六年(1218)六月小廿一日辛酉。�ﾘ。午剋。忠綱朝臣、件の御調度等於御所へ運ば令む。

おくるまにりょう　〔びんろう　　はじとみ〕　　きゅうしゃくたん 　ゆみ　 ごしょうぞく　　ごずいしん　 しょうぞく　うつしぐら などなり　　これみな　 せんとうよ　　 ととの　 くだされ　　　うんぬん
御車二兩〔檳榔�@の半蔀�A〕。九錫�B彤の弓。御裝束。御随身の裝束。移鞍�C等也。 是皆、仙洞自り調へ下被ると云々。

なかあきらあそんぶぎょう　な　　これ　  うけと　　　　　 しばらく　 て 　　しょうぐんけ　 ただつなあそんを れんちう　 め　　　　　ごたいめんあ
仲章朝臣奉行と爲し之を請取る。小時し而、將軍家、忠綱朝臣於簾中に召し、御對面有り。

いんぎん　ちょうおん　こと　　が　　　もうされ　　　うんぬん　　すうときののちたいしゅつ
慇懃の朝恩、殊に賀し申被ると云々。數刻之後退出す。

ばん　　およ　　　　いけのさきのひょうえのすけためもりあそん　うまごんのかみよりもちあそんら　またげちゃく
晩に及び、　池前兵衛佐爲盛朝臣、　 右馬權頭頼茂朝臣等又下着す。

およ　　かく　　ごはいが　　　こと　　よっ　　　　さんこう　　ひとすで　 もっ　 すうやから　みなごけにんら　　　おお　　　　　まいにちけいえい　　　おくりもの かび　　つく
凡そ此の御拝賀の事に依て、參向の人已に以て數輩、皆御家人等に仰せて、毎日經營し、贈物花美を盡す。

これ　しかしなが　しょみんのついえ　あらざ　　 な
是、 併ら 庶民之費に非るは莫し。

参考�@檳榔は、ヤシ科の葉を白くさらし、細かく裂いたもので屋根を覆ったもの。四位以上が乗れる。
参考�A半蔀は、物見窓を上半分が上へ吊り上げ、下半分がはめ込みの蔀戸。
参考�B九錫とは、中国漢王朝で皇帝より下賜された最高の恩賞。
参考�C移鞍は、近藤好和さんの著書の馬具の部に「前略。十世紀以降の皆具の鞍具に唐鞍(からくら)･移鞍(うつしぐら)･大和鞍(やまとぐら)･水干鞍(すいかんぐら)などの種類がある。中略。源平時代の軍陣で使用されていたのは大和鞍である。」とある。

現代語建保六年(1218)六月小二十一日戊申。晴れです。昼頃に藤原忠綱さんが、例の調度品を御所へ運ばせました。牛車が二両〔びんろう樹の皮の屋根、半蔀の牛車〕。朝廷から下賜された丹塗りの弓。大将の制服。朝廷から派遣されるべき護衛兵の制服。移鞍などです。これらは皆後鳥羽上皇が調えさせて送らせた物だそうな。源仲章さんが担当としてこれを受け取りました。少しして、将軍実朝様は、藤原忠綱さんを御簾の中へお呼びになりお会いになられました。丁寧な朝廷からの贈り物にお礼を申し上げましたとさ。暫くして引き下がりました。夜になって、池前兵衛佐平為盛さん、右馬権頭頼茂さんも又、到着しました。今回の大将就任のお礼参りについて、立ち会いの人々がすでに数人も来ています。皆、御家人に命じて毎日接待をし、贈答品も贅を凝らしました。これらは全て庶民の負担でないものはありませんでした。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれくも　　　 しょうぐんけ　 たいしょう　にん　　たま　のあいだ　　 ごはいが　　ため　つるがおかぐう　まい　 たま
建保六年(1218)六月小廿七日丁卯。�ﾘ陰り。將軍家、大將に任じ御う之間、御拝賀の爲、鶴岳宮へ參り給ふ。

そうたん　　ゆきむらのたてまつ　な　　　　　ごはいが　あ　　　べ　　　 のよしを　 げこう　　うんきゃくら　　ふ　　　もう　　　　さる　　ななめ　 そ　　ぎ　あ
早旦、行村之奉りと爲し、御拝賀有る可し之由於下向の雲客等に觸れ申す。申の斜に其の儀有り。

ま　　　なんめん　 い　　　たま
先ず南面に出で御う。

もんじょうはくじなかあきらあそん　〔そくたい〕　おんみす　　あ　　　　おんみょうしょうじょうちかもと　〔そくたい〕　くるまよせ　まい　　 あいだ　へんばい　そうら
 文章博士仲章朝臣〔束帶〕御簾を上げ、　陰陽少允親職 〔束帶〕車寄に參るの間、反閉に候う。

おんみょうごんのすけただなお　〔そくたい〕　ろう　　ね　　　つまど　　はい　　　 おんはら　　　 つと　　　いよのしょうしょうさねまさ おくるま　　よ
　陰陽權助忠尚　〔束帶〕廊の根の妻戸に入り、御秡へを勤む。伊与少將實雅 御車を寄せる。

みなみもん　い　　 たま　　　　にし　　い
南門を出で御い、西へ行く。

ぎょうれつ
行列

　　　　いかい　よにん　　〔にぎょう〕
　　居飼四人〔二行〕

　　　　みんまやのとねりよにん　〔にぎょう〕
　　御厩舎人四人〔二行〕

　　　　いちいん 〔いちぎょう〕
　　一員〔一行〕

　　ふしょうこまのもりみつ　　　　　　　　しょうそうかんのかげもり
　府生狛盛光　　　　　將曹菅野景盛

　　しょうげんなかはらなりよし
　將監中原成能

　　　　てんじょうびと 〔いちぎょう〕
　　殿上人〔一行〕

　　しんくろうどときひろ　　　　　　　　　いちじょうたいふよりうじ
　新藏人時廣　　　　　一條大夫頼氏

　　かざんいんじじゅうよしうじ　　　　　　いちじょうしょうしょうよしつぐ
　花山院侍從能氏　　　一條少將能継

　　いよのしょうしょうさねまさ　　　　　　　さきのいなばのかみもろのり
　伊豫少將實雅　　　　前因幡守師憲

　　うまごんのかみよりもちあそん　　　　　さきのひょうえのすけためもりあそん
　右馬權頭頼茂朝臣　　前左兵衛佐爲盛朝臣

　　もんじょうはくじなかあきらそん　　　　いちじょうちうじょうのぶよしあそん
　文章博士仲章朝臣　　一條中將信能朝臣

　　　　さきがけ　　かさ　　も　　　　〔じうろくにん〕
　　前駈、笠を持つ〔十六人〕

　　　　さきがけ　〔にぎょう〕
　　前駈〔二行〕

　　うこんのくろうどなかよし　　　　　　　 さこんのくろうどちかざね
　右近藏人仲能　　　　左近藏人親實

　　さこんたいふともちか　　　　　　　　　さこんたいふすえみつ
　左近大夫朝親　　　　左近大夫季光

　　するがのかみすえとき　　　　　　　　 さがみごんのかみつねさだ
　駿河守季時　　　　　相摸權守經定

　　くろうどのたいふくにただ　　　　　　　さきのむさしのかみよしうじ
　藏人大夫國忠　　　　前武藏守義氏

　　うまのすけのりとし　　　　　　　　　　　さがみのかみときふさ
　右馬助範俊　　　　　相摸守時房

　　くろうどのたいふありとし　　　　　　　 うまのすけみねやす
　藏人大夫有俊　　　　右馬助宗保

　　さきのちくごのかみよりとき　　　　　　 みんぶごんのしょうゆうちかひろ
　前筑後守頼時　　　　民部權少輔親廣

　　うきょうごんのたいふよしときあそん　　さきのするがのかみこれよしあそん
　右京權大夫義時朝臣　前駿河守惟義朝臣

　　ばんちょう しもつけぬあつひで　〔ろうとうふたりまえ　　あ　　〕
　番長　下毛野敦秀〔郎等二人前に在り〕

おくるま　〔びんろう　　くるまぞえふたり　　　うしわらわひとり　　　しじ　　　も　　　〕
御車〔檳榔　車副二人　牛童�@一人　榻を持つ〕参考�@牛童は、牛を世話したり牽引したりすることを職とする身分。子供とは限らず、稚児髪(垂髪)。

　　　　げろう　　　ずいしん　〔おのおの　あいなら〕
　　下臈の随身〔　各　相並ぶ〕

　　はたよりずみ　　　　　　　　　　　　　　はたきよたね
　秦頼澄　　　　　　　秦�C種

　　しもつけぬあついえ　　　　　　　　　　はりまさだなお
　下毛野敦家　　　　　播磨貞直

　　しもつけぬあつつぐ
　下毛野敦繼

　　　　ぞうしきにじうにん
　　雜色二十人

　　　　おんかさ
　　御笠

　　　　あまがかわばりむしろもち〔おのおの　ひとり〕
　　雨皮張筵持〔 各 一人〕

　　　　ずいへい〔にぎょう　　　さゆうとも　ねんろう　しだい〕
　　随兵〔二行　左右共年臈次第〕

　　おおすがのたろうみちのぶ　　　　　 ながえのしろうあきよし
　大須賀太郎道信　　　長江四郎明義

　　いずのさえもんのじょうよりさだ　　　　みうらのさえもんのじょうよしむら
　伊豆左衛門尉頼定　　三浦左衛門尉義村

　　しきぶのたいふやすとき　　　　　　　ちくごのさえもんのじょうともしげ
　式部大夫泰時　　　　筑後左衛門尉朝重

　　あいだのじょうすけかげもり　　　　　　ときのさえもんのじょうみつゆき
　秋田城介景盛　　　　土岐左衛門尉光行

　　　　　　けびいし
　　檢非違使

　　えのほうがんよしのり　〔ほい　　かんむり　　かわを　　　ほそじりさやのたち　　　ろうとうさんにん　　　ぞうしきよにん　　　　ちょうどがけひとり　　　　ほうめんよにん　〕
　江判官能範〔布衣　冠　革緒　細尻鞘太刀　郎等三人　雜色四人　調度懸一人　放免�A四人〕

参考�A放免は、検非違使庁に使われていた下部(しもべ)。刑期を終えた囚人や徒刑・流刑を許された者で、犯罪人の探索・護送などに当たった。

　　　　ごちょうどがけ
　　御調度懸

　　ささきのいやたろうさえもんのじょうたかしげ
　佐々木弥太郎左衛門尉高重

　　　　　 えふ　〔 にぎょう　　　さゆうとも　　ねんろう　しだい　〕
　　衛府〔二行　左右共年臈次第〕

　　おおいずみのさえもんのじょううじひら　せきのさえもんのじょうまさつな
　大泉左衛門尉氏平　　　關左衛門尉政綱

　　おのでらのさえもんのじょうひでみち　　しまづのさえもんのじょうただひさ
　小野寺左衛門尉秀道　　嶋津左衛門尉忠久

　　へいくろううえもんのじょうたねよし　　　　あだちのさえもんのじょうもとはる
　平九郎右衛門尉胤義　　足立左衛門尉元春

　　あまののさえもんのじょうまさかげ　　　　 いがのさえもんのじょうみつすえ
　天野左衛門尉政景　　　伊賀左衛門尉光季

　　ごとうのさえもんのじょうもとつな　　　　　　かとうさえもんのじょうかげなが
　後藤左衛門尉基綱　　　加藤左衛門尉景長

　　いとうのさえもんのじょうすけとき　　　　　むとうさえもんのじょうよりしげ
　伊東左衛門尉祐時　　　武藤左衛門尉頼茂

　　ちうじょううえもんのじょういえなが　　　　 さぬきのうえもんのじょうひろつな
　中條右衛門尉家長　　　佐貫右衛門尉廣綱

　　えのうえもんのじょうのりちか　　　　　　　おおいのきうえもんのじょうさねひら
　江右衛門尉範親　　　　大井紀右衛門尉實平

　　えんやのひょうえのじょうともなり　　　　　わかさのひょうえのじょうただすえ
　塩谷兵衛尉朝業　　　　若狹兵衛尉忠季

　　とうのひょうえのじょうしげたね　〔さいまつ　　ひとり　ぐぶ　〕
　東兵衛尉重胤　　〔最末に一人供奉〕

つぎ　　ぐうじ　　　はし　みぎり　いた　　　 おんが　　 と　　　　なかあきらあそん おんみす　 あ　　　　 まい　　すす
次に宮寺の橋の砌に到り、御駕を税す。仲章朝臣 御簾を上げに參り進む。

よりしげあそん 　 おんしじ　けん　　　　いちじょうしょうしょうよしつぐ　おんくつ　　えき　　　　いよのしょうしょうさねまさ　おんすそ　と
頼茂朝臣、御榻を献ず。 一條少將能継、 御沓を役す。伊与少將實雅、御裾を取る。

たいふほうがんゆきむら　〔そくたい〕　　　ささきのほうがんひろつな　〔ほい　かんむり　〕　  ら　ろうもん　　とうざい　 わきに そうら　　〔あいたい　　しょうぎ　　　ざ　　　〕
大夫判官行村〔束帶〕、佐々木判官廣綱〔布衣に冠〕等樓門の東西の脇于候う〔相對し床子に坐す〕。

りょうにんのずいへい おのおの じうにん かたわら　ぐんきょ　　　ぜんじょうさんぽん なら　　　みだいどころ　おくるまを はし　　にし　　た　　　　　けんぶつせし　　たま
兩人之 随兵　各　十人　傍に 群居す。禪定三品 并びに御臺所、御車於橋の西に立て、見物令め御う。

しなののかみゆきみつ　さえもんのじょうたいふみつかず　　あきのごんのかみのりたか なら　　　　えふ　じうにん　〔おのおの　 ほい　　　　げぐく　　　〕　　ながえ　さゆう　　そうら
 信濃守行光、　左衛門大夫光員、　 安藝權守範高　并びに衛府十人〔 各 布衣に下括り〕轅の左右に候う。

　こ　　ほか　　ごけにん　　　みや　　なかおよ　　　ろじ　　けいご　　　　うけいちょう　　しつけ　いげ 　　 にょぼうら　さじきを　　ばばへん　　かま
此の外の御家人、宮の中及び路次を警固す。右京兆が室家已下の女房等棧敷於馬塲邊に搆へる。

およ　　けんぶつのやから　と　　ごと　　　じょうげくう　ごほうへいれい　 ごと　　　 へいしょくのきわかえ　 たま
凡そ見物之 輩 堵の如し。上下宮御奉幣例の如し。秉燭之際還り御う。

現代語建保六年(1218)六月小二十七日丁卯。晴れたり曇ったりです。将軍実朝様は、大将に任命されたお礼参りに、鶴岡八幡宮へお参りです。早朝に二階堂行村が承った事にして、鶴岡八幡宮へのお礼参りがあると、京都から来ている殿上人に云ってまわりました。午後五時頃にその儀式がありました。まず、御所の南面公邸へお出になられました。文章博士源仲章さん〔衣冠束帯〕が御簾を上げました。陰陽少允安陪親職〔束帯〕が、車寄せの部屋で踊り歩くお祓いの反閇をしました。陰陽権助安陪忠尚〔束帯〕が廊下の端の妻の戸でお祓いをしました。伊予少将藤原実雅が牛車をくっつけました。牛車は南門を出て、西へ行きました。

行列は、牛の世話役四人〔二行〕。厩務員四人〔二行〕。朝廷の役人〔一行〕府生狛盛光・将曹菅野景盛・将監中原成能
朝廷へ上がれる身分の殿上人〔一行〕新蔵人大江長井時広・一条大夫頼氏・花山院侍従能氏・一条少将能継・伊予少将実雅・前因幡守源師憲・右馬権頭頼茂朝臣・前左兵衛佐為盛朝臣・文章博士仲章朝臣・一条中将信能朝臣
前を行く乗馬、笠を持つ〔十六人〕
前を行く乗馬〔二行〕右近蔵人伊賀仲能と左近蔵人三条親実。左近大夫美作朝親と左近大夫毛利季光。駿河守中原季時と相模権守経定。蔵人大夫国忠と前武蔵守足利義氏。右馬助範俊と相模守時房。蔵人大夫有俊と右馬助宗保。前筑後守頼時と民部権少輔源親広。右京権大夫義時さんと前駿河守大内惟義さん。
朝廷の警備兵番長　下毛野敦秀〔家来二人が前に居る〕

将軍実朝様の牛車〔びんろう毛　御者二人　牛飼い下部一人踏み台を持つ〕

身分の低い朝廷からの警備兵〔それぞれたがいに並ぶ〕秦頼澄、秦清種、下野野敦家、播磨貞直、下野野敦継　雑用二十人
将軍の笠持ち　雨用の皮張り筵持ち〔それぞれ一名〕

武装した儀仗兵〔二行　左右は年齢順〕
　大須賀太郎道信と長江四郎明義。伊豆左衛門尉頼定と三浦左衛門尉義村。式部大夫泰時と筑後左衛門尉朝重。秋田城介景盛と土岐左衛門尉光行
　検非違使　大江判官能範〔普段着・冠・皮紐威し・尻が細い鞘の刀。家来三人・雑用四人。弓矢持ち一人。探索方の放免四人〕

将軍実朝様の弓矢を持つ人　佐々木弥太郎左衛門尉高重
朝廷の近衛兵〔二行　左右は年齢順〕
大泉左衛門尉氏平と関左衛門尉政綱。小野寺左衛門尉秀道と島津左衛門尉忠久。平九郎右衛門尉胤義と足立左衛門尉元春。天野左衛門尉政景と伊賀左衛門尉光季。後藤左衛門尉基綱と加藤左衛門尉景長。伊東左衛門尉祐時と武藤左衛門尉頼茂。中条右衛門尉家長と佐貫右衛門尉広綱。大江右衛門尉範親と大井紀右衛門尉実平。塩谷兵衛尉朝業と若狹兵衛尉忠季。東兵衛尉重胤〔一番後ろに一人で〕

ついで、鶴岡八幡宮の橋の前で牛車から牛を解放しました。源仲章さんが牛車の御簾を上げに出て、頼茂さんが踏み台を差し出しました。一条少将能継が沓を差出し、伊予少将藤原実雅が束帯の裾を持ちました。山城大夫判官二階堂行村〔束帯〕、佐々木判官広綱〔狩衣に冠〕等が、楼門の東西に控えております〔向かい合って床几に腰かけている〕。その二人に従っている護衛兵がそれぞれ十人づつそばに群れております。三位尼政子様と奥さんの坊門姫は、牛車を赤橋の西に駐車して見物しております。二階堂信濃守行光・左衛門大夫加藤太光員・安芸権守範高と朝廷から来た警備兵〔それぞれ狩衣に下括り〕が牛車の長柄の左右におります。

この他の御家人は、鶴岡八幡宮の中や路地を警備しています。右京兆義時さんの奥さんを始めとする女官達は仮設見物席の桟敷を流鏑馬馬場のあたりに設置しております。それに見物の連中は垣根の様に集まっております。上の宮と下の宮に幣を納めるのは何時もの通りです。灯り時になってお帰りになりました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 いぬのこく　りゅせいいぬいよ　たつみ　わた　　　　おお　　　まんげつ　 ごと
建保六年(1218)六月小廿八日戊戌。戌刻。流星 乾 自り巽へ亘る。大きな滿月の如し。

現代語建保六年(1218)六月小二十八日戊戌。午後八時頃、流星が北西から南東へ飛びました。大きな満月のようでした。

七月へ

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