吾妻鏡入門第廿六巻

貞應二年癸未(1223)正月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 おうばんれい　 ごと 　　〔　おうしゅう　　ごさた　　〕　　　ぎょけん　するがのぜんじよしむらこれ　　じさん
貞應二年(1223)正月大一日甲辰。天�ﾘ。垸飯例の如し〔奥州が御沙汰〕。御劍は駿河前司義村之を持參す。

現代語貞應二年(1223)正月大一日甲辰。空は晴れています。将軍への御馳走のふるまいは何時もの通りです〔奥州義時さんの負担〕。刀の献上は駿河前司三浦義村が持ってきました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おうばん　　ぎょけん　 むつしゅりのすけ 　〔しげとき〕　これ　　えき　　　　そ　　　ご わかぎみ　おんかた　 をい　　　　てまり　　おんえ　あ
貞應二年(1223)正月大二日乙巳。垸飯。御劍は陸奥修理亮〔重時〕之を役す。其の後若君の御方に於て、手鞠の御會有り。

おうしゅう　するがのかみ　ごとうさえもんのじょう　　おきのにゅうどう　　かりたうえもんのじょうら　そ　　しゅう　 な　　　　じゃくねんのやから　め　　くは　　られず　　うんぬん
奥州、駿河守、後藤左衛門尉、隱岐入道、苅田右衛門尉等其の衆を爲す。若年之輩は召し加へ被不と云々。

現代語貞應二年(1223)正月大二日乙巳。将軍への御馳走のふるまい。刀の献上は陸奥修理亮北条重時がしました。その後、若君の居所で手毬遊びの会をしました。奥州義時さん・駿河守三浦義村・後藤左衛門尉基綱・隠岐入道二階堂行村・苅田右衛門尉義季などが参加しました。若い者は混ぜませんでしたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おうばんの　のち　　おんゆみはじめあ
貞應二年(1223)正月大五日戊申。垸飯之後、  御弓始 有り。

　いて
射手

　　いちばん
　一番

　　　　するがのじろう　　　　　　　　　　いがにしろうさえもんのじょう
　　駿河次郎　　　　　伊賀四郎左衛門尉

　　　にばん
　二番

　　　　しもこうべのさえもんじろう　　　　ささきかぢのはちろう
　　下河邊左衛門次郎�@ 佐々木加地八郎

　　さんばん
　三番

　　　　しまづのさぶろうひょうえのじょう　よこみぞのろくろう
　　嶋津三郎兵衛尉　　横溝六郎

　　よんばん
　四番

　　　　よこみじのごろう　　　　　　　　　　ほんまのしろう
　　横溝五郎　　　　　本間四郎

　　　ごばん
　五番

　　　　たけだのろくろう　　　　　　　　　　はらのさえもんのじょう
　　武田六郎　　　　　原左衛門尉

参考�@下河辺左衛門次郎は、宗光で庄司行平の息子。

現代語貞應二年(1223)正月大五日戊申。御馳走のふるまいの後、年明け最初の弓矢初めの式典をしました。
射手は
　一番
　　駿河次郎泰村　　　　　伊賀四郎左衛門尉朝行
　二番
　　下河邊左衛門四郎宗光　佐々木加治八郎信朝
　三番
　　島津三郎兵衛尉忠義　　横溝六郎義行
　四番
　　横溝五郎資重　　　　　本間四郎光忠
　五番
　　武田六郎信長　　　　　原左衛門尉忠康。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　わかぎみ　おいのり　はじ　 なり　　なぬか　 うちたるべ　　　　　いなや
貞應二年(1223)正月大六日己酉。若君�@御祈の始め也。七日の内爲可きや否哉。

すおうのかみちかざねぶぎょう　　な　　　にほん　　もう　　あわ　　られ　　　　　 なにごと　　あ　　　　　や の よし　　おお　 られ　　　うんぬん
 周防守親實 奉行と爲し二品�Aに申し合せ被ると、何事が有らん哉之由、仰せ被ると云々。

参考�@若君は、三寅。後の頼経。
参考�A二品は、従二位北条政子。

現代語貞應二年(1223)正月大六日己酉。若君三寅の年明け最初のお祈りの会です。七日までの間にやるべきかどうか、周防守中原親実が担当して二位家政子様に問い合わせたところ、別にこだわる必要はないとの仰せでした。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いぬのこく　にしよ　　 らいめい　 いっとき　 へ　　　きゅうし
貞應二年(1223)正月大十八日辛酉。戌刻。西自り雷鳴。一時を經て休止す。

現代語貞應二年(1223)正月大十八日辛酉。午後八時頃、西から雷が一時なって止みました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とりのこくらいめい　きょう　みなもとのしんじさねちか　ぶぎょう　　な　　　　おうしゅうひとびと　おお　　あ　　　され　　のことあ
貞應二年(1223)正月大廿日癸亥。酉刻雷鳴。今日　源進士�@實親　 奉行と爲し、奥州人々に仰せ合は被る之事有り。

これ　 わかぎみ　おんてい　せいほう　 ちすこぶ　せま　　　　にしおおじを にわ　 いれられ　 ついぢ　　かま　　べ　　　　 うんぬん
是、若君の御亭の西方の地頗る狹し。西大路於庭へ入被、築地を搆う可きと云々。

おきのにゅうどう　するがのぜんじ　 ごと　　　　　　 しか　　べ　　　 のよしこれ　 もう　　　　　こ　　　うえなお　　か　　おおくらやかた　　おんみょうじら　　まね　　　　しさい　　とはれる
隱岐入道、駿河前司の如きは、然る可し之由之を申す。此の上猶、彼の大倉舘に、陰陽師等を招き、子細を問被。

ある　　　　ふかい のむねこれ　 もう　　　　ある　　　　とうじ　ひろ　　られ　　ば　　いささ　たた　　あ　　　べ
或ひは不快之旨之を申す。或ひは當時廣げ被れ者、聊か崇り有る可し。

ことし　　いご　　　　　おんさた　あ　　　べ　　　のよし　　うんぬん　おのおの　もう　ところすこぶ　いちどうせざ　なり
今年以後に、御沙汰有る可き之由と云々。各、 申す所頗る一同不る也。

参考�@進士は、律令制で官吏登用試験合格者、合格者の文章生。

現代語貞應二年(1223)正月大二十日癸亥。午後六時頃雷です。今日、源進士実親が担当して、奥州義時さんから皆に相談があります。それは、若君三寅の屋敷の西側の土地が狭いので、西大路を庭へ取り込んで、築地塀を立てようではないかとの事です。隠岐入道二階堂行村・駿河前司三浦義村達は、それが良いと云いました。それでは、そこの大倉館に陰陽師を呼んで、占いを尋ねました。或る者は縁起が良くないと云い、或る者は今広げるのは、多少災いがあるでしょうとか、今年が過ぎてからお決めになられた方が良いともあります。それぞれ云ってることがまるで一致しません。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　にほん みんしょ　　　うき　　 し　　　　　ため　　きょねん　　かっせん　いご　　しんぽ　　 しゅごぢとう　ら　　　しょむ のあいだ
貞應二年(1223)正月大廿三日丙寅。二品民庶の憂喜を知らん爲、去年の合戰以後、新補の守護地頭等の所務�@之間、

　ひい　あいまじ　　　 ば　　 ちう　　もう　　べ　　　のむね　　きない　　 さいごく　 ざいちょうら　　なか　 おお　　られ　　　おうしゅうおんしょ　 くだされ　　　　うんぬん
非違相交らは者、注し申す可き之旨、畿内、西國の在廳等の中へ仰せ被る。奥州御書を下被ると云々。

参考�@所務は、領地関係。金銭相続関係は、雑務。

現代語貞應二年(1223)正月大二十三日丙寅。二位家政子様は、農民の待遇が分からないので、去年の合戦以後に新たに任命された守護地頭の領地関係について、前例に違える者が居たら書き出してくるように、関西方面と九州の国衙の役人に命じました。奥州義時さんが公文書を発行しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ゆきふ　　　　おうしゅう　こま じっぴきを わかぎみ　 すす　 られ　　　ごらんの のち　　ひとびと　　わ　　　　　たま
貞應二年(1223)正月大廿四日丁夘。雪降る。奥州、駒十疋於若君に進め被る。御覽之後、人々に分かち給ふ。

するがのぜんじぶぎょう　　な　　　　うんぬん
駿河前司奉行を爲すと云々。

現代語貞應二年(1223)正月大二十四日丁卯。雪が降りました。奥州義時さんは、若い馬十頭を若君に献上しました。若君がご覧になった後、若君からの下賜として人々に分け与えました。駿河前司三浦義村が、担当しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　にしおおじを わかぎみ　 おんかた　つぼ　　いれられ　 べ　　　　いなや　　こと　　かさ　　　　そ　　　さた　あ
貞應二年(1223)正月大廿五日戊辰。西大路於若君の御方の壷�@に入被る可きや否哉の事、重ねて其の沙汰有り。

おんみょうじら　め　　　　　おう　おうしゅう　ちうもんろうに　さんかい　　　 さねちか　もっ　　たず　 られ　　い
陰陽師等召しに應じ奥州の中門廊于參會す。實親を以て尋ね被て云はく。

さんぬ　はつか　　おんうら　いちじゅんせざ　のじょう　　 ふしんな　　　　 あらず
去る廿日の御占、一準 不る之條、不審無きに非。

おのおの　ぐんぎ　　こ　　　　　もうせし　　べ　　　てへ　　　　　　ともすけ　　ただなりもう　　　　い
 各、 群議を凝らし申令む可し者れば、知輔、忠業申して云はく。

さくじつひつじのとき　しょうきち　しょうこうちん　　もち　　　しょうこうちんは　　しへき　　ぬしのかみ　　じょうてんいち　さいきちさいきち
昨日 未時、 小吉。將勾陳�Aを用う。〃〃〃者、四壁の主之神。上天一。最吉〃〃と。

はるかたもう　　　　い
�ﾘ賢申して云はく。

せんぽう　はつよう　 もっ　 りき　むね　　　　　　はつよう　むけ　　おこ　　　　しんこうじん　　たい
占法は發用を以て力を宗とす。發用無氣を起す。神向陣を帶す。

こうじんは　　しょうぐんもっと　はばか　せし　　たま　　べ　　のふみ　　これあ　　　　　ことし　　　す　　　　ののち　　そ　　　さた　あ　　　べ　　　てへ
〃〃者、將軍尤も憚ら令め給ふ可し之文、之有り。今年を過ぎる之後、其の沙汰有る可し者れば、

ともすけ　　ただなり　　やすさだ　のぶかたと　　はるかた　 ちかもとそうろん　 およ　　　 つい　 これ　 けっせず
知輔、忠業、泰貞、宣賢与、�ﾘ賢、親職相論に及ぶ。遂に之を决不。

また　　くだん　せいほう おうしゅうとうじ　　やかたは　　じょうきゅうにねんじうにがつ ぶしゅう　ゆず　わたされをはんぬ
又、件の西方 奥州 當時の舘者、承久二年十二月 武州に讓り渡被 畢。

ぶしゅうは ざいきょうなり　　よっ　　きょうよ　たいしょうぐんかた　あいあた
武州者 在京也。仍て京自り大將軍方に相當る。

ほんじゅ　　あいふ　ざる　 いへど　　　 きしゅく　 かたびと　 いみたれば　　 か　 はから　　　な　　ぼんど　ぞうさく　　はばか　べ　　　　いな　　　　ぼくぜいあ
本主に相觸れ不と雖も、寄宿の方人の忌爲者、彼の計ひと爲し犯土造作は憚る可きや否や、卜筮有り。

おな　　　もっ　　ふかい　　うんぬん
同じく以て不快と云々。

かれ　　これ　　　 きょうと 　　たず　 られ　 べ　　　のよし　　うんぬん
彼も是も、京都へ尋ね被る可き之由と云々。

つぎ　　さんぬ　ころ　らいめいなら　　 にじうににち　つきしんかせい　 おか　 へん　〔 ゆきいま　　　きえ　　　　　　　よっ　　　　〕　　ら　　　こと
次に去る比の雷鳴并びに廿二日、月心火星を犯す變〔雪未だ消ざるに依て〕等の事、

いがのろくろううえもんのじょうみつしげ ぶぎょう　　な　　　　　そ　　　さた　あ　　　うんぬん
伊賀六郎右衛門尉光重 奉行と爲し、其の沙汰有りと云々。

参考�@壷は、坪庭のように三方又は四方を建物で囲まれた空間を言う。
参考�A勾陳は、四聖獣の中心に位置し、柱として存在している黄色の龍又は蛇。

現代語貞應二年(1223)正月大二十五日戊辰。西大路を若君の館の坪庭に入れるかどうかについて、なおもその指示がありました。陰陽師たちは呼ばれたので、義時さんの屋敷の中門の廊下に集まりました。
源実親を通じて質問されました。「先日の二十日の占いがばらばらだったのはとてもおかしいと思っている。それぞれ話し合うように。」と云われて、
安陪知輔と安陪忠業は申しました。「昨日の午後二時頃に小吉。将軍匂陳が出ました。将軍匂陳は、四天王の中心の神様です。天上界一です。最も良い吉です。」
安陪晴賢が云いました。「占いなんてもんは、ぱっと出た時が一番なんだ。ぱっと出れば余分な気をなくすものだ。神様は向陣である。向陣は、将軍が慎まなければならないと書かれているのはこのとおりです。今年を過ぎてから処理すべきでしょう。」と云えば、
知輔・忠業・泰貞・宣賢と晴賢・親職とが言い争いになり、ついに決着がつきませんでした。
又、その西方の奥州義時さんの館は、現在は承久二年十二月に泰時さんに譲り渡してしまっております。泰時さんは京都に駐在しています。それなので京都からは大將軍の方向に当たります。本来の持ち主に告げなくても、住み込んでいる人たちに関係なければ、本来の主の行為としての土起しや工事は、まずいのかどうか占いをしました。やっぱり良くないとの結果でした。
それもこれも、京都朝廷の陰陽寮に聞いた方が良いのかなあ、との事なんだとさ。次に先日の雷と22日の月が火星の軌道を犯したこと等〔雷の時の雪がまだ消えないので〕について、伊賀六郎左衛門尉光重が担当としてその処置をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひたのまたたろう　　　おうしゅう　　おんし　　な　　じょうらく
貞應二年(1223)正月大廿六日己巳。肥田又太郎、奥州の御使と爲し上洛す。

ぼんど　ぞうさくら　　こと　　おんみょうどう いっちさざ　　のあいだ　　かみ　ら　に　たず　 けっされ　ためなり
犯土造作等の事、陰陽道 一揆不る之間、長官等于尋ね决被ん爲也。

現代語貞應二年(1223)正月大二十六日己巳。肥田又太郎が奥州義時さんの使いとして京都へ上りました。土堀や作事についての陰陽師の占いが決まらないので、京都朝廷の陰陽寮の長官に尋ねて決めるためです。

二月へ

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