吾妻鏡入門第廿六巻

貞應二年癸未(1223)六月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いずのくに そうとうさん　じょうぎょうどうぞうえい　 こと　　はしら　をい　　は すで　　た　をはんぬ
貞應二年(1223)六月大十二日癸未。伊豆國走湯山の常行堂造營の事、柱に於て者已に立て訖。

きた　　じうくにちじょうとうすべ　　のよし　　　じけ　　　ぎょうじどころよ　ごんじょう
來る十九日上棟可き之由、寺家の行事所自り言上す。

にほん　　おんてい　 をい　　　むさしもくだいじろうひょうえのじょうまさただ ぶぎょう　　な　　　　 そ　　　　さた　あ
二品の御亭に於て、武藏目代二郎兵衛尉雅忠 奉行と爲し、其の沙汰有り。

しか　　　おんみょうどう　　とはれ　 のところ　　じょうとう　 こと　　　　どよう　　 うちは　そ　　はばか　あ　　　べ　　　のよし　　ちかもとこれ　　もう
而るに陰陽道に問被る之處、上棟の事は、土用の中者其の憚り有る可し之由、親職之を申す。

しちがつじういちにちみずのえね　じういちがつふつかかのえね　　よろ　　　　　　べ　　　のよし　　はるかたこれ　　もう
　七月十一日壬子。　十一月二日庚子。　宜しかる可き之由、�ﾘ賢之を申す。

しか　　　　じういちにちみずのえねは　はっせんなり　　どうしゃ　 た　　　　　のせんれい　 これあ　　　や のよし　　ぎょうさいもうせし　　よっ　　　　はるかた　　たず　　くだされ
而るに　十一日壬子者　八專也。堂舎を立てる之先例、之有る哉之由、行西申令むに依て、�ﾘ賢に尋ね下被る。

またもう　　　　い
又申して云はく。

いぜん　すで　　りっちゅう　をはんぬ　そ　　　うえ　　はっせんび　　ある　　　　ぶっかく　　た　　　　　ある　　　　くよう　　　と　　　　　そ　　 れいはんたなり
以前已に立柱し 畢。　其の上の八專日�@。或ひは佛閣を立て、或ひは供養を遂ぐ。其の例繁多也。

よっ　　にちじ　　　ほのき　　ちじょうせし　　　　これ　　めしお　　 れる　 うんぬん
仍て日時の風記は治定令め、之を召置か被と云々。

参考�@八専日は、日の干支が壬子から癸亥の間の12日の間に干支共に同じ五行となる壬子(水水)・甲寅(木木)・乙卯(木木)・丁巳(火火)・己未(土土)・庚申(金金)・辛酉(金金)・癸亥(水水)をさし、同気が重なるので倍化するので良くない日。

現代語貞應二年(1223)六月大十二日癸未。伊豆国の走湯権現伊豆山神社の阿弥陀堂建築について、柱は既に建て終りました。来る19日に棟上げ式をすると、寺の寺務所から云ってきました。二位家政子様の屋敷で、武蔵の代官次郎兵衛尉雅忠を担当者としてその指示がありました。そこで陰陽師に日和を問い合わせたところ、上棟式は土用の内は止めた方だ良いと、親職が云いました。7月11日壬子と11月2日庚子が良いですと晴賢が云いました。しかし「11月壬子は、雨の日が多いという八専だから、お堂を建てる先例はあるのですか。」と行西二階堂行村が云うので、晴賢にお聞きになられました。又、云うのには「以前にすでに柱は建て終えている。その上での八専ですので、お堂を建てたり、法事をしたりしている例は多いですよ。」そこで日時の占い文書にはそう決めて書かせ、これを提出させましたとさ。

参考６月１５日　［新編追加］
＊＊官宣旨
　　左弁官下す　　　五幾内諸国七道
　　　自今以後庄公田畠の地頭得分、十町別免田一町を給わり、並びに一段別加徴五升を充てしむべき事、
　　右、頃年勲功の賞に依って地頭職に居るの輩、各々涯分を超え恣に土宜を侵す。茲に因って、国衙と云い、庄園と云い、事を彼の濫妨に寄せ、勤めをその乃貢に懈る。是非相賛・真偽互雑か。然る間無止の仏神事、空しく以て陵替す。有限の公私領、地利を弁ぜず。天下の衰弊、職として斯くの由。方今四海すでに定まり、万方靡くこと然り。誰か宗廟社稷の重事を軽ぜん。誰か五幾七道の済物を掠めん。然れば則ち一に庄公の愁訴を休めんが為、一に地頭の勤労を優ぜんが為、旁々折中の儀に従い、須く向後の法を定めん。文武の道一を捨てるは不可の謂われなり。左大臣宣べ、勅を奉る。庄公田畠の地頭得分、十丁別免田一丁を賜わり、一段別加徴五升を充つ。自今以後に於いては、制符を厳守し、宜しく遵行せしむべしてへり。諸国承知すべし。宣に依ってこれを行う。
　　　　貞応二年六月十五日　　　　　　　大史小槻宿祢
　　中弁藤原朝臣

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれかぜしずか　きょう　　するがのくに　ふじ　せんげんぐう　　ぞうたいせんぐう　のぎなり　　おうしゅうごけいえい　　な　　　　うんぬん
貞應二年(1223)六月大廿日辛卯。天晴風靜。今日、駿河國冨士淺間宮の造替遷宮之儀也。奥州御經營を爲すと云々。

現代語貞應二年(1223)六月大二十日辛卯。空は晴れて風も静かです。今日、駿河国の富士浅間神社の新築への引っ越し式典です。義時さんが負担をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　ごぶつどう　　をい　　せんにち おんこう これ　しゅうされ　ところ　きょう けちがんされ
貞應二年(1223)六月大廿六日丁酉。天�ﾘ。五佛堂�@に於て千日 御講 之を修被る所、今日結願被る。

どうし　　まつどのほういん　しょうそうじうにく　　　　にほん　　どう　　まい　　たま　　　　うんぬん
導師は松殿法印。請僧十二口。二品、堂へ參り御うと云々。

参考�@五佛堂は、24巻承元元年12月27日に政子の願として実朝の供養に勝長寿院内に運慶作五大明王像を祀った。

現代語貞應二年(1223)六月大二十六日丁酉。空は晴れです。勝長寿院内五仏堂で千日続けるお経の今日が満願日です。指導僧は松殿法印良基、お供の僧は12人。二位家政子様もお堂へお参りだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 くもり　　こいがのたいふほうがんみつすえ　 そくよにん　　　にほん　　おんてい　まい　　　 みなじっさいみまん　 ようどうなり
貞應二年(1223)六月大廿八日己亥。陰。故伊賀大夫判官光季�@が息四人、二品の御亭に參る。皆十歳未滿の幼童也。

みす　 した　　め　　　これ　 み　　　　おうしゅうそ　 みぎり 　こう　　たま　　　ことごと　みつすえ　がんぼう　　あいに　　　のよし　　おんひるい　 もよ　　され
簾の下に召し之を覽る。奥州其の砌に候じ給ふ。悉く光季の顔皃に相似る之由、御悲涙を催ほ被る。

ぼうふの　あと　　つ　　　　　ちうちょく　はげ　　べ　　　のよし　　じき　　おお　　ふく　　られ　　　　うんぬん
亡父之跡を継ぎ、忠直に勵む可し之由、直に仰せ含め被ると云々。」

きょう　　　そうとうさんじょうこうどうじょうとう　　こと　　しちがつじういちにちはっせん
今日、走湯山常行堂上棟の事、 七月十一日八專。

なおはばか　あ　 べ　　　のよし　　かさ　　　　そ　　　さた　あ　　　　　　　おんみょうじ　　たず　　と　　　れる
猶憚り有る可き之由、重ねて其の沙汰有りて、陰陽師に尋ね問は被。

じういちがつふつかいぜん　をい　　は　　　しか　 べ　　 の きちじつな
十一月二日以前に於て者、然る可き之吉日無し。

はちがつようかつちのえとら　もっ　　　　ゆうようされ　　べ　　　のよし　　ちかもと　 はるかたら これ　　もう　　　　うんぬん
八月八日　戊寅を以て、宥用被る可き之由、親職、�ﾘ賢等之を申すと云々。

参考�@伊賀大夫判官光季は、25巻5月20日条で承久の乱勃発の15日に朝廷軍に攻められ息子の光綱と共に自害している。

現代語貞應二年(1223)六月大二十八日己亥。曇りです。故伊賀大夫判官光季の息子四人が、二位家政子様の屋敷へ来ました。皆十歳未満の子供です。御簾の下に呼んで子供らを見ました。義時さんも一緒におります。どの子も光季の顔に良く似ていると、涙を誘われました。亡き父の跡を継ぎ、幕府に忠節に勤めるように、それぞれに直接仰せになられましたとさ。」

今日、伊豆山神社の阿弥陀堂上棟式について、7月11日八専は、やっぱりやめておいた方がいいんじゃないかと、なお検討されて、陰陽師にお尋ねになられました。「11月2日以前には、ふさわしい良き日がありません。8月8日戊寅の日を用いましょう。」と親職・晴賢が答えましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ろくがつはらへ　おこな　れる　はるかたこれ　　ほうし　　　　さんじょうくらんどちかざね ばいぜん　　な　　　　　すおうのぜんじちかざね これ　　ぶぎょう
貞應二年(1223)六月大卅日辛丑。六月秡�@を行は被。�ﾘ賢之を奉仕す。 三條藏人親實　陪膳と爲す。 周防前司親實 之を奉行す。

参考�@六月秡は、大晦日のお払いと同じ。昔は六月と十二月の晦日にお払いをした。

現代語貞應二年(1223)六月大三十日辛丑。半年分の厄払いの六月の祓を行いました。晴賢が勤めました。三条蔵人親実が付添です。周防前司中原親実が担当しました。

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