吾妻鏡入門第廿六巻

貞應三年甲申(1224)七月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　こんぎょう　たいはく　　いえつ　 しの　　のよし　　　してんら　　つげあ
貞應三年(1224)七月大四日己亥。�ﾘ。今曉、太白、井鉞を陵ぐ之由、司天等の告有り。」

きょう　みなぬか　　おんぶつじなり　　　どうし　　しなののほうげんどうぜん
今日三七日の御佛事也。導師は信濃法眼道禪。

現代語貞應三年(1224)七月大四日己亥。晴れです。本日未明に太白星金星が井鉞双子座エータ星を通過したと、天文方から報告がありました。今日は、三七(みなのか)21日目の法事です。指導僧は、信濃法眼道禅です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かまくらちうぶっそう　　みつむねきょうだいしき　　　もっ　　するがのぜんじよしむら　もとに おうかん
貞應三年(1224)七月大五日庚子。鎌倉中物忩。 光宗兄弟 頻りに以て駿河前司義村の許于往還す。

これ　　あいだん　　　　ことあ　　　か　のよし　　ひとこれ　あやし
是、相談ずる事有る歟之由、人之を恠む。

 よ　　　い　　　　 くだん　きょうだい　おうしゅうごきゅうせき　〔こうしつきょじゅう〕　に むれあつ　　　　　こ　　　こと　　かえ　べからずの むね　おのおの　せいげん　およ
夜に入り、件の兄弟、 奥州御舊跡〔後室居住〕于群集まる。此の事を變る不可之旨、　各　誓言に及ぶ。

あるにょぼうこれ　 うかが　き　　　　 みつご の はじめ　しらざる　いへど　　　こと　 てい ふしんの よし　　ぶしゅう　　つ　　　もう　　　　ぶしゅうあえ　　どうようの け な
或女房之を伺い聞き、密語之始を知不と雖も、事の躰不審之由、武州に告げ申す。々々敢て動搖之氣無し。

 か　　きょうだいら かわ　べからざるのよし　けいやく　 な　　　　　　 もっと　しんみょうのむね おお　　られ　　　うんぬん
彼の兄弟等變る不可之由、契約を成すは、尤も神妙之旨 仰せ被ると云々。

現代語貞應三年(1224)七月大五日庚子。鎌倉中が何やら騒がしいのです。伊賀光宗兄弟が、盛んに駿河前司三浦義村の屋敷へ出入りしています。これは、何か秘密の相談をしているのに違いないと、人々は怪しみました。夜になって、その伊賀兄弟が義時さんの残した家〔晩年の居住地〕へ集まって、この事を変えてはいけないと、誓い合っていました。ある女中がこの事を聞いて、話の始めを聞いていないので、何の事か分からないけど、この様子を泰時さんに告げ口をしました。泰時さんは、別に動揺する気配はなくて、「伊賀兄弟が変節をしないと誓い合っていることは、神妙な事じゃないですか」と云っておられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こんぎょう　たいはく　 いちう　　　い　　　　いぬのこく　　つき　　か　　おか　　　〔あいさ　　　　　　　いっしゃくごすん　　ところ　　うんぬん〕
貞應三年(1224)七月大六日辛丑。今曉、太白、井中に入る。戌刻、月、火を犯す〔相去ること一尺五寸の所と云々〕。

現代語貞應三年(1224)七月大六日辛丑。本日未明に、太白星金星が井中双子座ミュー星の範囲に入りました。午後八時には月が火星に近づきました〔45ｃｍの所です〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いぬのこく　つき　しんちゅうおうせい　おか　　　うんぬん
貞應三年(1224)七月大九日甲辰。戌刻。月、心中央星を犯すと云々。

現代語貞應三年(1224)七月大九日甲辰。午後八時頃、月が心中央星さそり座アルファー星に近づきました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こくどあんぜん　　ため　　にほん さんまんろくせんしんさい　おこな　せし　 たま
貞應三年(1224)七月大十一日丙午。國土安全の爲、二品 三万六千神祭を行は令め給ふ。

れんや　　てんぺん　 よっ　　なり　　やすさだこれ　 ほうし　　　　　だいぜんのすけひろなか おんし　　な
連夜の天變に依て也。泰貞之を奉仕す。　大膳亮 廣仲　御使を爲す。」

きょう　 よつなぬか　 おんぶつじ　　　どうし　しょうごんぼうりっしぎょうゆう
今日四七日の御佛事。導師は莊嚴房律師行勇。

現代語貞應三年(1224)七月大十一日丙午。国中が安全に落ち着くように、二位家政子様は三万六千神祭を行わせました。毎晩のように、星の運航の異変があるからです。泰貞がこれを勤めました。大膳亮広仲が代参です。

今日義時さんの四七(よつなぬか)28日の法事です。指導僧は、荘厳房律師退耕行勇です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　てんぺん　　こと　　してんの　つ　　もう　ところ　　これおも
貞應三年(1224)七月大十三日戊申。天變の事、司天之告げ申す所、惟重し。

よっ　 さんまんろくせんしん　てんちさいへん　 げつよう　 けいこくせいさい いげ　　おんいの　　　 これ　 おこな　れる　　ある　　　またけちがん　　　うんぬん
仍て三万六千神、天地災變、月曜、熒惑星祭 以下の御祈り、之を行は被。或いは又結願すと云々。

現代語貞應三年(1224)七月大十三日戊申。星の運航の異変で、天文方が報告する内容は、重大な問題です。そこで三万六千神や天地災変・月曜・熒惑星火星などの祭りを始めとするお祈りを行い、或いは行事を遂げましたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　いつなのか　　おんぶつじ　　どうし　　　さだいじんりっし
貞應三年(1224)七月大十六日辛丑。�ﾘ。五七日の御佛事。導師は左大臣律師。

現代語貞應三年(1224)七月大十六日辛丑。晴れです。五七(いつなのか)35日の法事です。指導僧は左大臣律師です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　きんごく　やから きそ　　あつ　　　　　かどかど　とごと　　をい　　ぼっきょ　　　こんゆう だいぶっそう
貞應三年(1224)七月大十七日壬子。�ﾘ。近國の輩 競い集まり、門々戸々に於て卜居す。今夕 大物忩。

ねのこく　　　にいけ　　　にょぼう するがのつぼね ばか　　 　もっ　　おんとも　　な　　　　ひそか　するがのぜんじよしむらたくに わた　　たま
子尅、二位家、女房　駿河局　計りを以て御共と爲し、潜に 駿河前司義村 宅于渡り御う。

よしむらこと　　けいくつ　　　　にほん おお　　　　い
義村殊に敬屈す。二品仰せて云はく。

おうしゅうそっきょ　つ　　　　　ぶしゅうげこうの のち　　ひとむれ　　な　　　　よ　しず　　らず
奥州卒去に就き、武州下向之後、人群を成し、世靜ま不。

むつのしろうまさむら　なら　　　　しきぶのじょうみつむね ら　しき　　　　よしむらのもと　　でいり　　　　　みつだん　　ことあ　　　のよしふうぶん
陸奥四郎政村并びに 式部丞光宗 等、頻りに義村之許へ出入し、密談の事有る之由風聞す。

これなにごとなり　　そ　　　い　　　えず　　　も　　　　　ぶしゅう　　あいはか　　　どっぽ　　　ほっ　　　　か
是何事哉。其の意を得不。若しや武州を相度り、獨歩を欲する歟。

さんぬ　じょうきゅう　ぎゃくらんの とき　　かんとう　ちうん　　てんめいたり　いへど　　　なか　　　ぶしゅうの　こう　　あ　　　なり
去る 承久の 逆乱之時、關東の治運、天命爲と雖も、半ばは武州之功に在る哉。

およ　おうしゅうすうど　　えんじんいくさ　しず　　　かんか　　せいひつせし　をはんぬ　そ　　　あと　　つ　　　　　かんとう　　とうりょうたるべ　　は　　ぶしゅうなり
凡そ奥州數度の烟塵戰を鎭め、干伐を靜謐令め 訖。 其の跡を継ぎ、關東の棟梁爲可き者、武州也。

ぶしゅうな　　　なれ　　　しょにんきゅうん　あらそ　なり
武州無く也ば、諸人久運を爭う哉。

まさむらと よしむら　　おやこ　　ごと　　　　なん　　だんごうの　うたが　な　　　　　　や　　りょうにん　ぶじの よう　すべから　ふうかん　 くは　　　　 ば　　　よしむらしらざるのよし　もう
政村与義村、親子の如き。何ぞ談合之疑い無からん乎。兩人無事之樣、須く諷諌を加へれ者、義村不知之由を申す。

にほん なおもちいず　まさむら　　ふち せし　　　　らんせ　　くはだ　あ　　　べ　　　　 いな　　　　わへい　　はか　　　　めぐ　　　　べ　　　　いな
二品猶用不。政村を扶持令め、濫世の企て有る可きや否や、和平の計りを廻らす可きや否や、

はや　 もう　　き　　　べ　　　のむね　　かさ　　　　おお　　られ
早く申し切る可き之旨、重ねて仰せ被る。

よしむら い　　　　　　むつのしろう　まった　ぎゃくしんな　　　か　　　みつむらら は ようい　　ことあ　　　　 うんぬん
義村云はく。陸奥四郎全く 逆心無き歟。光宗等者用意の事有りと云々。

もっと　せいきん　 くは　　　　べ　　　のよし　　せいげん　およ　 のあいだ　　かえ　 せし　 たま　　　うんぬん
尤も禁制を加へる可き之由、誓言に及ぶ之間、還ら令め給ふと云々。

現代語貞應三年(1224)七月大十七日壬子。晴れです。鎌倉に近い関東の連中が競争するように鎌倉へ集まって来て、そこらじゅうの門内や家に入り込んで来たので、今日の夕方は大騒ぎです。

真夜中の十二時頃に尼御台所政子様は女官の駿河局一人をお供に、内緒で駿河前司三浦義村の屋敷へ伺いました。駿河前司三浦義村は恐縮しました。

尼御台所政子様が云うには、「義時が死んだので、泰時が京都から来た後、人々が群れ集まり、世間が静まらない。義時四男の政村と式部丞伊賀光宗が、やたらと三浦義村の屋敷に出入りして、何か密談をしていると噂があります。これはいったいどういうことなんですか。その目的が分かりません。もしも、泰時を陥れて、独占するつもりか。去る承久の乱に、関東が勝ったのは天運もあるけど、半分以上は泰時の手柄なのです。義時は、何度かの戦乱を鎮め、武器の火花散る音を静めてきました。その跡を継いで関東の筆頭を出来るのは泰時です。泰時が居なくなれば、人々は長く争い合うことになるでしょう。政村と義村は、烏帽子親子です。何で共謀の疑いがないわけがないでしょう。両人とも余計なことはしないように。」と遠まわしに忠告をすると、義村は、「知らない」と答えました。

二位家政子様は、なおも許しません。「政村を手助けして、世を乱す考えを持っているのかどうか。或いはそれを捨てて世の中の平和に尽くすのかどうか。早く、決断しなさい。」と重ねて仰せになりました。三浦義村は云いました。「政村は、全く泰時に逆らう心はありません。光宗は叛逆する考えをもってます。私が止めさせましょう。」と誓ったので、お帰りになりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 するがのぜんじよしむら　 ぶしゅう　　えっ　 もう　　　　　い
貞應三年(1224)七月大十八日癸丑。�ﾘ。駿河前司義村、武州に謁し申して云はく。

こたいふ　　　おんとき　　よしむらびちう　　ぬき　　　 のあいだ　　ごこんし　　　あら　 され　 ため　　しろうぬし ごげんぷくの とき　　よしむら　 もっ　　かかんやく　　もち　　られをはんぬ
故大夫の御時、義村微忠を抽んず之間、御懇志を表は被ん爲、四郎主御元服之時、義村を以て加冠役に用い被　訖。

ぐそく やすむらだん　もっ　　 ごゆうし　　　 な　　　　　そ　　　ほうおん　 おも　　　　きでん と　しろうぬし　　りょうしょ　　おんこと　　つ　　　　いかで　こうあく　 ぞん　　　　や
愚息泰村男を以て御猶子と爲す。其の芳恩を思い、貴殿与四郎主、兩所の御事に就き、爭か好悪を存ずる哉。

ただ　　しょき　　ところは　　よの　あんぺいなり　　みつむね ひどろいささ　けいりゃく　ことあ　　か　　　よしむらふうかん　 つく　 のあいだ　　ようや　きふく　をはんぬ てへ
只、庶幾の所者、世之安平也。光宗 日者 聊か計畧の事有る歟。義村諷詞を盡す之間、漸く歸伏し畢 者り。

ぶしゅう　　よろこばず　おどろかず　げかん　　まさむら 　し　　さら　　がいしん　さしはさまず　なにごと　　よっ　　あとう　　ぞん　　べ　　　やの　むね　　へんとう　　たま　　　　うんぬん
武州、　喜不　驚不。下官は政村を爲て更に害心を 挿不。 何事に依て阿黨を存ず可き哉之旨、返答し給ふと云々。

現代語貞應三年(1224)七月大十八日癸丑。晴れです。駿河前司三浦義村は、泰時さんに会って話しました。「義時さんの時世には、私義村が忠義を尽くしたので、親しさを表すために、四男の元服に私を烏帽子親に指名してもらいました。又、吾息子の泰村を養子並の猶子にしてくれました。その恩を思うと、長男の貴女と四男とが争えば、どっちに着こうかと考えてしまいました。でも、結局実際には何もおこらず平和でした。伊賀光宗は、多少腹の中に腹案を持ってましたが、義村が言葉を尽くして諫めましたので、やっと考えを改めました。」泰時さんは喜びも驚きもしません。「わたしは、政村に何も敵意を持っていません。何を指して敵対してると思うのでしょうね。」と返事をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　さんじうごにち　　おんぶつじ　　 どうし　　 ぎょうゆうりっし　　うんぬん
貞應三年(1224)七月大廿三日戊午。�ﾘ。三十五日の御佛事。導師は行勇律師と云々。

現代語貞應三年(1224)七月大二十三日戊午。晴れです。五七(いつなぬか)35日の法事です。指導僧は荘厳房律師退耕行勇だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　さんぬ　よっかよ　　　　　きょう　　　いた　　　　れんや　てんぺん しゅつげん
貞應三年(1224)七月大廿四日己未。霽。去る四日自り、今日に至り、連夜 天變 出現す。

よっ　　こくど　あんのん　　　ごきとうら　これ　　はじ　　おこな　れる　　つるがおかぐそう これ　ほうし
仍て國土安穩の御祈祷等之を始め行は被。 鶴岡供僧 之を奉仕す。」

ひつじのこく　しょうちょうじゅいん べっとう　ないだいじん そうづしんけい にゅうめつ　　〔　ごじうろく　　　ないだいじんただちかこう　　そく〕
 未尅、　勝長壽院 別當の内大臣 僧都親慶 入滅す。〔五十六。内大臣忠親公が息〕

現代語貞應三年(1224)七月大二十四日己未。晴れました。先日の四日から今日にかけて、連夜星の運航の異常が現れています。それなので、国土が安全なように祈祷を始めさせました。鶴岡八幡宮の坊さん達が勤めます。

午後二時頃、勝長寿院筆頭の内大臣僧都親慶が亡くなりました〔56才、内大臣忠親さんの息子です〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　れんれん てんぺん　おいのり これ　おこな　れる
貞應三年(1224)七月大廿九日甲子。連々 天變の御祈 之を行は被。

現代語貞應三年(1224)七月大二十九日甲子。続けて、天変のお祈りを行っています。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　きょう　　しじうくにち　　　おんぶつじなり　　どうし　　べんのそうじょう
貞應三年(1224)七月大卅日乙丑。�ﾘ。今日四十九日の御佛事也。導師は弁僧正。」

 よ 　　い　　　　　そうどうあ　　　　　　　ごけんら　みなはた　　あ　　　　　かっちゅう　き　　きそ　　はし　　　　しかしながら　 そ　　 じつな　　のあいだ　ぎょうそう　　およ　 せいひつ
夜に入り、騒動有り。御家人等皆旗を上げ、甲冑を着て競い走る。 然而、 其の實無き之間、曉更に及び靜謐す。

現代語貞應三年(1224)七月大三十日乙丑。晴れです。七七(なななのか)49日の法事です。指導僧は弁僧正定豪。

夜になって、騒ぎがありました。御家人が皆合戦の様に背中に旗を立てて、鎧兜に身を固め、競うように走り回っています。しかし、謀反や合戦の事実がないので、明け方になって静まりました。

閏七月へ

吾妻鏡入門第廿六巻