吾妻鏡入門第廿六巻

元仁元年甲申(1224)十二月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 ぶしゅうしっけん　 な　　　　　こと　 せいどう　　こうぎょう の こころざし　あらは　され
元仁元年(1224)十二月小二日甲午。天�ﾘ。武州執權と爲し、殊に政道の興行 之 志 を顯は被る。

しか　　　みょうぼうどう　　めやす　　もっ　　　　けさ　よ　　　まいたんいったんこれ　 み　　 べ　　　　　うんぬん
而して明法道の目安を以て、今朝自り毎旦一反之を覽る可しと云々。」

きょう　　　げきのたいふすけみち　けんちう　　ため　　こうづけのくに　げこう
今日、外記大夫祐通 檢注の爲、上野國へ下向す。

かく　　こと　　どようちう　　けんしうはばか　あ　　 べ　　　　 いな　　　ぶしゅうよ　　おんみょうどうくにみち　 ちかもと　　たず　 られ
此の事、土用中の檢注憚り有る可きや否や、武州自り陰陽道國道、親職に尋ね被る。

はばからずのよし　もう　　　　りけん　ぼうじは　　　えいだいたり　 はばか　あ　　 べ　　　　けんちうは　　 そ　　つつし　な　　　　　うんぬん
憚不之由を申す。利見傍示者、永代爲。憚り有る可し。檢注者、其の愼み無しと云々。

はるゆきもう　　　　い　　　　　　　もっと　はばか　あ　　 べ　　　　 そ　　　ゆえは　　しなののくに いちのつぼ　あいさかあ
�ﾘ幸申して云はく。尤も憚り有る可し。其の故者、信濃國　一坪に 會坂在り。

これ　　どよう　いぜん　　これ　 はじ　　られ　　　 よっ　　なり　　うんぬん
是、土用以前に之を始め被るに依て也と云々。

しかしながら　 いぜん　 りょうにん　 せつ　 つ　　　　　これ　 くだ　　つか　 され　　　 うんぬん
 然而 、以前の兩人の説に就き、之を下し遣は被ると云々。

現代語元仁元年(1224)十二月小二日甲午。空は晴れました。泰時さんは、執権として、とりわけ政治を活発にするお気持ちを表明されました。それは陰陽道の占い結果を、今朝から毎日一度はこれを見るようにしましたとさ。

今日、外記大夫祐通は、田畑の検査して書き出すため(田文作成)に、上野国へ出かけました。これについて、土用の最中に検査をするのは、控える必要があるのかどうか、泰時さんから陰陽師の安陪國道・安陪親職に質問しました。「控える必要はないでしょう」と云いました。権利地を表示する境表示の傍示を建てればそれは永遠のものですから、土用は控えるべきでしょうが、検査はその必要はないでしょうだとさ。晴幸が云うには、「いやー相当良くありませんよ。それは、信濃国の一ノ坪に会坂があります。ここは土用前に検査を始めたからです。

しかし、双方の意見が一致しないので、両方を伝えさせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 かいげん　しょうしょとうらい　　　さんぬ　つきはつか　じょうおうさんねん　あらた　　げんにんがんねん　な　　　　 うんぬん
元仁元年(1224)十二月小四日丙申。�ﾘ。改元の詔書到來す。去る月廿日、貞應三年を改め、元仁元年と爲すと云々。

しきぶのたいふためながきょう えら　　すす　　　しょうほは　　　か　　　しそく　だいだいきながさだ これ　　か　　　　 うんぬん
 式部大輔爲長卿 撰び進む。詔書者、彼の子息 大内記長貞 之を書くと云々。

現代語元仁元年(1224)十二月小四日丙申。晴れです。改元の公文書が届きました。先月の20日に貞応3年を元仁1年としたそうな。式部大輔為長さんが撰んで進言したのです。公文書は、彼の倅の大内記長貞が書いたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　よ　　　い　　　　わかぎみ ぶしゅう　 おんてい　 わた　 たま　　　 にょぼう　ことごと　おんとも　 な
元仁元年(1224)十二月小十四日丙午。�ﾘ。夜に入り。若君 武州の御亭へ渡り御う。女房　悉く御共を爲す。

おんまうけこと　び　　つくされ　　　　うんぬん
 御儲 殊に美を盡被ると云々。

これ　　きた　　じうくにち　〔りっしゅんせつ〕　　おんかたたがえ　ため にゅうぎょあ　　べ　　　　しか　　　くだん　　ひ　　もつにちなり
是、來る十九日〔立春節〕に御方違の爲 入御有る可き。而るに件の日は没日也。

にゅうぎょ　はじ　　　　　おんはばか　あ　　 べ　　　　 よっ　　　　こんや　　ことさら　わた　 せし　はじ　　たま　　　 うんぬん
入御の始めに、御憚り有る可きに依て、今夜　故に渡り令め始め御うと云々。

現代語元仁元年(1224)十二月小十四日丙午。晴れです。夜になって、若君三寅が武州泰時さんの屋敷へおいでです。女官達がすべてお供をしてきました。その接待は豪華に贅沢をきわめた用意でしたとさ。今日の外出は、来る19日〔立春〕の方角変えのために来たそうです。それは、その立春の当日は外出に縁起悪い日なのです。お出かけは控えるべき日なので、今夜、わざわざ出かけたて来られたんだとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　わかぎみかんごせし　 たま　　　 ぶしゅう ひきでもの　　けん　　られ
元仁元年(1224)十二月小十五日丁未。若君還御令め給ふ。武州引出物を獻ぜ被る。

ぎょけん　するがんかみ これ　 も　　　まい　　　 おんうま　　みうらのするがじろうやすむら　　おな　　　 しろういえむらこれ　　ひ　　　　　うんぬん
御釼は駿河守 之を持ち參る。御馬は三浦駿河次郎泰村、同じき四郎家村之を引くと云々。

現代語元仁元年(1224)十二月小十五日丁未。若君三寅さんのお帰りです。武州泰時さんは引き出物を献上しました。刀は駿河守重時が持ってきました。馬は三浦駿河次郎泰村と同四郎家村が引き出しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぶしゅうこんりゅう　どう　あ　　ところ　　　 とうじ　　おんたちよ　　 とうほうたり　　しか　　　 りっしゅんの のちは　　おうしょうかたなり
元仁元年(1224)十二月小十七日己酉。武州建立の堂在る所は、當時の御舘自り東方爲。而るに立春之後者、王相�@方也。

そ　　　ほう　 たが　　られ　　べ　　　　いへど　　　せちぶんよ　　　 わかぎみかたがたえ　ため　 にゅうぎょあ　　べ　　　　 よっ　　　 おも　 わずら　せし　 たま　　のあいだ
其の方を違へ被る可きと雖も、節分夜は、若君御方違の爲、入御有る可きに依て、思い煩は令め給ふ之間、

ともすけあそん　　まね　　　こ　おもむき　おお　　あ　　　され　　　　ともすけい
知輔朝臣を招き、此の趣を仰せ合は被る。知輔云はく。

かり　　か　　　どうを　ほか　 ひと　 ゆず　　わた　　　つくられ　　べ　　をはんぬ　　ごがんじら　　をい　　　　かく　　れいもっと　おお　　　うんぬん
假に彼の堂於他の人に讓り渡し、造被る可き 畢。　御願寺等に於ては、此の例尤も多しと云々。

なお　　ふしん　 さん　 られがた のあいだ　　かさ　　　 ちかもと　　とはれ　　のところ　　ついぜん　こと　 もっ　　　　ほか　　ひと　　ゆずられ　　のじょうほんぎ　　あらず
猶、不審を散じ被難き之間、重ねて親職に問被る之處、追善の事を以て、他の人に讓被る之條本儀に非。

おんかたがえ あ　べからずんば　　しばら　さくじ　　さしお　　　げせつ　いご　　しゅうこうすべ　　　　うんぬん　　あと　　ぎ　がんじゅ　　ぎょい　　あいかな　　　　うんぬん
 御方違 有る不可者、暫く作事を閣き、夏節以後に修功可きと云々。後の儀願主の御意に相叶うと云々。

参考�@王相は、王相神で、陰陽道で祀り、月ごとに所在の方角が変わる神様で、その方向は移転や建築を忌む。

現代語元仁元年(1224)十二月小十七日己酉。武州泰時さんが建立しているお堂のある場所は、現在の館の東方です。それが立春の後は、移転建築を忌む王相神の方向です。だから、その方向へ方角変更をすればよいのですが、節分の夜は若君三寅の方角変えのため、こちらの屋敷へ来る予定なので、どうしようかと悩んで、陰陽師の安陪知輔さんを呼んで、この事を相談しました。知輔は、「仮に建築中のお堂を他の人に譲り渡して、完成させましょう。自分用のお堂を作る場合はこの方法がとても多いのです。」と云いました。それでも、未だ不安に感じていたので、別な陰陽師の安陪親職にも聞いてみました。親の後生を弔うお堂を建てるのに、他の人の名義にするのは本来から外れたおかしなことですよ。方角変えが出来なきゃ、しばらく建設作業を休ませて、立夏以後に作業をさせればいいんですよ。」との事でした。後の方の意見が主催者はお気に入りましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　わかぎみりっしゅん　おんかたがえ　ため　ぶしゅう　　みたち　　い　　　たま
元仁元年(1224)十二月小十九日辛亥。天�ﾘ。若君立春の御方違の爲、武州の御舘へ入り御う。

さこんたいしゅしょうげんすけふさ　だいぜんりょうひろなか　みうらのするがぜんじよしむら　　どうじろうやすむら　　どうさぶろういつむら　　でわぜんじいえなが
 左近大夫將監佐房、 大膳亮廣仲、 三浦駿河前司義村、同次郎泰村、 同三郎光村、 出羽前司家長、

ささきのさぶろうやすつな　ら　ぐぶ　　　　　にょぼう ごにんおな　　　　まい　　　　うんぬん
佐々木三郎泰綱等供奉す。女房五人同じく參ると云々。

現代語元仁元年(1224)十二月小十九日辛亥。空は晴れです。若君三寅は立春の方角変えのため、武州泰時さんの屋敷へ来ました。左近大夫将監大江佐房・大膳亮広仲・駿河前司三浦義村・同次郎泰村・同三郎光村・出羽前司中条家長・佐々木三郎泰綱がお供をしました。女官は五人お供をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　うまのこく　 わかぎみかえ　せし　 たま　　　 ぶしゅうまた　　ぎょけん　 おんうま　 すす　 られ　　　　うんぬん
元仁元年(1224)十二月小廿日壬子。�ﾘ。午尅、若君還ら令め給ふ。武州又、御釼、御馬を進め被ると云々。

現代語元仁元年(1224)十二月小二十日壬子。晴れです。昼頃に若君三寅は還られました。武州泰時さんは又も、刀や馬をお土産にしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 いずのくにほうじょう　 ひきゃくとうらい
元仁元年(1224)十二月小廿四日乙酉。�ﾘ。伊豆國北條の飛脚到來す。

うけいちょう　　こうしつぜんに　　さんぬ　じうににち　いご　びょうのう　　　さくじつみのこくよ　　ききゅう　　およ　　のよしこれ　　もう
右京兆が後室禪尼、去る十二日以後病惱し、昨日巳刻自り危急に及ぶ之由之を申す。

現代語元仁元年(1224)十二月小二十四日乙酉。晴れです。伊豆国北条から伝令が来ました。義時さんの未亡人の尼が、先日の12日から病気になり、昨日の午前十時頃から急に危篤になったと報告しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 こ　　あいだ　 えきらい るふ　　　　ぶしゅうこと　　おどろ　せし　 たま　　のところ　　しかく しきょう ききさい　　おこな　れる
元仁元年(1224)十二月小廿六日戊午。此の間、疫癘流布す。武州殊に驚か令め給ふ之處、四角四境鬼氣祭を行は被。

ちたい　すべ　　のよし　　おんみょうごんのすけ くにみち　これ　　もう　　おこな
治對可き之由、　陰陽權助　國道　之を申し行う。

いは　　　しきょうは　　 ひがし　むつら　みなみ　こつぼ　　にし　 いなむら　　きた　やまのうち　うんぬん
謂ゆる四境者、東は六浦�@。南は小壷�A。西は稲村�B。北は山内�Cと云々。

参考�@六浦は、神奈川県横浜市金沢区六浦。
参考�A小壺は、逗子市小坪。
参考�B稲村は、鎌倉市稲村ガ崎。
参考�C山内は、鎌倉市山ノ内。

現代語元仁元年(1224)十二月小二十六日戊午。最近、伝染病が広がっています。泰時さんは驚ろかれて、悪いものを祓う建物の四方と町境の四方で悪鬼を祓う行事を行いました。退治するようにしましょうと、陰陽権助(臨時次官)安陪國道が申し出て行いました。その町境の四か所は、東は六浦、南は小坪、西は稲村、北は山内だそうな。

　〔　し　　　い　　　　　　　　こ　　　つぎ　　　かろくがんねんきのととり　　　どうにねん　　　あんていがんねんひのとい　　さんかねんの　あいだ　　　ことこれな　　　　　ろうだつせし　　か　　　　いかん
〔私に云はく。此の次の嘉祿元年乙酉。同二年。安貞元年丁亥。三ケ年之間の事之無し。漏脱令む歟、如何。

こ　　　かんわかぎみ　　ごげんぷく　　　　また　　　　にいけ　　　　こうきょら　の　こと　これ　あ　　　べ　　　　　〕
此の間若君の御元服。又、二位家の薨逝等之事之有る可し。〕

〔この吾妻鏡を再編している私が思うには、嘉禄元年乙酉(1225)・二年丙戌(1226)、安貞元年丁亥(1227)の三年間の事がない。漏れてしまったのではなかろうか。この間に若君三寅の元服や、二位家政子様の没などがあるはずだ〕(後に見つかって吾妻鏡脱漏として掲載されている)

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