吾妻鏡入門吾妻鏡脱漏

嘉禄元年乙酉(1225)十一月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しんごしょ　　 こづくりはじ　 なり
嘉祿元年(1225)十一月小七日甲子。�ﾘ。新御所の木作始め也。

現代語嘉祿元年(1225)十一月小七日甲子。晴れです。新御所の材木削り始め式です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 おな　　　　おんち　　 ひかれ　　　 うんぬん　 そうしゅう　ぶしゅう　　かんりんせし　 たま　　　　うんぬん
嘉祿元年(1225)十一月小八日乙丑。霽。同じく御地を引被ると云云。相州、武州、監臨令め給ふと云云。

現代語嘉祿元年(1225)十一月小八日乙丑。晴れました。同様に新御所の縄張りをしました。時房さんと泰時さんは、監視しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おんさくじのあいだ　 てんいつ　たいはく　どくう　ゆぎょうかたら　　おんはばか　あ　　べ　　　のよし
嘉祿元年(1225)十一月小十五日壬申。御作事之間、天一�@太白�A土公�B遊行方等、御憚り有る可き之由、

くにみちあそんこれ　 もう　　　　つ　　　 そ　　　 さた　あ
國道朝臣之を申すに就き其の沙汰有り。

いちどうせし　 なり　　いな　　　　　じよ　　 おんみょうじら　　 これ　 とはれ　　　　　ちかもともう　　　　い　　　　　　　きんだい　はばからずのよし　うんぬん
一同令む也や否や。自餘�Cの陰陽師等に之を問被る。親職申して云はく。近代�Dは不憚之由と云云。

はるかたもう　　　　い　　　　　　 こと　　そ　　　はばか　あ　　べ　　　　　うんぬん　　はるしげ　むねしげ　ありみちこれ　 おな
�ﾘ賢申して云はく。殊に其の憚り有る可しと云々。�ﾘ重、宗重、有道之に同じ。

たすさだ　 はるもとら　　 れんじつ　を　　　　　さくぼんは　　はばか　あ　　 べからずのむね これ　 もう
泰貞、�ﾘ職等、連日に於ける作犯者、憚り有る不可之旨 之を申す。

参考�@天一は、天一神(なかがみ)が天に上っているという日。癸巳の日から戊申の日までの16日間。
参考�A太白星は、金星。方角神の名。金星の精で、大将の姿をし、兵事や凶事を司る。日毎に遊行の方角を変え、その方角に向かう外出などを忌む。
参考�B土公は、土をつかさどる神。春は竈(かまど)、夏は門、秋は井戸、冬は庭にあって、その季節にその場所を動かすと祟りがあるとされる。
参考�C自餘は、その他の。
参考�D近代は、この頃では。

現代語嘉祿元年(1225)十一月小十五日壬申。新御所建設中は、天一神の日や、金星・土の神が遊びに出かける方角は控えるべきでしょう。」と安陪國道さんが云ってる事について検討しました。陰陽師全員の意見が一致しているかどうか、他の陰陽師達にも聞きました。安陪親職は、「近年は控える必要がありません。」と云いました。安陪晴賢は、「特に控える必要があります。」安陪晴重も安陪宗重も安陪有道も同意見だそうな。安陪泰貞と安陪晴職は、「連日の土木作業ですから遠慮はいりませんよ。」と云いました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こんゆうよ　　　　　しんごしょ　　まつりらこれ　 おこな　れる　　げきのたいふぶぎょうたり　　うんぬん
嘉祿元年(1225)十一月小十七日甲戌。今夕自り、新御所の祭等之を行は被。外記大夫奉行爲と云云。

現代語嘉祿元年(1225)十一月小十七日甲戌。今日の夕方から、新御所の屋敷神祭りを行いました。外記大夫矢野倫重が担当しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 ぶしゅう　 おんてい　 をい　　ごしょぞうえい　　こと　　れんじつ　ぼんど
嘉祿元年(1225)十一月小廿日丁丑。霽。武州の御亭に於て御所造營の事、連日の犯土、

てんいつたいはく　 かた はばか　あ　　　　いな　　　　　さた　　 へ られ
天一 太白の方 憚り有るや否や、沙汰を經被る。

れんじつ　 をい　 は　　 せんれい　はばか　な　　　のよし　　だんじょうのちうすえうじ　これ　 もう　　　　　きひ　され　　べ　　　のむね　　みんぶたいふやすとしこれ　 もう
連日に於て者、先例に憚り無し之由、　彈正忠季氏　之を申す。忌避被る可き之旨、民部大夫康俊之を申す。

これ　　そ　　　せつこれあ　　　　うんぬん
是、其の説之有りと云云。

けっ　　られがた　のあいだ　　かさ　　て おんみょうじら　　め　　　　　ごとうさえもんのじょうぶぎょう　　な　　　　れんじつたるぼんどのあいだ
决せ被難き之間、重ね而陰陽師等を召し、後藤左衛門尉奉行と爲し、連日爲犯土之間、

ひごろ てんいつ たいはく　おんかたが　　な　　　す　　　　をはんぬ
日來 天一 太白の御方違へ無く過ごし畢。

しから　　　きょう　よ　　　にし　てんいつゆぎょう　かたなり　　いかようたるべ　　 や　　　はか　 もう　　べ　　　のむねおお　　くだされ
然ば、今日自り西は天一遊行の方也。何樣爲可き乎。計り申す可き之旨仰せ下被る。

きた　　にじうさんにち　いしずえ　す　　　い　　　ほ　　 もん　　た　　　　　　　はばか　あ　　　のよし　　くにみちあそん いげ ろくにんこれ　 もう
來る　廿三日　礎 を居え井を堀り門を立つは、憚り有る之由、國道朝臣以下六人之を申す。

だいぜんりょうやすさだ　もう　　　　 い　　　　　　 れんじつ　 ごぼんど いまに　たいてんな　　　　しんでんのほか　 とうじ の　ごぼんど　　　 す　　　　べからず
 大膳亮泰貞　申して云はく。連日の御犯土今于退轉無し。寢殿之外、當時之御犯土を過ぐる不可。

しからずんば　 はばか　あ　　べからず　　うんぬん
 然者、 憚り有る不可と云云。

これ　　つ　　 おのおの　ゆきむか　　 せいほう　 ただ　　べ　　　のよしおお　　くだされ
之に就き　各　行向い。正方を糺す可し之由仰せ下被る。

よっ　　もとつな　 おんみょうじら あいとも　　　　ゆきむか　 て ただ　　　じょうしゃくのところ　とうじ　　　ごしょ　ごしんじょ　よ　　　　か　　　おんち　　いぬい　すみに いた　　て
仍て基綱、陰陽師等相共に、行向い而正しき丈尺之處、當時の御所御寢所自り、彼の御地の乾の維于至り而は、

とうざいにひゃくごじうろくじょうごしゃく　　なんぼくろくじういちじょうなり　　せいほう　　にしなら　　　いぬいかた あいあたらず　　かんさんせず　いへど　　かのえかたぶんか
東西二百五十六丈五尺。 南北六十一丈也。 正方は西并びに 乾方　相當不。 算勘不と雖も、 庚方分歟。

りょうほう　あたらずのよし　　おのおの　　きさんせし　　これ　　もう　　　　よっ　 そうろんそ　　 せんな　　　　しんみょうのむねらっきょ
兩方に當不之由、　各　歸參令め之を申す。仍て相論其の詮無し。神妙之旨落居す。

へいしょくのご　　およ　　　　ひょうぎをはんぬ　　ひとびとたいしゅつせし　　　うんぬん
秉燭之期に及び、評議　訖。　人々退出令むと云云。

現代語嘉祿元年(1225)十一月小二十日丁丑。晴れました。泰時さんの屋敷で、御所建設について、連日土堀をして天一神や太白金星神に遠慮するべきかどうか、検討をしました。「連日という事について、先例に控えるべきだとはありません。」と弾正忠清原季氏が云いました。「避けるべきだ。」と民部大夫町野康俊が云いました。そう言う説もあるもんだ。そうな。決定できないので、再び陰陽師を呼び集め、後藤左衛門尉基綱が指揮担当として、連日土を掘り返しても、天一神や太白金星への方角変えをしないで来ました。しかし、今日から西は天一神の遊びに出る方角なのだが、どうなんだろうか調べて報告するように命じました。「来る23日に礎石を置いて、井戸を掘って、門を立てるのは敬遠した方がよいですよ。」と国道さんはじめ6人が云いました。大膳亮泰貞は、「連日土を掘り返す作業が今まで休みなしです。寝殿以外は、今これ以上掘り返すべきではありません。ですから、遠慮すべきなのです。」と云いました。この意見を聞いて、「方角をきちんと調べなさい。」と申されました。そこで、後藤基綱は、陰陽師連中と待ち合わせて、正しい測量をしたところ、現在地の御所(伊賀朝行邸)の寝所から、新御所の地の南西の隅までは、東西では772.2ｍ。南北では184.8ｍです。正しい方角は西にも南西にも当たりません。詳しく計らなくても、庚(西南西微西)の方角でしょう。悪い方角のどちらにも当たらないと、帰って来てそれぞれが云いました。それでもめる必要がないので、落ち着きました。灯り時になって会議は終わって人々は帰りましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くも　　こお　　あられふ　　つるがおかほうじょうえ これ　　すいこうされ
嘉祿元年(1225)十一月小廿二日己卯。陰り沍る�@霰降る。鶴岳放生會 之を遂行被る。

はちがつ　えんいんのゆえなり　　ぶしゅう さんぐうせし　　たま
八月に 延引之故也。武州 參宮令め給ふ。

参考�@沍は、寒さで物が凍りつく程寒い。

現代語嘉祿元年(1225)十一月小二十二日己卯。雲って凍りつくほど寒くてあられが降りました。鶴岡八幡宮の生き物を放して贖罪する放生会を行いました。八月に延期した分です。泰時さんはお参りに行きました。

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