吾妻鏡入門吾妻鏡脱漏

嘉禄元年乙酉(1225)十二月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 さるのこく　 とび ごしょちう　　 と　　　い　　のあいだ　 すおうぜんじちかざね ぶぎょう　　な　　　　おんうら　　おこな　れる
嘉祿元年(1225)十二月大二日戊子。�ﾘ。申刻、鳶御所中に飛び入る之間、周防前司親實奉行と爲し、御占を行は被。

うせもの　 やまい　こと　　きょうじ　　 とうぞく　　ことら　　のよし　　くにみちあそん いげ これ　 うらな　もう　　　　うんぬん
失物、病の事、驚事、盜賊の事等之由、國道朝臣以下之を占い申すと云云。

現代語嘉祿元年(1225)十二月大二日戊子。晴れです。午後四時頃に鳶が御所の中へ飛び込んできたので、周防前司中原親実が担当して占いを行いました。無くした物・病気について・凶事・盗賊についてなどについて、安陪國道さん以下の陰陽師が占いましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しんごしょ　　じょうとうなり　　そうしゅう　ぶしゅうかんりんされ
嘉祿元年(1225)十二月大五日辛卯。新御所の上棟也。相州、武州監臨被る。

おきのにゅうどうぎょうさい　　みうらのするがぜんじよしむら　　ごとうさえもんのじょうもとつな　　げきのたいふら　さんじょう　　　　ことおわ　　　　たくみら　 ろくこれ　 たま
 隱岐入道行西、 三浦駿河前司義村、後藤左衛門尉基綱、外記大夫等參上す。事終り、工等の祿之を賜はる。

また　まんどころ　なら　　　 みくらら　これ　　こぼちわたさる　　　　にょぼう だいなごんのつぼね　すくしょ　　ち　　　をい　　　　おな　　　じょうとうの　ぎ　これあ　　　　　うんぬん
又、政所�@并びに御倉等之を壞渡被る。 女房　大納言局�Aの宿所の地に於て、同じく上棟之儀之有りと云云。

参考�@政所は、八幡宮東南の畠山重忠邸跡の石碑と宝戒寺前の角とを結んだ線の東北西南の四角が発掘調査の結果、推定される。ここでは壊されているが発掘調査の結果は、当初から滅亡まで同一地域にあったものと推定されている。
参考�A大納言局は、三条大納言公房女。肩書きは今小路尼。

現代語嘉祿元年(1225)十二月大五日辛卯。新御所の棟上げ式です。相州時房さん・武州泰時さんも臨席です。隱岐入道行西二階堂行村・駿河前司三浦義村・外記大夫矢野倫重などがやって来ました。式典が終わり、匠たちに褒美を与えました。又、政務事務所と倉庫を壊し運びました。女官の大納言局の宿舎の土地でも同様に棟上げ式が行われましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 わかぎみごぜんぷく　　にちじ　　かんもん　　　 きょうと よ　　　 けさ　とうらい　　　　　きた　にじうくにち　きのとう　うまのこく　　うんぬん
嘉祿元年(1225)十二月大八日甲午。霽。若君御元服の日時を勘文し、京都自り今朝到來す。來る廿九日 乙卯 午時と云云。

ありつぐこれ　　えら　　もう　　　　しか　　　くだん　ひ　　　　ごいし　　　　い　　　　 おんしゅふく　 い　　　　ちょうじょう　すこぶ　そつじ　たるべ　 のあいだ　　せんどごじょう　　ごと
在繼之を撰び申す。然るに件の日、御移徙と云ひ、御首服と云ひ、重疊し頗る卒爾�@爲可き之間、先度御定の如く、

きた　　はつか　いし　あ　　　　　いかん　のよし　　かんとう　　おんみょうじらに　たず　　られ　　　おのおの　もう　　　　い　　　　　　　にじうくにち　　しふしゅつび　なり
來る廿日移徙有るは如何之由、關東の陰陽師等于尋ね被る。　各　申して云はく。廿九日は四不出日�A也。

せんれいあ　　　いへど　　　いささ　はつかを　おと　　か　　うんぬん　　よっ　　ぎじょう　をはんぬ　　すなは　　ごいし　　かんもんこれ　　めされ　　　　うんぬん
先例有ると雖も、聊か廿日於劣る歟と云云。仍て儀定し 畢。 則ち御移徙の勘文之を召被ると云云。

参考�@卒爾は、にわかに忙しくなる事。
参考�A四不出日は、出るのが縁起が悪い日。乙卯。戊午。辛酉。壬子。

現代語嘉祿元年(1225)十二月大八日甲午。晴れました。若君三寅の元服の日を上申した文書が京都から今朝届きました。来る29日乙卯の昼頃だそうな。賀茂有継が選んで上申しました。しかしその日は、引っ越しと元服が重なって、にわかに忙しくなりますので、前に決めたように二十日に引っ越しするのはどうなのかと、関東の陰陽師にお聞きになりました。それぞれ云うのには、「29日は出かけるのが縁起の悪い四不出日です。先例はあるけれども20日よりかは落ちるかも。」との事です。それで決まりました。すぐに引っ越し日の上申書を出させましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　ぶしゅう　しんごしょ　　さん　　せし　　たま　　　　　ごいし　いぜん　　　　おんまつりらあ　　べ　　　や　いな
嘉祿元年(1225)十二月大九日乙未。霽。武州新御所�@へ參じ令め給ふ。御移徙以前に、御祭等有る可き哉否や。

おんさた　　 およ　　　だいかんもつみつゆきにゅうどう　　げんないさえもんのじょうかげふさ　なら　　　くにみちあそん　 ちかもと　　めし　 よっ　　さんじょう
御沙汰に及ぶ。　大監物光行入道、　源内左衛門尉景房　并びに國道朝臣、親職、召に依て參上す。

これ　　みつゆきにゅうどう　かげふさ　くだん　まつりのこと　　あなが　　 しか　べからず　 おこな　れる　およばずのよし　　ないないこれ　もう　　い　　　　　よっ　　　　けっ　　られ　　ためなり
是は 光行入道、景房、 件の祭之事、強ちに然る不可。行は被に及不之由、内々之を申し入るに依て、决せ被ん爲也。

すなは　ぶしゅうじき　　しさいを くにみち　 と　　　せし　 たま　　　　か　　　あそんもう　　　　い
則ち武州直に子細於國道に問は令め給ふ。彼の朝臣申して云はく。

くだん　りょうにんはゆうしきなり　　とうどう　　こと　　かくべつなり　　こさい　　し　　　べからざるか
件の兩人者有職也。當道の事は各別也。巨細を知る不可歟。

こうきょよ　　　しんか　　　いえ　　いた　　　　　　　いし　のとき　　　 ぎょうさいのじょう　 れい　 さだ　　　 なり
皇居自り臣下の家に至りて、移徙之時は、行祭之條、例に定める也。

かつう　　かざんいん　おうせきいらい　 かいろく　 なんな　　てへ　　　　　　か　　まつりおこな　れるのゆえなり　　ちか　　は　ごきょうごくどの　ごいし　のときこれ　　おこな　れる　　うんぬん
且は華山院、往昔以來、回祿の難無し者れば、彼の祭行は被之故也。近く者後京極殿御�A移徙之時之を行は被と云云。

ちかもともう　　　　い　　　　　　　　　こさふ　　　　ごいし　　のとき　　おこな　れ　をはんぬ　　　こうふしょうぐん　　おんときは　　うまやしずめのほか ことごと　これ　おこな　れる　　うんぬん
親職申して云はく。故左府の御移徙之時、行は被 訖。　故右府將軍の御時者、廐 鎭 之外 悉く之を行は被と云云。

よっ　　おこな　　れるべ　　のよし　　うんぬん
仍て行は被可き之由と云云。

参考�@新御所は、この場合、若君の現所在で大御堂前の伊賀朝行の屋敷。
参考�A後京極殿は、九条良経で九条兼実の子。

現代語嘉祿元年(1225)十二月大九日乙未。晴れました。泰時さんが現在の若君三寅の居所へ参りました。引っ越し前に、お祓いのお祭りをするべきかどうか、検討しました。大監物源光行入道・源内左衛門尉景房それに安陪國道さん・安陪親職が呼ばれてきました。これは、光行入道と景房が、そのお祭りについて、必ずしもそうではないでしょう。行う必要はないでしょうと、内々に云ってきたので、対決させるためです。すぐに泰時が直接詳しく国道さんにお聞きになりました。国道さんが云うには、「お二人は物知りなお方ですが、陰陽道は別もんです。詳しい事はお知りではないでしょう。皇居から臣下の家へ来ていて、引っ越すときはお祓いの祭を行う事が、例として定めております。一つは、花山院の昔から、火事にあったのでなければ、そのお祭りは行われています。最近では、後京極九条良経様が引っ越しの時も行われています。」だとさ。親職が云うには、「故左府頼長の引っ越しには行っております。故将軍実朝様の時は、厩のお祓い以外は、全て行われています。ですから行うべきでしょう。」だとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　よ　　　い　　　　　しんごしょ　　 をい　　おまつりら　　おこな　される
嘉祿元年(1225)十二月大十七日癸卯。霽。夜に入り、新御所に於て御祭等、行は爲被る。

いはゆる　　たいさいはっしんさい　はるかた　　しゃしこう　　ありみち　　　せきりょう　のぶかた　だいしょうぐん　はるゆき　　おうそう　　ふみもと　　ぼうげかさい　やすさだ　　うんぬん
所謂、 太歳八神祭�@は�ﾘ賢。謝士公�Aは有道。井靈�Bは信賢。大將軍�Cは�ﾘ幸。王相�Dは文元。防解火災�Eは泰貞と云云。

参考�@太歳八神祭は、陰陽道の八星らしい。
参考�A謝士公は、土をいじるので土神様に謝罪する。
参考�B井霊は、井戸の霊。
参考�C大将軍は、星神。
参考�D王相は、王神と相神で月ごとに方角が禁忌とされる。
参考�E防解火災は、火災防止のまじない。

現代語嘉祿元年(1225)十二月大十七日癸卯。晴れました。夜になって新築の御所でお祓いのお祭りを行いました。それは、太歳八神祭は安陪晴賢。謝士公祭は安陪有道。井霊祭は安陪信賢。大将軍祭は安陪晴幸。王相祭は安陪文元。防解火災祭は安陪泰貞だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たくちんさい　　ちかもと　いししずめ　はるしげ　にしのたけまひと　しちじうにせい　　りょうさい　くにみち
嘉祿元年(1225)十二月大十八日甲辰。宅鎭祭は親職。石鎭は�ﾘ茂。西嶽眞人・七十二星�@の兩祭は國道。

うまやしずめ　はるもとら これ　　ほうし　　　　すおうのぜんじちかざね　ぶぎょう　　な　　　　　うんぬん
 廐鎭は �ﾘ職等之を奉仕す。周防前司親實 奉行と爲すと云云。

参考�@西獄真人と七十二星は寝殿の天井に祀ったようだ。七十二星は1年を72侯に分け侯毎に星を置く考えだそうな。

現代語嘉祿元年(1225)十二月大十八日甲辰。地鎮祭は安陪親職。石鎮は、礎石の落ち着き(置き石の魂鎮め)を祈るのは安陪晴茂。西獄真人と七十二星の両方は安陪國道です。厩のお祓いは安陪晴職などが勤めました。周防前司中原親実が指揮担当しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かいせい　きょう　　　わかぎみ　ごいし　の　ぎ　あ　　　さるのいってん　ぎょしゅつ　〔おんかりぎぬ　　おんきば 〕
嘉祿元年(1225)十二月大廿日丙子。快霽。今日、若君御移徙之儀有り。申一點�@に御出〔御狩衣�A。御騎馬〕。

うまのこくによしかんもん　　の　　　　　　いへど　　 じこく　すいい　　 かく　　ごと　　　　また　　せんれい　こ　　ことみな　よ　　ぎ　　　な
午刻之由勘文に載せると雖も、時刻推移し此の如し。又、先例は此の事皆夜の儀と爲す。

このたび　 ぶしゅうはか　もう　 たま　　　　よって　はくちうなり　　こと　　おぼ　　め　　ところあ　　　　　うんぬん　　ぎょしゅつ　　ぎ
今度、武州計り申し給ふに依而白晝也。殊に思し食す所有りと云云。御出の儀。

ま　　　しょごだいぶ
先ず諸大夫

　　さこんのたいふしょうげんすけふさ　　　　　　　　　すおうのぜんじちかざね
　左近大夫將監佐房　　　　　　周防前司親實

　　さんじょうさこんのたいふしょうげんちかざね　　　　だいぜんりょうひろなか
　三條左近大夫將監親實　　　　大膳亮廣仲

　　ひょうえくらんどひろみつ　　　　　　　　　　　　　　　とうのこうとうよりたか
　兵衛藏人廣光　　　　　　　　藤匂當頼隆

　　ぜんのしきぶたいふみつひら　　　　　　　　　　　　いがのくらんど
　善式部大夫光衡　　　　　　　伊賀藏人

　　すおうのくらんど　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひょうえほうがんだい
　周防藏人　　　　　　　　　　兵衛判官代

　　ほうきのくらんど　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いずみのくらんど
　伯耆藏人　　　　　　　　　　和泉藏人

　　　　いじょうじうににんせんこう
　　以上十二人先行す

つぎ　　おんうしろ
次に御後

いち　　ぶしゅう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いち　　おなじきじろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いち　　えちごのかみ
一　武州　　　　　　　　　　　一　同次郎　　　　　　　　　　　一　越後守

に　　　するがのかみ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　に　　　おおいのすけ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　に　　　さがみのしろう
二　駿河守　　　　　　　　　　二　大炊助　　　　　　　　　　　二　相摸四郎

さん　　みうらのするがぜんじ　　　　　　　　　　　　　　 さん　　おなじきじろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さん　　おなじきさぶろう
三　三浦駿河前司　　　　　　　三　同次郎　　　　　　　　　　　三　同三郎

し　　　おなじきしろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 し　　　ちうじょうでわぜんじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　し　　　まちののみんぶたいふ
四　同四郎　　　　　　　　　　四　中條出羽前司　　　　　　　　四　町野民部大夫

ご　　　ひゅうがのすけ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ご　　　おやまのしもつけさえもんのじょう　　　　　　　　　　ご　　　ゆうきのさえもんのじょう
五　日向介　　　　　　　　　　五　小山下野左衛門尉　　　　　　五　結城左衛門尉

ろく　　ごとうのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　 ろく　　ささきのしろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　ろく　　おきのさぶろうさえもんのじょう
六　後藤左衛門尉　　　　　　　六　佐々木四郎左衛門尉　　　　　六　隱岐三郎左衛門尉

しち　　かとうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　 しち　　あまののさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　しち　　いがのしろうさえもんのじょう
七　加藤左衛門尉　　　　　　　七　天野左衛門尉　　　　　　　　七　伊賀四郎左衛門尉

はち　　おなじきろくろうさえもんのじょう　　　　　　　　　はち　　うさみのひょうえのじょう　　　　　　　　　　　　　　　 はち　　ちうじょうじろうさえもんのじょう
八　同六郎左衛門尉　　　　　　八　宇佐美兵衛尉　　　　　　　　八　中條次郎左衛門尉

く　　　ささきのたろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　く　　　つちやのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　く　　　かのうのとうじひょうえのじょう
九　佐々木太郎左衛門尉　　　　九　土屋左衛門尉　　　　　　　　九　狩野藤次兵衛尉

じゅう　なかさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　じゅう　えんどうさこんしょうげん　　　　　　　　　　　　　　　　じゅう　 しまづのたいふほうがん
十　中左衛門尉　　　　　　　　十　遠藤左近將監　　　　　　　　十　嶋津大夫判官

　ら　ぐぶ　　　　　ぜんご　　 みな かち なり　　みなみもんよ　にゅうぎょ せし　 たま　　　　なんていちうおう　　をい　　げぎょせし　　たま
等供奉す。前後の皆歩儀也。南門自り 入御 令め給ふ。南庭中央に於て下御令め給ふ。

おんくるまよせどなら　　　ふたむねろう　へ　　　　しんでん　きざはし　ま　　　にゅうぎょ　　　ぶしゅう　おんみす　かか　　　　い　たてまつ　られ　をはんぬ
御車寄戸并びに二棟廊を經て、寢殿の 階の間に入御す。武州 御簾を褰げ、入り奉　被　畢。

おんみょうごんのすけくにみちあそん　〔そくたい〕　へんばい　　こう　　　〔わかぎみげぎょ　　のちていちう　　 た　　　 とど　　　せし　　たま　　　　　あいだ　　さんこう　　〕　
　陰陽權助國道朝臣　〔束帶〕反閉に候ず〔若君下御の後庭中に立ち留ま令め給ふの間に參向す〕。

ろうへん　　をい　　ろく　〔　ごい　〕　　　　 たま
廊邊に於て祿〔五御衣〕を賜はる。

すおうのぜんじこれ　　と　　　　　ごしょ　　むか　　いっぱい　 たいしゅつ　　すいかは　ごしょ　　　もう　　 られ　　　　どうじょは これ　　りゃく
周防前司之を取る。御所に向い一拝し退出す。水火者御所に儲け被る。童女者之を略す。

また　あめうじ　〔おんうしかい は　　あお　　かりぎぬ　　き　　　これ　　　あいそ　　　〕　　　ひ　　　　　ないとうさえもんのじょうもりときこれ　　えき
又、黄牛〔御牛飼者��の狩衣を著て之に相副う〕を牽く。内藤左衛門尉盛時之を役す。

 そ 　　ご　　　　ぐぶにん　いげ　ていじょう　れつざ　　　　がんさん　 しき　　ごと　　　　しんもつ　　えく　　ひとあ
其の後、供奉人以下庭上に列座す。元三の式の如し。進物を役す人有り。

　　ぎょけん　　　　　　するがのかみ
　御劔　　　駿河守

　　ごちょうど　　　　　　みうらのするがぜんじ
　御調度　　三浦駿河前司

　　おんむかばきくつ　おおいのすけ
　御行騰沓　大炊助

　　いちのおんうま　　するがのじろう　　　　　　　　　　　　　　　　　おなじきさぶろう
　一御馬　　駿河次郎　　　　　　　　同三郎

　　にのおんうま　　　ささきのたろうさえもんのじょう　　　　　　　　　おなじきさぶろう
　二御馬　　佐々木太郎左衛門尉　　　同三郎

　　さんのおんうま　　おきのさぶろうさえもんのじょう　　　　　　　　 おなじきしろう
　三御馬　　隱岐三郎左衛門尉　　　　同四郎

　　しのおんうま　　　　かのうのとうじひょうえのじょう　　　　　　　　　かとうごろうひょうえのじょう
　四御馬　　狩野藤次兵衛尉　　　　　加藤五郎兵衛尉

　　ごのおんうま　　　　むつのしろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　おなじきごろう
　五御馬　　陸奥四郎　　　　　　　　同五郎

にゅうぎょののち　　ひとびと　さむらいどころ　をい　おうばん　おこな　れる　　うんぬん
入御之後、　人々　侍所　に於て垸飯を行は被と云云。

このたび　　ごいし　　　　こと　　をい　りゃくぎたるなり　　 さほう　　 みっかび　　　しき　　これ　　およばず　　うんぬん
今度の御移徙、事に於て畧儀爲也。作法は三ケ日の式、之に不及と云云。

参考�@時刻の點は、2時間を5等分したのが点。申なら15時〜15：24を一点、15：24〜15：48を二点、15：48〜16：12を三点、16：12〜16：36を四点、16：36〜17：00を五点。
参考�A狩衣は、〔もと、狩りなどのときに着たところから〕盤領(まるえり)で脇を縫い合わせず、くくり緒のある袖が後ろ身頃にわずかに付いているだけの衣服。地質は、布(ふ)を用いるので布衣(ほい)とも呼んだが、のちに絹綾(きぬあや)のものもできた。平安時代には公家の平常の略服であったが、鎌倉時代以後は公家・武家ともに正服、または礼服として用いた。現在は、神官の服装に見られる。狩襖(かりあお)。かりごろも。Goo電子辞書から

現代語嘉祿元年(1225)十二月大二十日丙子。快晴になりました。今日、若君三寅の引っ越し式をしました。申の一点(15:00〜15:24)午後三時頃に出発しました〔狩衣で乗馬です〕。昼頃と上申書に載せてましたが、ぐずぐずと時間が経過してこの様な有様です。又、先例では、引っ越しは皆夜となっています。今度は、泰時さんの意見で昼間にしました。特に思うことがあったようです。お出ましの義は、

まず、五位の人　左近大夫将監大江大江佐房　周防前司中原親実　三条左近大夫将監親実　大膳亮広仲　兵衛蔵人毛利広光　藤原匂当頼隆
　三善式部大夫光衡　伊賀蔵人　周防蔵人　兵衛判官代　伯耆蔵人　和泉蔵人　以上12人先を行く

次に、若君の後ろは
一　武州泰時　　　　　　　　同次郎時真　　　　　　　越後守朝時
二　駿河守重時　　　　　　　大炊助有時　　　　　　　相模四郎朝直
三　駿河前司三浦義村　　　　同次郎泰村　　　　　　　同三郎光村
四　同四郎家村　　　　　　　中条出羽前司家長　　　　町野民部大夫康俊
五　日向介　　　　　　　　　小山下野左衛門尉朝長　　結城左衛門尉朝光
六　後藤左衛門尉基綱　　　　佐々木四郎左衛門尉信綱　隠岐三郎左衛門尉二階堂行義
七　加藤左衛門尉行景　　　　天野左衛門尉政景　　　　伊賀四郎左衛門尉朝行
八　同六郎左衛門尉光重　　　宇佐美兵衛尉　　　　　　中条次郎左衛門尉家平
九　佐々木太郎左衛門尉重綱　土屋左衛門尉宗光　　　　狩野藤次兵衛尉為光
十　中左衛門尉　　　　　　　遠藤左近将監為俊　　　　島津大夫判官忠久

などがお供をしました。前後とも皆歩きです。南門(宇都宮辻子)からお入りになりました。南庭中央で、馬から降ろされました。牛車を寄せる間の戸と二棟の廊下を通って、寝殿の入り口の一段低い部屋に入りました。泰時さんが御簾を上げて押さえてて、お入れになりました。陰陽権助安陪國道さん〔束帯〕が魔を祓うまじないの歩きをしました。〔若君三寅は右馬から降りた後、庭の真ん中で待っていました〕廊下で褒美〔着物〕を貰いました。周防前司中原親実が手渡しました。安陪國道は御所に向って一礼して出て行きました。水や火の守り神を御所に祀りました。これを捧げる童女は略しました。又、牛車の牛〔厩務員は青い狩衣を着てついています〕を引き出しました。内藤左衛門尉盛時が指揮担当しました。その後、お供の人達始め皆庭に並んで座りました。正月の三が日の式典と同じです。

献上品を差し出す人　刀は駿河守重時　弓矢は駿河前司三浦義村　乗馬袴と乗馬沓は大炊助有時
一番目の馬は、三浦駿河次郎泰村 と 同三郎光村
二番目の馬は、佐々木太郎左衛門尉重綱 と 同三郎泰綱
三番目の馬は、隠岐三郎左衛門尉二階堂行義 と 同四郎二階堂行久
四番目の馬は、狩野藤次兵衛尉為光 と 加藤五郎兵衛尉光資
五番目の馬は、陸奥四郎政村 と 同五郎実義

寝殿にお入りの後、人々は侍だまりで御馳走のふるまいを行いましたとさ。今度の引っ越し式は、実際には略式です。作法は三が日の式典ほどではありませんでしたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しんごしょ　　た　　　お　　　れるところのあめうじ　　けさ　これ　　ひ　　　いだされ
嘉祿元年(1225)十二月大廿一日丁未。霽。新御所に立ち置か被處之黄牛、今朝之を引き出被る。

また　 そうしゅう　 ぶしゅう　 じょきょう　　するがのぜんじ　 おきのにゅうどうら　ごしょ　　まい　　　　ひょうぎはじ　　あ　　　　　じんじゃぶつじら　　 こと　　うんぬん
又、相州、武州、助教�@、駿河前司、隱岐入道等御所へ參る。評議始め有り。神社佛事等の事と云云。

つい　 とうざい　さむらい　おくだしゅう　こと　そ　　　さた　あ
次で東西の侍の御簡衆の事其の沙汰有り。

わかぎみ　ごようちのあいだ　　ごしょ　　きんきん　　つ　　　　ひがしこさむらいに　ちゃくとうすべ　　のよし　　　ごげこう　の　はじ　　　 さだ　 られ　 うえは　　　しさい　　およばず
若君御幼稚之間、御所の近々に就き、　東小侍　于著到可き之由、御下向之始めに定め被る上者、子細に不及。

ただ　にしのさむらい　 むじんのじょう　　 これい　　 そむ　　　 に　　　　　　　や
但し 西侍　は無人之條、古例に背くに似たらん乎。

よっ　　そうしゅう いげ　　しか　　べ　　 ひとびと　 をい　　は　　みょうだい　 さ　　　しん　　　 かどかど　　けいご　　　ごと　　のこと　　　　れんじつ しゅくや　そ　　つと　　　いたせし　 べ　　　なり
仍て相州以下の然る可き人々に於て者、名代を差し進じ、門々の警固の如き之事は、連日 夙夜其の勤めを致令む可き也。

とおとうみのくに　いげ　じうごかこく　　　ごけにんら　　　じうにかげつ　　もっ　　か　　　ぶげん　の　たしょう　　よって　つ　　 あ　　　　 べ
遠江國已下十五ケ國の御家人等、十二ケ月を以て彼の分限之多少に依而着け宛てる可し。

じしん　　 しゅっしの　ひ　たり　いへど　　みょうだいを　にしのさむらい　しん　 べ　　　　〔　これ　　おおばん　　ごう　　〕　　のよし　　ぎじょう　をはんぬ
自身の出仕之日爲と雖も、名代於　西侍　に進ず可き〔之を大番と号す〕之由、議定し畢。

これ　　うだいしょうぐんのおんとき　　とうばん　しょう　　　　ある　　　りょうげつ　わた　　　　 ある　　　 いちげつ　 かぎ　　 ちょうじつまいよ しこう せし　　のれいなり
是、右大將軍之御時、當番と稱し、或ひは兩月に亘り、或ひは一月を限り、長日毎夜伺候令む之例也。

つぎ　　どうしょ　　をい　　はじ　　 じょうばん　 ひと　　お　　　れるなり
次に同所に於て始めて定番の人を置か被也。

いはゆる　さくらいのじろう　　あべのみつたか　いまいずみのたろう　おおやのまさみつ　やまちのろくろう　たちばなもちやす　いちのさぶろう　たいらのしげとお
所謂、櫻井次郎・安倍光高、 今泉太郎・大宅政光、 八町六郎・橘以康、　市三郎・平重遠、

おさだのたろう　ふじわらこれさだ　いいだのたろう　　もののべのただしげ　　あみのこじろう　　ともののりかね　いげ　なり
長田太郎・藤原維定、飯田太郎・物部忠重、 阿美小次郎・伴範兼 已下也。

参考�@助教は、師員。律令制で，大学寮の職員。明経科に置かれ，博士を助けて教授や課試にあたった。定員 2 名。助(すけ)博士。
参考�A桜井次郎は、18巻建仁3年10月8日条に桜井次郎光高と出ているので、以下を14人ではなく、仮名(けみょう)実名と書き7人との説もある。例えば桜井次郎安陪光高、今泉太郎大宅政光、八町六郎橘以康、市三郎平重遠、長田太郎藤原維定、飯田太郎物部忠重、阿美小次郎伴範兼とする。お札衆の札には仮名しか書かない。実名は呪い調伏に使われるから。

現代語嘉祿元年(1225)十二月大二十一日丁未。晴れました。新御所に飼いおいている牛車用の牛を、今朝引っ張り出しました。又、時房・泰時・助教中原師員・駿河前司三浦義村・隱岐入道行西二階堂行村が御所へ参りました。政務会議始め(吉書始め)を行いました。まず神社仏閣についてです(2春耕秋穫・3政務)。次に東西の侍詰所の出欠札の連中(お札衆)につて、検討がありました。若君三寅が幼いうちは、なるべくそばに居るように、東の小侍詰所に詰めるように、京都から鎌倉へおいでになった当初に決めているのでそのままにします。但し、西の侍詰所が無人になってしまうのは、昔の例に反することになります。それなので、時房さんを始めとする古参の人々は、代理者を出仕させて門などを警備するような事を、連日連夜勤めるようにしてください。遠江国から東の十五か国の御家人は、十二か月を月毎に、その所帯の大きさに合わせて負わせます。自分が東の侍詰所への出勤の日であっても、代理人を西の侍詰所に勤務させる〔これを大番と云います〕ように、衆議決定しました。これは、頼朝様の時代に、当番と名付けて、場合によっては二か月、又は一ヶ月に決めて、昼一日や一晩中勤務していた例と同じです。次にその西の侍詰所の順番の人を決めました。それは、桜井次郎・安倍光高、今泉太郎・大宅政光、八町六郎・橘以康、市三郎・平重遠、長田太郎・藤原維定、飯田太郎・物部忠重、阿美小次郎・伴範兼以下です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 しきぶのたいふみつむねほっし 〔ほうみょうこうさい〕　こうめん　 こうむ
嘉祿元年(1225)十二月大廿二日戊申。�ﾘ。式部大夫光宗法師〔法名光西〕厚免を蒙り、

はいしょよ　　 きさん　　　　　ほんりょうはっかしょ　　これ　かへ　　たま　　　 なり
配所自り歸參し、本領八ケ所、之を返し賜はる也。

現代語嘉祿元年(1225)十二月大二十二日戊申。晴れです。式部大夫伊賀光宗法師〔法名光西〕は許可されて、流罪先から帰って来て、元の領地八か所を返されました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　みのこく　　そうしゅう にはか　びょうのう　すこぶ　ききゅうなり　　よっ　　げしゃよりかね　　めされ　　　うんぬん
嘉祿元年(1225)十二月大廿三日己酉。�ﾘ。巳刻。 相州 頓に病惱。 頗る危急也。仍て驗者頼益を召被ると云云。

現代語嘉祿元年(1225)十二月大二十三日己酉。晴れです。時房さんが急に病気になりました。しかも重態です。そこで修験者の頼益を呼んだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ  　わかぎみ　おんかた　〔おんとしやっつ〕　おんしゅふく　さるのこく　にとうごしょなんめん　　をい　　そ　　　ぎ　あ
嘉祿元年(1225)十二月大廿九日乙卯。�ﾘ。若君の御方 〔御年八〕 御首服。申刻、二棟御所南面に於て其の儀有り。

ごとうのさえもんのじょうもとつな　　きょう　　　ぶぎょう　　な　　　なり　　じこく　　しゅつご　　にじょうじじゅうのりさだこれ　ふち　たてまつ
後藤左衛門尉基綱、今日の奉行を爲す也。時刻に出御。二條侍從教定之を扶持奉る。

ぶしゅう　　むつのかみよしうじ　いげ　　さむらい　ざ　　　つ　　れる　　つい　げんぷく　 ぞうぐ これ　　お　　　れる
武州、陸奥守義氏已下、 侍の座に著か被。次で元服の雜具之を置か被。

するがのかみ ばいぜん　こう　　　すおうのぜんじちかざね　　うまのすけなかよしら えきそうたり　　りはつ　　かかん　　ぶしゅう
 駿河守 陪膳に候ず。周防前司親實、右馬助仲能等役送爲。理髪、加冠は武州。

　ごみょうじ　〔よりつね〕　　　　さきのとうぐうごんのだいしん としみちあそん　これ　えら　　もう　　　　そうしゅうさんぬ　にじうさんにちいご びょうあのあいだ　きょうしゅっしたまはず　　うんぬん
御名字〔頼經〕。　前春宮權大進　俊道朝臣　之を撰び申す。相州去る 廿三日以後 病痾之間、今日出仕給不と云云。

現代語嘉祿元年(1225)十二月大二十九日乙卯。晴れです。若君三寅〔数え年の八才〕の元服です。午後四時頃、二棟の御所でその式典をしました。後藤左衛門尉基綱が、今日の進行役です。予定時刻にお出ましです。二条侍従教定が介添えです。泰時さん・陸奥守足利義氏ほかが、侍の指定座に座りました。次に元服用の道具が置かれました。駿河守重時が給仕役です。周防前司中原親実と右馬助伊賀仲能が運び役です。髪を切るのと冠を載せる役は泰時です。名前は頼経。前春宮権大進藤原俊道さんが選んだのです。時房さんは23日後病気中なので、今日は出仕を見合わせましたとさ。

嘉禄二年正月へ

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