吾妻鏡入門吾妻鏡脱漏

嘉祿二年丙戌(1226)正月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれかぜしずか　しんぞうごしょ　おうばん　ぶしゅう　さた　しん　 せし　 たま
嘉祿二年(1226)正月小一日丁巳。天�ﾘ風靜。新造御所で垸飯。武州沙汰進じ令め給ふ。

そうしゅう　いげ　ほい　　 　き　にしのさむらい　こう　　　　れい　　ごと　　　　ではぜんじいえなが　こくげん　　もう
相州已下布衣�@を著て 西侍 に候ずは例の如し。出羽前司家長刻限を申す。

つい　　しゅつご　　〔おんほい〕　　　にじょうじじゅうのりさだ なんめん　おんみすさんかけん　あ　　　　　　　これ　　　 さき　 ひとびとにわ　　つ
次で出御〔御布衣〕。二條侍從教定 南面の御簾三ケ間を上げる。之より先、人々庭に著く。

するがぜんじよしむら　　〔そくたい〕　ぎょけん　〔ふくろ　　い　　　〕　　も　　　まい　　　　ごちょうど　　さきのおおいのすけありとき　〔　ほい　〕　 これ　　えき
駿河前司義村〔束帶〕御劔〔袋に入る〕を持ち參る。御調度は 前大炊助有時 〔布衣〕之を役す。

おんむかばきくつ　　ではぜんじいえながこれ　　も　　　まい
御行騰沓は、出羽前司家長之を持ち參る。

つい　　おんうまごひき　　いちのおんうま　〔くらおき〕　　さがみのしろう　　みんぶのじょうのりしげ これ　　ひ
次で御馬五疋。 一御馬〔置鞍〕は相摸四郎�A、 民部丞範重 之を引く。

参考�@布衣は、布製の狩衣の別称。狩衣は武家社会では、束帯に次ぐ礼装であった。かつて民間で用いられた狩装束が、簡便さと軽快さから公卿に取り入れられ日常着となった。現在は神職の正装である。
参考�A相摸四郎は、北条朝直(時房息)。

現代語嘉祿二年(1226)正月小一日丁巳。空は晴れて風も静かです。新築の御所で御馳走のふるまいです。武州泰時さんが負担献上しました。相州時房さんはじめ皆狩衣の礼装を着て、西の侍詰所に控えるのはいつもの通りです。出羽前司中条家長が開始時間を告げました。若君頼経のお出まし〔狩衣の礼装〕です。二条侍従飛鳥井教定が、南側の御簾を上げました。その前に、人々は庭に座っています。駿河前司三浦義村〔礼装の束帯〕が献上の刀〔袋入り〕を持ってきました。弓矢は前大炊助有時〔狩衣の礼装〕の役です。乗馬袴(ローハイド)と乗馬沓は出羽前司中条家長が持ってきました。次に引き出物の馬五頭。一番目の馬〔鞍乗せ〕は、相模四郎朝直と民部丞範重が引き出しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　おうばん　えちごのかみともとき これ　　　さた　　　　　ぎょけんやく　するがのかみしげとき
嘉祿二年(1226)正月小二日戊午。霽。垸飯。 越後守朝時�@之を沙汰す。御劔役は駿河守重時。

参考�@越後守朝時・駿河守重時は、泰時の弟。泰時・朝時・重時・政村・実泰・有時の順。

現代語嘉祿二年(1226)正月小二日戊午。晴れました。御馳走のふるまいは、越後守朝時が負担献上しました。刀を献上する役は駿河守重時です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　おうばん　するがぜんじよしむら これ　 しん　　　　ぎょけん　さきのおおいのすけ これ　えき
嘉祿二年(1226)正月小三日己未。�ﾘ。垸飯。駿河前司義村之を進ず。御劔は　前大炊助　之を役す。

現代語嘉祿二年(1226)正月小三日己未。晴れです。御馳走のふるまいは、駿河前司三浦義村が負担献上しました。刀を献上する役は前大炊助北条有時です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 ごにんんかん　こと　　きょうと　　　もうされ　　ため　　ししゃ　　しん　　られ　　べ　　　のよし　　そ　　　さた　あ
嘉祿二年(1226)正月小八日甲子。�ﾘ。御任官の事、京都へ申被ん爲、使者を進じ被る可し之由、其の沙汰有り。

　ささきのしろうさえもんのじょうのぶつな　　おお　 べ　　　　うんぬん
佐々木四郎左衛門尉信綱に仰す可しと云云。

現代語嘉祿二年(1226)正月小八日甲子。晴れです。若君頼経への官職授与について、京都へ申し入れるため、派遣員を行かせようと検討しました。佐々木四郎左衛門尉信綱に命じる事にしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぶしゅう　　おんてい　　をい　　　するがのぜんじら　　ごと　　のしゅうさんかい　　　はいしゅおくりものらあ　　　　うんぬん
嘉祿二年(1226)正月小九日乙丑。武州の御亭に於て、駿河前司等の如き之衆參會す。盃酒贈物等有りと云々。

現代語嘉祿二年(1226)正月小九日乙丑。泰時さんの屋敷に、駿河前司三浦義村達が集まりました。酒盛りとお土産がありましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　ごにんかんなら　　　せいいたいしょうぐん せんげ　　ことら　　 のぶつな　 もっ　　きょうと　　をい　　もうされ　　べ　　　　　よっ
嘉祿二年(1226)正月小十日丙寅。�ﾘ。御任官并びに征夷大將軍 宣下の事等、信綱を以て京都に於て申被る可きに依て、

きょう　おんしょ　　ととの　られ　　　じょきょう　もろかず　とらのひ　 ほうしょを　かかずの よしこれ　　もう　　　いへど　　　きゅうじたるのあいだ　　ゆうようされ　　　　うんぬん
今日御書を調へ被る。助教�@師員�A寅日は奏書於書不之由之を申すと雖も、急事爲之間、宥用被ると云云。

参考�@助教は、律令制で，大学寮の職員。明経科に置かれ，博士を助けて教授や課試にあたった。定員2名。助(すけ)博士。
参考�A師員は、中原師員(1185-1251)。1218に助教。中原親能・大江広元の従兄弟。後評定衆となり、大夫外記となり、摂津守明経博士となる。法名は行厳。

現代語嘉祿二年(1226)正月小十日丙寅。晴れです。若君頼経の官職への就任と征夷大将軍の授与宣下について、佐々木信綱に使いを指せて京都朝廷へ申し入れるために、今日公文書を用意しました。助教中原師員が「寅の日は公文書を書くものではない」と云ってるけど、急ぐので良い事にしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　　よ　　い　　　くも　　　　けさ　ささきのしろうさえもんのじょうのぶつな　　　しせつ　　な　　じょうらくせし　　　　うんぬん
嘉祿二年(1226)正月小十一日丁卯。�ﾘ。夜に入り陰り。今朝佐々木四郎左衛門尉信綱、使節と爲し上洛令むと云云。

現代語嘉祿二年(1226)正月小十一日丁卯。晴れです。夜になって曇りました。今朝、佐々木四郎左衛門尉信綱は、幕府の派遣員として京都へ上りましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くもり　げっしょく せいげんせず　　やはん　およ　　　げつりんいささ　うんたん　　すか　　　いへど　　ぎょうてん　いんえい　　　　うんぬん
嘉祿二年(1226)正月小十六日壬申。陰。月蝕 正見不。 夜半に及び、月輪聊か雲瑞を透すと雖も、曉天に陰曀すと云云。

現代語嘉祿二年(1226)正月小十六日壬申。曇りです。月食はきちんと見えません。夜中になって、月が多少雲間に透けて見えましたが、夜明け前に隠れてしまいましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くもり　　ばんとう　　ゆきふ　　　よもすがらやすまず
嘉祿二年(1226)正月小十八日甲戌。陰。晩頭に雪降る。終夜不休。

現代語嘉祿二年(1226)正月小十八日甲戌。曇りです。夜になると雪が降り始め、一晩中降っていました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さくじつよ　　　　　 けさ　　　およ　　　　ゆきふ　　 つも　 ことのしゃくよ　　きんねん ひるいな　　　　　うんぬん
嘉祿二年(1226)正月小十九日乙亥。昨日自り、今朝に及び、雪降り積る事二尺餘。近年比類無しと云云。

現代語嘉祿二年(1226)正月小十九日乙亥。夕べから今朝にかけて雪が降り、60ｃｍ以上も積もりました。近頃では珍しい事だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　こんぎょう　さいせい てんせい たいはく　　さんせい あいおか　　　うんぬん
嘉祿二年(1226)正月小廿五日辛巳。�ﾘ。今曉、歳星�@塡星�A太白�Bの三星 合犯すと云云。

おんつつし　　ぶんあ　　　のよし　　してんこれ　　もう　　　　かんもん　　およ　　　　うんぬん
御愼みの文有る之由、司天之を申し、勘文に及ぶと云云。

参考�@歳星は、木星。
参考�A塡星は、土星。辰星(しんせい)・鎮星(ちんせい)とも。
参考�B太白星は、金星。参考の【24】

現代語嘉祿二年(1226)正月小二十五日辛巳。晴れです。今朝夜明け頃に木星が土星と金星の三つの星がお互いに犯しました。行動を控えた方が良いと天文方が上申しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　でんちりょうしょ　 もっ　　すごろく　かけもの　な　　 こと　　ばくぎ　　こと
嘉祿二年(1226)正月小廿六日壬午。�ﾘ。田地領所を以て双六の賭と爲す事、博戯の事、

なら　　　　 　しすいこ　　　り　いちばい　　す　　　　 およ　　こせん　　　り　はんばい　　す　　　　　こと　　せんじのじょう　　まか　　　 いっこう　 きんだんすべ
并びに私出擧�@の利一倍�Aを過ぎ、及び擧錢�Bの利半倍を過ぎる事、宣旨之状に任せ、一向に禁断可し。

いはん　やからあ　　 ば　 きょうみょう　ちうしんすべ　　のむね　　おお　 くだされ　　　　うんぬん
違犯の輩有ら者、交名を注進可き之旨、仰せ下被ると云云。

参考�@私出擧は、個人が米を貸す事。出擧米とは、律令政府が種籾を農民に貸し付け、同量の利子をつけて返納させていたが、やがて貸付を略し利子だけを取るようになった。
参考�A一倍とは、倍が一つなので二倍。
参考�B擧錢は、出擧銭。銭の貸付。

現代語嘉祿二年(1226)正月小二十六日壬午。晴れです。田圃畑の領地を、双六の賭けにする事、博打を討つこと、それに個人的な米の貸付の利子を貸付額以上取る事、銭の貸付の利子が貸付額の半額を上回る事などは、朝廷の命令書どおりに全て禁止します。違反者が居れば、名前を書き出して提出するように、命令されましたとさ。

参考同日付下文（鎌倉幕府法　第二部　追加法）

　下　諸國御家人等
　可早守　宣旨狀令禁斷條々事
一　可令搦禁拘引人并賣買人輩事
　右　嘉禄元年十月廿九日　宣旨狀偁　略人之罪　和誘之科　章條所差　袷恰不輕　兩事之禁　相犯之輩　時俗積習　未懲改　慥仰京畿諸國所部官司等　可令搦進彼輩　知而不糺　興同罪者
一　可停止博戯輩事
　右　同狀偁　近年遊蕩之輩　博戯之處　不限度數　賭以宅財　勝負之間　喧嘩殊甚　興宴之思　變及闘殺　雜律之文　已准盜論　宜仰檢非違使　且搦進其身　且令處其科　抑意錢之好者　餘戯之内也　當時濫吹　起從斯事　一切加禁遏　同令斷罪者
一　可禁斷私出擧利過一倍并擧錢利過半倍事
　右　同狀偁　出擧之利　令格相存　而下民之輩　至于過期　廻利爲本　過責爲先　未經幾歳　忽及數倍　殆煩王臣家　動妨諸庄園　如斯之漸　費在朝家　且仰京畿諸國等　且任弘仁建久格　雖過四百八十日　不得過一倍　於擧錢者　宜限一年　収半倍利　縱雖積年紀　莫令加�掾@縱雖出證文　莫令敍用　若猶有違犯者　令負人觸訴使廳　糺返文書　没官其物者
　以前條々事　宣旨到來之即下知先畢　守狀跡可令禁斷焉　宣下之旨　其篇雖多　於件三ケ條者　嚴制殊重　若有違犯之輩者　不日可注進交名之狀　依鎌倉殿仰下知如件
　　　嘉禄二年正月廿六日
　　　　　　　　　　　　　　　　武蔵守平　(判)（泰時）
　　　　　　　　　　　　　　　　相模守平　(判)（時房）

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　みうまりょうとき　　 らいう おおかぜ
嘉祿二年(1226)正月小廿八日甲申。巳午兩時。雷雨大風。

現代語嘉祿二年(1226)正月小二十八日甲申。午前九時頃から午後一時頃までの二刻(四時間程)雷雨と大風です。

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