吾妻鏡入門吾妻鏡脱漏

嘉祿二年丙戌(1226)十一月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　ごふれい　　こと　　すおうぜんじちかざねぶぎょう　　な　　　　おんうら　 おこなはれる
嘉祿二年(1226)十一月小二日癸丑。將軍家御不例の事、周防前司親實奉行と爲し、御占を行被。

はるかた　みちつぐ　くにつぐら めし　 おう　　　うんぬん
�ﾘ賢、道継、國継等召に應ずと云云。

現代語嘉祿二年(1226)十一月小二日癸丑。将軍頼経様の病気について、周防前司中原親実が担当して占いを行わせました。安陪晴賢・安陪道継・安陪國継さん達が呼ばれて来ましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　こんぎょうごふれい　　おいのり　ため　　しちざ　たいさんふくんさい　 おこな　れる
嘉祿二年(1226)十一月小三日甲寅。�ﾘ。今曉御不例の御祈の爲、七座�@泰山府君祭�Aを行は被乎。

ちかもと　 はるかた　 しげむね　はるもと　 のぶかた　 ふみもと　 みちつぐら　　ほうしなり　　　　いぬのこく　つき　 たいはくせい　おか　　　　〔あいさ　　　　　　　にしゃくよ〕
親職、�ﾘ賢、重宗、�ﾘ職、宣賢、文元、道継等が奉仕也。」戌刻、月、太白星を犯す。〔相去ること二尺餘〕

参考�@七座は、七人で。
参考�A泰山府君祭は、安倍晴明が創始した祭事で月ごと季節ごとに行う定期のものと、命に関わる出産、病気の安癒を願う臨時のものがあるという。「泰山府君」とは、中国の名山である五岳のひとつ東嶽泰山から名前をとった道教の神である。陰陽道では、冥府の神、人間の生死を司る神として崇拝されていた。延命長寿や消災、死んだ人間を生き帰らすこともできたという。

現代語嘉祿二年(1226)十一月小三日甲寅。晴れです。今朝の夜明けに御病気の平癒を祈るため、七人の泰山府君祭を行いました。安陪親職・安陪晴賢・安陪重宗・安陪晴職・安陪宣賢・安陪文元・安陪道継達が勤めました。午後八時頃、月が金星の軌道を犯しました〔60ｃｍのところです〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かいせい　 よ　　　い　　　つるがおかわかみや しゅうり　せんぐうなり　　みしょうたい　ほんぐう　 をい　 わた　たてまつ
嘉祿二年(1226)十一月小四日乙卯。快霽。夜に入り、鶴岳若宮�@修理の遷宮也。御正躰を本宮に於て渡し奉る。

ぶしゅうまたさんぐう
武州又參宮す。

いぬのこく　けいこくせい　さいせい これ　おか　　　うんぬん
戌刻、熒惑星、歳星 之を犯すと云云。

参考�@鶴岳若宮は、八幡宮下宮。

現代語嘉祿二年(1226)十一月小四日乙卯。快晴です。夜になって鶴岡八幡宮修理の引っ越しです。神様本体を元の宮へ引っ越し戻しました。泰時さんもお参りです。午後八時頃、火星が木星の軌道を犯しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　いぬのこく　つきてんせい　りょうはん　　つくけいこくせい　おか　　 いのこく　 つきさいせいこれ　おか
嘉祿二年(1226)十一月小五日丙辰。�ﾘ。戌刻、月填星を凌犯し、月熒惑星を犯す。亥刻、月歳星之を犯す。

現代語嘉祿二年(1226)十一月小五日丙辰。晴れです。午後八時頃、月が填星土星の軌道を犯し、又月が熒惑星火星の軌道を犯しました。午後十時頃には月が歳星木星の軌道を犯しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むつのくにひらいずみえんりゅうじ　〔もうつじ　　ごう　　〕　　しょうぼう
嘉祿二年(1226)十一月小八日己未。陸奥國平泉圓隆寺�@〔毛越寺と号す〕燒亡す。

ときに　こ　わざわいあ　　のよし　　かまくらちう　　つ　　まわ　　　　ものこれあ
時于此の災有る之由、鎌倉中に告げ廻るの者之有り。

　ふしぎ　　　い　　　　　べ　　　　　うんぬん　　しか　　　　ごじつ　　ふうぶんせし　ところ　　か　　　じこくなり
不思議と謂ひつ可しと云云。然るに後日、風聞令む所、彼の時刻也。

これ　　ふじわらきよひら こんりゅう　しょうじゃなり　　れいじょう　しょうごん　　をい　　は　　　わがちょうむそう　うんぬん
是、藤原�C衡 建立の 精舎也。 靈塲の 莊嚴の於て者、吾朝無双�Aと云云。

うだいしょうぐん　　ぶんじごねん おうしゅう せいばつのついで　　　じゅんれいせし　　たま　　ののち　　こと　　いんこうあ　　　　うんぬん
右大將軍、文治五年 奥州 征伐之次に、順礼 令め給ふ之後、殊に信仰有りと云云。

参考�@圓隆寺は、毛越寺の金堂。毛越寺についての唯一の記事は、九巻文治五年(1189)九月十七日条にある。によると基衡の建立とある。
参考�A吾朝無双は、わが国には較べるものが無い。不二も同意語で不二山が富士山となる。

現代語嘉祿二年(1226)十一月小八日己未。陸奥国平泉の円隆寺〔毛越寺とも云います〕燃えてしまいました。その時、この事件を鎌倉で云って歩いた者がおります。不思議な事と云えますね。しかし後日、噂の流れたのはその時間でした。これは藤原清衡が立てたお寺です。霊場としての荘厳さは我が国に比べる者のないとも謂われていました。頼朝様が文治五年(1189)奥州合戦のついでに、お参りされたあと、特に信仰していたそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　しょうぐんけ　　ごふれい　　　ごげんきのあいだ　　おんもくよくの ぎ あ　　　　うんぬん
嘉祿二年(1226)十一月小十三日甲子。霽。將軍家の御不例、御減氣�@之間、御沐浴之儀有りと云云。

参考�@減氣は、身体に取り付いた病の気が減少した。すっかりなくなると元の気に戻り、元気になる。

現代語嘉祿二年(1226)十一月小十三日甲子。晴れました。将軍頼経様の御病気が良くなってきたので、穢れを落とす沐浴式を行いましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　いぬのこく　さいせい こくせい　おか　　　うんぬん
嘉祿二年(1226)十一月小十四日乙丑。霽。戌刻。歳星 惑星を侵すと云云。

現代語嘉祿二年(1226)十一月小十四日乙丑。晴れました。午後八時頃、木星が火星の軌道を犯しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　てんぺん　　おいのりら　　しぎょうされ
嘉祿二年(1226)十一月小廿六日丁丑。霽。天変の御祈等を始行被る。

ないほう　　ほくとぐ　　　 げてん　 てんちさいへん　　ぞくしょう　げつようら　　まつりなり
内法は北斗供。外典は天地災変、属星、月曜等の祭也。

また　　こんげつよ　　つきなみ　たいさんふくんさい　 おこな　れるべ　　　　うんぬん
又、今月自り月次�@の泰山府君祭を行は被可しと云云。

参考�@月次は、毎月。

現代語嘉祿二年(1226)十一月小二十六日丁丑。晴れました。天の星の運航の異常を治めるお祈りを始めました。仏教では北斗星供養。仏教以外では、天地災変祭・属星祭・月曜祭です。又、今月から毎月の泰山府君祭を行うことにしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　いぬのこく　たいはく てんせい これ　　おか
嘉祿二年(1226)十一月小廿七日戊寅。霽。戌刻、太白 填星 之を犯す。

現代語嘉祿二年(1226)十一月小二十七日戊寅。晴れました。午後八時頃、金星が土星の軌道を犯しました。

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