吾妻鏡入門吾妻鏡脱漏

嘉祿三年丁亥(1227)五月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　ろくはら　　　　ししゃさん　　もう　　　　　い
嘉祿三年(1227)五月小一日己卯。�ﾘ。六波羅の使者參じ申して云はく。

さんぬ　つき にじうににち ひつじのこく　つちみかどむろまち よ　　　しっか　　みなみ　　かでのこうじ　　　　いた
去る月　廿二日　未刻、土御門室町 自り失火、南は勘解由小路に至る。

ひがしかぜ しきり　あお　　　よえん　だいだい　およ　　　じょうきゅうがんねん いらい しんぞうされ　ところの でんしゃ　もんう　　ことごと　もっ　　かいじん　　な　　　　うんぬん
 東風 頻に扇ぎ、餘炎大内に及び、承久元年 以來 新造被る所之 殿舎、門宇、盡く以て灰燼と爲すと云云。

現代語嘉祿三年(1227)五月小一日己卯。晴れです。六波羅からの使いが来て報告しました。「先月22日午後二時頃に、土御門室町から失火があり、南は勘解由小路まで延焼しました。東風が強かったので、炎は大内裏にまで来て、承久元年(1219)から新築してきた建物も門なども全て燃えて灰になってしまいました。」だとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぞういせだいじんぐうやくぶくまい　　　こと　　しょこく　ききん　　ひみん　ごうき　わきま　　　　いた　　がた　のおもむき　そうもんすで　をはんぬ
嘉祿三年(1227)五月小二日戊辰。造伊勢太神宮役夫工米�@の事、諸國飢饉。疲民合期の弁へを致し難き之 趣、奏聞既に 畢。

ちょくとう　またれる　のところ　 おんそま　 ようとうけっきょ　　　およ　　のよし　　つか　ら　しゅうそのあいだ
勅答を待被る之處、御杣�Aの用途闕如�Bに及ぶ之由、使い等愁訴之間、

ぶしゅう　　ぶん　　するが いず りょうこくえきら　　をい　　は　　　すいこ　　め　　　ごさたをはんぬ
武州の分の駿河伊豆兩國役等に於て者、出擧�Cを召し御沙汰訖。

 りぶん　　いた　　　　は　　 さいもつ　 つの　　べ　　　のむね　　きょう　つか　　ら　　おお　　られ　　　　うんぬん
利分に至りて者、濟物を募る可き之旨、今日使い等に仰せ被ると云云。

参考�@造伊勢太神宮役夫工米は、伊勢神宮の式年遷宮の一国平均役（一国残らず）かけられた。読みは「やくぶたくまい」とも「やくぶたくみまい」とも読んだ。一般には荘園には国司は課税できないが、一国平均役はそれも課税できるので、國衙の役人にとっては、公権力の行使と臨終収入ともなる。室町時代になると段米とか段銭と呼ばれる。
参考�A御杣は、税として材木や薪を納税する荘園。
参考�B用途闕如は、それようの使い道の決まっている租税が足りない。
参考�C出擧は、律令下で政府から種籾を貸し与え、同量の利子を添えて返納させていた。そこから利子のつく貸借を出挙と呼ぶ。公出擧は50%限度。私出擧は100%限度。

現代語嘉祿三年(1227)五月小二日戊辰。伊勢神宮の式年遷宮専用税について、全国的に不作で飢饉です。疲れ切った農民達は、期限内での納税は難しいと、既に朝廷に報告し終わっています。朝廷からの回答待ちの間に、材木仕入れの租税が足りないと、徴税役人が嘆いているので、武州泰時さんの納税用の駿河・伊豆二国分の割り当て税については、貸付分を返納させて宛てるよう決めました。利息分については、特産物を集めて宛てるように、今日徴税役人に言いつけましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しょうぐんけ　ごふれいののち　　おんもくよくの　ぎ　あ　　　　ぶしゅうさん　 たま　　　　うんぬん
嘉祿三年(1227)五月小八日丙戌。�ﾘ。將軍家御不例之後、御沐浴之儀有り。武州參じ給ふと云云。

現代語嘉祿三年(1227)五月小八日丙戌。晴れです。将軍頼経様の病気が終わったので、穢れを洗い流す沐浴の式があり、泰時さんも立ち会いましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　だいだいしょうぼう　こと　　よっ　　　　おんしら　じょうらくせし
嘉祿三年(1227)五月小十日戊子。�ﾘ。大内燒亡の事に依て、御使等上洛令む。

しょうぐん　 おんし　　いとうさえもんのじょう　　　ぶしゅう　　おんし　　びとうさこんしょうげんなり　　うんぬん
將軍の御使は伊東左衛門尉。武州の御使は尾藤左近將監也と云云。

現代語嘉祿三年(1227)五月小十日戊子。晴れです。京都の大内裏の火事見舞に、派遣員が上洛しました。将軍の代理は伊東左衛門尉祐時。武州泰時さんの代理は、尾藤左近将監景経だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 ひつじのこくぢしん
嘉祿三年(1227)五月小十一日己丑。�ﾘ。未刻地震。

現代語嘉祿三年(1227)五月小十一日己丑。晴れです。午後二時頃地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　こうらいこく　ちょうじょう　とうらい　　　　きょう　ひらん　　およ　　　　うんぬん　　そ　　　じょう　かきざま
嘉祿三年(1227)五月小十四日壬辰。�ﾘ。高麗國の牒状�@到來す。今日披覽に及ぶと云云。其の状の書樣。

　　こうらいこくぜんらしゅうどう　あぜち　ちょう　　　〔いん〕　　　にっぽんんこくそうかんだいざいふとうし
　高麗國全羅州道按察使牒す、〔印〕日本國惣官太宰府當使

　　か　　　くに　　じゅん　　つしまびと　　　こらいほうもつ　　こうしん　　　としどし　わこう　　おさ
　彼の國に准じ對馬嶋人、古來邦物を貢進し、歳に和好を修む。

　　また　　わが ほんちょう　そ　 ところびん　 したが　　 かんしゃ　 とくえい　　　ぶ　　　　　　　おんしん　　もっ
　亦、我 本朝も其の所便に從ひ、舘舎を特營し、撫するに恩信を以て、

　　これ　もちい　かいへん　しゅうけん　 とうしょ　 きょみん　 ぜんらい　 こうこう　　 たの　　　　ぎひ　　ところな
　是に用て海邊の州縣、島嶼の居民、前來の交好を恃み、疑忌の所無し。

　　か　つ　　　きんかいふ　　つしまびとら　　　もと　　　　じゅうえ　　　ところのところ　　いかに
　彼告ぐ金海府�@は對馬人等が舊より住依�Bする所之處、奈何。

　　ひのえいぬろくがつ　をい　　　　そ　　　やび　　　じょう　　　じょうとう　よ　　　い　　　　　しょうや　 だつりゃく　をはんぬ
　 丙戌六月�Cに於て、其の夜寐�Dに乘じ、城竇�E自り入り、正屋を奪掠し訖。

　　このごろ すで　はなはだ　 また　　いず　　　へん　 そんさい　 せんし おうらい　　　 かれこれいちどう　　　　むこ　　ひゃくしょう　しんゆう　　　　　 やまず　　　いまは
　比之 已に甚し。又、何れの邊の村塞も擅使往來し。彼此一同に、無辜�Fの百姓を侵擾�Gするは不已。今者、

　 こくちょうじょうけん　こと　　しゅもん　　　　もと　　　　とうしきしょうそん　ら　にじうにん　　さ　　　　　ちょう　すす　　まえ　　さ
　國朝上件の事を取問す。固より當職承存�H等二十人を差し、牒を晉め前に去る。

　　かつう　がんらいしんぽう　　 れいせい　　はいぜつ　　おこな　れず　　ふなかずけった　　　　つね　　おうらいな　　　　　あくじ　　　さくい　　　　これなん　 いん　 よし
　且は元來進奉する�I禮制も、癈絶して行は不。船數結多し、常の住來無く、悪事を作爲す。是何の因の由。

　　かく　　ごと　　　じり　　　しっそく　 かいほう　　　　　　みぎぜんじ　つぶさ　すべから　ちょう
　此の如き事理、疾速の廻報せよ。右前事を具し須く牒す

　　にっぽんこくそうかん　つつし　　ちょう
　日本國惣官。謹みて牒す

　　　　ひのといにがつにち　〔いん〕　 ちょう
　　丁亥二月日〔印〕牒

　　ふくしけんかんそうし　てんゆていもくけいごくへいば くじ りゅうこぐんろうしょうけんさんしほうがんちょうはん
　副使兼監倉使轉輸提默刑獄兵馬公事龍虎軍郎將兼三司判官趙判

参考�@牒状は、律令制度では同格への文書。上から下へは符。下から上へは解。
参考�A金海府は、971年高麗が金海府設置.1995金海市発足。釜山そば。
参考�B住依は、来て泊まる所。
参考�C丙戌六月は、去年の六月。実際には九月頃から二月にかけてらしい。
参考�D夜寐は、夜半。
参考�E城竇は、穴倉。
参考�F無辜のは、無実の。
参考�G侵擾するは、略奪する。
参考�H承存は、役人。
参考�I進奉するは、名簿奉呈で、対馬から高麗へ。

現代語嘉祿三年(1227)五月小十四日壬辰。晴れです。朝鮮の高麗国から公文書が来ました。今日、御所で披露されました。その手紙の書き様は、

　高麗国全羅州道の巡回査察官が文書を出す。日本国総監大宰府長官
　お宅の国に属する対馬の人々は、昔から貢物を届け、長い間仲良くやって来ました。又、私の国も取引などの便利のため、出張所を持って仲良くすることによって、海岸の州や県、島々の住民、も前々からの友好を好んで、嫌いあうことは有りませんでした。彼らが云うには、金海府は対馬の人が昔から来て泊まる所だとの事は御承知ですか。去年の六月に、その夜陰に乗じて穴倉から入って、盗みをしていきました。この頃はそれが激しいのです。又、何処の村へも徴収使がやってきて、誰彼区別なく、無実の百姓から略奪が修まりません。今では、国の朝廷がこの問題を取り上げております。云うまでもなく、当方の役人20人を指図して、調査をさせて前には去りました。対象から名簿を提出する礼儀制度も廃絶して行われておりません。船を数多く集団化して、貿易の船の行き来は行わず、悪事だけをしている。これはどういうことでしょう。このような道理の通らない事は、早く止めさせる様に文書を出してください。右の事をぜひ実行してくださいと申す。
日本の国の政務者に謹んで申します。
　丁亥2月日　申す
副使兼監倉使転輸提黙刑獄兵馬公事龍虎軍郎将兼三司判官趙判

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はりまのくに いかるがのしょうない ひさおかみょう　　じとう　あおきひょうえごろうしげもと　　　さた　　　と　　　られ
嘉祿三年(1227)五月小廿三日辛丑。播磨國　 鵤庄内�@　久岡名 の地頭��木兵衛五郎重元、沙汰を止め被る。

とうしょ　　みょうしゅ ないとううまのじょうなりくに　　さんぬ　じょうきゅうさんねん ぎゃくらんのとき　　かんぐん　　まじ　　　のあいだ　　しげもと　 もっ　　ぢとう　　　ぶされ　　のところ
當所の名主 内藤右馬允成國、去る　承久三年　逆乱之時、 官軍に交はる之間、重元を以て地頭に補被る之處、

ほんじょほうりゅうじ　しさい　　もう　　　　よっ　　　　かく　　ぎ　　　およ　　　　とうしょう　こと　　　たいし　　ごきしょう　た　　　こと　　　　　のち　なり
本所法隆寺子細を申すに依て、此の儀に及ぶ。當庄の事、太子の御起請他に異なる之地也。

うだいしょうぐん　　おんとき　　　ごきえ　あ　　　て　こうりゅう　もっぱら　　うんぬん
右大將軍の御時、御歸依有り而興隆を專すと云云。」

さんぬ　じうよっかたつのこく　　しゅりのりょう　〔ときうじ〕　　きた　　かた　　　ろくはら　　　　おは　　て　だんしへいさんのよし　　きょう　そ　　　つげあ
去る十四日辰刻、 修理亮〔時氏〕の北の方、六波羅に御座し而男子平産之由、今日其の告有り。

また　　くすし　わけのきよなり　か　　かんりょうたるのところ　　むいのじょう　　みちの　こうみょうたるのよし　　ないないぶしゅう　おんかた　 もう　　い　　　られ　　　　うんぬん
又、醫師　和氣�C成 彼の管領爲之處、無爲之條、道の高名爲之由、内々武州の御方に申し入れ被ると云云。

参考�@鵤庄は、播磨国揖保郡。兵庫県揖保郡太子町全域。太子町鰞に斑鳩寺や斑鳩小学校有り。なお、10巻文治3年3月19日条で金子十郎家忠が同様に地頭を停止されている。

現代語嘉祿三年(1227)五月小二十三日辛丑。播磨国斑鳩庄内久岡名の地頭「青木兵衛五郎重元」は、監督権を止められました。当所の元の現地管理者内藤右馬允成国は、去る承久三年の承久の乱で朝廷軍についたので解任され、幕府から青木重元を地頭に任命しましたが、最上級荘園権利者の法隆寺が苦情を言ったので、この様な人事となりました。この荘園は聖徳太子が寄進したので他の土地とは由緒が違います。頼朝様の時代に、信仰深く寺の隆盛を願ったのです。」

去る14日午前八時頃、修理亮〔時氏〕の奥さんが、六波羅で男の子を安産したと、今日連絡が来ました。又、医者の和気清成が看護したので、無事な出産だったのは名医だからです。と泰時に申し送って来ましたとさ。

六月へ

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