吾妻鏡入門吾妻鏡脱漏

嘉祿三年丁亥(1227)十一月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　ごしょ　　　にょぼう あわのつぼね そっきょ　　　 ぶしゅう　　　おば 　なり
嘉祿三年(1227)十一月大四日己卯。�ﾘ。御所の女房 阿波局�@卒去す。武州の大叔母也。

さんじっかにち ごきょうぶく あ　　　べ　　　　　よっ　　　　おんてい　　さ　　　びとうさこんしょうげんにゅうどうどうねん の いえ　 うつ　 せし　 たま　　　　うんぬん
三十ケ日 御輕服有る可きに依て、御亭を避け 尾藤左近將監入道々然 之家へ移り令め給ふと云云。

参考�@阿波局は、12巻建久3年8月9日条実朝誕生に乳付として阿野の妻室(阿波局)と出演。16巻正治1年10月27日の景時事件の発端も彼女の発言からだし、又、17巻建仁3年5月20日条でも全成妾とでる。牧の方事件も彼女の発言が発端。この死亡記事を含めて7回の出演。阿野全定の妻で政子・義時の妹ではないのか？とすると泰時の大叔母(祖父母の妹)ではなく叔母(父母の妹)に当たるはず。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大四日己卯。晴れです。御所の女官の阿波局が亡くなりました。泰時さんの叔母さんです。30日の喪に服すので、自分の屋敷から去って、尾藤左近将監入道道然(景綱)の家へお移りになりました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 とりのこくおおぢしん　さこんしょうげんちかざね　ぶぎょう　 な　　　　　れんれん　ぢしん　　ことおどろ　おぼ　　め され
嘉祿三年(1227)十一月大六日辛巳。酉刻大地震。左近將監親實を奉行と爲し、連々の地震の事驚き思し食被、

ぜんせいへんもく　い　　　ごきとう　　　 こと　　い　　　　　いけん　　 しん　　べ　　　のよし　　しょどう　　おお　　られ　　　　うんぬん
善政篇目と云ひ御祈祷の事と云ひ、意見を進ず可き之由、諸道に仰せ被ると云云。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大六日辛巳。午後六時頃大地震です。三条左近将監親実を指揮担当として、連続する地震について不審に思われて、地震を治めるための良い政治を行う意見や祈祷について、意見を提出するように、仏道や陰陽道などに命じましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 にえどの　あしかまどな　　　　　かじ　あ　　　べ　　おんつつし　のよし　 うらな　もう　　　　 うんぬん
嘉祿三年(1227)十一月大九日甲申。贄殿の足竃鳴る。火事有る可し御愼み之由、占い申すと云云。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大九日甲申。台所の脚付きの竈が鳴りました。陰陽師が「火事の心配があるので注意されたい」と占い結果を云いました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　ひごろ てんぺんちよう あいつづ　　　なら　　　　あかもがさ　るふのあいだ　　きょう おいのりら これ　　しぎょうされ
嘉祿三年(1227)十一月大十五日庚寅。日來天變地夭相續く。并びに赤斑瘡�@流布之間、今日御祈等之を始行被る。

　　やくしごま　　　　　　　　　だいしんそうづ
　藥師護摩　　　大進僧都（観基）

　　せんじゅごま　　　　　　　 たんごのそうづ
　千手護摩　　　丹後僧都（頼暁）

　　じういちめんごま　　　　　 かがのりっし
　十一面護摩　　加賀律師（定�C）

　　ばとうごま　　　　　　　　　わかみやべっとう
　馬頭護摩　　　若宮別當（定雅）

　　にょいりんぽう　　　　　　　えっちゅうあじゃり
　如意輪法　　　越中阿闍梨

　　ふくうけんさくほう　　　　　さいしょうりっし
　不空羂索法　　宰相律師

参考�@赤斑瘡は、今日の「麻疹（はしか）」に該当するというのが通説。ウィルス感染症の一種。「麻疹」と書いてはしかとも読み、一般にはこちらの方が知られている。近年は「疹」の字が常用漢字でないため「麻しん」とも書かれる。伝染力が非常に強いうえに日本では制圧が遅れているため、日本人は一生に一度はかかるともいわれている。ウィキペディアから

現代語嘉祿三年(1227)十一月大十五日庚寅。最近天の異変や地の不安定が続いたことと、麻疹が流行しているので、今日御祈祷を始めました。
　薬師如来の護摩炊きは、大進僧都観基
　千手観音の護摩炊きは、丹後僧都頼暁
　十一面観音の護摩炊きは、加賀律師定清
　馬頭観音の護摩炊きは、若宮筆頭定雅
　如意輪観音のお経は、越中阿闍梨
　不空羂索觀音のお経は、宰相律師。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　おいのりら　　おこな　れる
嘉祿三年(1227)十一月大十六日辛卯。御祈等を行は被。

　　さんまんろくせんじんさい　　はるかた
　三万六千神祭　　�ﾘ賢

　　てんちさいへんさい　　　　　くにつぐ
　天地災變祭　　　國継

　　げつようさい　　　　　　　　　ちかもと
　月曜祭　　　　　親職

　　さいしょうさい　　　　　　　　　はるゆき
　歳星祭　　　　　�ﾘ幸

　　てんせいさい　　　　　　　　　やすさだ
　填星祭　　　　　泰貞

　　けいこくせいさい　　　　　　　ふみもと
　熒惑星祭　　　　文元

現代語嘉祿三年(1227)十一月大十六日辛卯。お祈りをしました。
　三万六千神祭は、安陪晴賢
　天地災変祭は、安陪國継
　月曜祭は、安陪親職
　歳星(木星)祭は、安陪晴幸
　填星(土星)祭は、安陪泰貞
　螢惑星(火星)祭は、安陪文元

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　みのこく　いご　　　しょうぐんけ　ごふれい
嘉祿三年(1227)十一月大十八日癸巳。巳刻以後、將軍家御不例。

きょう　　　ごしょ　　　おんじぶつどう　　をい　　　　ごごぶつ　を　ずえ　され　　　すおうのぜんじちかざねこれ　ぶぎょう
今日、御所の御持佛堂�@に於て、御護佛於圖繪被る。周防前司親實之を奉行す。

参考�@御持佛堂は、久遠寿量院(頼経用)。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大十八日癸巳。午前十時頃から、将軍頼経様の具合が悪くなりました。今日、御所にある将軍の守り本尊を祀る持仏堂で、仏の守護神の絵を画きました。周防前司中原親実が指揮担当しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  はれ　　ごふれい　　おいのり　　ため　　　どくう　きき　　おんまつりらこれ　　しぎょうされ
嘉祿三年(1227)十一月大十九日甲午。�ﾘ。御不例の御祈の爲、土公�@鬼氣の御祭等之を始行被る。

きょう　　　ごすいにちなり　　しか　　　いへど　 はばからず　　あす　　　あくじつたる　　よっ　 なり
今日は御衰日也。然りと雖も憚被不。明日は悪日爲に依て也。

参考�@土公は、陰陽道の土を司る神で、春は竈、夏は門、秋は井戸、冬は庭にあり、その季節に動かしてはならない。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大十九日甲午。晴れです。病気平癒の祈りのため、土公祭や鬼気祭を始めました。今日は、将軍頼経様の凶日です。だからと云って控えませんでした。明日はもっと縁起の悪い日だからです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　ごふれい　ましけ
嘉祿三年(1227)十一月大廿日乙未。�ﾘ。御不例増氣。

よっ　さんぬ　じうろくにちいま　 えき　　　 のやから　 おお　 つ　　 られ　　しちざ　 たいさんふくんさいこれ　 おこな　れる
仍て去る十六日未だ役せず之輩に仰せ付け被、七座の泰山府君祭�@之を行は被。

いはゆる　 はるもと　 はるしげ　 しげむね　のぶかた　はるとし　みちつぐら これ　　ほうし　　　　しんじほうがんだいこれ　　ぶぎょうなり
所謂、�ﾘ職、�ﾘ茂、重宗、宣賢、�ﾘ俊、道継等之を奉仕す。進士判官代之の奉行也。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大二十日乙未。晴れです。御病気が悪化しました。そこで、16日に未だ参加していない陰陽師に言いつけて、七人の泰山府君祭を行いました。それは、安陪晴職・安陪晴茂・安陪重宗・安陪宣賢・安陪晴俊・安陪道継が勤めました。進士判官代橘隆邦がこの指揮担当です。

説明�@泰山府君祭は、安倍晴明が創始した祭事で月ごと季節ごとに行う定期のものと、命に関わる出産、病気の安癒を願う臨時のものがあるという。「泰山府君」とは、中国の名山である五岳のひとつ東嶽泰山から名前をとった道教の神である。陰陽道では、冥府の神、人間の生死を司る神として崇拝されていた。延命長寿や消災、死んだ人間を生き帰らすこともできたという。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　ごふれい　　　こと　　 きょう　ただおな　 てい　　おは　　　　うんぬん
嘉祿三年(1227)十一月大廿一日丙申。御不例の事、今日只同じ躰に御すと云云。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大二十一日丙申。御病気については、今日も同じ容態だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　おいのり　 ため　　ひたちのくにかしまぐう　　をい　　　　におうきょうなら　　　しんどく だいはんにゃきょう これ　　こうされ
嘉祿三年(1227)十一月大廿二日丁酉。御祈の爲、常陸國鹿嶋宮に於て、仁王經并びに信讀　大般若經 之を講被る。

おかぐら　　おこな　れるべ　　　のよし　　そ　　　　さた　あ　　　　　しなののみんぶたいふにゅうどうぎょうねん ぶぎょうたり　　きょう　しゃけ　に おお　　つか　　され
御神樂を行は被可き之由、其の沙汰有り。 信濃民部大夫入道行然 奉行爲。今日社家於仰せ遣は被る。

きた　にじうはちにち しぎょうすべ　　　うんぬん　　よ　　　い　　　　 きき しょうこんさいら これ　おこな　れる　　うんぬん
來る廿八日 始行可きと云云。夜に入り、鬼氣招魂祭等之を行は被と云云。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大二十二日丁酉。お祈りのため、常陸国鹿島神宮で、仁王経と全部きちんと読む大般若経を講じました。お神楽も奉納するように決定しました。信濃民部大夫入道行然二楷堂行盛が指揮担当です。今日、神社関係者に云い送りました。来る28日に始めるようにとの事だそうな。夜になって鬼気祭・招魂祭を行いましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　しょうぐんけ　あかもがさ　しゅつげん　たま　　　　よっ　　きょう　かさ　　て　 むい　　 おいのりら　 おこな　れるなり
嘉祿三年(1227)十一月大廿三日戊戌。將軍家 赤斑瘡 出現し給ふ。仍て今日重ね而無爲の御祈等を行は被也。

しんめを つるがおかぐう　たてまつられ
神馬於 鶴岡宮に奉被る。

また　　ごしょ　　をい　　　　しちざ　　たいさんふくんさいこれ　 おこな　れる　　はるかた　やすさだ　しげむね　ふみもと　のぶかた　ちかさだ　みちつぐら これ　　ほうし
又、御所に於て、七座の泰山府君祭之を行は被。�ﾘ賢、泰貞、重宗、文元、宣賢、親貞、道継等之を奉仕す。

およ　　さんぬ　つき げじゅんのころよ　　　　　あかもがさ　るふ　　　　 きせんまぬか　ず　　じょうげみなこれ　わずら　　きょうと　　 どうぜん　 うんぬん
凡そ去る月 下旬之比自り、赤斑瘡流布し、貴賎免れ不、上下皆之を煩う。京都も同前と云云。

こんげつようか　　しゅじょうこ　　ごのう あ　　　　　うんぬん
今月八日、主上此の御惱有りと云云。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大二十三日戊戌。将軍頼経様は麻疹の風疹が出ました。それで今日、尚も続けて治るようにお祈りを行いました。馬を鶴岡八幡宮に奉納しました。又、御所の中では、七人の泰山府君祭を行いました。安陪晴賢・安陪泰貞・安陪重宗・安陪文元・安陪宣賢・安陪親貞・安陪道継等が勤めました。先月下旬から麻疹が流行して、尊い人も身分の低い人も逃れられず、上下の区別なくかかります。京都も同様だそうな。今月八日後堀河天皇もかかったそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　ごふれい　こと　　 ごしんく　　　よっ　　かさ　　て おいのりらあ　　　　　　いず　　　はこね　　みしま　おのおの　ほうへいあ　　　べ
嘉祿三年(1227)十一月大廿四日己亥。御不例殊に御辛苦。仍て重ね而御祈等有り。伊豆、筥根、三島、各　奉幣有る可き。

やまとのうえもんのじょうひさよし　　えんどうさこんしょうげんためとし　　もっ　　おんし　　な　　　　　ぎょけんら　たてまつられ
大和右衛門尉久良、　遠藤左近將監爲俊 を以て御使と爲し、御劔等を奉被る。

とも　　もっ　　こんぎょう  しんぱつ せし　みょうにち さんちゃくのよう　　むち　　あ　　　べ　　　のよし　　おんむね　　ふく　　　　　うんぬん
共に以て今曉　進發　令め明日 參着之樣、 鞭を揚ぐ可き之由、御旨を含めると云云。

また　　ひほうら　これ　　しゅうされ　　　ま　　　ごだんほう
又、秘法等之を修被る。先ず五壇法�@。

　　ちうだんふどうみょうおう　　　 べんのそうじょう
　中壇不動明王　　弁僧正　（定豪）

　　ごうざんせみょうおう　　　　　　だいしんそうづ
　降三世明王　　　大進僧都（観基）

　　ぐんだりやしゃみょうおう　　　 しなののほういん
　軍茶利夜叉明王　信濃法印（道禅）

　　だいいとくみょうおう　　　　　　かがのりっし
　大威徳明王　　　加賀律師（定�C）

　　こんごうやしゃみょうおう　　　　さいしょうりっし
　金剛夜叉明王　　宰相律師

　　えんまてんぐ　　　　　　　　　　たんごのそうづ
　炎魔天供　　　　丹後僧都（頼暁）

　　ほくとぐ　　　　　　　　　　　　　ちんよ
　北斗供　　　　　珍譽

　　とうねんじょうぐ　　　　　　　　　ちんゆ
　當年星供　　　　珍瑜

　よ　　い　　　　　ぞくしょうさい　　しぎょう　　　ちかもとこれ　　ほうし
夜に入り、属星祭を始行す。親職之を奉仕す。

参考�@五壇法は、密教の中で五大明王を個別に安置し国家安穏を祈願する修法。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大二十四日己亥。将軍頼経様の御病気が悪化して苦しそうです。そこでなおも、お祈りがありました。伊豆山権現・箱根権現・三島大社へそれぞれ幣を納めて拝みに行くことにしました。大和右衛門尉久良と遠藤左近将監為俊を指定して代参として、刀を奉納します。双方ともに、今朝夜明け前に出発して、明日には付くように馬を走らせろと、趣旨を言い含めましたとさ。又、密教のお祈りを捧げました。まずは、仏教の中でも特に密教で行われる五大明王に国家の安穏を修する五壇法です。
　中壇不動明王の祈りは、弁僧正定豪
　降三世明王の祈りは、大進僧都観基
　軍茶利夜叉明王の祈りは、信濃法印道禅
　大威徳明王の祈りは、加賀律師定清
　金剛夜叉明王の祈りは、宰相律師
　閻魔天の供養は、丹後僧都頼暁
　北斗星の供養は、珍与
　当年星の供養は、珍瑜
夜になって、属星祭を始めました。親職が勤めました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　こんや　　　しちざ　　しょうこんさい　　てんそうちふ　　たいさんふくんさいら これ　 おこな　れる
嘉祿三年(1227)十一月大廿五日庚子。今夜、七座の招魂祭、天曹地府�@、泰山府君祭等之を行は被。

さいりょう　　ゆうきのさえもんのじょう　　ときのさえもんのじょう　　ひろさんおさぶろう ら　さた　　 これ　 しん
祭料は 結城左衛門尉、土岐左衛門尉、 廣澤三郎等沙汰し之を進ず。

参考�@天曹地府祭は、陰陽道で、冥官(みょうかん)を祭って戦死者の冥福などを祈る儀式。六道冥官祭。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大二十五日庚子。今夜、七人の招魂祭・天曹地府祭・泰山府君祭などを行いました。祭の費用は、結城左衛門尉朝光・土岐左衛門尉光行・広沢三郎実能が負担して献上しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  はれ　　ごふれい いささ　 ごしょうげん　うんぬん　　きょう　おんじつぶどう　　をい　　　　ごごぶつ　　　　くようされ
嘉祿三年(1227)十一月大廿八日癸卯。�ﾘ。御不例聊か御少減と云云。今日御持佛堂に於て、御護佛を供養被る。

どうし　　べんのそうじょうていごう　　　ふせ　いげ　　　こと　　みんぶのたいふにゅうどうぎょうねん ぶぎょうたり
導師は弁僧正定豪。布施以下の事、 民部大夫入道行然 奉行爲。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大二十八日癸卯。晴れです。病気は多少快方に向かっているそうな。今日、守り本尊の持仏堂で、仏の守護神の法事をしました。指導僧は弁僧正定豪。お布施などは、民部大夫入道行然二階堂行盛が指揮担当です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　ごふれい　ごげん　　　　しょにんあんど　　　 うんぬん　　ごんのじいよしもと いじゅつ　 ほどこ　こうけんの　ゆえなり
嘉祿三年(1227)十一月大廿九日甲辰。御不例御減し、諸人安堵すと云云。權侍醫良基 醫術を施す効驗之故也。

現代語嘉祿三年(1227)十一月大二十九日甲辰。病気は治って、皆安心しましたとさ。権侍医の丹波良基の治療の効果が出たのでしょう。

十二月へ

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