吾妻鏡入門第廿七巻

安貞二年戊子(1228)正月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　きょう　　　おうばん　　そうしゅう　　ごさた　　　しょうぐんけしゅつご　　ぎょけん　するがのかみしげとき　〔そくたい〕
安貞二年(1228)正月大一日乙亥。霽。今日の垸飯、相州が御沙汰。將軍家出御。々劔は、駿河守重時〔束帶〕。

おんゆみや　　おおいのすけありとき　　〔　ほい　〕　　　　　おんむかばきくつ　ゆうきのさえもんのじょうともみつ　　おんうまごひき
御弓箭は、大炊助有時 〔布衣〕。御行騰沓は、結城左衛門尉朝光。御馬五疋。

現代語安貞二年(1228)正月大一日乙亥。晴れました。今日の将軍頼経様への御馳走のふるまいは、相州時房さんが設けました。将軍頼経様のお出まし。刀の献上は駿河守北条重時〔束帯〕。弓矢の献上は、大炊助北条有時〔狩衣〕。乗馬袴(ﾛｰﾊｲﾄﾞ)と乗馬沓の献上は、結城左衛門尉朝光。献上馬は五頭。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かいせい　 おうばん　 ぶしゅう　　　ごさた　　　ぎょけん　　さきのでわのかみいえなが　　おんゆみや　　おおすがさえもんのじょう
安貞二年(1228)正月大二日丙子。快�ﾘ。垸飯。武州が御沙汰。御劔は、前出羽守家長。御弓箭は、大須賀左衛門尉�@。

おんむかばきくつ　　ちちやのさえもんのじょう　　おんうまごひき
御行騰沓は、土屋左衛門尉。御馬五疋。

参考�@大須賀左衛門尉は、胤秀、千葉介常胤の四男大須賀四郎胤信の次男。

現代語安貞二年(1228)正月大二日丙子。快晴です。今日の将軍頼経様への御馳走のふるまいは、武州泰時さんが設けました。刀の献上は前出羽守中条家長。弓矢の献上は、大須賀左衛門尉胤秀。乗馬袴と乗馬沓の献上は、土屋左衛門尉宗光。献上馬は五頭。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 おうばん　 えっしゅう　　さた　　　ぎょけん　　するがのかみしげとき　〔　ほい　〕　　おんゆみや　　むつのしろうまさむら
安貞二年(1228)正月大三日丁丑。霽。垸飯。越州�Aが沙汰。御劔は、駿河守重時�B〔布衣〕。御弓箭は、陸奥四郎政村�C。

おんむかばきくつ　　むつのごろうさねやす　　おんうまごひき
御行騰沓は、陸奥五郎實泰�D。御馬五疋。

参考�A越州は、越後守次郎朝時、義時の次男。参考�B駿河守重時は、義時の三男。参考�C陸奥四郎政村は、陸奥守義時の四男。参考�D陸奥五郎實泰は、陸奥守義時の五男。
　　　　　　　　　　　 義時
　─┬────┬────┼────┬────┬────┐
　　�D　　　　�C　　　　�E　　　　�B　　　　�A　　　　�@
 五郎實泰　四郎政村　六郎有時　駿州重時　越州朝時　武州泰時　六郎有時は母が妾なので六男扱いされている

現代語安貞二年(1228)正月大三日丁丑。晴れました。今日の将軍頼経様への御馳走のふるまいは、越後守北条朝時さんが設けました。刀の献上は駿河守北条重時〔狩衣〕。弓矢の献上は、陸奥四郎北条政村。乗馬袴と乗馬沓の献上は、陸奥五郎北条実泰。献上馬は五頭。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　いぬのこく　にはか　そらくも　　　 なんぽう　かみなり　りょうみこえ　　ただ　　あめ　 ふ　　 ず
安貞二年(1228)正月大七日辛巳。霽。戌刻。俄に天陰り、南方に 雷　兩三�@聲。但し雨は降ら不。

参考�@兩三は、二つ三つ。

現代語安貞二年(1228)正月大七日辛巳。晴れました。午後八時頃、急に空が曇り、南方で雷が2・3回。但し雨は降りませんでした。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かいせい　 おうばん いご　　　しんぎょうえ　おこな　れる　 ぶしゅういげ　　ひとびと　　しゅっしれい　 ごと
安貞二年(1228)正月大八日壬午。快�ﾘ。垸飯以後、心經會を行は被。武州已下の人々の出仕例の如し。

きょう　つるがおか　　　ねんし　　 ごほうへい　あ　　　べ　　　のよし　　かねて　これ　 さだ　 られ　　　いへど　　　えんいん　　　 うんぬん
今日 鶴岡への年始の御奉幣有る可き之由、兼而之を定め被ると雖も、延引すと云々。」

にっちゅう　みゆきはじめのぎあ　　　　　ぶしゅう　 てい　 い　　　たま　　　するがのかみ　ぎょけん　えき　　　かのうのとうじひょうえのじょう　ごちょうど　 か　　　　　うんぬん
日中に御行始之儀有り。武州の亭へ入り御う。駿河守 御劔を役し、狩野藤次兵衛尉 御調度を懸くと云々。

現代語安貞二年(1228)正月大八日壬午。快晴です。御馳走のふるまいの後、般若心経を唱える行事を行いました。武州泰時さんはじめ出仕者は何時もの通りです。今日、鶴岡八幡宮への年始のお参りをするよう、前もって決めてありましたが、延期しましたそうな。日中に外出始め式があり、泰時さんの屋敷へ入られました。駿河守重時が太刀持ちをして、狩野藤次兵衛尉為光が弓矢を肩に懸けましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　すおうのぜんじ　ぶぎょう　　な　　　　　にしょ ほうへい　 おんし はっけん　こと　　そ　　　さた　あ　　　　　うんぬん
安貞二年(1228)正月大九日癸未。周防前司 奉行と爲し、二所�@奉幣の御使發遣の事、其の沙汰有りと云々。

参考�@二所は、二所詣でといって箱根權現と伊豆山權現の二箇所に詣でる。必ず三島神社にも詣でる。皆、頼朝が平家討伐を祈願した神社。

現代語安貞二年(1228)正月大九日癸未。周防前司中原親実が担当して、箱根權現と伊豆山權現への新年のお参り二所詣での代参について、検討しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おんゆみはじめ
安貞二年(1228)正月大十日甲申。御弓始。

現代語安貞二年(1228)正月大十日甲申。弓始め式です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　にしょ ほうへい　　おんし　　な　　　　　しんぱつせし　 べ　　 のよし　　するがのぜんじよしむら　 おお　　られ
安貞二年(1228)正月大十三日丁亥。二所奉幣の御使と爲し、進發令む可き之由、駿河前司義村に仰せ被る。

すなは　りょうじょう　　もう　　のところ　　なお　そ　　　さた　あ　　　　　おんしの　ぎ　　や　　　　　じき　　ぎょさんあ　　　べ　　　のよし　　きょう ちじょう　　　　うんぬん
即ち 領状 を申す之處、猶其の沙汰有り、御使之儀を止め、直に御參有る可き之由、今日治定すと云々。

現代語安貞二年(1228)正月大十三日丁亥。二所詣での代参として、出発するように駿河前司三浦義村に仰せになりました。すぐに承知しましたと云ったんですが、なおご検討されて、代参を辞めて、直接お参りに行くと、今日お決めになりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しょうぐんけ　　ごぜん　　をい　　　　にしょ　おほうへい　　にちじの　さだ　　あ
安貞二年(1228)正月大十九日癸巳。將軍家の御前に於て、二所御奉幣の日時之定め有り。

おんみょうじらさんしん　　　らいげつじうよっか　ごしんぱつあ　　　べ　　　のよし　　ちかもと　 はるかた　ふみもとら　　せんじつこれ　 たく　　もう
陰陽師等參進し、來月十四日御進發有る可き之由、親職、�ﾘ賢、文元等、先日之を擇し申す。

しか　　　　しふしゅつび なり　　しか　 べからずのむね　　やすさだないない　ごんじょうせし　　よっ　　　 じき　　ごもんどう　　 およ　　　おのおの　そうろんあ　　　と
而るに四不出日也。然る不可之旨、泰貞内々に言上令むに依て、直に御問答に及ぶ。 各 相論有り矣。

ぶしゅうなら　　　 よしむら　　いえながら しこう　　　　みなたじつ　　もち　　られ　　べ　　　のよし　　かたぶ　もうされ
武州并びに義村、家長等祗候し、皆他日を用い被る可き之由、傾け申被る。

よっ　　かさ　　　　これ　　たく　　　　にがつにじうごにち　ごしんぱつあ　　 べ　　　　 うんぬん
仍て重ねて之を擇し、二月廿五日 御進發有る可きと云々。

参考四不出日は、出かけるのが縁起が悪い日。乙卯。戊午。辛酉。壬子。

現代語安貞二年(1228)正月大十九日癸巳。将軍頼経様の御前で、二所詣での日時の検討をしました。陰陽師は前へ出て、来月14日に出発なさるようにと、安陪親職・安陪晴賢・安陪文元が、先日占い結果を出しました。しかし、「外出に縁起の悪い日です。行けません、」と泰貞が内々に申しあげるので、将軍頼経様は直接質疑に入られました。それぞれ言い爭いになりました。武州泰時さんと三浦義村・中条家長が前へ出て、「他の日にしたらよいじゃありませんか。」と異議を唱えました。それなので、尚も占いをして2月25日出発と決めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 うまのこく　　しょうぐんけ　たけごしょ　　い　　　たま　　　おんかりぎぬ　おんのりこしなり
安貞二年(1228)正月大廿三日丁酉。霽。午尅、將軍家竹御所�@に入り御う。御狩衣�A。御乘輿也。

えちごのかみ　するがのかみいげ　すうやから　ぐぶ　　　　ぶしゅうあらかじ　まう　　　ごしょに　こう　　られ　　　　よ　　　い　　　かんご　　　　うんぬん
越後守、駿河守已下の數輩供奉す。武州豫め儲けの御所于候じ被る。夜に入り還御すと云々。

参考�@竹御所は、頼家の遺児。

現代語安貞二年(1228)正月大二十三日丁酉。晴れました。昼頃に、将軍頼経様は竹御所の屋敷へお入りになりました。狩衣で輿に乗ってです。越後守朝時・駿河守重時以下の数人がお供しました。武州泰時さんはあらかじめ接待場所に行ってました。夜になって帰られました。

解説�A狩衣は、〔もと、狩りなどのときに着たところから〕盤領(まるえり)で脇を縫い合わせず、くくり緒のある袖が後ろ身頃にわずかに付いているだけの衣服。地質は、布(ふ)を用いるので布衣(ほい)とも呼んだが、のちに絹綾(きぬあや)のものもできた。平安時代には公家の平常の略服であったが、鎌倉時代以後は公家・武家ともに正服、または礼服として用いた。現在は、神官の服装に見られる。狩襖(かりあお)。かりごろも。Goo電子辞書から

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　のしょぎょさん　　こと　　ことしは　ごえんいん あ　　　べ　　　のよし　　　さた　あ
安貞二年(1228)正月大廿九日癸夘。將軍家二所御參の事、今年者御延引有る可き之由、沙汰有り。

もと　　ごと　　おんし　　 な　　　　 さんけいせし　　べ　　　のよし　　きょう　よしむら　　おお　　ふく　 られ　　　　うんぬん
元の如く御使と爲し、參詣令む可き之由、今日義村に仰せ含め被ると云々。

現代語安貞二年(1228)正月大二十九日癸卯。将軍頼経様の二所詣でについて、今年は延期するように、決定しました。前の通り代参としてお参りするように、三浦義村に云って聞かせましたとさ。

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