吾妻鏡入門第廿七巻

安貞二年戊子(1228)二月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 しょうぐんけ　つるがおかはちまんぐう　まい　　たま　　　　 ごじょうい　　 き　せし　　たま
安貞二年(1228)二月小三日丁未。霽。將軍家  鶴岡八幡宮 へ參り御う。御淨衣を着令め給ふ。

ま　　　さんにはるかた　〔いかん〕　　ろう　　くるまよせど　　まい　　　 おんみがため　つと　　　　いしやまじじゅうのりさだ　ばいぜんやく　　そうら
先ず散位�ﾘ賢〔衣冠�@〕廊の車寄戸に參り、御身固を勤む。 石山侍從教定　陪膳役に候う。

そ　　　ご　おんきば　　　　　みなみもんよ　　　い　　　たま
其の後御騎馬にて、南門自り出で御う。

　ぐぶ　　　ひと　　ぶしゅう　　えちごのかみ　するがのかみ　おおいのすけ　　するがのぜんじ　　でわのぜんじ　　まちのみんぶたいふ　　ごとうさえもんのじょう　〔ぎょけん　　えき　　〕
供奉の人、武州、 越後守、 駿河守、 大炊助、駿河前司、出羽前司、町野民部大夫、後藤左衛門尉〔御釼を役す〕、

かのうのうとうじひょうえのじょう　〔ごちょうど　　か　　〕　　　とうないさえもんのじょう　　ゆうきのさえもんのじょう　つちやのさえもんのじょう　　ささきのほうがんら　なり　〔　ほい　　　じょうい　あいまじ　　〕
狩野藤二兵衛尉〔御調度を懸く〕、藤内左衛門尉、結城左衛門尉、土屋左衛門尉、佐々木判官等也〔布衣と淨衣相交る〕。

また　　ろくい にじうにんひたたれ　き　　　たいけんせし　　　おんが　　さゆう　　れっぽ
又、六位二十人直垂を着て帶釼令め、御駕の左右に列歩す。

これ　　さんぬ　けんぽうしちねん しょうがつ うふしょうぐん　〔さねとも〕　ごしんぱいのとき　　かく　　ごと　　けいご　な　　　　　よっ　　ことあ
是、去る 建保七年 正月 右府將軍〔實朝〕御神拝之時、此の如き警固無きに依て事有り。

きょうこう　　ようい　あ　　　べ　　　のよし　　けんじつさだ　 られ　 のゆえなり
向後、用意有る可き之由、兼日定め被る之故也。」

いずのくにそうとうさんせんとうさんちゃく　　さんぬ　よ ねのこく　　とうさんこうどう　　ちうどう　　じょうこうどう しっか　 ためわざわ
伊豆國走湯山專當參着す。去る夜子尅、當山講堂、中堂、常行堂失火の爲災いす。

ぞくたい　と　　いだ　たてまつ　ず　　 おな　　　 もっ　　かいじん　 な　　　うんぬん　　じょうこうどうは　　きょねんふゆ　 ころ　　そうしゅう　　ごさた　　　な　　　ぞうえい
俗躰�A取り出し奉ら不、同じく以て灰燼と爲す云々。常行堂者、去年冬の比、相州の御沙汰と爲し造營す。

しか　　　　　まご　しきょのあいだえんいん　　　　いま　　そ　　　こう　　お　　　　　 のところ　　またもっ　　かいろく　　　　ただなること　 あらざ　か
而るに孫子死去之間延引し、未だ其の功を終えざる之處、又以て回祿す。直也事に匪る歟。

参考�@衣冠は、宮中勤務者が束帯は窮屈な爲、宿直用に下着類を省き、面倒な裾も止め袴をゆったりした指貫に変えた「宿直装束」。
参考�A俗躰は、伊豆山三所権現のうち、法躰は千手観音の垂迹、俗躰は阿弥陀如来の垂迹、女躰は如意輪観音の垂迹とされる。

現代語安貞二年(1228)二月小三日丁亥。晴れました。将軍頼経様は、鶴岡八幡宮へお参りです。清めの白い着物を着ています。まず、散位安陪晴賢〔衣冠〕が廊下の牛車を付ける扉でお祓いをしました。石山侍従藤原教定が給仕をしました。その後、馬に乗って南門から出ました。お供の人は、武州北条泰時さん・越後守北条朝時・駿河守北条重時・大炊助北条有時・駿河前司三浦義村・出羽前司中条家長・町野民部大夫康俊・後藤左衛門尉基綱〔太刀持ちです〕・狩野藤二兵衛尉為光〔弓矢を担ぐ〕・藤内左衛門尉藤原定員・結城左衛門尉朝光・土屋左衛門尉宗光・佐々木判官信綱〔普段着と清い白の着物とまざっている〕。
又、六位の者20人が鎧直垂を着て、将軍の馬の左右に並んで進みます。これは、過ぎし建保七年正月右大臣将軍実朝様がお参りの時、警護の者がいないために事件が起こったので、今後は用心するように予ねて決めたからです。」
伊豆国走湯山神社の使いが到着しました。昨夜の午前12時頃に、伊豆山神社の講堂・中堂・常行堂が失火で焼けました。俗躰の本地垂迹阿弥陀如来は取り出すことが出来ず、燃えて灰となってしまいました。常行堂は、去年の12月に相州北条時房さんが負担して建築し始めましたが、孫の死などによってのびのびとなり、完成前なのに又もや焼けてしまいました。ただ事ではありませんね。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　きょう　　　こしもつけだいじょう まさみつにゅうどう　　さいに　〔あみどのあま　　ごう　　〕　　そっきょ　　〔としくじういち〕
安貞二年(1228)二月小四日戊子。今日、故下野大掾 政光入道 が妻尼�@〔網戸尼と号す〕卒去す〔年九十一〕。

これ　　はったのぶしゃどころむねつな　むすめ　　さえもんのじょうともみつ　　ははなり
是、　八田武者所宗綱　が女。 左衛門尉朝光 が母也。

こうだいしょうけ　　〔よりとも〕　なら　　　　ぜんじょうにいけ　　〔まさこ〕　こと　　これ　ちょうぜし　　たま　　　　うんぬん
故右大將家〔頼朝〕并びに禪定二位家〔政子〕殊に之を重令め給ふと云々。

参考�@政光入道妻尼は、第1巻治承4年(1180)10月2日に「寒河尼と号す」で、出演。朝光を頼朝に引き合わせ烏帽子親として元服した。

現代語安貞二年(1228)二月小四日戊子。今日、故下野大掾小山政光入道の妻の尼〔網戸尼(寒河尼)〕が亡くなりました〔歳は91〕。この人は、八田武者所宗綱の娘で、結城左衛門尉朝光の母です。故右大将頼朝様や禅定二位家政子様は、特に重く扱っておられましたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さるのこく　 しょうぐんけ　おんころも　　　とびくそ　　か　　 せし　 たま　 のあいだ　 おんうらあ　　　　　ごびょうのことのよし これ　　もう　　　　うんぬん
安貞二年(1228)二月小七日辛亥。申刻。將軍家の御衣に、鳶糞を懸け令め給ふ之間、御占有り。御病事之由 之を申すと云々。

現代語安貞二年(1228)二月小七日辛亥。午後四時頃、将軍頼経様の着物に鳶が糞をかけて行ったので、占いをさせました。病気に気を付けるようにと云ってたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 にしょ　　ごしょうじんはじ　　なり
安貞二年(1228)二月小八日壬子。�ﾘ。二所の御精進始め也。

 ごさんけいあ　　　べ　　　か　　　こと　　ないひごろ　よぎ　あ　　　　いへど　　　そうとうさん　　　かさい　 こと　　よっ　　　　これ　 とど　 せし　 たま　　　　うんぬん
御參詣有る可き歟の事、猶日來豫儀有ると雖も、走湯山の火災の事に依て、之を留め令め給ふと云々。

およ　　か　　　　かじ　　　つ　　　　　けさ　じょうじょう　ひょうぎら　あ　　　　　うんぬん
凡そ彼の火事に就き、今朝條々の評議等有りと云々。

現代語安貞二年(1228)二月小八日壬子。晴れです。伊豆山権現箱根権現の二所詣でのために、精進潔斎を始めです。将軍頼経様がお参りに行こうとの意見も有りますが、先日の走湯山の火事によって、行くのを止めにしました。火事の後始末について、今朝色々と検討がありましたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  かいせい　　　けさ　　　みうらのするがぜんじよしむら　にしょほうへい　　おんし　　な　　　しんぱつ　　　　うんぬん
安貞二年(1228)二月小十三日丁巳。快�ﾘ。今朝、 三浦駿河前司義村 二所奉幣の御使と爲し進發すと云々。

現代語安貞二年(1228)二月小十三日丁巳。快晴です。今朝駿河前司三浦義村が、二所詣での代参に出発しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  　ごしょ　　をい　　ごしゅえん　あ　　　　 しなののほういん　だいしんそうづ いげ　　すうやからしこう　　　　えんねん　およ　　　うんぬん
安貞二年(1228)二月小十四日戊午。御所に於て御酒宴有り。信濃法印、大進僧都以下の數輩祗候し、延年�@に及ぶと云々。

現代語安貞二年(1228)二月小十四日戊午。御所で宴会がありました。信濃法印道禅・大進僧都観基以下の何人かが参加して、芸の披露大会になりましたとさ。

解説�@延年は、延年の舞。寺院芸能の一。平安中期に興り、鎌倉・室町時代に最も栄えた。延暦寺・興福寺などの寺院で、大法会のあとの大衆(だいしゆ)の猿楽や稚児の舞などによる遊宴歌舞の総称。のちに遊僧と呼ばれる専業者が出現し、中国の故事に題材をとる風流(ふりゅう)や連事(れんじ)などは能楽の形式に影響を与えたといわれる。現在も地方の寺院にわずかに残っている。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　   するがぜんじ　 にしょ よ　　　きさん　　　　 おうかん ふうう　　 なんな　　　　うんぬん
安貞二年(1228)二月小十八日壬戌。駿河前司二所自り歸參す。往還風雨の難無しと云々。

現代語安貞二年(1228)二月小十八日壬戌。駿河前司三浦義村が二所詣でから帰りました。往復とも風雨の苦労はありませんでしたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  　ごしょ　　なんてい　　をい　　　 にじうばん　すまい　 め　　　けっ　　られ
安貞二年(1228)二月小十九日癸亥。御所の南庭に於て�@、廿番の相撲を召し决せ被る。

　そ　　なか　　　かさいのさぶろうさえもんのじょう　め　　しん　　ところの すまい　　しばまたへいじさぶろう　　こと　　たっしゃなり
其の中に、 葛西三郎左衛門尉�A召し進ず處之相撲、芝俣平次三郎�Bは殊に達者也。

よっ　　すおうくらんど　　もっ　　　ごい　　　くだ　　たま　　　　　　うんぬん
仍て周防藏人を以て御衣を下し賜はると云々。

参考�@南庭に於ては、公式行事として、南は公的な場所、北は私的な場所。
参考�A葛西三郎左衛門尉は、葛西三郎�C重。は、没年が1238とも1237ともいわれるので。たぶん良いと思う。
参考�B芝俣は、寅さんで有名な葛飾柴又。

現代語安貞二年(1228)二月小十九日癸亥。御所の南庭で、二十番の相撲を取らせました。その中に葛西三郎左衛門尉清重がお抱えの相撲取り、柴又平次三郎は特に強いのです。そこで、周防蔵人を使ってお着物を褒美に与えましたとさ。

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