吾妻鏡入門第廿七巻

安貞二年戊子(1228)七月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　えちごのかみ　〔ともとき〕　　ひごろ　　ふれいげんき　　ぞく　　　　よっ　　　　　きょう　もくよく　　うんぬん
安貞二年(1228)七月小五日丙子。天�ﾘ。越後守〔朝時〕日來の不例減氣に属すに依て、今日沐浴と云々。

しょうぐんけ　かのうのとうじひょうえのじょうためみつ　　もっ　　が　　　おお　　られ　　　うんぬん
將軍家　狩野藤次兵衛尉爲光　を以て賀し仰せ被ると云々。

現代語安貞二年(1228)七月小五日丙子。空は晴れです。越後守朝時さんは、近頃の病気が快方に向かったので、今日病の穢れを洗い流す沐浴の儀式をしました。将軍頼経様(11歳)は、狩野藤次兵衛尉為光を使いにお祝いを伝えましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　 ばばどの　　　をい　　 くらべうま　 すまい　　おんしょうぶあ
安貞二年(1228)七月小八日乙夘。�ﾘ。馬塲殿に於て、競馬、相撲の御勝負有り。

とう　　しゅっし　　ひとびと　　ろうじゅうら　　め　　　いだ　　　　そ　　　しゆう　　けっ　　られ　　　　うんぬん
當の出仕の人々が郎從等を召し出し、其の雌雄を决せ被ると云々。

現代語安貞二年(1228)七月小八日乙卯。晴れです。馬場殿で、競馬・相撲の勝負をさせました。今日の出勤者が家来を呼び出し、その勝負をさせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　みなみかぜはげ　さるのこく　しょうどうしゃのかたわらよ　　　　 しっかしゅつらい
安貞二年(1228)七月小十六日丁亥。天�ﾘ。南風烈し。申刻、松童社�@之傍 自り、失火出來す。

とうざい よんちょうのうち　　じんか もえのこり　か　をはんぬ
東西 四町之内の人家 燼 と化し訖。

たけごしょ わずか　いっちょうばか　　 あいへだ　　　よえん　　まぬか　　　うんぬん　　ぶしゅうまいられ　　　うんぬん
竹御所 僅に一町許りを相隔て、餘焔を免ると云々。武州參被ると云々。

参考�@松童社は、八雲神社。かつては松童と云う祟り神との説あり。江戸時代は松堂祗薗社とも松殿山祗薗とも。

現代語安貞二年(1228)七月小十六日丁亥。空は晴れです。南風が烈しい。午後四時頃、松童社(現八雲神社)の近所から失火して、東西400ｍの内の人家は燃えてしまいました。竹御所は、あと100ｍ離れていたので類焼を逃れました。泰時さんが駆けつけたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　ごしょない　 みんまや　　もとは　さんかけんなり
安貞二年(1228)七月小十八日己丑。天�ﾘ。御所内の御厩、本者三ケ間也。

ぎょい　　　あいかな　 のりゅうてい い　 きた　　　 よっ　　これ　 たてかはれ　　ため　　いままた　　にかけんつづ　 くは　　られ　　　かのうのとうじひょうえのじょう　ぶぎょうたり　　うんぬん
御意に相叶う之龍蹄出で來るに依て之を立飼被ん爲、今又、二ケ間續き加へ被る。 狩野藤次兵衛尉 奉行爲と云々。

現代語安貞二年(1228)七月小十八日己丑。空は晴れです。御所内の馬屋は、元は三間でした。お気に入りの馬が増えるたびに建て増したので、二間を繋ぎ建て増します。狩野藤次兵衛尉為光が指揮担当だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　するがぜんじよしむら　　きょうぶく　　ひかずすで　 す　をはんぬ
安貞二年(1228)七月小廿日辛夘。駿河前司義村、輕服の日數已に過ぎ訖。

いま　　をい　　は　　か　　　たむらさんそう　 にゅうぎょあ　　 べ　　　のよし　　 あない　　もう
今に於て者、彼の田村山庄へ入御有る可き之由、案内を申す。

ひごろ　か　　 いえ　　しゅうり　 くは　　　　ごしょ　 いちう　　しんぞうせし　　　　そ　　　みぎりよ　　　　もんでん　いた　 わたろう　　つく
日來彼の家に修理を加へ、御所一宇を新造令め、其の砌自り、門田に至り渡廊を造り、

くさばなかず　つく　ひがし　みなみ　りょうにわ　う　　　　　　うんぬん
草花員を盡し東と南の兩庭に殖えると云々。

参考門田は、孫引きだが、安芸の国三入りの荘、熊谷有直譲り状に「一所　五反　もんでん　ひんがしのやしきのまへ」（吉川弘文館・豊田武著「武士団と村落」P64）とあるそうなので「もんでん」とかなを振った。

現代語安貞二年(1228)七月小二十日辛卯。駿河前司三浦義村の喪に服す期間は終わりましたので、彼の田村の別荘へ遊びに来ていただきたいと招待申しあげました。最近、その家を修理して、将軍用一軒を新築しましたので、その縁から門の前の田圃まで渡り廊下を作り、草花を沢山栽培して、その東と南の庭に植えたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  くも　　　　みなみかぜふ　　　ときどき こさめ ふ　　　　　あす　たむら　　とぎょ　あ　　　べ
安貞二年(1228)七月小廿二日癸巳。陰り。南風吹き、時々小雨下る。明日田村へ渡御有る可き。

しか　　　　きょう　　　てんき　くも　　はれあ
而るに今日の天氣陰り�ﾘ有り。

 も 　　またあめ　　ふ　　　べ　　　　 いな　　　 やすさだ　 め　　　　　ごしょ　　 をい　　　とうないさえもんのじょうただゆき　 もっ　　たず　 くだされ
若し又雨が降る可きや否や、泰貞を召し、御所に於て、藤内左衛門尉忠行を以て尋ね下被る。

そらくも　　　いへど　　　あめ　　ふ　　 べからず　　みゆき　　ためさいじょうびたるべ　　 のよし　　うらな　もう　　　　うんぬん
天陰ると雖も、雨は下る不可。御行の爲最上日爲可き之由、占い申すと云々。

現代語安貞二年(1228)七月小二十二日癸巳。曇りです。南よりの風、時々小雨がぱらつきました。明日、田村へ出かける事にしました。しかし、今日の天気は曇ったり晴れたりしてるので、明日若しも雨が降るかどうかを、安陪泰貞を呼んで、藤内左衛門尉忠行を通してお聞きになりました。空は曇っても雨は降りません。お出かけには最高の日ですよと、占い結果を申しあげましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  くも　　　　しょうぐんけ　 するがのぜんじよしむら　 たむらさんそう　　わた　 たま　　　　これ　　た いえ　しゅうきょう　ゆうらん　　ためなり
安貞二年(1228)七月小廿三日甲午。陰り。將軍家 駿河前司義村の田村山庄へ渡り御う。是、田家の秋興を遊覽の爲也。

たつのこく　しゅつご　〔ごすいかん〕　　　おんこし　　もち　　られ　　かねあらいさわよ　　 おんきば　　 おんひでりがさ　たてまつ
 辰尅、出御〔御水干〕。御輿を用ひ被、金洗澤邊自り御騎馬。御日旱笠を奉る。

さんぬ　よこんぎょう　　すくろうすうやから か　　ところ　ゆ　　　むか　をはんぬ　　これ　　　ぐぶ　　　もる　　　ひとびとなり
去る夜今晩、 宿老數輩 彼の所に行き向い訖。　是、供奉に漏るの人々也。

おんいで　ぎょうれつ
御出の行列

 ま 　　ずいへい　じうにき　　〔さゆう　　あいわか　　〕
先ず隨兵十二騎〔左右に相分る〕

　　みうらのじろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ながえのはちろう
　三浦二郎（泰村）　　　　　　長江八郎（師景）

　　ゆうきのしちろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かずさのたろう
　結城七郎（朝廣）　　　　　　上総太郎

　　じょうのたろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おがさはらのろくろう
　城太郎（安達義景）　　　　　 小笠原六郎（時長）

　　おおすがのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　 ささきのたろうさえもんのじょう
　大須賀左衛門尉（胤秀）　　　佐々木太郎左衛門尉（重綱）

　　あしかがのごろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　かわごえのじろう
　足利五郎（長氏）　　　　　　河越二郎（重時）

　　むつのしろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さがみのしろう
　陸奥四郎（政村）　　　　　　相摸四郎（朝直）

つぎ　　おんひきうまさんびき
次に御引馬三疋

つぎ　　おんゆぶくろひとり
次に御弓袋差一人

つぎ　　おんよろいぎひとり
次に御鎧着一人

つぎ　　おんのりかえふたり
次に御乘替二人

つぎ　　おんが
次に御駕

　　するがのしろう　　　　　　　　　　　　　　　　〔ぎょけん　　も　　〕　　　　さはらのじうろうさえもんのじょうたろう　　〔おんかさ　たてまつ　〕
　駿河四郎（三浦家村）〔御釼を持つ〕　佐原十郎左衛門尉太郎〔御笠を奉る〕

　　さはらのしろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たかいのじろう
　佐原四郎（光連）　　　　　　高井二郎（實茂）

　　たたらのじろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いんとうのたろう
　多々良二郎（通定）　　　　　印東太郎

　　えんどうひょうえのじょう　　　　　　　　　　　　　　　といのたろう
　遠藤兵衛尉　　　　　　　　土肥太郎

　　いながわのじうろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　いさのひょうえのじょう
　稻河十郎　　　　　　　　　伊佐兵衛尉

　　　　　　　いじょうひだりかた　れっぽ
　　　以上左方に列歩す

　　おおかわどのたろうひょうえのじょう　　　　　　　　しもこうべのさえもんじろう
　大河戸太郎兵衛尉（廣行）　　下河邊左衛門二郎（宗光）

　　かじわらのさぶろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　さぬきのじろう
　梶原三郎（景盛）　　　　　　佐貫次郎

　　はたののころくろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　さののこごろう
　波多野小六郎　　　　　　　佐野小五郎（宗綱）

　　ささきのさちろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かすかべのたろう
　佐々木八郎（信朝）　　　　　春日部太郎

　　うなかみのごろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あぼのさぶろう
　海上五郎（胤有）　　　　　　阿保三郎

　　ほんまのじろうさえもんのじょう
　本間次郎左衛門尉（信忠）

　　　　　　　いじょうみぎかた　　れっぽ
　　　以上右方に列歩す

おんちょうどがけ
御調度懸

　　ながおのさぶろう
　長尾三郎（為村）

おんうしろ　〔すいかん　　のや　〕
御後〔水干に野箭〕

　　えちごのかみ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　するがのかみ　　　　　　　　　　　　　　　　　　むつのごろう
　越後守（朝時）　　　　　　　駿河守（重時）　　　　　　陸奥五郎（實泰）

　　おおいのすけ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみのごろう　　　　　　　　　　　　　　　　　 じょきょう
　大炊助（有時）　　　　　　　相摸五郎（時直）　　　　　助教（中原師員）

　　すおうのぜんじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かがのぜんじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　さんじょうさこんたいふ
　周防前司（中原親實）　　　　 加賀前司（源遠兼）　　　　三條左近太夫（親實）

　　するがのくらんど　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さこんくらんど　　　　　　　　　　　　　　　　　　いがのくらんど
　駿河藏人　　　　　　　　　左近藏人（毛利親光）　　　 伊賀藏人

　　ゆうきのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　おやまのごろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　しゅりのりょう
　結城左衛門尉（朝光）　　　　小山五郎（長村）　　　　　修理亮（北条時氏）

　　しらかわほうだんだいはちろう　　　　　　　　　　　　ささきのほうがん　　　　　　　　　　　　　　　　おなじきさぶろう
　白河判官代八郎　　　　　　佐々木判官（信綱）　　　　同三郎（泰綱）

　　ながうまのしろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　ごとうのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　いずのさえもんのじょう
　長沼四郎左衛門尉（時宗）　　後藤左衛門尉（基綱）　　　伊豆左衛門尉（頼定）

　　いとうのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　うさみのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　さはらのさぶろうさえもんのじょう
　伊東左衛門尉（祐時）　　　　宇佐美左衛門尉（祐政）　　佐原三郎左衛門尉（家連）

　　うつのみやのしろうさえもんのじょう　　　　　　　　　いがのしろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　おなじきろうくろうさえもんのじょう
　宇都宮四郎左衛門尉（頼業）　伊賀四郎左衛門尉（朝行）　同六郎左衛門尉（朝長）

　　つちやのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　ちうじょうのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　しなののじろうさえもんのじょう
　土屋左衛門尉（宗光）　　　　中條左衛門尉　　　　　　信濃次郎左衛門尉（二階堂行泰）

　　とうないさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　おきのじろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　かのうのとうじひょうえのじょう
　藤内左衛門尉（定員）　　　　隱岐次郎左衛門尉（佐々木泰清）　狩野藤次兵衛尉（為光）

　　あまののじろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　 とおやまのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　かとうのさえもんのじょう
　天野次郎左衛門尉（景氏）　　遠山左衛門尉（景朝）　　　加藤左衛門尉（行景）

　　えのひょうのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かさいのさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　そうまのごろう
　江兵衛尉（能行）　　　　　　葛西左衛門尉（�C重）　　　相馬五郎（義胤）

　　とうのろくろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みうらのまたたろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　あだちのさぶろう
　東六郎（行胤）　　　　　　　三浦又太郎（氏村）　　　　足立三郎（元氏）

　　しまづのさぶろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　えんどうさこんしょうげん　　　　　　　　　　　　　　えびなのとうないさえもんのじょう
　嶋津三郎左衛門尉（忠直）　　遠藤左近將監（為俊）　　　海老名藤内左衛門尉（忠行）

　　てしまのたろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ながえのしろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　うじいえのたろう
　豐島太郎　　　　　　　　　長江四郎（明義）　　　　　氏家太郎（公信）

　　ぜんたろうさえもんのじょう
　善太郎左衛門尉

さいまつ
最末

　　さがみのかみ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むさしのかみ　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみのこたろう
　相摸守（時房）　　　　　　　武藏守（泰時）　　　　　　相摸小太郎

現代語安貞二年(1228)七月小二十三日甲午。曇りです。将軍頼経様は、駿河前司三浦義村の田村の別荘へお出かけです。これは、田や家の空きの風情を楽しむ遠足です。午前八時頃出発〔水干〕。輿を使い、金洗い沢〔七里ヶ浜〕からは乗馬しました。柄の長い日よけ笠を差しかけました。昨晩と今朝、重臣数人がその田村へ向かいました。この人たちは、お供から外れた人々です。
お出かけの行列は、
まず乗馬武装兵十二人が左右に分かれて行きます。
　三浦駿河次郎泰村　　長江八郎師景
　結城七郎朝廣　　　　上総太郎
　城太郎義景　　　　　小笠原六郎時長
　大須賀左衛門尉胤秀　佐々木太郎左衛門尉重綱
　足利五郎長氏　　　　河越次郎重時
　陸奥四郎政村　　　　相模四郎朝直
次に乗り換え馬三頭
次に弓袋持ち一人
次に將軍の鎧を着てる人一人
次にその交代人二人
次に乗馬の将軍です。
　駿河四郎家村〔太刀持ちです〕　佐原十郎左衛門尉太郎〔柄の長い日よけの笠を差しかけてます〕
　佐原四郎光連　　　　　高井次郎実茂
　多々良次郎通定　　　　印東太郎
　遠藤兵衛尉　　　　　　土肥太郎
　稲川十郎　　　　　　　伊佐兵衛尉　
　　　以上は将軍の左側を並んで歩いている。
　大川戸太郎兵衛尉広行　下河辺左衛門次郎宗光
　梶原三郎景盛　　　　　佐貫次郎
　波多野小六郎　　　　　佐野小五郎宗綱
　佐々木八郎信朝　　　　春日部太郎
　海上五郎胤有　　　　　阿保三郎
　本間次郎左衛門尉信忠
　　　以上は将軍の右側を並んで歩いている。

将軍の弓矢を肩に懸けている人は
　長尾三郎為村
　将軍の後ろに続く人〔水干を着て、狩用の矢を持っている〕
　越後守朝時　　　　　　　駿河守重時　　　　　　陸奥五郎実泰
　大炊助有時　　　　　　　相模五郎時直　　　　　助教師員
　周防前司藤原親実　　　　加賀前司遠兼　　　　　三条左近大夫親実
　駿河蔵人　　　　　　　　左近蔵人毛利親光　　　伊賀蔵人
　結城左衛門尉朝光　　　　小山五郎長村　　　　　修理亮時氏
　白河判官代八郎　　　　　佐々木判官信綱　　　　同三郎泰綱
　長沼四郎左衛門尉時宗　　後藤左衛門尉基綱　　　伊豆左衛門尉頼定
　伊東左衛門尉祐時　　　　宇佐美左衛門尉祐政　　佐原三郎左衛門尉家連
　宇都宮四郎左衛門尉頼業　伊賀四郎左衛門尉朝行　同六郎左衛門尉朝長
　土屋左衛門尉宗光　　　　中条左衛門尉　　　　　信濃次郎左衛門尉二階堂行泰
　藤内左衛門尉定員　　　　隱岐次郎左衛門尉泰清　狩野藤次兵衛尉為光
　天野次郎左衛門尉景氏　　遠山左衛門尉景朝　　　加藤左衛門尉行景
　大江兵衛尉能行　　　　　葛西左衛門尉清重　　　相馬五郎義胤
　東六郎行胤　　　　　　　三浦又太郎氏村　　　　足立三郎元氏
　島津三郎左衛門尉忠直　　遠藤左近将監為俊　　　海老名藤内左衛門尉忠行
　豊島太郎　　　　　　　　長江四郎明義　　　　　氏家太郎公信
　三善太郎左衛門尉
しんがりには
　相模守時房　　　　　　　武蔵守泰時　　　　　　相模小太郎

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  くも　　　　しょうぐんけ　たむら　　ごとうりゅう　　とおがさがけ　　こがさがけら　あ　　　　ひとびとらち　 きわ　 そうら　けんぶつ
安貞二年(1228)七月小廿四日乙未。陰り。將軍家田村に御逗留。遠笠懸、小笠懸等有り。人々埒の際に候い見物す。

 こ 　あいだ　　みうらのじろうやすむらと　ささきのたろうさえもんのじょうしげつな　こうろん　　　 たが　　　 かごん　　およ
此の間、三浦次郎泰村与佐々木太郎左衛門尉重綱口論し、互いに過言に及ぶ。

やすむら　〔かさがけ　いて　〕　　 うま　　 の　　　なが　　　　らちない　　をい　　　 や　さしはさ　　　しげつな 〔けんしょう〕 らち　 そと　　をい　 すす　　よ　　　　　たち　　　と
泰村〔笠懸の射手〕馬に乘り乍ら、埒内に於て、箭を挾む。重綱〔見證〕埒の外に於て進み寄り、太刀を取る。

おのおの　しゆう　　けっ　　べ　　のけいせいなり
 各　雌雄を决す可き之形勢也。

いま　　ゆみ　　ひ　　　 たち　　 ぬ　　　のいぜん　　　　すくろうのたぐい　りょうほう　　あいなだ　　　　のあいだ　　ぶい　せいひつ　　　　うんぬん
未だ弓を引き太刀を抜く之以前に、宿老之類、兩方を相宥める之間、無爲に靜謐すと云々。

　いて
射手

　　さがみのしろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むつのごろう
　相摸四郎（朝直）　　　　　　陸奥五郎（實泰）

　　おやまのごろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみのごろう
　小山五郎（長村）　　　　　　相摸五郎（時直）

　　おがさはらのろくろう　　　　　　　　　　　　　　　ちくごのじうろう
　小笠原六郎（時長）　　　　　筑後十郎

　　ながえのはちろう　　　　　　　　　　　　　　　　　いがのろくろううえもんのじょう
　長江八郎（師景）　　　　　　伊賀六郎右衛門尉（光重）

　　ささきのほうがんさぶろう　　　　　　　　　　　　　じょうのたろう
　佐々木判官三郎　　　　　　城太郎（安達義景）

　　ささきのはちろう　　　　　　　　　　　　　　　　　 うじいえのたろう
　佐々木八郎（信朝）　　　　　氏家太郎（公信）

　　うつのみやのしろうさえもんのじょう　　　　　　　みうらのまたたろう
　宇都宮四郎左衛門尉（頼業）　三浦又太郎（氏村）

　　みうらのじろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ゆきのしちろう
　三浦次郎（泰村）　　　　　　結城七郎（朝廣）

ばん　　およ　　　 た いえ　　ごゆうきょうあ　　　　　まいじょ すうやから ぐんしゅう　　　うんぬん
晩に及び、田家に御遊興有り。舞女 數輩　群集すと云々。

現代語安貞二年(1228)七月小二十四日乙未。曇りです。将軍頼経様は、田村に旅行中です。遠笠懸や小笠懸がありました。人々は柵に集まって見物しています。この間に、三浦次郎泰村と佐々木太郎左衛門尉重綱が言い争いが始まり、互いに罵り合いになりました。三浦泰村〔笠懸の射手〕は馬に乗りながら柵内で矢を弓に掛けました。重綱〔検査係〕は柵の外で近づきながら、刀を左手に持ちました。お互いに戦の準備に入りました。しかし、弓を引いたり刀を抜いたりする前に、重臣たちが双方をなだめましたので、無事に静かになりました。
射手は
　相模四郎朝直　　　　　　陸奥五郎実泰
　小山五郎長村　　　　　　相模五郎時直
　小笠原六郎時長　　　　　筑後十郎
　長江八郎朝景　　　　　　伊賀六郎右衛門尉光重
　佐々木判官三郎　　　　　城太郎安達義景
　佐々木八郎信朝　　　　　氏家太郎公信
　宇都宮四郎左衛門尉頼業　三浦又太郎氏村
　三浦次郎泰村　　　　　　結城七郎朝広
夜になって、田圃や田舎を味わいました。踊り子が数人集まって来ましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  くも　　はれ　　かまくら　　かへ　 せし　 たま　　　　よしむら おんひきでもの　　けん
安貞二年(1228)七月小廿五日丙申。陰り�ﾘ。鎌倉へ還り令め給ふ。義村 御引出物を獻ず。

　　ぎょけん　　　　　 むつのしろう　これ　　じさん
　御釼　　　陸奥四郎之を持參す（政村）

　　おんかぶと　　　　 さはわのさぶろうさえもんのじょう　　　　　　　　　えんどうひょうえのじょう
　御冑　　　佐原三郎左衛門尉（家連）　　遠藤兵衛尉

　　おんのや　ゆみ　 ゆうきのさえもんのじょう
　御野矢弓　結城左衛門尉（朝光）

　　おんむかばき　　 みうらのじろう
　御行騰　　三浦次郎（泰村）

　　さきん　　　　　　　 じょうのたろう
　砂金　　　城太郎（安達義景）

　　いちのおんうま　〔つきげ　〕　　　　　　　　するがのさぶろう　　　　　　　　おな　　　　しろう　　　　　　　これ　　ひ
　一御馬〔鴾毛鞍を置く〕　駿河三郎（光村）　同じき四郎（家村）之を引く

　　にのおんうま　〔あしげ　ぶち〕　　　　さはらのしろう　　　　　　　　　　たかいのさぶろう
　二御馬〔葦毛駮〕　　佐原四郎（光連）　高井三郎（實泰）

　　さんのおんうま　〔　くろ　〕　　　　　　かずさのたろう　　　　　　　　いながわのじうろう
　三御馬〔黒〕　　　　上総太郎　　　　稻河十郎

へいしょくいぜん　　　 ばくふ　　い　　　たま
秉燭以前に、幕府へ入り御う。

現代語安貞二年(1228)七月小二十五日丙申。曇り後晴れ。鎌倉へお帰りになりました。三浦義村は、引き出物を献上しました。
　刀は、陸奥四郎政村が持ってきました(義村の乳母夫子)
　兜は、佐原三郎左衛門尉家連と遠藤兵衛尉
　狩用の弓矢は、結城左衛門尉朝光
　乗馬袴は、三浦次郎泰村
　砂金は、城太郎安達義景
　一頭目の馬〔月毛、鞍置き〕は、駿河三郎光村と同四郎家村がこれを引いてきました
　二頭目の馬〔葦毛ぶち〕は、佐原四郎光連と高井三郎実泰
　三頭目の馬〔黒〕は、上総太郎と稲川十郎
灯り時前に、幕府へお入りになりました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  するがのぜんじ　ごしょ　　まい　　　　にゅうご　　こと　　が　　　もう　　　　また　　はいしゅおうばんら　　けん　　　ぶしゅう いげ　さんかい　　　うんぬん
安貞二年(1228)七月小廿六日丁酉。駿河前司御所へ參り、入御の事を賀し申す。又、盃酒垸飯等を獻ず。武州以下參會すと云々。

きょう　　 とうないさえもんのじょうさだかず　 もっ　　　 おんおうぎを やすさだ　 たま　　　　　　あめふ　　べからずのよし　　うらな　もう　　　　よっ　　　　てんとう　　　うんぬん
今日、藤内左衛門尉定員を以て、御扇於 泰貞に賜はる。雨降る不可之由、占い申すに依て、纏頭�@すと云々。

参考�@纒頭は、本来は芸能のご祝儀として、物々交換の時代に着ている物を脱いで芸人の肩に掛けてやった。この頃では、芸に褒美を与えるの意味になっている。

現代語安貞二年(1228)七月小二十六日丁酉。駿河前司三浦義村が、御所へ来て、訪問のお礼を申し上げました。又、お酒と御馳走を献上しました。泰時さん達が集まりました。今日、藤内左衛門尉定員を使いに扇を安陪泰貞に与えました。雨が降らないと占った褒美だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しんちょう　おんくるま きょうと よ　　　とうらい　　　 ぶしゅう　 おんかた　 あ
安貞二年(1228)七月小廿九日庚子。新調の御車 京都自り到來し、武州の御方に在り。

しか　　　 らいげつじうごにち つるがおか　ほうじょうえなり　　よっ　　おんいであ　べ　　　　　こ　　おんくるま　 もち　　られ　 べ
而るに來月十五日 鶴岡の放生會也。依て御出有る可し。此の御車を用ひ被る可し。

しからば　　かね　　め　　　はじ　　　 べ　　　　 いな　　　　か　　 てい　　をい　　そ　　　さた　あ
然者、兼て召し始める可きや否や、彼の亭に於て其の沙汰有り。

もっと　め　　　はじ　　られ　　べ　　　のよし　　ひとびとこれ　 もうせし　　　　よっ　　 おんみょうどう　　かんもん　 め　　　　うんぬん
尤も召し始め被る可き之由、人々之を申令むに依て、陰陽道の勘文を召すと云々。

現代語安貞二年(1228)七月小二十九日庚子。新しく注文した牛車が届いて、泰時さんの所にあります。来月の15日は鶴岡八幡宮の生き物を放して供養する放生会です。それなのでお出かけがあるでしょう。この新車を使うように。それならば、予め試乗するかどうか、泰時邸で検討されました。やっぱり試乗した方が良いと皆が云うので、陰陽師の上申書を取ることにしましたとさ。

八月へ

吾妻鏡入門第廿七巻