吾妻鏡入門第廿七巻

安貞三年己丑(1229)正月大〔三月五日改元寛喜元年〕

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　よ　　 い　　　ゆきふ　　　　　きょう　　おうばん　　そうしゅう　　ごさた
安貞三年(1229)正月大一日庚午。�ﾘ。夜に入り雪降る。今日の垸飯、相州の御沙汰。

ぎょけん　　するがのかみ　〔　ほい　〕　　　おんゆみや　　おおいのすけ　　おんむかばきくつ　さはらのさぶろうさえもんのじょう
御劔は、駿河守〔布衣〕。御弓箭は、大炊助。御行騰沓は、佐原三郎左衛門尉。

　　いち　　おんうま　　〔　くら　お　　　〕　　　むつのしろうまさむら　　　　　　　　　おなじきごろう
　一の御馬〔鞍を置く〕　陸奥四郎政村　　　　同五郎（實泰）

　　　に　　おんうま　　　　　　　　　　　　　さがみのしろう　　　　　　　　　　　　　おなじきごろう
　二の御馬　　　　　　相摸四郎（朝直）　　　同五郎（時直）

　　さん　　おんうま　　　　　　　　　　　　さはらのしろう　　　　　　　　　　　　　　おなじきじうろう
　三の御馬　　　　　　佐原四郎（光連）　　　同十郎（頼連）

　　　し　　おんうま　　　　　　　　　　　　　きらのじろう　　　　　　　　　　　　　　　おなじきさぶろう
　四の御馬　　　　　　吉良次郎　　　　　　 同三郎

　　　ご　　おんうま　　　　　　　　　　　　ひたのさぶろうひょうえのじょう　　　　　おなじきはちろう
　五の御馬　　　　　　肥田三郎兵衛尉　　　 同八郎（宗直）

現代語安貞三年(1229)正月大一日庚午。晴れです。夜になって雪が降りました。今日の将軍頼経様(12才)への御馳走のふるまいは、相州北条時房さんの負担です。献上の刀は駿河守北条重時〔狩衣〕。弓矢は大炊助北条有時。乗馬袴(ローハイド)と乗馬沓は佐原三郎左衛門尉家連。
　一番目の馬は〔鞍を載せてます〕、陸奥四郎北条政村　同五郎北条実泰
　二頭目の馬は、相模四郎北条朝直　同五郎北条時直
　三頭目の馬は、佐原四郎光連　　　同十郎佐原頼連
　四頭目の馬は、吉良次郎　　　　　同三郎
　五頭目の馬は、肥多三郎兵衛尉　　同八郎肥多宗直。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　おうばん　　ぶしゅう　　　ごさた
安貞三年(1229)正月大二日辛未。�ﾘ。垸飯、武州の御沙汰。

ぎょけん　　するがのかみ　〔　ほい　〕　　　おんゆみや　　おおいのすけ　〔どう〕　　　　おんむかばきくつ　　おおすがのさえもんのじょう　〔どう〕
御劔は、駿河守〔布衣〕。御弓箭は、大炊助〔同〕。御行騰沓は、大須賀左衛門尉〔同〕

　　いち　　おんうま　　〔　くら　お　　　〕　　　むつのしろうまさむら　　　　　　　　　おなじきごろう
　一の御馬〔鞍を置く〕　陸奥四郎政村　　　　同五郎（實泰）

　　　に　　おんうま　　　　　　　　　　　　　さがみのしろう　　　　　　　　　　　　　 おなじきごろう
　二の御馬　　　　　　相摸四郎（朝直）　　　同五郎（時直）

　　さん　　おんうま　　　　　　　　　　　　　えちごのたろう　　　　　　　　　　　　　おなじきごろう
　三の御馬　　　　　　越後太郎（光時）　　　同五郎

　　　し　　おんうま　　　　　　　　　　　　　かじわらのさぶろう　　　　　　　　　　おなじきごろう
　四の御馬　　　　　　梶原三郎（景盛）　　　同五郎

　　　ご　　おんうま　　　　　　　　　　　　　するがのじろう　　　　　　　　　　　　　おなじきしろう
　五の御馬　　　　　　駿河次郎（泰村）　　　同四郎（家村）

現代語安貞三年(1229)正月大二日辛未。晴れです。武州北条泰時さんの負担。刀は駿河守北条重時〔狩衣〕。弓矢は大炊助北条有時〔同〕。乗馬袴と乗馬沓は大須賀左衛門尉胤秀。
　一頭目の馬〔鞍を乗せてます〕は、陸奥四郎北条政村　同五郎北条実泰
　二頭目の馬は、相模四郎北条朝直　同五郎北条時直
　三頭目の馬は、越後太郎北条光時　同北条五郎
　四頭目の馬は、梶原三郎景盛　　　同五郎
　五頭目の馬は、三浦駿河次郎泰村　同四郎家村

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ゆきふ　　　　　しゃく　み　　　　　きょう　　 おうばん　　えっしゅう　　さた
安貞三年(1229)正月大三日壬申。雪降る。尺に盈つ。今日の垸飯、越州の沙汰。

ぎょけん　　するがのかみ　おんゆみや　　おおいのすけ　　 おんむかばきくつ　　ではのさえもんのじょういえひら
御劔は、駿河守。御弓箭は、大炊助。御行騰沓は、出羽左衛門尉家平。

　　いち　　おんうま　　〔　くら　お　　　〕　　　えちごのた　　　　　　　　　　　　　　ほんじょうしろうさえもんのじょう
　一の御馬〔鞍を置く〕　越後太郎（光時）　　本庄四郎左衛門尉（時家）

　　　に　　おんうま　　　　　　　　　　　　　 えちごのさぶろう　　　　　　　　　　 やまかのじろう
　二の御馬　　　　　　越後三郎　　　　　　山家次郎

　　さん　　おんうま　　　　　　　　　　　　　えちごのしろう　　　　　　　　　　　　　 ひろかわのごろう
　三の御馬　　　　　　越後四郎（時幸）　　　廣河五郎

　　　し　　おんうま　　　　　　　　　　　　 かわらぐちのじろうひょうえのじょう　　 おなじきさぶろうひょうえのじょう
　四の御馬　　　　　　河原口次郎兵衛尉　　同三郎兵衛尉

　　　ご　　おんうま　　　　　　　　　　　　 こいてのたろうひょうえのじょう　　　 おなじきごろう
　五の御馬　　　　　　小井弖太郎兵衛尉　　同五郎

おうばん　いご　　ばん　　およ　　　 しょうぐんけ　ぶしゅう　おんてい　 い　　 たま　　　　これ　みゆきはじめ　あらず　　ゆき　 きょう　よっ　　　 そこつのぎ　　な　　　なり
垸飯已後、晩に及び、將軍家 武州の御亭へ入り御う。是、御行始に非。雪の興に依て、楚忽之儀と爲す也。

するがのぜんじもう　　おこな　ところなり
駿河前司申し行う所也。

現代語安貞三年(1229)正月大三日壬申。雪が降りました一尺(30cm)を越えてます。今日の御馳走のふるまいは、越州名越流北条朝時の負担です。刀は駿河守北条重時。弓矢は大炊助北条有時。乗馬袴と乗馬沓は出羽左衛門尉中条家平
　一頭目の馬〔鞍を乗せてます〕は、越後太郎北条光時　本庄四郎左衛門尉時家
　二頭目の馬は、越後名越流北条三郎　山家次郎
　三頭目の馬は、越後四郎北条時幸　　広川五郎
　四頭目の馬は、河原口次郎兵衛尉　　同三郎兵衛尉
　五頭目の馬は、小出太郎兵衛尉　　　同五郎
御馳走以後、夜になって将軍頼経様は、武州北条泰時さんの屋敷へ行きました。これは公式行事のお出かけ始めではなく、雪景色を楽しむため急に思いついたのです。駿河前司三浦義村がけしかけました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　にしょ　ごさんけい　　こと　　ことし は　おぼ　　め　　 と　　　　　よっ　　　　おんし　　な　　　まい　 べ　　 のむね
安貞三年(1229)正月大七日丙子。二所御參詣の事、今年者思し食し止むに依て、御使と爲し參る可き之旨、

するがのかみ　おお　られ　　　　うんぬん　　すおうのぜんじ　これ　 ぶぎょうたり
駿河守に仰せ被ると云々。周防前司 之の奉行爲。

現代語安貞三年(1229)正月大七日丙子。箱根と伊豆の両権現へお参りする二所詣でについて、今年は思いとどまって、代参にするように駿河守北条重時に命じました。周防前司中原親実が担当します。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごしょ　　 しんぎょうえ　なり　　きょう　　 しょうぐんけ　ごすいにち　たるなり
安貞三年(1229)正月大八日丁丑。御所の心經會�@也。今日、將軍家 御衰日�A爲也。

ゆうよ　あ　　　べ　　　か　 のよし　じょきょう　もろかず　これ　　もう　　　 いへど　　　　ごきちじ　　　をい　　は はばか　な　　 のむね　 さきざき　さだ　 られをはんぬ
猶豫有る可き歟之由、助教�B師員�C之を申すと雖も、御吉事に於て者憚り無き之旨、先々 定め被 訖。

 そ　　　うえ　　ようか　　もっ　　しんぎゅえ　　しきじつたるべ　　　のよし　　だんじょうのちうすえうじもうせし　 のあいだ　　これ　すいこうされ
其の上、八日を以て心經會の式日爲可き之由、 彈正忠季氏 申令む之間、之を遂行被る。

参考�@心經會は、般若心経を唱える会。
参考�A御衰日は、外出したり、戦に出るには縁起がよくない日。
参考�B助教は、律令制で，大学寮の職員。明経科に置かれ，博士を助けて教授や課試にあたった。定員 2 名。助(すけ)博士。
参考�C師員は、中原師員(1185-1251)。1218に助教。中原親能・大江広元の従兄弟。後評定衆となり、大夫外記となり、摂津守明経博士となる。法名は行厳。

現代語安貞三年(1229)正月大八日丁丑。御所での般若心経を唱える会です。今日は、将軍頼経様(12才)の外出には縁起の悪い日です。延期した方が良いかと助教中原師員が云いましたが、良い行事は控える必要がないと前々に決めております。それに、「八日の日を以前から般若心経の日にしていますよ。」と弾正忠清原季氏が云うので、これを実施しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 しょうぐんけ　みゆきはじめ　　ぶしゅう　　い　　い　　　たま　　　　うんぬん
安貞三年(1229)正月大九日戊寅。天�ﾘ。將軍家の御行始。武州の亭へ入り御うと云々。

現代語安貞三年(1229)正月大九日戊寅。空は晴れです。将軍頼経様(12才)のお出かけ始めです。武州北条泰時さんの屋敷へ入られましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　ぶしゅう　　こんや　ごしょ　　すくじはじめなり　こさむらい　こう　　たま
安貞三年(1229)正月大十三日壬午。霽。武州、今夜御所の宿侍始也。小侍に候じ給ふ。

するがぜんじよしむら　　とうないさえもんのじょうさだかずら　さんかい　　　せじょう　ぞうだん　 およ　　　　うんぬん
駿河前司義村、藤内左衛門尉定員等 參會し、世上の雜談に及ぶと云々。

現代語安貞三年(1229)正月大十三日壬午。晴れました。武州北条泰時さんは、今夜御所の宿直始めです。小侍控所に来ておられます。駿河前司三浦義村や藤内左衛門尉藤原定員などが寄り合って、世間話にこうじましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　しょぐんけ　つるがおかはちまんぐう　ぎょさん　　おんそくたい　おくるまなり
安貞三年(1229)正月大十五日甲申。天�ﾘ。將軍家　鶴岡八幡宮 へ御參。御束帶、御車�@也。

おくるま　　にしもん　　く　　　いだ　　のほど　　くるまつき なら　　　　もんぜんのはし　すこぶ　たか　　のあいだ　　むなきごもんのひさしに　み　　　　　　おくるまいささ　かたむ　をはんぬ
 御車 西門を遣り出す之程、 車突 并びに門前之橋�A頗る高き之間、棟木御門之檐于充ちて、御車聊か傾き訖。

ごしんぱい　　ことお　　　　　かんごの　のち　　ぶしゅう　　にし　さむらい　つ　　　たま　　　　くるまつきなら　　　　はしら　　なお　　べ　　　のよし　　ひとびと　　しめ　　あわされ
御神拝の事終え、還御之後、武州 西の 侍 に着き給ふ。 車突 并びに橋等を直す可き之由、人々に示し合被る。

これ　　ぼんどなり　　 とうじ　　だいしょうぐん　いま　 ほうかな　べからざるのよし　　もうせしのあいだ　　しばら　えんいん　　　　うんぬん
是、犯土也。當時 大將軍�Bの在す方叶う不可之由、申令む之間、暫く延引すと云々。

 そ　　　ご　おんゆみはじめ　〔ふたごど〕　　　いがのしろうさえもんのじょう　これ　　ぶぎょう
其の後、御弓始〔二五度〕。伊賀四郎左衛門尉 之を奉行す。

　いて
射手

　　いちばん　　たけだのろうろう　　　　　　　　　　　　　　おかべのさえもんしろう
　一番　武田六郎（信長）　　　　岡邊左衛門四郎

　　　にばん　　ささきのはちろう　　　　　　　　　　　　　　ふじさわのしろう
　二番　佐々木八郎（信朝）　　　藤澤四郎

　　さんばん　　ほんまのじろうさえもんのじょう　　　　　　へいさえもんさぶろう
　三番　本間次郎左衛門尉（信忠）平左衛門三郎（盛時）

　　よんばん　　なんじょうしちろうさぶろう　　　　　　　　　しぶやのろくろう
　四番　南條七郎三郎　　　　　澁谷六郎（盛重）

　　　ごばん　　するあのしろう　　　　　　　　　　　　　　　　かみちのしろう
　五番　駿河四郎（三浦家村）　　神地四郎

　　ろくばん　　さぬきのじろう　　　　　　　　　　　　　　　　よこみぞろくろう
　六番　佐貫次郎　　　　　　　横溝六郎（義行）

参考�@御車は、牛車。牛車については、詳しい風俗博物館さんＨＰをどうぞ。
参考�A門前之橋は、御所から若宮大路の堀を渡る橋の橋脚跡が発掘されている。文章の状況から太鼓橋のようだ。
参考�B大将軍は、陰陽道において方位の吉凶を司る八将神の一。金星で3年ごとに居を変え、その方角は万事凶とされ、特に土を動かす事が良くないとされる。

現代語安貞三年(1229)正月大十五日甲申。将軍頼経様(12才)は鶴岡八幡宮へお参りです。束帯の正装で牛車を使いました。
牛車が西門を出る時に、車突(不明)それに門前の橋が高くなっているので、牛車の棟の木が門のひさしにあたって、牛車が多少傾いてしまいました。お参りを終わって帰ってから、泰時さんが西の侍控所へお座りになりました。車突と橋を直した方が良いなと人々と納得しあいました。その作業は、地面を掘る(地の神を起こす)ことになります。「今は土を動かしてはいけない大将軍の方角なので、良くありません」と云うので、しばらく延期することにしましたとさ。
その後、弓始め式です〔2本を5回〕伊賀四郎左衛門尉朝行が担当です。
射手
　一番　武田六郎信長　　　　　対　岡部左衛門四郎
　二番　佐々木八郎信朝　　　　対　藤沢四郎清親
　三番　本間次郎左衛門尉信忠　対　平左衛門三郎盛時
　四番　南条七郎三郎　　　　　対　渋谷六郎盛重
　五番　駿河四郎三浦家村　　　対　神地四郎
　六番　佐貫次郎　　　　　　　対　横溝六郎義行

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　しょうぐんけ　にしょ　　ごしょうじんはじ　　なり
安貞三年(1229)正月大十六日乙酉。�ﾘ。將軍家二所の御精進始め也。

現代語安貞三年(1229)正月大十六日乙酉。晴れです。将軍頼経様(12才)は、箱根と伊豆の両権現へお参りする二所詣での、精進潔斎を始めました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　にしょ　ほうへい　 おんししゃ　 するがのかみしげときあそんしんぱつ
安貞三年(1229)正月大廿一日庚寅。二所奉幣の御使者 駿河守重時朝臣進發す。

現代語安貞三年(1229)正月大二十一日庚寅。箱根と伊豆の両権現へお参りする二所詣での幣を捧げる代参として、駿河守北条重時さんが出発しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とりのいってん　　するだのじろうやすむら　 つま　〔　ぶしゅうごそくじょ　〕　さん　　　　たんじは　たいないに　し　をはんぬ
安貞三年(1229)正月大廿七日丙申。酉一点。 駿河次郎泰村が 妻〔武州御息女〕産す。誕兒者胎内于死に畢。

さんぬ　じうくにち　よ　　 け　　 ぶんあ
去る十九日自り氣の分有り。

　けさ　　　こと　　のうらんなんざんなり　　げしゃ　　だいしんそうづかんき　　たんばのりっしらいぎょう　 くすし　　よしもと　　　おんみょうじ　はるかた いげ よにん
今朝、殊に惱乱難産也。驗者は大進僧都觀基、丹波律師頼曉。醫師は良基。陰陽師は�ﾘ賢以下四人也。

現代語安貞三年(1229)正月大二十七日丙申。酉の一点(17:00〜17:24午後五時過ぎ、三浦駿河次郎泰村の妻〔泰時さんの娘〕が死産でした。先日の19日から産気づいていました。今朝、特に狂ったような騒ぎの難産でした。お祓いの祈祷は、大進僧都観基・丹波律師頼暁。医者は丹波良基。魔よけの陰陽師は、安陪晴賢始め四人でした。

説明時刻の點は、2時間を5等分したのが点。酉なら17時〜17：24を一点、17：24〜17：48を二点、17：48〜18：12を三点、18：12〜18：36を四点、18：36〜19：00を五点。

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