吾妻鏡入門第廿七巻

寛喜元年己丑(1229)九月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぶしゅう　 ひめぎみ　〔するがのじろう　　　つま〕　きた　　とおか　じょうらくされ　　べ　　　　　よっ
寛喜元年(1229)九月大四日戊辰。武州が姫公〔駿河次郎の妻〕來る十日 上洛被る可きに依て、

 きょう　　 しょうぐんけ なら　　　　たけごしょ　　 おせんべつら　　おく　　つか　 され　　　 うんぬん　 おんこそで　すくい ら 　〔ながもち　　おさ　　　　うんぬん〕
今日、將軍家并びに竹御所、御餞物等を送り遣は被ると云々。御小袖宿衣等〔長持に納むと云々〕。

現代語寛喜元年(1229)九月大四日戊辰。武州北条泰時さんの娘〔駿河次郎三浦泰村の妻〕が、来る十日に京都へ上るので、今日、将軍頼経様と竹御所が餞別を送らせましたとさ。小袖や寝衣などで長持に入れてあるそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 するがのじろう　 にょぼうしんちょう　こし　　のり　ぞ　　　　たけごしょ　　まいられ　　　　うんぬん
寛喜元年(1229)九月大五日己巳。天�ﾘ。駿河次郎が女房新調の輿に乘始め。竹御所に參被ると云々。

現代語寛喜元年(1229)九月大五日己巳。空は晴れです。駿河次郎三浦泰村の奥さんが新しく作った輿の乗り初めに、竹御所に来たそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぶしゅう　　なんじょうのしちろうじろう　よこおのさこんしょうげん　　みのさわのうこんじろう　　　いやへいたさぶろう ら　　 もっ
寛喜元年(1229)九月大九日癸酉。武州　南條七郎次郎、 横尾左近將監、美濃澤右近次郎、弥平太三郎等を以て、

きょうと　　さしつか　　され　　　　これ　　なんじょう　をい　 は　わぎん　　さず
京都へ差遣は被る。是、南條に於て者和琴を授かる。

そ　　 ほかさんにん　いた　　　 は　かぐら　　ひきょく　　つた　　べ　　　のよし　　うこんしょうげんおおののよしかた　　おお　　られ　　ところのはか　　なり
其の外三人に至りて者神樂の秘曲を傳う可き之由、　右近將監多好方　に仰せ被る所之許り也。

現代語寛喜元年(1229)九月大九日癸酉。武州北条泰時さんは、南条七郎次郎・横尾左近将監・美濃沢右近次郎・弥平太三郎達に命じて京都へ行かせまます。これは南条にはお琴を覚えさせるためです。その他の三人にはお神楽の秘曲を教えてくれるように、右近将監多好方に言い伝える算段なのです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　たつのこく　するがのじろうやすむら　　さいしつ　〔ぶしゅうごそくじょ〕　　　 あいぐ　　 じょうらく　　　これ　　おおばん　ごんじ　　ためなり
寛喜元年(1229)九月大十日甲戌。�ﾘ。辰尅。駿河次郎泰村、妻室〔武州御息女〕を相具し上洛す。是、大番�@勤仕の爲也。

参考�@大番は、手弁当で費用はすべて勤務者の負担。

現代語寛喜元年(1229)九月大十日甲戌。晴れです。午前八時頃、三浦駿河次郎泰村は奥さん〔泰時さんの娘〕を連れて京都へ上ります。これは京都御所を警備する義務の大番に勤務するためです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しょうぐんけ　かいひんごゆうらん　ため　　もりとうら　に　おんいで
寛喜元年(1229)九月大十七日辛巳。�ﾘ。將軍家 海邊御遊覽の爲、杜戸浦�@于御出。

これ　　ごふれい　ごへいゆの　のち　　おんいではじ　なり　〔さんぬ　しちはちがつのあいだ　ごふよ　　　　おかお　はれ　　　　　うんぬん　　しゅしゅ　　　　ごきとう　　これあり　　　〕　そうしゅう ぶしゅうまいられ
是、御不例御平愈之後の御出始め也〔去る七八月之間御不豫、御顏腫ると云々。種々の御祈祷之在り〕。相州 武州參被る。

いぬおうものあ　　　　　いて　　　おおいのすけありときぬし　　あしかがのごろうながうじ　　おやまのごろうながむら　　ゆうきのごろうしげみつ　　しゅりのすけやすつな
犬追物有り。射手、 大炊助有時主、 足利五郎長氏、 小山五郎長村、 結城五郎重光、 修理亮泰綱、

たけだのろくろうのぶなが　　おがさわらのろくろうときなが　　ながえのはちろう　　さはらのさえもんしろう　　　ささきのはちろう　いげ　すうやからなり
武田六郎信長、　小笠原六郎時長、 々江八郎、 佐原左衛門四郎、佐々木八郎已下數輩也。

そうしゅう　おお　られ　　い　　　　　　するがのじろう　おりふしじょうらく　　　もっと　 いこん　　うんぬん
相州 仰せ被て云はく。駿河次郎 折節上洛す。尤も遺恨と云々。

するがのぜんじ　きえつ　がんしょく　あらは　　うんぬん
駿河前司 喜悦の顏色を顯すと云々。

そ　　　ご　いをはんぬ　いぬさんじうよひき　　またれい　つくりもの　　ごらん　　　　ながむら　　ときながらしゃげい　ほどこ　　うんぬん
其の後射 訖。 犬三十餘疋。又例の作物を御覽す。長村、時長等射藝を施すと云々。

ひつじ　なな　　にはか　ぼうふうおこ　　　そ　　きょうすくな　　　　　さる　　なな　　　　およ　　　　かぜ なお やす　ざるのあいだ　 かんご　　　　うんぬん
未の斜めに俄に暴風起り、其の興少なし。申の斜めに及び、風 猶 休ま不之間、還御すと云々。

参考�@杜戸浦は、神奈川県三浦郡葉山町堀内の森戸神社や森戸海岸。

現代語寛喜元年(1229)九月大十七日辛巳。晴れです。将軍頼経様は、海浜散歩のため、森戸海岸へ出かけました。これは、病気が治ってから初めての外出です〔去る7・8月の間具合が悪く、顔が腫れたりして、色々と御祈祷がありました〕。
相州北条時房さんも武州北条泰時さんもご一緒です。
杭で円形に筵を張って、中に犬を放して、外側から乗馬で矢じりを外した弓箭で射る犬追物がありました。
射手は、大炊助北条有時さん・足利五郎長氏・小山五郎長村・結城五郎重光・修理亮宇都宮泰綱・武田六郎信長・小笠原六郎時長・長江八郎師景・佐原左衛門四郎・佐々木八郎以下数人です。
時房さんが云うには「駿河次郎三浦泰村が京都へ出発してしまったので居ないのが残念だ。」だそうな。すると駿河前司三浦義村は嬉しそうな顔をしたんだとさ。
それから射終わりました。犬は30數匹です。又、作り物の的打ちをご覧になりました。小山長村と小笠原時長が見事な弓の技を披露しました。午後３時頃に急に暴風が吹いて、つまらなくなりました。午後５時頃になっても風が止まないので、お帰りになりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　しょうぐんけ　ごむそう　　つげあ　　　　　よっ　　　　ごしゅほう　　しぎょうされ
寛喜元年(1229)九月大十八日壬子。天�ﾘ。將軍家御夢想の告有るに依て、御修法を始行被る。

りょうだん　わかみやべっとうほういんていしん　　だいしんそうづかんきら　これ　　ほうし　　　　　うんぬん
兩壇は 若宮別當法印定親、大進僧都觀基等之を奉仕すと云々。

現代語寛喜元年(1229)九月大十八日壬子。空は晴れです。将軍頼経様は、夢のお告げがあったので、祈祷を始めさせました。二つの檀を設け、鶴岡八幡宮筆頭の法印定親と大進僧都観基が、つくしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みのこくぢしん
寛喜元年(1229)九月大廿日甲申。巳刻地震。

現代語寛喜元年(1229)九月大二十日甲申。巳刻午前十時頃、地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　わかみやおおじ にしつら　 げばばし いほく しょうぼう　　　うんぬん
寛喜元年(1229)九月大卅日甲午。�ﾘ。 若宮大路 西頬、下馬橋以北燒亡すと云々。

現代語寛喜元年(1229)九月大三十日甲午。晴れです。若宮大路の西側横で、下の下馬橋より北側が焼けましたとさ。

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