吾妻鏡入門第廿七巻

寛喜二年庚寅(1230)三月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　さんぬ　よ はた　 しん　　　　のやからを　ごしょ　　めしあつ　　ぶしゅうたいめん　　たま
寛喜二年(1230)三月小一日癸巳。�ﾘ。去る夜旗を進ずる之輩於御所へ召聚め、武州對面し給ふ。

おのおの　 いぎ　　ぞんぜず　 はた　 しん　　　　もっと　しんみょうなり　　ただ　　そ　　ゆいしょな　　　　　そうどう　 きょうこうかた　つつし　べ　　　　 うんぬん
　各　異儀を存不、旗を進ずは尤も神妙也。 但し其の由緒無きの騒動、向後固く愼む可しと云々。

はたは もん　 まか　ことごと　もっ　　これ　 かえ　 くだされ　　　　よ　もっ　　びだん　　せず　　な
旗者文�@に任せ悉く以て之を返し下被る。世以て美談と不は莫し。

か　　やから　みょうじ　 みなこれ　 ちう　　お かれ　　　　そ　　　ゆえ　 しらず　　うんぬん
彼の輩の名字、皆之を注し置被る。其の故は知不と云々。

参考�@文は、紋。旗印。

現代語寛喜二年(1230)三月小一日癸巳。晴れです。昨夜、旗を差し出した連中を御所へ呼び集め、武州北条泰時さんがお会いになりました。「それぞれ文句を言わずに旗を差し出したのは、とてもけなげな事です。但し、理由もないのに騒ぐことは今後は遠慮してください。」との事でした。旗は書き出した名簿に従ってお返しになりました。この事は世の人は感心しました。その名前は、全て書き残しましたが、理由は分かりませんそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　たけごしょ　　をい　　　　せんどおんはら　　　おこなはれ　　　そ　　　ご　よ　　い　　　　つるがおかはちまんぐう　まい　　たま
寛喜二年(1230)三月小二日甲午。�ﾘ。竹御所に於て、千度御秡へを行被る。其の後夜に入り、鶴岳八幡宮 へ參り御う。

また　 するがのかみ　ろくはら　　こう　　べ　　　　　よっ　　　　こさむらいべっとう　じ　　　　　あいだ　　きょう　　むつのごろうさねやす　　もっ　　そ　　　かえ　　な　　　　　うんぬん
又、駿河守 六波羅に候ず可く�@に依て、小侍別當を辞すの間、今日、陸奥五郎實泰を以て其の替と爲すと云々。

参考�@六波羅に候ず可くは、六波羅探題として赴任する。

現代語寛喜二年(1230)三月小二日甲午。晴れです。竹御所で、千回のお祓いをしました。その後、夜になって鶴岡八幡宮へお参りしました。」
話が違いますが、駿河守北条重時は六波羅へ転勤になりましたので、将軍の身の回りの世話をする小侍所の筆頭役を降りました。今日、弟の陸奥五郎北条実泰をその後任にしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　てんぺん　　ごしょ　　いの　　　　な　　　　　ごしゅほうさんだんしぎょう
寛喜二年(1230)三月小五日丁酉。�ﾘ。天變の御所の祈りと爲し、御修法三壇始行す。

また　ほんみょうじょうぐ　すけのほういん　　さいしょうぐ　びっちゅうほっきょう
又、本命星供は助法印。 歳星供は 備中法橋。

現代語寛喜二年(1230)三月小五日丁酉。晴れです。天の星の運航の異常への祈りとして、護摩炊きを三人で始めました。その他に、将軍の本命の星供養は、助法印珍与。歳星木星の供養は、備中法橋定尊です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　うのこく　　するがのかみしげときあそん　　ろくはら　　こう　　　　ためじょうらく
寛喜二年(1230)三月小十一日癸夘。�ﾘ。夘刻、 駿河守重時朝臣 六波羅へ候ずる爲上洛す。

現代語寛喜二年(1230)三月小十一日癸卯。晴れです。午前六時頃、駿河守北条重時さんが、六波羅へ転任のため京都へ出発です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 いぬのこくあめふ　　　せいほう　 らいめい
寛喜二年(1230)三月小十二日甲辰。�ﾘ。戌刻雨降る。西方に雷鳴。

現代語寛喜二年(1230)三月小十二日甲辰。晴れです。午後八時頃雨が降り、西の方角で雷が鳴っていました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 しょうぐんけ　おんかたたが　　 ため　　そうしゅう　てい　 い　　　たま
寛喜二年(1230)三月小十四日丙午。�ﾘ。將軍家 御方違への爲、相州の亭に入り御う。

現代語寛喜二年(1230)三月小十四日丙午。晴れです。将軍頼経様(13歳)は、方角変えのため、時房さんの屋敷へ入りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　ようふくじ　こうれい　　いっさいきょうえなり　　しょうぐんけわた　　たま
寛喜二年(1230)三月小十五日丁未。�ﾘ。永福寺恒例の一切經會也。 將軍家渡り御う。

そうしゅう　ぶしゅう　ぐぶ　　　たま　　　　つちやのさえもんのじょう　ぎょけん　　も
相州、武州供奉し給ふ。 土屋左衛門尉　御劍を持つ。

現代語寛喜二年(1230)三月小十五日丁未。晴れです。永福寺で恒例の一切経の供養です。将軍頼経様もお出でです。相州北条時房さん・武州北条泰時さんがお供をしました。土屋左衛門尉宗光が刀持ちです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しょうぐんけ　おんかたたが　　 ため　いしやまのつぼね　もと　〔ごしょ　　　きた　　　たい〕　　　い　　　たま
寛喜二年(1230)三月小十六日戊申。將軍家 御方違への爲、 石山局 の許〔御所の北の對�@〕へ入り御う。

こさむらい　たいのやら　ごぞうさ　あ　　　べ　　　　 よっ　　なり
小侍の對屋等御造作有る可きに依て也。

参考�@北の對は、北側の対屋（たいのや）。対屋は、寝殿造りの寝殿(本殿)の脇に建てた別棟で、渡り廊下でつなぐ。

現代語寛喜二年(1230)三月小十六日戊申。将軍頼経様は、方角変えのため、官女の石山局の部屋〔御所の北側の別棟〕へお入りです。将軍の身の回りの世話をする小侍所用別棟を改築するためです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　こんやなお　いしやまのつぼね　もとにおんかたたが　 あ
寛喜二年(1230)三月小十七日己酉。�ﾘ。今夜猶、 石山局 の許于御方違へ有り。

現代語寛喜二年(1230)三月小十七日己酉。晴れです。今夜もまた、石山局の部屋へ方角変えがありました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　 うまのこく　こさむらいところを  たしょ　　ひきうつされ　　　たいじっけんこれ　 たてられ
寛喜二年(1230)三月小十八日庚戌。天�ﾘ。午刻、 小侍所�@於他所に曳移被る。對十間�A之を立被る。

すおうぜんじちかざね　ぶぎょうたり　 うんぬん
周防前司親實 奉行爲と云々。

参考�@小侍所は、将軍の身の回りを世話をする役所(やくどころ)。
参考�A對十間は、対屋（たいのや）。

現代語寛喜二年(1230)三月小十八日庚戌。空は晴れです。正午頃に小侍所を他へ引き移しました。十間の対屋を建てます。周防前司中原親実が指揮担当だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 しょうぐんけ　　ごゆうらん　　ため　　みさき　　いそに いでたま　　　やまざくらばな もっと　さかりなり
寛喜二年(1230)三月小十九日辛亥。�ﾘ。將軍家 御遊覽の爲、三崎の礒于出御う。 山櫻花 尤も盛也。

よっ　りょうしゅ するがぜんじ こと　　もっ　　おんもうけ　　　あない　　もう　　　　そうしゅう　 ぶしゅう いげ まいられ　　　　むつらのつよ　　　　 おんふね　 め
仍て領主駿河前司殊に以て御儲て、案内を申す。相州、武州以下參被る。六浦津自り、御船を召す。

かいじょう　かんげん　〔わかみやじどう　〕　あ　　　　 れんが　あ
海上に管絃〔若宮兒童〕有り。連歌有り。

りょうこくしなら　　　　ていいもとつな　　さんにちかゆき　　へいたねゆきら　おのおの　しゅうく　　けん　　られ　　　うんぬん
兩國司并びに廷尉基綱、散位親行、平胤行等　　各　秀句を献じ被ると云々。

現代語寛喜二年(1230)三月小十九日辛亥。晴れです。将軍頼経様は、遠足に三崎の磯へお出かけです。山桜の花が満開の時期です。それで、三崎の領地の支配者駿河前司三浦義村は、特に準備をして案内をしました。相州北条時房さん・武州北条泰時さん以下も出かけました。金沢の六浦港から船に乗りました。海上の小舟で音楽会を八幡宮の稚児たちが演奏しました。和歌をしりとり風に連続する連歌があり、相州・武州・検非違使の後藤基綱・散位源親行・千葉一族の東胤行など、それぞれ良い和歌を献上しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　みさき　よ　　 かえ　 たま　　　 うんぬん
寛喜二年(1230)三月小廿二日甲寅。天�ﾘ。三崎自り還り御うと云々。

現代語寛喜二年(1230)三月小二十二日甲寅。空は晴れです。三崎からお帰りだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 てんぺん　 おいのり　おこなはれ　　ないげてん　すうざ　　うんぬん
寛喜二年(1230)三月小廿八日庚申。�ﾘ。天變の御祈を行被る。内外典�@數座と云々。

参考�@内外典は、内典が仏教。外典は陰陽道。

現代語寛喜二年(1230)三月小二十八日庚申。晴れです。天の星の運航の異常への祈りをしました。仏教と陰陽道数人だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 たつのこく　 ごしょ　　にしたい　〔　じうにかけんなり 　〕　　にかけん　　　つく　　くは　　られ
寛喜二年(1230)三月小廿九日辛酉。辰刻。御所の西對�@〔十二ケ間也〕二ケ間を造り加へ被る。

じうよんかけん　　はばか　あ　　　　いな　　　おんみょうどう　 めしとはれ　　のところ　　ちかもとあそん いげ さんにんは　　しんでんの ほか　はばか　な　　　のよしこれ　　もう
十四ケ間は憚り有るや否や、陰陽道を召問被る之處、親職朝臣已下三人者、寢殿之外　憚り無き之由之を申す。

としょのすけはるかた はばか　べ　　のむね　　もう　　　　よっ　　 つく　　つがれ　　　　いへど　　　にすん さ　　 られ　 べ　　　のよし　　さだ　　られ　　　　うんぬん
 圖書助�ﾘ賢 憚る可し之旨を申す。仍て造り継被ると雖も、二寸下げ被る可し之由、定め被ると云々。

参考�@御所の西對は、西の対屋（たいのや）。大倉幕府時代は侍所だったが、宇都宮辻子ではいったい何に？

現代語寛喜二年(1230)三月小二十九日辛酉。午前八時頃、御所の西側の別棟〔12間〕に二間を増築しました。14間は、何か縁起が悪いかどうか、陰陽師を呼んで聞いたところ、安陪親職以下三人は、寝殿以外は関係ありませんと云いました。図書助安陪晴賢は、差支えがあると云います。そこで、繋いで増築するけど、高さを6cm低くするように、決めましたとさ。

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