吾妻鏡入門第廿八巻

寛喜三年辛卯(1231)三月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あめふる　　にょぼう　　つぼね　をい　　しょうぶあ　　　　りょうこくし　　おな　　　　しつけ ら まいられ　　　 うんぬん
寛喜三年(1231)三月大一日丁亥。雨降。女房の局に於て勝負有り。兩國司�@、同じく室家等參被ると云々。

参考�@兩國司は、相摸守時房と武蔵守泰時。

現代語寛喜三年(1231)三月大一日丁亥。雨降りです。女官の宿舎で賭け事をしました。北条時房さんと北条泰時さん、それに奥様方も参加しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 ばんけい　 しょうぐんけ　おんあし　おおゆび　　かたな　もっ　 つ　　 き　　 せし　  たま　 のあいだ　　ち いで
寛喜三年(1231)三月大二日戊子。�ﾘ。晩景、將軍家 御足の大指�@、刀を以て突き切ら令め給ふ之間、血出る。

しょにんぐんさん　 　　ごしょちう　そうどう　　　　うんぬん　　しかしながら　 こと　　　 おんことな　　　　　うんぬん
諸人群參し、御所中騒動すと云々。 然而 、殊なる御事無しと云々。

現代語寛喜三年(1231)三月大二日戊子。晴れです。夕方になって将軍頼経様(14才)が足の親指を刀で突いて切ってしまい、血が出ました。皆さん集まって来たので、御所の中は大騒ぎです。しかし、大したことはありませんでしたとさ。

参考�@御足の大指は、足の親指なので、恐らく左足であろう。良くテレビのかくし芸大会で本身で試し切りをすると、刀の重みでふりが止まらず左足の親指を怪我するそうだと聞いた事がある。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　 つるがおか　しんんじなり　　みだいどころ　ごさんぐう
寛喜三年(1231)三月大三日己丑。鶴岳の神事也。 御臺所�@御參宮。』

きょう　　しょうぐんけ　　はじ　　　 かすがべつぐう　　おが　 せし　 たま　　　　これ　　よんぽん　　じょ　　たま　 ののち　　はじ　　　　そ　　 ほう　　き　たま
今日、將軍家 始めて春日別宮へ拝ま令め給ふ。是、四品に叙し給ふ之後、始めて其の袍を着御う。

よっ　　はいが　　 なぞ　 われ　　か　　しゃ　　まい　　たま　　べ　　　　　うんぬん
仍て拝賀に准ら被、彼の社に參り御う可しと云々。

　しい　　　ほう　　き　たま　　こと　　ひなみ　　たくされ　　べ　　　のよし　　 そ　　　さた　あ　　　　　いへど　　　こうけの　のち　　のうしはじめは　　そ　　　ひ　　　えら　　のれいなり
四位の袍�Aを着給ふ事、日次を擇被る可し之由、其の沙汰有りと雖も、公家之後の直衣始者、其の日を擇ぶ之例也。

よんぽんほうはじ　　　こと　　かなら　　　　　そ　　 ぎ　　 およばざるかのよし　　ゆうしきもうせし　 のあいだ　 ただおよ　きちじつ　 もち　　られ　　　 うんぬん
四品袍始めの事、必ずしも其の儀に及不歟之由、有職申令む之間、只凡そ吉日を用い被ると云々。

現代語寛喜三年(1231)三月大三日己丑。鶴岡八幡宮で上巳の節句の神事です。将軍の奥さんがお参りしました。」

今日、将軍頼経様は初めて春日大社の末社を拝みになりました。これは、四位に任命されてから、初めて衣冠に着る丸襟の袍を着ました。それでお礼のお参りに倣って、藤原氏の氏寺である春日の末社にお参りをしたのだそうな。四位の袍を着る日について、お日和を選ばせるように、命じましたが、天皇家の直衣始めはその日を選ぶ例があります。四位の袍の着始めは、必ずしも日を選びませんと、学識者が言うので、単に吉日にしたんだそうな。

参考�@御臺所は、竹御所で頼家の遺児。寛喜二年十二月七日結婚。
参考�A袍は、衣冠・束帯などのときに着用する盤領(まるえり)の上衣。身分によって色や布地に定めのある位袍と、好みによる雑袍がある。また、縫腋(ほうえき)（文官用）と闕腋(けつてき)（武官・幼年者用）の別がある。うえのきぬ。Goo電子辞書から

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　きょうと　よ　　　　しんちょう　おくるま　　くだされ　　　これ　みだいどころ　おくるまなり
寛喜三年(1231)三月大六日壬辰。�ﾘ。京都自り、新調の御車を下被る。是、御臺所の御車也。

現代語寛喜三年(1231)三月大六日壬辰。晴れです。京都から新車を送ってきました。これは将軍奥様専用の牛車です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　　ろくはら　　　ひきゃくとうらい
寛喜三年(1231)三月大九日乙未。霽。六波羅の飛脚到來す。

さんぬ　つきはつか　にんなじほういんごぼう　　〔 ていぎょう　　しじうろく 〕　　こうや　　　をい　 ごにゅうめつ　 うんぬん
去る月廿日 仁和寺法印御房〔貞曉�@。四十六〕高野に於て御入滅と云々。

これ　 ばっかしょうぐん　おんそく　 みだいどころ　 おん おじ　 なり　　よっ　 ごきょうぶくのあいだ　　たけごしょ　　い　　　たま
是、幕下將軍の御息�A、御臺所の御伯父�B也。仍て御輕服之間、竹御所に入り御う。

参考�@貞曉は、第十一巻建久二年(1191)正月二十三日条にて、母は女房大進局、是伊達常陸入道念西息女とある。
参考�A幕下將軍の御息は、頼朝のご落胤。
参考�B御臺所の御伯父は、　大進局─┬─頼朝─┬─政子
　　　　　　　　　　　　　　　　 貞暁　　　頼家─┬─女
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 竹御所　　　　　　　　　

現代語寛喜三年(1231)三月大九日乙未。晴れました。六波羅から伝令が来ました。先月23日仁和寺の法印御坊〔貞暁46歳〕が高野山で亡くなったそうな。この人は、頼朝様の御落胤で、竹御所の伯父に当たります。そこで軽い喪に服すので、竹御所へ移りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　するがのさぶろうみつむら しせつ　　な　　　じょうらく　　　　みこ　ごたんじょう　こと　　が　　　もうされ　　　　よっ　　なり
寛喜三年(1231)三月大十日丙申。霽。 駿河三郎光村 使節と爲し上洛す。皇子御誕生の事を賀し申被るに依て也。

現代語寛喜三年(1231)三月大十日丙申。晴れました。駿河三郎三浦光村は、幕府の使者として京都へ上ります。皇子誕生をお祝いに行くためです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　はれ　　ようふくじ　こうれい　　　しゃりえ　　　しょうぐんけとぎょ　　　みだいどころおどうしゃ　　そうしゅう　　ぶしゅまいられ
寛喜三年(1231)三月大十五日辛丑。�ﾘ。永福寺恒例の舎利會。將軍家渡御す。御臺所御同車。相州、武州參被る。

現代語寛喜三年(1231)三月大十五日辛丑。晴れです。永福寺恒例の仏舎利を供養する法要です。将軍頼経様もお参りです。奥さんの竹御所も牛車に同乗です。相州北条時房さんも相州北条泰時さんも行かれました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　むさしおおじ　の しもみん　いえ いちう　しょうしつ
寛喜三年(1231)三月大十六日壬寅。霽。武藏大路之下民の家一宇燒失す。

これ　　ある　　　　あおめ　　しっと　　　よっ　　　　しょうし　　ためみづか　ほうか　　　　うんぬん
是、或ひは��女が嫉妬に依て、燒死の爲自ら放火すと云々。

現代語寛喜三年(1231)三月大十六日壬寅。晴れました。武蔵大路の下民の家一軒が燃えました。これはもしかしたら、若い女性が嫉妬に狂って焼身自殺のため放火したらしい。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ことし　せじょう　　ききん　　ひゃくせいおお　　もっ　　　がし　　　　　　ほっ
寛喜三年(1231)三月大十九日乙巳。今年世上は飢饉。百姓 多く以て餓死せんと欲す。

よっ　　ぶしゅう　　　いず　　　するがりょうごく　のあいだ　すいこまい　　ほどこ　　　　そ　　うえ　　すく　　べ　　　のよし　　そうりん　　ゆう　　　　やから　おお　　きかせられ
仍て武州、伊豆、駿河兩國�@之間に出擧米を施す。其の飢を救う可き之由、倉廩�Aを有する輩に仰せ聞被る。

ぶぜんなかつかさのじょう これ　 ぶぎょう　　　くだん　　ほうしょ　　ごはん　　の　　　られ　　　　うんぬん
　豊前中務丞　之を奉行す。件の奉書に御判を載せ被ると云々。

　　ことし　せけん　ききんのあいだ　　じんみん うえじにのよし ふうぶん　　　　もっと　もっ　　ふびん
　今年世間飢饉之間、人民 餓死之由 風聞す。尤も以て不便。

　　ここ　　　いず　　　するがりょうごく　　すいこ　　い　　　　 のやから　 ほどこ　　 はじ　 ざる　　よっ　　　　やや　　けいりゃく　うしな　　　うんぬん
　爰に伊豆、駿河兩國に出擧を入るる之輩、施しを始め不に依て、弥、計略を失うと云々。

　　はや　　すいこ　　せぎょうい　　　べ　　　のよし　　おお　くだされ　ところなり
　早く出擧を施行入る可し之由、仰せ下被る所也。

　　かね　また　　ごじつも　　　たいかんあ　　　　　　　ちう　　もう　　　　したが　　おんさた　あ　　　べ　　のよし　そうろうなり
　兼て又、後日若し對捍有らば、注し申すに随い御沙汰有る可き之由に候也。

　　よっ　　しったつくだん　ごと
　仍て執達件の如し。

　　　　　　かんぎさんねんさんがつじうくにち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かつかさのじょう さねかげほう
　　　寛喜三年三月十九日　　　　　　　　　　　中務丞實景奉ず

　　　　　　やたのろくろうひょうえのじょうどの
　　　矢田六郎兵衛尉�B殿

参考�@伊豆、駿河両国は、泰時が守護と理解できる。
参考�A倉廩は、食料庫。有名な言葉に、衣食足りて栄辱を知り、倉廩みちて礼節を知る。とある。
参考�B矢田六郎兵衛尉は、北条得宗家被官。

現代語寛喜三年(1231)三月大十九日乙巳。今年の世間は飢饉です。百姓が沢山飢え死にしそうです。それで、武州北条泰時さんは自分の領地の伊豆と駿河でモミ用の貸付米を与えました。それは、飢えを救ってあげようと、倉庫を持っている連中に言って聞かせました。豊前中務丞が担当して、この言葉を公文書に仕上げ、泰時さんの花押も載せましたとさ。

　今年世間は、飢饉のため、人々が飢え死にすると噂が流れている。とても気の毒である。そこで、伊豆・駿河両国の貸付米を持っている連中が、くれてやらないので、生活のしようがないそうな。早く貸付米を与えるように、云って下さっております。そこで後日、もしも怠けてやらなかった者は、書き出された内容によって処分するつもりである。命じられて書いたのはこのとおりです。
　寛喜三年三月十九日　　　　　　　　中務丞実景が書きました。
　矢田六郎兵衛尉殿

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