吾妻鏡入門第廿八巻

寛喜三年辛卯(1231)七月

寛喜三年(1231)七月小九日癸巳。霽。午刻。御臺所御新車始也。渡御駿河前司義村宅。將軍家先入御〔御布衣。御車〕。駿州經營盡善盡美。召伶人并舞女等。終日御遊興。臨曉鐘之期還御。

読下し                   はれ  うまのこく  みだいどころ おんしんしゃ はじ なり  するがのぜんじよしむら  たく  わた  たま
寛喜三年(1231)七月小九日癸巳。霽。午刻。 御臺所 御新車 始め也。駿河前司義村の宅へ渡り御う。

しょうぐんけ ま  い   たま  〔 おんほい  おくるま 〕
將軍家先ず入り御う〔御布衣。御車〕

すんしゅう けいえい ぜん  つく  び   つく    れいじんなら    まいじょら   め    しゅうじつごゆうきょう  ばんしょうのご  のぞ  かえ  たま
 駿州の經營 善を盡し美を盡す。伶人@并びに舞女等を召し、終日御遊興。曉鐘之期に臨み還り御う。

参考@伶人は、音楽隊。

現代語寛喜三年(1231)七月小九日癸巳。晴れました。昼頃に、将軍の奥さん竹御所の新車の乗り初めです。駿河前司三浦義村の家へ行きました。将軍頼経様が先に行ってます〔直垂に牛車〕。駿河前司三浦義村の接待は心を込めた豪華なものです。音楽隊や踊り子たちを呼んで、一日中遊びました。夕べを告げる鐘の鳴るころになって、帰りました。

寛喜三年(1231)七月小十一日乙未。二位家御月忌。於南小御堂。被修佛事。導師求佛房也。御臺所渡御。相州。武州參給。

読下し                      にいけ   おんつきいみ みなみこみどう  をい    ぶつじ   しゅうさる    どうし  ぐぶつぼうなり
寛喜三年(1231)七月小十一日乙未。二位家の御月忌。南小御堂に於て、佛事を修被る。導師は求佛房也。

みだいどころ わた  たま   そうしゅう ぶしゅうさん  たま
御臺所 渡り御う。相州、武州參じ給ふ。

現代語寛喜三年(1231)七月小十一日乙未。二位家北条政子様の命日です。勝長寿院内の南小御堂で法要を行いました。指導僧は求仏坊です。竹御所も出席しました。相州北条時房さん・武州北条泰時さんも参加しました。

寛喜三年(1231)七月小十五日己亥。霽。二位家御追善小御堂恒例一切經會也。兩國司又以詣給。

読下し                     はれ   にいけ ごついぜん こみどう  こうれい  いっさいきょうえなり  りょうこくしまたもっ  もう  たま
寛喜三年(1231)七月小十五日己亥。霽。二位家御追善小御堂の恒例の一切經會也。兩國司又以て詣で給ふ。

現代語寛喜三年(1231)七月小十五日己亥。晴れました。二位家北条政子様の後生を弔うための小御堂での恒例の一切経の法要です。両国司(時房・泰時)が又もお参りです。

寛喜三年(1231)七月小十六日庚子。霽。今日京都使者參着。被奉讓攝録於左府〔御年廿二〕。去二日内覽宣旨。五日入夜御拝賀。是知足院殿之例云々。今月天下大飢饉。又二月以來洛中城外疾疫流布。貴賎多以亡卒云々。

読下し                     はれ  きょう    きょうと   ししゃさんちゃく   せつろく を さふ  〔おんとしにじうに〕   ゆず たてま  らる
寛喜三年(1231)七月小十六日庚子。霽。今日、京都の使者參着す。攝録@於左府A〔御年廿二〕に讓り奉つ被る。

さんぬ ふつか ないらん せんじ   いつか よ   い   ごはいが  これ  ちそくいんでんの れい  うんぬん
去る二日内覽の宣旨。五日夜に入り御拝賀。是、知足院殿B之例と云々。

こんげつ てんかだいきん   またにがつ いらい  らくちう  じょうがい しつえき るふ     きせんおお  もっ  ぼうしゅつ  うんぬん
今月天下大飢饉C。又二月以來、洛中、城外 疾疫 流布し、貴賎多く以て亡卒すと云々。

参考@攝録は、摂政関白の職。
参考A左府は、左大臣九条教實。
参考B知足院殿は、藤原忠通。
参考C大飢饉は、新米の収穫前なので、米不足のようだ。

現代語寛喜三年(1231)七月小十六日庚子。晴れました。今日、京都からの使いが到着しました。(九条道家は)摂政関白の職を左大臣九条教実〔歳22歳〕へ譲位しました。先日の2日に天皇の決裁文書を前もって眼を通す内覽権を与えられました。5日の夜になって御礼に伺いました。これは知足院藤原忠道さんの例にならったのだそうな。
今月は、世間で大飢饉なのです。又、二月以来、京都市街も郊外も伝染病が流行って、偉い人も貧しい人も沢山の人が亡くなりましたとさ。

系図道家┬教實(九条家)
    ├武實
    ├實経(一条家)
    └頼経(将軍家)

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