吾妻鏡入門第廿八巻

寛喜四年壬辰(1232)正月大四月二日改元

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 しょうぐんけ　つるがおかはちまんぐう　　ぎょさん　うまのいってん　おんいで　〔おんそくたい　　おくるま〕
寛喜四年(1232)正月大一日壬午。�ﾘ。將軍家　鶴岳八幡宮　へ御參。午一点に御出〔御束帶。御車〕。 

するがのほうがんみつむら　ぐぶ　　　　　いずみのかみまさかげ ぎょけん　 も　　　　　さわらのごろうさえもんのじょう　ごちょうど　　 か　　　　　うんぬん
駿河判官光村 供奉す。 和泉守政景 御釼を持ち、佐原五郎左衛門尉 御調度を懸くと云々。

かんご　　 のち　 おうばんのぎ　あ　　　　 そうしゅうこれ　　　さた　　　　むつのしぶのたいふ　ぎょけん　　も　　　まい
還御の後、椀飯之儀有り。相州之を沙汰す。陸奥式部大夫御劍を持ち參る。

現代語寛喜四年(1232)正月大一日壬午。晴れです。将軍頼経様(15歳)は、鶴岡八幡宮へお参りです。午前11時半に出発〔衣冠束帯で牛車〕。駿河守光村がお供です。和泉守天野政景が刀持ちで、佐原五郎左衛門尉(胤連カ)が弓矢を背負ってます。お帰り後、御馳走のふるまいがあり、相州北条時房さんが負担しました。陸奥式部大夫政村が刀を持って献上しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごとばいん　　 おんとき　ちょうきん　ぎょうこう　え　　　きょうとよ　　　これ　　すす　　らる
寛喜四年(1232)正月大四日乙酉。後鳥羽院の御時の朝覲�@行幸の繪、京都自り之を進め被る。

しょうぐんけ　きょう　　ごらん　あ　　　おんみょうごんのすけはるかたあそん　おお　　　　よっ　　か　　ことば　　よ　　　　うんぬん
將軍家今日、御覽有り。 　陰陽權助�ﾘ賢朝臣　 仰せに依て彼の詞を讀むと云々。

参考�@朝覲は、天皇が太上天皇や皇太后の御所に行幸し、恭敬の礼をつくすこと。年頭に行われる恒例の儀と、践祚・即位・元服の後に行われる臨時の儀とがある。Goo電子辞書から

現代語寛喜四年(1232)正月大四日乙酉。後鳥羽院(1180-1239)の時代(1198-1221)に天皇が院への行幸式の絵を、京都から送って来ました。将軍頼経様は今日ご覧になりました。陰陽権助晴賢さんが命令されて、その言葉書きを読みましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ひつじのこく　つき　 たいはく　おか　 てん　　へ　　　〔あいさ　　　よんすん　ところ　〕　　　さんぬ　ていおうさんねんしがつなぬか　かく　　へんあ
寛喜四年(1232)正月大五日丙戌。未刻。月、太白を犯し天を經る〔相去る四寸の所〕。去る 貞應三年四月七日 此の變有り。

おな　　　ろくがつじうさんにち　うけいちょうそつぼう　　　　およ　　わかんとも　　かれい　　あらず
同じき六月十三日　右京兆卒亡す。凡そ和漢共に佳例に非。

しか　　いま　　とし　　はじ　　たる　　よっ　　　てんもんどう ことば　いださず　 うんぬん
而るに今、年の始め爲に依て、天文道 言を出不と云々。

現代語寛喜四年(1232)正月大五日丙戌。午後二時頃、月が太白星金星の軌道を犯して天を巡りました〔12cmもそばです〕。去る貞応三年(1224)4月7日にもこの異変がありました。同じ6月13日に義時さんが亡くなりました。日本でも中国でも良い例はありません。其れなのに今、年の初めに縁起が悪いので、天文方は言い出しませんでしたとさ。(だったら何故書く？ツッコミ)

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　さんぬ　じうにんち　　ちょうきんぎょうこう　ぶい　　　と　　　らる　　のよし　　きょうと　よ　　 これ　　もうさる
寛喜四年(1232)正月大廿三日甲辰。霽。去る十二日、 朝覲行幸 無爲に遂げ被る之由、京都自り之を申被る。

かんいん よ　　 じみょういんでん　 こう　　　 うんぬん
閑院 自り持明院殿に幸すと云々。

ぶしゅうおお　　られ　　い　　　　　　　じゅうににちやまのうちのところ　むか　　　　　ほっ　　　 あるひと　　どうこび　はばか　あ　　　のよし　　もう　　のあいだ えんいん
武州仰せ被て云はく。十二日山内之處に向はんと欲す。或人、道虚日�@憚り有る之由を申す之間 延引す。

しか　　　ちょうきん　　と　　　らる　　のよし　　いま　そ　　きこ　　あ　　　　　さだ　　　これ　　せんき　　かんが　られ　　か
而るに朝覲を遂げ被る之由、今其の聞へ有り。定めし是先規を勘へ被る歟。

こ　　ひ　　　もっ　　きちじ　　 もち　　らる　　のれいもっと　 ふしん　　うんぬん
此の日を以て吉事に用い被る之例尤も不審と云々。

げんばのじょうやすつら　さいとうひょうえにゅうどうじょうえん　ほっきょうえんぜんら　おりふしごぜん　そうら
 玄番允康連、　齋藤兵衛入道淨圓、　法橋圓全等折節御前に候う。

じょうえん　えんぜんら　もう　　　　い　　　　 か 　 れいいま　うけたまは　およ　　　　　ただ ここんのきわ　　きせん　い　　きた　　の　ひ　　はか　　これ　　ぞん　　　うんぬん
淨圓、圓全等申して云はく。彼の例未だ 承り及ばず。只古今之際、貴賎忌み來る之日と計り之を存ずと云々。

やすつら しょけんあ　　のよしこれ　　もう
康連 所見有る之由之を申す。

ぶしゅうかさ　　　　たず　 おお　 らる　のあいだ　　ざ　　 た　　 すなは　 いっし　　じさん　　 これ　　 しんらん
武州重ねて尋ね仰せ被る之間、座を起ち即ち一紙を持參し之を進覽す。

ぶしゅうこと　　　ごじあい　　　ごもんじょの　うち　　いれられ　　　うんぬん　　か　　　き　　　い
武州殊に御自愛、御文書之中に入被る�Aと云々。彼の記に云はく。

　　　　　どうこび　　きちじ　　もち　　らる　　れい
　　道虚日吉事に用い被る例

　　ちょうわごねんにがつさんじうにち　さだいじん　〔 みどう 〕　へいじょう　たま　　　　こと　〔ねんげつにじうよっか　ろくじょうだいり　　　とぎょ　いご　〕
　長和五年二月卅日　左大臣〔御堂�B〕兵杖を給はる事〔年月廿四日 六條内裏に渡御以後〕   (1016)道長

　　えんきゅうねんがっぴ　　うじどの　 おんが　 おこなはれ　こと
　延久 年月日　宇治殿御賀を行被る事                               　      (1069-1074)延久の荘園整理令は1069

　　かんながんねんしがつじうににち　　おおとの ずいしん　たま　　　 のち　よろこび　もう　　たま　　こと
　寛和元年四月十二日　大殿 随身を賜はる後、慶を申し給ふ事           　     (985)

　　てんぎごねんじうにがつにじうよっか　　 たじまのかみなにがし ごいのくろうど　　ぶ　　　のちはじ　　よろこび　もう
　天喜五年十二月廿四日　但馬守ーー 五位藏人に補する後初めて慶を申す　　　　 (1057)

　　じょうほうがんねんじうがつさんじうにちきのえうま　だいじょうえ　おんみそぎ　おこなはれ　こと　〔しらかわいん〕
　承保 元年 十月 卅日　甲午　大嘗會の 御禊を行被る事〔白河院〕                　 (1074)

　　えいほうさんねんじういちがつじうににちみずのとうし　　うじ　　いずみどのしゃおくら つく　　くは　　らる　　のち　　でんか　〔きょうごくどの〕　とぎょ　　こと
　永保 三年 十一月 十二日 癸丑　宇治の泉殿舎屋等造り加へ被る後、殿下〔京極殿(師実)〕渡御の事 (1083)参考泉殿は宇治古七名水の一。

　　かんじがんねんろくがつにじうよっかきのえたつ　せっしょう　しょど　ごじょうひょう　こと　〔きょうごくどのせんれいなり〕
　寛治元年 六月 廿四日 甲辰　攝政、初度御上表の事〔京極殿先例也〕                 (1087)

　　おな　　　にねんにがつじうはちにちきのとひつじ　　じもく　　おこなはれ　こと　しょうしょうどの　〔ただざね〕 よろこび　もうさる
　同じき二年二月十八日　乙未　除目を行被る事、 少將殿 〔忠ー〕慶を申被る      (1088)

　　こうわげんねんじうがつむいかきのえたつ　たいしょうどの　　しゅき　　わたさる　　こと　〔うじにゅうどうどの〕
　康和元年十月六日 甲辰　 大將殿、 朱器を渡被る事〔宇治入道殿〕                    (1099)

　　おな　　　じうににちかのえいぬ　　さきのさいいん　〔れいし〕　はじ　　　　おおいどの　とぎょ　　こと
　同じき十二日 庚戌　 前齋院 〔令子〕始めて大殿に渡御の事

　　おな　　　　ごねんしがつむいかきのえとら　　あじゃりかんしん　よろこび　もう　　こと
　同じき五年四月六日 甲寅　阿闍梨寛信、慶を申す事                           (1103)

参考�@道虚日は、陰陽道で、外出に凶であるとする日。Goo電子辞書から
参考�A殊に御自愛、御文書之中に入被るは、大切に保管文書にしまった。
参考�B左大臣〔御堂〕は、道長。道長ー頼道ー師實ー師通ー忠實ー忠通ー

現代語寛喜四年(1232)正月大二十三日甲辰。晴れました。天皇が院への行幸が無事に終えましたと、京都から報告してきました。普段の御所から持明院殿へ行ったそうです。
泰時さんが言うのには、「12日に山内へ行こうとしました。ある人が道虚日は外出に縁起が悪いので控えるべきだと云うので延期しました。それなのに天皇が院を訪ねる式典をしていたと、今この話を聞きました。さぞかし先例を考慮しているのかなあ？この日を祝い事に使うなんて、なんておかしなことでしょうね。」とさ。
玄番允太田三善康蓮と斉藤兵衛入道浄円藤原長定・法橋円全などがたまたまそばに来ていました。斉藤浄円と円全が云いました。「そういう例は聞いたことがありません。ただ昔から皆さんが忌み嫌っている日だと考えられますね。」太田康連は見た事があると云いました。
泰時さんはなおも尋ねながら、席を立ちすぐに一枚の紙を持って来て見せました。泰時さんが大切な保管文書としているそうな。その書かれていることは、

道虚日を祝い事に使った例
長和5年(1016)2月30日　左大臣〔御堂道長〕が、朝廷から警備兵を授けられたこと〔年月24日六条内裏に移った後〕
延久年月日(1069-1074)　宇治殿頼道は三条天皇にお目見えした。
寛和元年(985)4月12日　大殿藤原兼家が、朝廷から警備員を与えられ、そのお礼を言いに行った事。
天喜5年(1057)12月24日　但馬守範永が五位の蔵人(取次役)に任命され初めて礼を言いに行った。
承保元年10月30日甲午　天皇が即位の後行う新嘗祭で一代一回かぎりの大嘗祭の精進潔斎を行ったこと〔白河天皇〕
永保3年11月12日癸丑　宇治の泉殿の建物を増築した後、殿下〔京極殿藤原師実〕が赴いたこと
寛治元年6月24日甲辰　摂政師実さんが、初めて辞意を願い出た事〔この京極殿師実が先例となった〕
同じ2年2月18日乙未　人事異動を行ったこと、少将〔忠実〕お礼を申し上げた
康和元年10月6日甲辰　大将殿忠実は、藤原氏の氏の長者(跡取)の朱器台盤を渡されたこと〔宇治入道師通から〕
同じ12日庚戌　前斎院〔令子〕が、初めて大臣の邸宅へ出かけた事
同じ5年4月6日甲寅　阿闍梨寛信が、任命のお礼を申したこと(如意宝珠を白河院が加持座の寛信に手渡し。結願後院へ返却しているそうな。関係あるか？)

考察：泰時が山内へ行こうとしたのが後の常楽寺かも知れない。

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